グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

文字の大きさ
22 / 109
第二章 初陣

22 仁義なき戦い 第二戦

しおりを挟む
 「ちょっと? 盛り上がってるところ悪いけど次はボクの番。早くコートに来て」

 安心もつかの間、次は凛の番。
 正直将人の実力はよく知ってるからブラドと戦っても引き分ける可能性は高いと予想できた。
 しかし凛の今の実力は未知数。大きな実力差は無いと思っているが結果はわからない。
 とはいえ一応将人との勝負でブラドは疲れている。状況としては凛に有利なはず。これで凛が2連勝してしまうのも喜ばしくはないが、ブラドに2連勝されるよりはマシだろう。
 とりあえずブラドの2連勝だけは避けてほしい。俺にはもう祈ることしかできない。

 「まあそう急かすなよ。てかお前なんで息切らしてんだ?」

 ブラドの言葉を聞いて凛を見てみると確かに少し息を切らしているようだ。

 「あぁ、今走ってたの。当然でしょ? あんたは今勝負したばかり。疲れてたから、なんて言い訳聞きたくないしね。これで対等。さあ、いざ勝負!」

 おい!!! 俺は心の中でツッコミを入れる。
 あくまでも対等に。その心がけは立派だけども!
 できれば相手の疲れまで利用する選手でいてほしかった。
 ……いや、これが中園凛なのか。
 当人がこんなに立派なのに俺がじたばたしてたら悪いな、頭を切り替えてこの勝負を見届けよう。

 「2人とも準備はできたか? 始めるぞ!
 よーい……スタート!」

 合図と同時に飛び出したのは凛。
 そして待ち構えるブラド。
 ここまでは1戦目と同じ。

 一瞬の静寂。
 先に仕掛けたのは……凛!

 「……すげぇ」
 隣で見ていた将人が思わず声を漏らす。

 もちろん俺も同じ感想だ。ブラドと相対した凛は、かなり高い難易度のフェイントを連続して繰り広げている。
 技の幅広さに正確さ。かなり練習したのだろう。
 ブラドは翻弄されて迂闊に動けない。

 「どう? あんたみたいなパワーは無くても戦えるだけの武器がボクにはある!」

 その後もキレを増すフェイントにブラドが一瞬怯んだ。その瞬間を見逃さず凛が抜け出す。

 「は! 全然大したこと……」

 「うぉらあ!」

 「きゃっ!」

 追ってきたブラドの激しいチャージに堪らず凛は倒れる。

 「ガハハ! お前もフェイントの練習たくさんしたみたいだけどよお、俺様のパワーとスピードの前には無力なんだよなあ!」

 「くっ」

 素早く立ち上がりブラドに突っ込む凛。
 体を入れてディフェンスをするもブラドのパワーの前にあえなく弾かれてしまう。

 そのままブラドがゴールへ。シュートを決める。

 「ゴール! 1戦目はブラドの勝利!」

 マズいな。
 凛の実力は高い。あのフェイントは彼女が言うように日本代表にいても余裕で通用していただろう。
 特に技術でディフェンスをするタイプの相手には滅法強い選手だ。

 しかし相手が悪すぎる。
 ブラドにももちろん高い技術はある。しかしそれ以上に恵まれた体格から繰り出させるパワーとスピードが持ち味の選手。
 どれだけフェイントをかけようともパワーで上から潰されてしまう。

 「どうした? でかい口叩いてもう終わりか?」

 「はぁ、まだ……やれるっ!」

 凛はまだ諦めることなくコートへ向かっていく。

 「なあ、龍也」

 「ああ、これは……。
 ……けど、俺たちにはどうすることもできない……」

 両選手が再びポジションに着く。

 「早く合図して」

 「……2戦目。よーい……スタート!」

 今度も凛がボールを取ろうと飛び出す。
 しかし……

 「どけえ!」

 今まで最初は相手にボールを取らせていたブラド。ここに来て開始直後からボールに飛びかかる。
 2人の体格差は一目瞭然。当然のように凛が弾かれてしまう。

 「ぐっ」

 「時間の無駄だ。お前じゃ俺様に勝つことはできねえよ!」

 「馬鹿に……するなっ!」

 倒されても立ち上がり凛はブラドに立ち向かう。
 また倒されてまた立ち上がり、何度でも何度でも。

 「少し体格に恵まれただけの男なんかに……ボクは絶対に負けない……!」

 声を上げて立ち向かうも現実は無常。ブラドに弾き返されるのみ。

 「無理なもんは無理と諦めるのもありだと思うぜ。じゃあな」

 そう言ってブラドはシュートを決めた。

 「……ゴール。2戦目もブラドの勝利。
 よってこの勝負……ブラドの勝利」

 「ガハハ! 当然の結果よ!」

 俯いたままの凛に近づきブラドは声をかける。

 「じゃあ約束通りコートから出ていってもらうぜ」

 「おいブラド! もう少し人の気持ちを考えてやれよ!
 それに見ただろ? あのフェイント。技術力はお前より圧倒的に上だぜ? 試合には相性よく勝ったとはいえ総合力だとどっちが上かはわからねえな」

 「あー? なんで俺様がわざわざ雑魚の気持ちなんか考えねえといけないんだ?
 それに総合力だ? 今そんな話してたか? 負けたら出ていく。そういう話だろ。
 終わった話にグチグチ言うなよめんどくせえ」

 「お前……」

 「別に……あんたたちなんかにフォローされたくない。
 約束は約束、出て行ってやるわよ」

 「お、おい凛!」

 「付いて来ないで」

 俺たちの制止も空しく、凛はコートから出て行ってしまう。

 「やっと出て行ったか。よしお前ら、練習だ! 何からやるんだ?」

 「なあブラド、お前今ので何も感じないのかよ」

 将人が怒りを顕にした表情でブラドに詰め寄る。

 「ああ? 雑魚がいても邪魔なだけだろ。なんであんなのチームに呼んだんだか」

 「お前のそういう所がなあ!」

 「やめろ!」

 今にも殴りかかりそうな将人を俺は声で制止する。

 「今は落ち着いてくれ。
 とりあえず最初はシュート練習からだ。適当にやっておいてくれ。
 俺は……少しトイレに行ってくる」

 「おい! 龍也!」

 後ろから将人の声が聞こえてくるが俺は構わず進む。

 俺のせいだ……。
 俺の見立てが甘かった。
 もっと確実な手段を考えるべきだった。
 負けたらどうなるか想像できたはずなのに……簡単な方法に逃げてしまった。

 凛と話さなくちゃ。
 何が言えるかわからないが何かしなくちゃいけないんだ。

 宿舎にワープしたが凛の姿は見当たらない。もう部屋に戻ったのだろうか? それとも別の場所?
 とりあえず俺は凛の部屋のインターフォンを鳴らす。

 「凛!」

 部屋にいるのかはわからない。だけど俺は声を張って言葉を発する。

 「さっきのプレー凄かった! あのフェイントどうやって練習したんだ? 俺じゃあんなのできないよ。
 よかったら教えてくれ、俺も教えたい技が――」

 「うるさい!!!
 今は……ほっといてよ……」

 それだけを言い残し言葉が途切れる。
 俺にはこれ以上声をかけることはできなかった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON
ファンタジー
核戦争で死んだ俺は、神災級と呼ばれるチートな力を持ったまま異世界へ転生した。 目的はひとつ――行方不明になった“妹”を探すことだ。 だがそこは、大量の転生者が前世の知識と魔素を融合させた“魔素学”によって、 神・魔物・人間の均衡が崩れた危うい世界だった。 そんな中で、魔王と女神が勝手に俺の精神世界で居候し、 挙句の果てに俺は魔物たちに崇拝されるという意味不明な状況に巻き込まれていく。 そして、謎の魔獣の襲来、七つの大罪を名乗る異世界人勇者たちとの因縁、 さらには俺の前世すら巻き込む神々の陰謀まで飛び出して――。 妹を探すだけのはずが、どうやら“世界の命運”まで背負わされるらしい。 笑い、シリアス、涙、そして家族愛。 騒がしくも温かい仲間たちと紡ぐ新たな伝説が、今始まる――。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...