グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

文字の大きさ
19 / 109
第二章 初陣

19 不利? 有利?

しおりを挟む
 「明明後日です!!!」

 「ちょっと待ってくださいフィロさん。本当に明明後日試合が行われるんですか……?」

 「そうよ。明日コイントスして明後日現地入り。そして明明後日が試合。わー時間が無い無い」

 「あ、あの言い難いんですけどそんなスケジュールでしたのならもっと早くチームを組んでおくべきだったのではないでしょうか。まだ1回もまともに練習してないですし……」

 「ええそうねアランくん。本来ならその通りよ……。
 でも仕方ないでしょ! この連絡きたの今日のお昼なんだから! ちょうどあなたたちが地球に戻ってる時!
 そりゃ私だってびっくりしたし抗議したわよ! でも返ってきた言葉は『突然すぎるって? まあその方が面白いからね。頑張って~』よ! 大人を舐めやがってあのクソガキー! 絶対にぶっ倒してやるんだから覚悟しなさい!!!」

 フィ、フィロさんがめちゃくちゃ荒れている……。
 しかしこれはかなりマズイな。俺たちのチームはまだ何もかもが足りていない。こんな状態で明明後日には試合なんて正直絶望的だ。
 ……オグレスの科学で時間止めたりできないだろうか。
 はっ!? 現実逃避してる場合じゃない! 現実的な案を出さないと……。
 急げ……急げ……。

 「……はい! 焦るの終わり!
 ほらほらみんなも! 暗い顔やめて!
 決まっちゃったものは仕方ないでしょ! ハプニングも楽しまなくちゃ!」

 !? いきなり冷静になった。つい数秒前まで焦りまくってた人と同一人物とは思えない切り替えの速さだ。

 「んー? みんな何そのさっきまで焦りまくってたくせにみたいな顔は。
 これでいいの。全力で焦って気持ちを吐き出す、これだけでかなりすっきりするんだから。オグレス流のメンタル回復術よ、みんなも辛いことがあったら使っていいわ」

 「ほっほ、それにお前さんらトールの言ったこともう忘れたのかの?
『サッカーを楽しむ』この気持ちさえあれば何とでもなるわい。
 それに突然試合が決まって焦っているのはわしらだけじゃないしのう」

 「……そうか! 条件は他のチームも同じ! なら焦らず冷静に戦えば勝機はあるかも……!」

 「で、でも突然の連絡はぼくたちだけで他の星には事前に連絡が行っていたのかも……。
 それに最初の連絡は1ヶ月前なんですよね? 他の星が連絡後すぐにチームを組んでいたとしたら既にそこそこ練習ができていてまだ何もできてないぼくたちより有利なんじゃ……」

 「安心してネイトくん。まず前者についてだけど、大会の連絡はミドラス星っていうゼラの管轄の星で全チーム揃って行われるの。他のチームも私と同じように焦っていたから情報に違いはないとみて間違いないわ。
 次に後者、確かにこれはその通り。すぐにチームを組んで練習を始めていた星の方が多いと思うわ。でもね、そんな短期間のビハインドなんて塗りつぶせるくらいの有利が地球にはあるの!」

 こんな俺たちに有利が……? なんだろう。身体能力かと思ったけど、オグレスの様にサッカーに適さない身体の星ばかりではないだろうし有利と言うほどでもないか。うーん、わからん。

 「フィロちゃんさん! その有利とは!? まさか身体能力じゃないよね……?」

 急かすペペに対してフィロさんは薄く笑って答える。

 「ええ。残念ながら身体能力じゃないわ。というか地球人の身体能力って中の下くらい。有利どころか不利な要素ね」

 「あわわ……。じゃあそんなの勝てるわけないよ……」

 「まあ落ち着いてネイトくん。
 サッカーってね、色々な星で楽しまれてはいるけど、地球ほどメジャーな星は少ないのよ。もちろん、今回のトーナメントが発表されるまでサッカーに触れたことない星だって存在するわ。
 つまりサッカーに向き合ってきた時間、サッカーに対する理解、そして個々の技術においてあなたたちには大きな有利がある!
 もちろんどの星もトッププレイヤーを集めてくるはず。それでもあなたたちに分があると確信しているわ。
 だから大丈夫。ドンと構えておきなさい!」

 これは意外な情報。
 宇宙を巻き込んだ大会を開くぐらいなのだから、宇宙でもサッカーはかなり流行っているのだと思っていた。
 これなら希望は見えてくるな。
 しかしここで1つ疑問が浮かぶ。

 「それでも大会を開催してるのだからゼラではかなりサッカーがメジャースポーツなんですよね?」

 「それが謎なのよねぇ。
 ゼラでサッカーが流行ってるって話は聞いたことがなくて……最近急激に流行りだしたってことなんだろうけど、それでもこんな重要な役割にサッカーを置いた理由としては疑問が残るわ」

 なるほど。サッカーが選ばれたのにも理由がある可能性もあるわけか。
 まあそんなことを考えても仕方がない。今考えるべきことは……

 「質問はもうないかしらー?
 では次、1戦目の相手について話すわよ!
 1戦目の相手はギガデス星。チーム名はグラッシャー。
 ギガデス星人の特徴はその大きさ。平均身長は2.3m、身長に見合うパワーもあるから注意して」

 「ひぃえええ……平均ってことは選手たちはもっと高いんだよね……。
 ぼくより1mくらい高いんじゃないの……」

 「ガハハ! 気にするなネイト! パワーなら俺様に任せとけ! どんな相手でも吹き飛ばしてやるぜえ!!!」

 「確かにそうね。選手たちの平均身長なら2.5mくらいにはなるかしら。
 でも大丈夫! ギガデスではサッカーは流行っていなかった。だから技術力ではあなたたちの方が確実に上よ! パワーに恐れずテクニックで潰してやりましょー!」

 「ほっほ、そういうわけじゃ。
 よーしじゃあ今日からの3日間の練習メニューを発表するぞー。
 お前さんたちに課すのは基礎練、そしてチームメイトとコミュニケーションを取ることじゃ」

 「えっと……それだけですか?」
 「前言ってた特訓場は使わないんですか!?」

 「ほっほ、それだけじゃ。
 ただ3日目の後半だけはキャプテンに練習方法を一任するぞい」

 「ぼ、僕たちにコミュニケーションが必要なのはわかります。ですが相手は宇宙人です。時間が無いとはいえそれ相応の練習は必要かと」

 監督に対して意見を言うアラン。そのアランに近づく影が1つ。

 「おい」

 そう言って彼はアランの胸ぐらを掴む。

 「な、なんですか、ルカくん」

 「口答えするな。監督の言葉は絶対なんだよ」

 ルカはそのままアランを突き飛ばす。

 「気を悪くさせたならすみません。別に反対しているわけではないんですよ。少し気になったことを言っただけです」

 アランは咳き込みながらも笑顔を崩さずそう返す。

 「だからそれが要らないんだよ。お前らは何も考えず監督に従っていればいい」

 「ほっほ、そこまでにしておくのじゃルカ。
 アランよ、別にわしは時間が無いから特訓場を使わなかったわけではないんじゃよ。
 今このチームに1番必要なものがコミュニケーションだと思っただけじゃ」

 「あ、いや、そんなに否定してるわけではないんですよ。ほんと少し疑問に思っただけなので。
 意図は理解しました。ありがとうございます」

 監督の説明でアランも納得する。

 やるべき事は決まった。
 試合まで3日。キャプテンとして全力で戦い抜く……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

処理中です...