グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第三章 謎と試練

45 お豆腐メンタル

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 「と、豆腐メンタル?」

 まさかと思い聞き直すが……

 「そスそス。やわやわ豆腐なメンタルっス」

 やはり聞き間違いではなかったようだ。
 あのヘンディが豆腐メンタル。正直意外すぎて受け入れられない。

 「意外だな、あのヘンドリックが打たれ弱いとは。俺もヘンドリックとは何度か試合をしたことがあるが、そういった空気は見受けられなかったからな」

 どうやらクレも俺と同じ感想のようだ。
 いや、ヘンディのイメージは明るく頼れるキャプテンといったところ。ここにいる全員が同じ感想を抱いていることだろう。

 「そりゃ敵には見せないっスからねぇ。俺たちドイツ代表はみんな知ってたっスよ。それにアウラス監督やフィロさんも知ってるっス」

 「なら俺たちにも教えてくれてもよかったんじゃないか? 仲間だろ?」

 「そ、そりゃこんなことバレたらヘンディさんのメンタルがピンチっスし、それに先輩たちも信じないっスよね? ここまでのお豆腐って」

 ぐ、確かに。あのヘンディがこうなるなんて想像もしていなかったし、もし事前に聞いていたとして誇張してるなあとしか思わなかっただろう。

 「それならこういう場でバレるのは良かったのかもしれないっス。どうせいつまでも隠し通せるものじゃないっスし。
 今思えば、監督がギガデス戦の途中でヘンディさんを交代させなかったのはこうなることを見越してたからかもしれないっスね」

 「そうか、ギガデス戦でキーパーがシュートを止めることは不可能だった。どうせ止められないならそれを別のことに活かそうとしたわけか!」

 「なるほどな。もし途中でヘンドリックのメンタルが崩れたとして、元から止められないのなら関係ないということか。やり方は厳しいがいつかはメンタル治療が必要である以上仕方がないと」

 どこまで見越して。アウラス監督、相変わらず凄い人だ。

 「ほっほ、まあそういうことじゃよ。ヘンドリックは優秀な選手じゃが、あのメンタルはちと問題じゃからのう。
 さて、ここからはキャプテンの出番じゃ。次の試合は2週間後、それまでにヘンドリックのメンタルを治してみい」

 そして無理難題を突きつけてくる。これもまた相変わらずだ。

 「んー? あれ? 次の試合は2週間後なんですかー?」

 「ええそうよ! 試合が終わってすぐ連絡がきたの。この間と違って時間的な余裕があるわ。今日の夕方のミーティングで色々話があるからそれまでに……あ、じゃあ頑張ってね!」

 フィロさんの向いている方向。そこには未来とミアに連れられて戻ってきたヘンディがいた。

 「ヘ、ヘンディ、おかえり」

 「……恥ずかしくて死にそう」

 ***

 ぼーっと座るヘンディを横目に、俺はザシャから更に話を聞き出そうと話しかける。

 「ドイツ代表時代はどうしてたんだ? 対処法が知りたい」

 「んー、正直こうなることはほとんど無かったんスよね。ほら、うちって守備が強かったじゃないっスか」

 ドイツ代表、5人のディフェンスと守護神であるキーパーのヘンディとの完璧な連携で鉄壁の守備を誇るチーム。そういえばほとんどの試合が無失点、失点しても1点なチームだったな。

 「ということはヘンディのメンタルはずっと安定してたのか?」

 「そっスねえ。チーム内での紅白戦でなら無くもなかったっスけど、それくらいっスねえ。
 うちが守備の強いチームでほんと良かったっスよ」

 「なるほどなぁ。でもこのチームでディフェンスを増やすことは難しいし、それをしても強くないだろうからなあ。うーん」

 「とりあえず俺が把握してる限りのヘンディさんのメンタルと得点の関係性を教えるっス。
 基本的に負けた試合は得点に関わらず凹むっス。
 次に勝った試合。これも簡単で、1点でも決められてたら凹むっス。
 つまり無失点での勝利以外だと凹んでるっスね」

 「なるほど……。ということはオグレス戦の後も気にしてた感じか?」

 「うーん、そーっスねぇ。
 ほら、ヘンディさんって、あの茶番に気づいてなかったじゃないっスか」

 「あ、ああ、そうだったなあ。
 俺は気づいてたけど、あれは気づかなくても仕方ないよなあ。俺は気づいてたけど」

 「何言ってんスか。動揺してたのバレバレだったっスよ」

 「は!? き、気づいて……」

 「なーんでバレてないと思ってんスか。
 そんなことより話の続きっス。
 ヘンディさんはその茶番に気づいていなかった。だからそっちの衝撃の方が大きくて、失点の悲しみに浸る時間は無かったんだと思うっス。ただ……」

 「ただ?」

 「ただ、宇宙人との戦いに参加するかどうかは悩んでたみたいっス。メンタルの弱さで迷惑をかけるかもって。最終的には自分がいないとキーパーがいなくなるからって理由で戦うことを決めたみたいっスけど」

 「実際はルカがいたわけだしな。思うところはあったのかもだけどそれを俺たちに悟られないように隠してたのは凄いな」

 「ヘンディさん、責任感強いっスから。どんな時でも明るく振舞おうとするんスよ。そういう役割が求められてるってわかってるっスから。
 メンタルが崩れるのも、サッカーが好きだから、サッカーに本気だからこそ背負いすぎちゃうんスよ。
 それに、メンタルが崩れても試合には真剣に向き合ってるっス。そんなところもかっこいいんスよ。
 だから……どうかあんまり悪く思わないでほしいっス」

 「悪くなんて思うわけないって、すげえやつだよヘンディは」

 「そうなんス、凄い人なんスよ。
 それで、今回みたいに5点決められて1本も止められなかった場合っスけど……わからないっス」

 「わからない?」

 「はいっス。俺たちは仮にも国の代表、強いチームっス。だからそんな大量に得点されることも、ヘンディさんが全然止められないこともなかったからわからないっス、未知数っス。
 その上で聞いてほしいんスけど、正直予想していたより酷くて驚いたっス。俺もちょっと楽観視しすぎてたかもしれないっス。すみません……」

 「そんな謝ることじゃないって! ありがとうザシャ、参考になった」

 「……お役に立てたのなら何よりっス」

 ヘンディについてはよくわかった。
 サッカーが好きだから、サッカーに本気だから、だからこそ……っていうのは実にヘンディらしいと思う。

 だが、だからといって解決策が見つかったわけではない。期限は2週間、とはいえ練習も必要だ。解決は早ければ早い方がいい。

 その一方で、こんなデリケートな問題に専門家でもない一般人の俺が安易に手を出していいのだろうかという疑問も残る。

 俺は頭を悩ませるばかりだった。
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