グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第三章 謎と試練

56 オグレスの失態

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 「お、俺の名字に何か……?」

 山下山下と叫ぶトメさん。流石に気になるので俺はこう問いかけた。

 「いえ、気にしなくて大丈夫です。
 大方あの時の山下を思い出しているのでしょう。
 違いますよお婆さん、地球には同じミョウジを持った方がたくさんいます。同じ山下というミョウジだからといって関係者であるとは限りません」

 「そ、そうなのか……?
 早とちりをしてしまったわい。ふう、焦った焦った」

 勘違いだったのか……? 自分の名字でここまで騒がれたのは初めてだったから、ここで終わられるとなんか凄くモヤモヤが残るのだが……。

 「それにしても懐かしいのう。随分時が経ったが、今も感謝してもしきれんわい。あの男、山下達也やましたたつやには」

 「え!? 山下達也!?」

 「!? と、突然どうされました山下様」

 「りゅ、龍也くん、それって」

 「ああ、山下達也は、俺の父の名前です。俺が生まれたと同時にいなくなった」

 「ま、まさか、本当に知り合い……?」

 「お、お主! そのいなくなったのは何年前じゃ! はよう教えんか!」

 「え、えっと。俺が生まれた年だから、17年前……?」

 「17年前……同じじゃ、あの時と合っておる」

 「ということは……まさか、本当に」

 「ああ、この男は我々が会ったあの山下達也の息子なのだろう」

 「そんな……」

 ……どういうことだ? 父さんのことを知っている? 父さんはオグレスに来ていたのか?
 まさかこんなところで父さんの話を聞くことになるとは思わなかった。
 やばい。まさか、いるのか? ここに、父さんが!

 「それで! いるんですか!? 父さんが! ここに!」

 つい熱くなって叫んでしまう。しかしその答えは残酷。

 「いや、もういない」

 「…………」

 予想はしていた。父さんがここにいるのならトメさんはこんな反応をしないだろう。
 しかし、0%ではない。
 やっと見つけた父さんへの手がかり。わずかな可能性だとしても失いたくはない。

 「龍也くん……」

 「大丈夫だ未来。そう上手くいくなんて初めから思ってない」

 俺は改めてトメさんとウララさんの方を向き、言葉を発する。

 「すみません。もしよろしければ、あなたたちがいつ父について知ったのか、あなたたちと父はどういった間柄なのか、自分に教えていただけませんか」

 「それは……」

 「いいじゃろう。息子じゃ、話さぬわけにもいくまい。
 フィロのやつが自分で予言者について話さずこやつをここに寄越したのも、もしかしたら我々の口から話させるためだったのかもしれんからのぅ。無駄なところで頭の働く娘よ」

 「そう……かもですね」

 「今話そう、ことが起こったのは18年前。今から三度前の予言のときじゃ」

 18年前……父さんがいなくなったのは17年前だからその1年前か。

 「当時の予言者だった我は予言を行った。その内容はこうじゃ、
 "1年後の今日、地球にて未知の力を持った子どもが1人生まれる。
 その力は宇宙の理を壊しかねないものだ"」

 「…………」

 「1年後、予言通りその子どもは生まれた。その父だったのが、主の父、山下達也じゃ」

 「えっ!?」

 「ちょ、ちょっと待ってくれよ!? ということは……その未知の力を持った子どもって……お、俺!?」

 「いや、それは違うじゃろう。
 その子どもは重要な存在。地球では守りきれんと判断した当時の地球の上層部は、その子どもをここオグレスで保護することに決めたのじゃ。科学の発展したこの星は、確かに地球よりかは安全であろう。
 お主にそんなことをした覚えは無いじゃろ?」

 「は、はい。
 ということは……俺には兄弟がいた……?
 そ、その日付けってわかりますか!?」

 「地球でいう、11月13日じゃったな」

 「お、俺の誕生日です。ということは……」

 「なんと、双子であったか」

 俺に双子の兄弟がいた……? そんな話聞いたことがない。
 そして、この流れ的に父さんは……。

 「そして、主の父はその子どもを守るため、共にオグレスへとやってきたのだ」

 やはり。父さんの仕事については俺はよく知らない。そのことについて母さんが話してくれなかったからだ。
 しかし、これで母さんが父さんを悪く言わなかった理由はわかった。
 父さんは俺たちを捨てたわけじゃなかった! 大きな使命のため、宇宙に飛び立ったんだ……!

 「それで、その後、父さんと俺の兄弟はどうなったんですか!?」

 「…………」

 「あの……」

 「ここからは、我々オグレス最大の失態じゃ。主には謝罪を絡めながら話さねばならぬ」

 「……覚悟しています」

 「……あのとき、我々は主の父とまだ赤ん坊だった主の兄弟を引き受けた。
 当然当時もこの科学力は健在。少し慢心している面もあったのかもしれんのう」

 嫌な予感がする。緊張して体が熱くなる。
 しかし、だからといって耳を塞ぐわけにはいかない。
 俺はこの話を最後まで聞き届けるんだ。

 「主の父と兄弟がオグレスに来てすぐ、我はその2人と3人で話す機会があってのう。
 予言を行った我と予言の子と親じゃ、関わらぬわけにもいかぬまい。
 当然護衛はいた。しかし、そのときに悲劇は起こったのじゃ」

 そう話した瞬間、近くでドンと力強く壁を叩く音がした。
 その音の主はカグラさんだ。

 「カグラ、お主まだ受け入れられておらなんだか」

 「…………」

 何やら不穏な様子。しかしそんなカグラさんに構うことなくトメさんは話を続ける。

 「そのとき、ある男が計画を実行に移した。
 その計画とは、予言者である我と奇跡の子である主の兄弟との同時誘拐じゃ。
 その男は当時の銃士隊副隊長。名は確かバクレー、まあどうせ偽名じゃろうがのう。
 そんな立場の人間だったのじゃから、我々もすっかり信用しきっていたのじゃ」

 「裏切り者がいたんですか……」

 「裏切り者とは少し違いますね。まあこれもただの想像ですけど。
 あれ程敵意を隠し何年も潜み続けた忍耐力。そしてことを起こしてからの圧倒的な手腕。
 ゼラのスパイ。それもかなりの達人。我々はそう推測しております」

 ゼラ……!
 そういえばゼラはスパイ技術に秀でていると言っていた。疑うなら当然ここか!

 「そして、その男の計画により、我とその子は連れ去られそうになった。そこを助けたのが、主の父、達也じゃ」

 「父さんが……」

 「連れ去られそうになる我らを助けるため、身を呈して戦った。その結果、我だけは助けることに成功。主の父と兄弟が連れ去られることになったのじゃ」

 嫌な汗が吹き出る。
 俺はこの話を聞いた瞬間、凄く嫌な想像をしてしまった。しかし、口に出したくはない。そうすると、それが本当のことになってしまう気がしたから……。

 「山下様、顔色が悪く見えますか、大丈夫でしょうか……?」

 「察してやれウララ。賢いこやつのことじゃ、色々と思いついてしまうのじゃろう」

 「龍也くん……」

 「改めて謝罪をさせてもらおう。
 この件は完全に我々の失態じゃ。本当にすまなかった」

 「いえ……元々は地球の問題。手を貸してくださっただけでもありがたいです」

 「そうは言って――」

 「すみません、少し気分が優れないので、今日は失礼させていただきます。
 貴重なお話ありがとうございました。
 じゃあ、帰ろう未来」

 「う、うん……。
 あ、ありがとうございました!
 私たち絶対勝つので、また応援していただけると嬉しいです! それでは!」

 こうして俺たちはエリラを後にする。
 やっと見つけた父と兄弟への手がかり。そして失った父への手がかり。
 俺の心は暗く沈んでしまった。
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