57 / 109
第三章 謎と試練
57 弱いわたし
しおりを挟む
「本当に大丈夫?
気持ち悪くない?」
「……なんとか」
「わたしね、馬鹿だからちょっと理解しきれてないの。
だから、今のわたしじゃ龍也くんの力になってあげられない。
お願い、今抱えてること全部話して?」
「…………」
未来が心配してくれているのは伝わってくる。
しかし、俺の中でもまだ整理がつけられていないのも事実。
そんな状態の俺が気持ちを吐き出したとしても事態が好転するとは思えない。それに、未来にも迷惑をかけてしまうだろう。
「ごめ――」
「わたしね、この前言ってた、フィロさんの……オグレスの考え方が好きなんだ」
「……未来?」
「感情を顕にして気持ちを吐き出す。
それって凄く難しいことだと思うの。
弱い自分を見せて、それで相手に見放されたらどうしよう。相手を困らせて、それで相手に嫌われたらどうしよう。傷ついているときにそんなことになったら立ち直れない。
でもね、それを乗り越えたとき、得られるものはすっごく大きいと思う。
龍也くん、わたしを信じて。気持ちをさらけ出せる相手がいるって幸せなことだよ。
わたしはあのとき、身をもって知ったんだ」
***
「や~い! ババアババア~!」
「違うもん……ババアじゃないもん……」
「はー? 知ってるか? 子どもの髪は黒色。ババアになると髪は白くなるんだ。
だから白い髪のお前はババアなんだよ!」
「ち、違うもん……」
小さい頃のわたしはいじめられっ子だった。
いじめられっ子といっても特別酷いことをされていたわけじゃない。
所謂からかいの度が少し過ぎていたくらいだと思う。
でも、わたしはそれが凄く嫌だった。
わたしは生まれた時から病気を抱えていた。
白皮症という病気だ。
生まれつき肌や髪は白く、紫外線にも弱かった。紫外線を防ぐため、日傘をさしたり、車で送迎をしてもらったり、体育の授業を見学したりと、子どもの頃から色々普通と違ったことをしていた。
人は自分と違うものに対して拒否感を抱く生物だ。
それは子どもも同じ。
いや、善悪の区別がついていない分大人より厄介だ。
髪が白いからババア。運動をせず見学ばかりしている体力無しだからババア。
いかにも子どもの思いつきそうなこと。
しかし、そんなことでも当時のわたしにとっては本当に嫌なことだった。
当時のわたしは弱かった。
言い返すことができないのはもちろん、自分が人から嫌がらせを受けている弱い人間だということを認めることすらできなかった。
誰にも相談することはできなかった。
学校と違って家は安心できる場所だった。
親はわたしの嫌がるようなことはせず、白皮症のわたしにも優しく接してくれていた。
わたしはそんな親が大好きで、そんな親の経営する神社が大好きで、いつか立派な巫女になりたいと思い毎日稽古に励んでいた。
しかし、ある日わたしは、そんな親のある話を聞いてしまった。
「最近の未来は巫女の稽古に精を出しているね」
「そうですね。体も弱いのによく頑張っています」
「それで、大丈夫そうなのか?」
「……どうでしょう。巫女になる上で白い髪というのは大きなハンデですからね。未来の体の弱さで、そのハンデを覆せるかはわかりません」
ショックだった。
巫女になって親に恩返しをする。そんな夢ですらこの髪のせいで叶わないのか。
いっそ髪を染めてしまおうか。
こうも思ったが、わたしのちっぽけなプライドが邪魔をする。
逃げたく……ない。
***
わたしには幼なじみがいた。
その子の名前は山下龍也。1つ上の男の子だ。
その子はサッカーが大好き。そしてわたしもサッカーが好き。その共通点で、近所に住んでたその子とわたしはすぐに仲良くなった。もちろん体の弱いわたしにサッカーをすることは叶わないけど、その子がサッカーをしている姿を見るだけで楽しかった。
それに、その子はわたしの髪については何も言わなかった。わたしが一緒にサッカーをせず、ただ見ているだけなことについても何も言わなかった。
わたしにとって、その子は信頼できる親友だった。
両親の話を聞いてしまった日も龍也くんと遊ぶ約束があった。
わたしは日傘を差し、サングラスを付け、龍也くんに会いに行った。
悲しい気持ちだった。誰かに気持ちを吐き出したかった。
龍也くんに会った。
親友の龍也くんに……わたしは何も言えなかった。
わたしは平静を装った。
震える声を隠すのは得意だ。少し涙が出かけたけど、サングラスをしていたのでバレなかった。
怖かったのだ。期待通りの答えが返ってこなかったら。龍也くんまで酷いことを言ってきたら。
弱いわたしは、人を信じることができなかった。
暗い気持ちを抱えたまま月日は流れ、そして事件は起こった。
ある日の学校の授業、授業内容は将来の夢。
わたしは"巫女"と書いた。色々とあったけど、他にやりたいことはほとんど無かったから。あるとしたら……いや、それは体の弱いわたしには難しい。
そんなとき、ある言葉がわたしに伝えられる。
「未来~、お前巫女になりたいのか~。
でもさ、巫女の服って白いよな? 白い髪のお前が巫女になったら、真っ白じゃん! お化けだ! あはははははは」
「こらこら、そんなこと言ったらいけません」
「だって、真っ白だよ? お化けにしか見えないって~」
「お化けって~」
「真っ白……確かにお化けっぽいかも……!」
「頭に頭巾付けたらそうにしか見えないかも~」
「こらっ! でも……ふふっ、確かに」
お化けの話題で盛り上がる教室。
わたしは、許容限界を超えてしまった。
全てが嫌になった。
わたしは教室を飛び出した。学校を飛び出した。
行くあてもない。家には帰れない。なぜこんな時間に荷物も持たずに帰ってきたのか理由が言えない。
わたしが悪いんだ。
先生は彼らを強くは叱らない。なだめる程度。でもそれはわたしが何も相談しないから。
クラスメイトも同じ。わたしがどれほど嫌がっているのか誰もわからない。
無我夢中に走っていると、人にぶつかってしまった。
目がぼやけて誰かわからない。
「すみません」
軽く謝り、走り去ろうとすると……
「未来?」
「……え?」
そこにいたのは、わたしの親友の龍也くんだった。
気持ち悪くない?」
「……なんとか」
「わたしね、馬鹿だからちょっと理解しきれてないの。
だから、今のわたしじゃ龍也くんの力になってあげられない。
お願い、今抱えてること全部話して?」
「…………」
未来が心配してくれているのは伝わってくる。
しかし、俺の中でもまだ整理がつけられていないのも事実。
そんな状態の俺が気持ちを吐き出したとしても事態が好転するとは思えない。それに、未来にも迷惑をかけてしまうだろう。
「ごめ――」
「わたしね、この前言ってた、フィロさんの……オグレスの考え方が好きなんだ」
「……未来?」
「感情を顕にして気持ちを吐き出す。
それって凄く難しいことだと思うの。
弱い自分を見せて、それで相手に見放されたらどうしよう。相手を困らせて、それで相手に嫌われたらどうしよう。傷ついているときにそんなことになったら立ち直れない。
でもね、それを乗り越えたとき、得られるものはすっごく大きいと思う。
龍也くん、わたしを信じて。気持ちをさらけ出せる相手がいるって幸せなことだよ。
わたしはあのとき、身をもって知ったんだ」
***
「や~い! ババアババア~!」
「違うもん……ババアじゃないもん……」
「はー? 知ってるか? 子どもの髪は黒色。ババアになると髪は白くなるんだ。
だから白い髪のお前はババアなんだよ!」
「ち、違うもん……」
小さい頃のわたしはいじめられっ子だった。
いじめられっ子といっても特別酷いことをされていたわけじゃない。
所謂からかいの度が少し過ぎていたくらいだと思う。
でも、わたしはそれが凄く嫌だった。
わたしは生まれた時から病気を抱えていた。
白皮症という病気だ。
生まれつき肌や髪は白く、紫外線にも弱かった。紫外線を防ぐため、日傘をさしたり、車で送迎をしてもらったり、体育の授業を見学したりと、子どもの頃から色々普通と違ったことをしていた。
人は自分と違うものに対して拒否感を抱く生物だ。
それは子どもも同じ。
いや、善悪の区別がついていない分大人より厄介だ。
髪が白いからババア。運動をせず見学ばかりしている体力無しだからババア。
いかにも子どもの思いつきそうなこと。
しかし、そんなことでも当時のわたしにとっては本当に嫌なことだった。
当時のわたしは弱かった。
言い返すことができないのはもちろん、自分が人から嫌がらせを受けている弱い人間だということを認めることすらできなかった。
誰にも相談することはできなかった。
学校と違って家は安心できる場所だった。
親はわたしの嫌がるようなことはせず、白皮症のわたしにも優しく接してくれていた。
わたしはそんな親が大好きで、そんな親の経営する神社が大好きで、いつか立派な巫女になりたいと思い毎日稽古に励んでいた。
しかし、ある日わたしは、そんな親のある話を聞いてしまった。
「最近の未来は巫女の稽古に精を出しているね」
「そうですね。体も弱いのによく頑張っています」
「それで、大丈夫そうなのか?」
「……どうでしょう。巫女になる上で白い髪というのは大きなハンデですからね。未来の体の弱さで、そのハンデを覆せるかはわかりません」
ショックだった。
巫女になって親に恩返しをする。そんな夢ですらこの髪のせいで叶わないのか。
いっそ髪を染めてしまおうか。
こうも思ったが、わたしのちっぽけなプライドが邪魔をする。
逃げたく……ない。
***
わたしには幼なじみがいた。
その子の名前は山下龍也。1つ上の男の子だ。
その子はサッカーが大好き。そしてわたしもサッカーが好き。その共通点で、近所に住んでたその子とわたしはすぐに仲良くなった。もちろん体の弱いわたしにサッカーをすることは叶わないけど、その子がサッカーをしている姿を見るだけで楽しかった。
それに、その子はわたしの髪については何も言わなかった。わたしが一緒にサッカーをせず、ただ見ているだけなことについても何も言わなかった。
わたしにとって、その子は信頼できる親友だった。
両親の話を聞いてしまった日も龍也くんと遊ぶ約束があった。
わたしは日傘を差し、サングラスを付け、龍也くんに会いに行った。
悲しい気持ちだった。誰かに気持ちを吐き出したかった。
龍也くんに会った。
親友の龍也くんに……わたしは何も言えなかった。
わたしは平静を装った。
震える声を隠すのは得意だ。少し涙が出かけたけど、サングラスをしていたのでバレなかった。
怖かったのだ。期待通りの答えが返ってこなかったら。龍也くんまで酷いことを言ってきたら。
弱いわたしは、人を信じることができなかった。
暗い気持ちを抱えたまま月日は流れ、そして事件は起こった。
ある日の学校の授業、授業内容は将来の夢。
わたしは"巫女"と書いた。色々とあったけど、他にやりたいことはほとんど無かったから。あるとしたら……いや、それは体の弱いわたしには難しい。
そんなとき、ある言葉がわたしに伝えられる。
「未来~、お前巫女になりたいのか~。
でもさ、巫女の服って白いよな? 白い髪のお前が巫女になったら、真っ白じゃん! お化けだ! あはははははは」
「こらこら、そんなこと言ったらいけません」
「だって、真っ白だよ? お化けにしか見えないって~」
「お化けって~」
「真っ白……確かにお化けっぽいかも……!」
「頭に頭巾付けたらそうにしか見えないかも~」
「こらっ! でも……ふふっ、確かに」
お化けの話題で盛り上がる教室。
わたしは、許容限界を超えてしまった。
全てが嫌になった。
わたしは教室を飛び出した。学校を飛び出した。
行くあてもない。家には帰れない。なぜこんな時間に荷物も持たずに帰ってきたのか理由が言えない。
わたしが悪いんだ。
先生は彼らを強くは叱らない。なだめる程度。でもそれはわたしが何も相談しないから。
クラスメイトも同じ。わたしがどれほど嫌がっているのか誰もわからない。
無我夢中に走っていると、人にぶつかってしまった。
目がぼやけて誰かわからない。
「すみません」
軽く謝り、走り去ろうとすると……
「未来?」
「……え?」
そこにいたのは、わたしの親友の龍也くんだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
もしもゲーム通りになってたら?
クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが
もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら?
全てがゲーム通りに進んだとしたら?
果たしてヒロインは幸せになれるのか
※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。
※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。
※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。
※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる