グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第三章 謎と試練

57 弱いわたし

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 「本当に大丈夫?
 気持ち悪くない?」

 「……なんとか」

 「わたしね、馬鹿だからちょっと理解しきれてないの。
 だから、今のわたしじゃ龍也くんの力になってあげられない。
 お願い、今抱えてること全部話して?」

 「…………」

 未来が心配してくれているのは伝わってくる。
 しかし、俺の中でもまだ整理がつけられていないのも事実。
 そんな状態の俺が気持ちを吐き出したとしても事態が好転するとは思えない。それに、未来にも迷惑をかけてしまうだろう。

 「ごめ――」
 「わたしね、この前言ってた、フィロさんの……オグレスの考え方が好きなんだ」

 「……未来?」

 「感情をあらわにして気持ちを吐き出す。
 それって凄く難しいことだと思うの。
 弱い自分を見せて、それで相手に見放されたらどうしよう。相手を困らせて、それで相手に嫌われたらどうしよう。傷ついているときにそんなことになったら立ち直れない。
 でもね、それを乗り越えたとき、得られるものはすっごく大きいと思う。
 龍也くん、わたしを信じて。気持ちをさらけ出せる相手がいるって幸せなことだよ。
 わたしはあのとき、身をもって知ったんだ」

 ***

 「や~い! ババアババア~!」

 「違うもん……ババアじゃないもん……」

 「はー? 知ってるか? 子どもの髪は黒色。ババアになると髪は白くなるんだ。
 だから白い髪のお前はババアなんだよ!」

 「ち、違うもん……」

 小さい頃のわたしはいじめられっ子だった。
 いじめられっ子といっても特別酷いことをされていたわけじゃない。
 所謂からかいの度が少し過ぎていたくらいだと思う。

 でも、わたしはそれが凄く嫌だった。

 わたしは生まれた時から病気を抱えていた。
 白皮症という病気だ。
 生まれつき肌や髪は白く、紫外線にも弱かった。紫外線を防ぐため、日傘をさしたり、車で送迎をしてもらったり、体育の授業を見学したりと、子どもの頃から色々普通と違ったことをしていた。

 人は自分と違うものに対して拒否感を抱く生物だ。
 それは子どもも同じ。
 いや、善悪の区別がついていない分大人より厄介だ。

 髪が白いからババア。運動をせず見学ばかりしている体力無しだからババア。
 いかにも子どもの思いつきそうなこと。
 しかし、そんなことでも当時のわたしにとっては本当に嫌なことだった。

 当時のわたしは弱かった。
 言い返すことができないのはもちろん、自分が人から嫌がらせを受けている弱い人間だということを認めることすらできなかった。

 誰にも相談することはできなかった。

 学校と違って家は安心できる場所だった。
 親はわたしの嫌がるようなことはせず、白皮症のわたしにも優しく接してくれていた。
 わたしはそんな親が大好きで、そんな親の経営する神社が大好きで、いつか立派な巫女になりたいと思い毎日稽古に励んでいた。
 しかし、ある日わたしは、そんな親のある話を聞いてしまった。

 「最近の未来は巫女の稽古に精を出しているね」

 「そうですね。体も弱いのによく頑張っています」

 「それで、大丈夫そうなのか?」

 「……どうでしょう。巫女になる上で白い髪というのは大きなハンデですからね。未来の体の弱さで、そのハンデを覆せるかはわかりません」

 ショックだった。
 巫女になって親に恩返しをする。そんな夢ですらこの髪のせいで叶わないのか。

 いっそ髪を染めてしまおうか。
 こうも思ったが、わたしのちっぽけなプライドが邪魔をする。

 逃げたく……ない。

 ***

 わたしには幼なじみがいた。
 その子の名前は山下龍也。1つ上の男の子だ。
 その子はサッカーが大好き。そしてわたしもサッカーが好き。その共通点で、近所に住んでたその子とわたしはすぐに仲良くなった。もちろん体の弱いわたしにサッカーをすることは叶わないけど、その子がサッカーをしている姿を見るだけで楽しかった。

 それに、その子はわたしの髪については何も言わなかった。わたしが一緒にサッカーをせず、ただ見ているだけなことについても何も言わなかった。
 わたしにとって、その子は信頼できる親友だった。

 両親の話を聞いてしまった日も龍也くんと遊ぶ約束があった。
 わたしは日傘を差し、サングラスを付け、龍也くんに会いに行った。
 悲しい気持ちだった。誰かに気持ちを吐き出したかった。

 龍也くんに会った。
 親友の龍也くんに……わたしは何も言えなかった。

 わたしは平静を装った。
 震える声を隠すのは得意だ。少し涙が出かけたけど、サングラスをしていたのでバレなかった。

 怖かったのだ。期待通りの答えが返ってこなかったら。龍也くんまで酷いことを言ってきたら。
 弱いわたしは、人を信じることができなかった。

 暗い気持ちを抱えたまま月日は流れ、そして事件は起こった。
 ある日の学校の授業、授業内容は将来の夢。
 わたしは"巫女"と書いた。色々とあったけど、他にやりたいことはほとんど無かったから。あるとしたら……いや、それは体の弱いわたしには難しい。

 そんなとき、ある言葉がわたしに伝えられる。

 「未来~、お前巫女になりたいのか~。
 でもさ、巫女の服って白いよな? 白い髪のお前が巫女になったら、真っ白じゃん! お化けだ! あはははははは」

 「こらこら、そんなこと言ったらいけません」

 「だって、真っ白だよ? お化けにしか見えないって~」

 「お化けって~」
 「真っ白……確かにお化けっぽいかも……!」
 「頭に頭巾付けたらそうにしか見えないかも~」

 「こらっ! でも……ふふっ、確かに」

 お化けの話題で盛り上がる教室。

 わたしは、許容限界を超えてしまった。

 全てが嫌になった。
 わたしは教室を飛び出した。学校を飛び出した。

 行くあてもない。家には帰れない。なぜこんな時間に荷物も持たずに帰ってきたのか理由が言えない。

 わたしが悪いんだ。
 先生は彼らを強くは叱らない。なだめる程度。でもそれはわたしが何も相談しないから。
 クラスメイトも同じ。わたしがどれほど嫌がっているのか誰もわからない。

 無我夢中に走っていると、人にぶつかってしまった。
 目がぼやけて誰かわからない。
 「すみません」
 軽く謝り、走り去ろうとすると……

 「未来?」

 「……え?」

 そこにいたのは、わたしの親友の龍也くんだった。
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