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第三章 謎と試練
58 信じる勇気
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「……龍也くん?」
「やっぱり未来だ。
どうしたこんな時間に。学校じゃないのか?」
走り去ろうとするわたしに後ろから話しかけてくる龍也くん。
「りゅ、龍也くんこそ学校じゃないの?」
「あー、いやさ、昨日サッカーの大事な試合があって、母さんと2人で夜遅くのその試合観てたんだ。
そのせいで今日は2人揃って思いっきり寝坊しちゃってさ、今こうしてゆったりと登校中」
あははと笑いながらわたしに近づいてくる龍也くん。
今日あった悲しいことを話したい。しかし話せない。こんなときですら、わたしは人を信じる勇気を持てない。
「なあ未来、大丈夫か?」
気づいたら龍也くんはわたしの目の前にいた。
「え、べ、別に大丈夫だよ。今日はわたしの学校創立記念日で休みなんだ、それだけ」
適当な嘘。だけど学校の違う龍也くんなら黙せるかも。
声の震えはいつも通り隠せてる。
とりあえず今は1人になって……
「いや、嘘だろ。
だって未来、泣いてんじゃん」
「え……」
なんで? サングラスで目は見えないはずじゃ……あ。
そっか、教室から走って出てきたからサングラスも付けてなかったのか。
それにさっきから気になっていた目のぼやけ。これは日光による症状だけじゃなくて涙のせいでもあったのか。
あーあ、バレちゃった。
どうしよう。どうやって誤魔化そう。
この期に及んでまだ人を信じられない自分が嫌になる。
でも……言えない。
「あのね、実はわたし……目が弱くてね。サングラスが無いと正常に機能しなくて、その、涙が出ちゃうんだ。
だから、えっと、サングラス取りに家に帰ろうとしてる途中なの、ごめんね」
そう言ってこの場を離れようとするも、龍也くんはそんなわたしを止めに入る。
「そうか、じゃあ、あそこの日陰に行かないか?
日陰なら症状も出ないだろ?」
「え、で、でも、やっぱりサングラス欲しいし……い、家に帰るね!」
何とか逃げようとするも、龍也くんには通じない。わたしの腕を掴み、動きを封じてくる。
「いーや、行かせはしない」
「なんで! 離してよ!」
「離さねえよ!
未来が色々隠してるのはわかってる。俺は詳しい事情なんか何も知らないけどよお……そんな顔した親友を黙って行かせるわけないだろ……!」
「……ッ!」
心のこもった言葉。そして、わたしを心の底から心配してくれているその真剣な目。
疑う余地もない。
彼は信用できる人だ。
そうだ。わたしが本当に欲していたのは、人を信じる勇気を出すきっかけ。それはまさにこの瞬間。
自分をさらけ出すのは怖い。でも、今こそ一歩踏み出すときだ。
わたしは龍也くんに全てを話した。
***
「ふーん」
「えっと……それだけ?」
「うん、だって、大したことないじゃん」
「…………」
大したことない、か。やっぱり普通の人からしたらこんな悩み大したことないんだよね。わたしが弱いから……。
「い、いや違うからな!? 大したことないっていうのは、悩みがしょぼいとかそういうことじゃなくて、簡単に解決できるってことだって!」
「簡単に……?」
「そうだよ。
つまり俺が、お前に色々言ってくるやつをぶん殴ってこう言えばいいんだろ? 悪く言うなよ、綺麗な髪じゃん、って」
「きれ、い?」
「ん? そうだよ? 綺麗じゃん、真っ白で。
センス無いなぁ、お前のクラスは。巫女服を着た未来のことをお化けだなんて。
俺なら……妖精かな。白い妖精、神社にいたら凄く縁起良さそうだよな!」
「ふふっ、その例えもよくわからないよ~」
「え!? そうか!?
いいと思うけどなぁ、白い妖精」
「どうかな~……痛っ」
楽しく話していたのに、突如として現実に引き戻される。
さっきまで日陰だったこの場所は、時間の経過によって日が差す場所になっていた。
わたしの肌は悲鳴を上げている。
「え、どうし……あ、日光! そっか、影の位置は変わるんだった。
ごめん、気が利かなくて、とりあえずこっちの日陰に行こう。大丈夫か? 頑張れ」
必死な顔でわたしを日陰まで連れて行ってくれる龍也くん。
嬉しかった。
でも、それと同時にまた辛い気持ちが生まれてくる。
わたしの弱い体じゃ、そんな妖精にもなれないのかな……。
「そんな悲しい顔するなって。なんの病気か知らないけどさ、きっと治るって。
努力すればできないことはない! と俺は思ってる!」
励ましてくれている。
でも、ダメなんだ。
この病気は治ることはない。
一生付き合っていかないといけないんだ。
白い髪が好きになれたとしても、弱い肌や弱い目を好きになれるとは思えない。もちろん、夢を阻むこの弱い体も……。
「それは無理かな……」
「そんなことないって!
その病気は治らないのか? それは医者が言ったのか?
じゃあ今はそうなのかもしれない。
でも、これからは違うかもしれない!
今後新たな治療法が出てくるかもしれない!
諦めるには早いと思う!
俺が、未来のためならなんでもサポートするからさ!
だから、諦めないでくれ!」
さっきと同じ必死な顔。真剣な目。わたしのことを本気で思ってくれている。
ありがとう。その気持ちだけでわたしは嬉しい。
……あれ?
さっきと同じ顔? 同じ目? さっき? さっきわたしがいたのって……あれ? あんな日光直当たりの場所で、龍也くんの顔が見えるはずがない。わたしの目はすぐにぼやけてしまう。
でも確実に覚えている。
確かにわたしは龍也くんの必死な顔を、真剣な目を見た。
もしかして……
わたしな陰から出て周囲を見回す。
「お、おい、そっちに行って大丈夫なのか!?」
「…………」
「未来……?」
「見える!!!」
「わっ、ど、どうした?」
不思議そうな顔でわたしを見つめる龍也くん。
うん、そんな顔もしっかり見えている。
なんで? この病気は治らないと言われた。でも治ってる、確かにしっかりはっきり見えている。
理由はわからない。でもそんなことはどうでもいい。
諦めなければなんとかなる。
そう思わせてくれたことが嬉しかった!
「龍也くん、わたし諦めない。
絶対この病気を治してみせる!」
「……おう! 応援してるぜ!」
「それでね」
「ん?」
「わたしの夢、巫女以外にもう1つあるんだ」
これは誰にも話したことの無いわたしの大事な夢。
「そうなのか? 聞いていいか?」
「うん、わたしのもう1つの夢は……サッカーのマネージャー!
大好きなサッカーを、そんなサッカーをプレーする選手たちをサポートしたい!」
今までは体のせいで夢見ることすらできなかった夢。今、初めて口に出せた!
「そうか! きぐうだな、俺の夢はサッカー選手。ほとんど同じだな!」
「うんっ、だから、一緒に叶えよう。
いつか、日本代表として一緒に戦おうよ!」
「おう! 約束な!」
***
その後、龍也くんの助けもあって、わたしに対するクラスメイトからのいじめは無くなった。
何故わたしの目は回復したのか、今は理由はわかっている。
それは、わたしがニューグレ世代だから。今までなら治らなかった病気が治ってもおかしくはない。
しかし、当時はまだニューグレ世代についてあまり理解されておらず、原因はわからないままだった。
でもそれは悪いことじゃない。
理由なんてなんでもよかったからだ。
治らないと思った病気が治った。
この経験はわたしに勇気と力をくれた。
そこからの日々は努力の日々。
体力をつけるため、日の沈んだ夜に走り込みをしたり、巫女とサッカー両方の勉強を続けたりと、わたしは様々な努力を続けた。
その結果、今は肌の痛みも消え、体力も人並みにまで戻っている。
この美しい白い髪はわたしのチャームポイントだ。
そして、あのときの約束通り、龍也くんと一緒に日本代表に選ばれ、今では日本という枠組みを超えて世界の代表にまでなっちゃった。
本当に、ありがとう。
だから、今度はわたしが助ける番。
***
「未来……」
「あのとき、いじめられてて、それを相談することすらできなかった弱いわたし。そんなわたしを変えてくれたのが龍也くん。
龍也くんはわたしに人を信じる勇気をくれた。
だから、今度はわたしの番!
龍也くん、わたしを信じて! わたしは何があっても龍也くんの味方だから! 辛いことは全部話してほしい!
お願い! わたしを信じて……!」
「…………」
今話すことが正解なのかはわからない。しかし、今話さないことが正解なのかもわからない。今話さなかったら、このままモヤモヤした気持ちを抱えたまま過ごすことになるのかもしれない。逆に今話すことによってモヤモヤが大きくなるのかもしれない。
こんなことは考えたってわからない。
だがそれでも1つ、確かにわかることがある。
それは、未来が本当に俺のことを思ってくれているのだということ。
モヤモヤがなんだ、2人で乗り越えていけばいい。
俺は未来を信じる。
「龍也くん……?」
「さっきの話聞いてな、思ったんだ」
「……!
うん」
「父さんは、多分もう死んでる」
「……うん」
「そりゃそうだ。そのスパイが欲したのは俺の兄弟とトメさんの2人。
父さんは要らない存在だ。生かしておく理由も無いだろう」
「……うん」
「もう未練は断ち切ったと思ってたんだけどな。
それでも奇跡的に手がかりを得、そしてすぐに失った。
……悲しいな」
「……うん」
「……父さん。
父さん……もう一度、会いたかった……。
うぅ、うわああああああああ」
「うん、うん。
泣いていいよ今は。わたしが受け止めるから」
俺は泣いた。
未来に支えられながら。全ての感情を吐き出すように。
***
「……もう出し切った?」
「……ん。
ありがとう、未来」
「うううん、これくらいなら全然頼ってくれて大丈夫だよ!
なんならあと1時間くらい泣いとく?」
「はは。いや、もう大丈夫だ」
「だよね、そんな目してる。
で、龍也くんならもう何をするべきかわかってるんだよね?」
「ああ。
俺は攫われた兄弟を助ける!
やつの目的だ、今も生きている可能性は充分にある!
ゼラをぶっ倒したら、そいつも連れて地球に戻るぞ!」
「ふふ。宇宙を救うって目標に、また1つ追加されたねっ!」
「さらに難しくなったな。でも――」
「諦めなければなんとかなる! だよねっ」
「よくわかってるじゃん!
さあ、宿舎に戻るぞ! 次の試合に向けて、特訓だ!」
「おおーっ!」
「やっぱり未来だ。
どうしたこんな時間に。学校じゃないのか?」
走り去ろうとするわたしに後ろから話しかけてくる龍也くん。
「りゅ、龍也くんこそ学校じゃないの?」
「あー、いやさ、昨日サッカーの大事な試合があって、母さんと2人で夜遅くのその試合観てたんだ。
そのせいで今日は2人揃って思いっきり寝坊しちゃってさ、今こうしてゆったりと登校中」
あははと笑いながらわたしに近づいてくる龍也くん。
今日あった悲しいことを話したい。しかし話せない。こんなときですら、わたしは人を信じる勇気を持てない。
「なあ未来、大丈夫か?」
気づいたら龍也くんはわたしの目の前にいた。
「え、べ、別に大丈夫だよ。今日はわたしの学校創立記念日で休みなんだ、それだけ」
適当な嘘。だけど学校の違う龍也くんなら黙せるかも。
声の震えはいつも通り隠せてる。
とりあえず今は1人になって……
「いや、嘘だろ。
だって未来、泣いてんじゃん」
「え……」
なんで? サングラスで目は見えないはずじゃ……あ。
そっか、教室から走って出てきたからサングラスも付けてなかったのか。
それにさっきから気になっていた目のぼやけ。これは日光による症状だけじゃなくて涙のせいでもあったのか。
あーあ、バレちゃった。
どうしよう。どうやって誤魔化そう。
この期に及んでまだ人を信じられない自分が嫌になる。
でも……言えない。
「あのね、実はわたし……目が弱くてね。サングラスが無いと正常に機能しなくて、その、涙が出ちゃうんだ。
だから、えっと、サングラス取りに家に帰ろうとしてる途中なの、ごめんね」
そう言ってこの場を離れようとするも、龍也くんはそんなわたしを止めに入る。
「そうか、じゃあ、あそこの日陰に行かないか?
日陰なら症状も出ないだろ?」
「え、で、でも、やっぱりサングラス欲しいし……い、家に帰るね!」
何とか逃げようとするも、龍也くんには通じない。わたしの腕を掴み、動きを封じてくる。
「いーや、行かせはしない」
「なんで! 離してよ!」
「離さねえよ!
未来が色々隠してるのはわかってる。俺は詳しい事情なんか何も知らないけどよお……そんな顔した親友を黙って行かせるわけないだろ……!」
「……ッ!」
心のこもった言葉。そして、わたしを心の底から心配してくれているその真剣な目。
疑う余地もない。
彼は信用できる人だ。
そうだ。わたしが本当に欲していたのは、人を信じる勇気を出すきっかけ。それはまさにこの瞬間。
自分をさらけ出すのは怖い。でも、今こそ一歩踏み出すときだ。
わたしは龍也くんに全てを話した。
***
「ふーん」
「えっと……それだけ?」
「うん、だって、大したことないじゃん」
「…………」
大したことない、か。やっぱり普通の人からしたらこんな悩み大したことないんだよね。わたしが弱いから……。
「い、いや違うからな!? 大したことないっていうのは、悩みがしょぼいとかそういうことじゃなくて、簡単に解決できるってことだって!」
「簡単に……?」
「そうだよ。
つまり俺が、お前に色々言ってくるやつをぶん殴ってこう言えばいいんだろ? 悪く言うなよ、綺麗な髪じゃん、って」
「きれ、い?」
「ん? そうだよ? 綺麗じゃん、真っ白で。
センス無いなぁ、お前のクラスは。巫女服を着た未来のことをお化けだなんて。
俺なら……妖精かな。白い妖精、神社にいたら凄く縁起良さそうだよな!」
「ふふっ、その例えもよくわからないよ~」
「え!? そうか!?
いいと思うけどなぁ、白い妖精」
「どうかな~……痛っ」
楽しく話していたのに、突如として現実に引き戻される。
さっきまで日陰だったこの場所は、時間の経過によって日が差す場所になっていた。
わたしの肌は悲鳴を上げている。
「え、どうし……あ、日光! そっか、影の位置は変わるんだった。
ごめん、気が利かなくて、とりあえずこっちの日陰に行こう。大丈夫か? 頑張れ」
必死な顔でわたしを日陰まで連れて行ってくれる龍也くん。
嬉しかった。
でも、それと同時にまた辛い気持ちが生まれてくる。
わたしの弱い体じゃ、そんな妖精にもなれないのかな……。
「そんな悲しい顔するなって。なんの病気か知らないけどさ、きっと治るって。
努力すればできないことはない! と俺は思ってる!」
励ましてくれている。
でも、ダメなんだ。
この病気は治ることはない。
一生付き合っていかないといけないんだ。
白い髪が好きになれたとしても、弱い肌や弱い目を好きになれるとは思えない。もちろん、夢を阻むこの弱い体も……。
「それは無理かな……」
「そんなことないって!
その病気は治らないのか? それは医者が言ったのか?
じゃあ今はそうなのかもしれない。
でも、これからは違うかもしれない!
今後新たな治療法が出てくるかもしれない!
諦めるには早いと思う!
俺が、未来のためならなんでもサポートするからさ!
だから、諦めないでくれ!」
さっきと同じ必死な顔。真剣な目。わたしのことを本気で思ってくれている。
ありがとう。その気持ちだけでわたしは嬉しい。
……あれ?
さっきと同じ顔? 同じ目? さっき? さっきわたしがいたのって……あれ? あんな日光直当たりの場所で、龍也くんの顔が見えるはずがない。わたしの目はすぐにぼやけてしまう。
でも確実に覚えている。
確かにわたしは龍也くんの必死な顔を、真剣な目を見た。
もしかして……
わたしな陰から出て周囲を見回す。
「お、おい、そっちに行って大丈夫なのか!?」
「…………」
「未来……?」
「見える!!!」
「わっ、ど、どうした?」
不思議そうな顔でわたしを見つめる龍也くん。
うん、そんな顔もしっかり見えている。
なんで? この病気は治らないと言われた。でも治ってる、確かにしっかりはっきり見えている。
理由はわからない。でもそんなことはどうでもいい。
諦めなければなんとかなる。
そう思わせてくれたことが嬉しかった!
「龍也くん、わたし諦めない。
絶対この病気を治してみせる!」
「……おう! 応援してるぜ!」
「それでね」
「ん?」
「わたしの夢、巫女以外にもう1つあるんだ」
これは誰にも話したことの無いわたしの大事な夢。
「そうなのか? 聞いていいか?」
「うん、わたしのもう1つの夢は……サッカーのマネージャー!
大好きなサッカーを、そんなサッカーをプレーする選手たちをサポートしたい!」
今までは体のせいで夢見ることすらできなかった夢。今、初めて口に出せた!
「そうか! きぐうだな、俺の夢はサッカー選手。ほとんど同じだな!」
「うんっ、だから、一緒に叶えよう。
いつか、日本代表として一緒に戦おうよ!」
「おう! 約束な!」
***
その後、龍也くんの助けもあって、わたしに対するクラスメイトからのいじめは無くなった。
何故わたしの目は回復したのか、今は理由はわかっている。
それは、わたしがニューグレ世代だから。今までなら治らなかった病気が治ってもおかしくはない。
しかし、当時はまだニューグレ世代についてあまり理解されておらず、原因はわからないままだった。
でもそれは悪いことじゃない。
理由なんてなんでもよかったからだ。
治らないと思った病気が治った。
この経験はわたしに勇気と力をくれた。
そこからの日々は努力の日々。
体力をつけるため、日の沈んだ夜に走り込みをしたり、巫女とサッカー両方の勉強を続けたりと、わたしは様々な努力を続けた。
その結果、今は肌の痛みも消え、体力も人並みにまで戻っている。
この美しい白い髪はわたしのチャームポイントだ。
そして、あのときの約束通り、龍也くんと一緒に日本代表に選ばれ、今では日本という枠組みを超えて世界の代表にまでなっちゃった。
本当に、ありがとう。
だから、今度はわたしが助ける番。
***
「未来……」
「あのとき、いじめられてて、それを相談することすらできなかった弱いわたし。そんなわたしを変えてくれたのが龍也くん。
龍也くんはわたしに人を信じる勇気をくれた。
だから、今度はわたしの番!
龍也くん、わたしを信じて! わたしは何があっても龍也くんの味方だから! 辛いことは全部話してほしい!
お願い! わたしを信じて……!」
「…………」
今話すことが正解なのかはわからない。しかし、今話さないことが正解なのかもわからない。今話さなかったら、このままモヤモヤした気持ちを抱えたまま過ごすことになるのかもしれない。逆に今話すことによってモヤモヤが大きくなるのかもしれない。
こんなことは考えたってわからない。
だがそれでも1つ、確かにわかることがある。
それは、未来が本当に俺のことを思ってくれているのだということ。
モヤモヤがなんだ、2人で乗り越えていけばいい。
俺は未来を信じる。
「龍也くん……?」
「さっきの話聞いてな、思ったんだ」
「……!
うん」
「父さんは、多分もう死んでる」
「……うん」
「そりゃそうだ。そのスパイが欲したのは俺の兄弟とトメさんの2人。
父さんは要らない存在だ。生かしておく理由も無いだろう」
「……うん」
「もう未練は断ち切ったと思ってたんだけどな。
それでも奇跡的に手がかりを得、そしてすぐに失った。
……悲しいな」
「……うん」
「……父さん。
父さん……もう一度、会いたかった……。
うぅ、うわああああああああ」
「うん、うん。
泣いていいよ今は。わたしが受け止めるから」
俺は泣いた。
未来に支えられながら。全ての感情を吐き出すように。
***
「……もう出し切った?」
「……ん。
ありがとう、未来」
「うううん、これくらいなら全然頼ってくれて大丈夫だよ!
なんならあと1時間くらい泣いとく?」
「はは。いや、もう大丈夫だ」
「だよね、そんな目してる。
で、龍也くんならもう何をするべきかわかってるんだよね?」
「ああ。
俺は攫われた兄弟を助ける!
やつの目的だ、今も生きている可能性は充分にある!
ゼラをぶっ倒したら、そいつも連れて地球に戻るぞ!」
「ふふ。宇宙を救うって目標に、また1つ追加されたねっ!」
「さらに難しくなったな。でも――」
「諦めなければなんとかなる! だよねっ」
「よくわかってるじゃん!
さあ、宿舎に戻るぞ! 次の試合に向けて、特訓だ!」
「おおーっ!」
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