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第三章 謎と試練
67 仕掛けは様々
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「クソっ! また先制点を取られちまった!」
焦る俺たちグロリアンズ。しかし、今優先すべきことは他にある。
「ヘンディ!」
「ああ、龍也。悪ぃ、点を許しちまった」
「大丈夫だ! まだ試合は始まったばかり、他のみんなもこの状況に対応できていないんだ。気にすんな!」
「そっスよ!
ていうか、今のはすっ転んだ俺が100パーセント悪いっス。謝るなら俺の方っスよ」
「龍也……ザシャ……。
そうだな……大丈夫だ。みんな! 次は止める! だから安心してくれ!」
ヘンディは今のところ大丈夫そうだ。
しかし、問題はこれだけじゃない。
フロージアのスピードと滑る地面。どうしたものか……
「龍也」
「どうした? クレ」
「俺に考えがある」
***
「ナイスシュートでしたわ、ヒュウさん」
「いやあ、どうですかねえ。
シュートコースはあのキーパーに完璧に読まれてましたし、普通のフィールドだったら確実に取られてましたよ。優秀なキーパーだと思いました」
「そんな仮定は無意味です。
今回の試合は氷のフィールドだというのが絶対の事実。滑りやすい氷により踏み込みが難しい以上、彼の反応速度では確実にシュートを止められません」
「ですねぇ。
ま、とはいえ甘いコースに打てば止められる可能性はあるんで、毎回しっかり気合い入れなきゃっすね」
「大丈夫ですよ。君のシュートのコントロール力はチーム一です。自信を持って蹴ってください」
「はい!」
「……アマトさんに褒められて羨ましいですわ……」
「フリア、君のパスも凄く良かったですよ」
「! と、当然ですわ!」
「みなさん。この調子なら問題はありません。予定通り、大量得点での勝利を目指しましょう!」
***
オグレスボールで試合再開。指示通り、すぐにクレにボールを渡す。
そして……
「あれ? どうされました? パスは出さないのですか?」
「ああ。少し遊んでみたくなった。
かかってこい」
クレはボールをキープしたままフロージアを挑発する。
「ふむ……。いいでしょう、フリア・ヒュウ・スー、3人で囲んでください。他の選手のことは忘れて構いません」
「「「了解」」」
3人の選手に囲まれるクレ、激しいディフェンスを受ける。しかし……
「なんですの!? この方の足さばきは」
3方向からのディフェンス全てに対応するクレ。足とボールが糸で繋がっているかのような正確なドリブルで、ボールを奪われる気配すらない。
「やはりな。
お前らはスピードが速い代わりに動きが少し大雑把になっている。そんな動きでは俺からボールは奪えない!」
フロージアの動きは確かに速く厄介だが、それを活かせない状況もある。それがこの状況、ディフェンスだ。
先程のようにパスカットをするならば話は別だが、そうでなくボールを保持しドリブルをしている選手からボールを奪うためには、自らが選手に寄り実力で奪い取る必要がある。
地面を滑って移動している分、足元での細かい動きは難しくなっている。
故に相手から実力でボールを奪うのは簡単ではない。
しかし、この戦法を使うためには高レベルのドリブル技術が必須。氷の上で満足に動けない俺たちに可能な技ではない。
つまり、この戦法が可能なのはクレただ1人だ。
「クレ! 1人でこれを続けるのは大変だぞ! いけるか!?」
「ずっと続けられるかはわからないが、今のところは問題ない。
とりあえず1点だ。その後のことは点を取ってから考えればいい」
こういうとき、やはりクレは頼りになる。
己一人のドリブルで、相手を何人も抜いていく。
「この滑る氷の上であのような圧倒的な個人技!
素晴らしい選手ですね、本当に素晴らしい。
……しかし、それだけでは僕たちには勝てません」
クレは一人でゴール前までボールを運ぶ。目の前にいるのは2人のディフェンダーとゴールキーパーだけだ。
「負け惜しみか?
勝負はまだわからないが、とりあえず1点は返してもらう」
「まあまあ、そう慌てないでください」
そう言うと、急ターンをし、アマトがクレに対して猛スピードで駆けていく。
「クレ! 後ろだ! もう一人来てるぞ!」
「問題ない。気づいている!」
背後からの奇襲もギリギリでかわすクレ。ただただ凄い個人技に見惚れるばかりだ。
しかし……
「油断しましたね」
「なにっ!?」
かわしたかのように見えたが、そう上手くはいかず、アマトの足がボールに触れクレの体勢が崩れかける。
「――――ッ!
なんだお前ら、その動きはどうした。今までとは少し違うようだが」
「別に、滑ることだけが僕たちのやり方とは言っていませんよ」
急に動きのキレを増したフロージアに手こずるクレ。
モタモタしているうちに、他のフロージアの選手もクレの近くに集まってくる。
これもフロージアの面倒な点。移動速度が速いせいで攻守の切り替えも速い。
少し時間をかけると、一度抜いた相手でもすぐにディフェンスまで戻ってくる。
この動きができるならフロージアのフォーメーションに中盤の選手が多い理由もよくわかる。攻守共に大人数で戦えるからな。
大勢に囲まれたクレ。苦し紛れにパスを出したが……
「もらった!」
またもボールを奪われてしまう。
こいつら、移動速度が速いこともそうだが、何よりサッカーが普通に上手い。
当然だが、ただ速度が速いだけではパスカットはできない。
どこにパスを出すか予測できて初めてパスカットが成功するのだ。
つまり、彼らはサッカーというスポーツの戦い方を理解している。だからこそここまでのパスカットを可能にしているのだ。
技術が少し足りていないことだけが救いだな……。
それに、あいつらの動き、まさか……
「おほほほほ、そちらのエース、ボールを奪われてしまいましたわね。
驚いていらっしゃいますか? 仕方がないのでこの私が説明して差し上げますわ」
聞いてもいないのにべらべらと……煽りたいのだろうか。だがここは好都合だ、話を聞かせてもらおう。
「別に驚いてねえよ。今のも偶然だろ」
「偶然ではありませんわ。
私たちのシューズ、こういった作りになってますの」
シューズの裏を見せてくる。
その構造は予想通り、裏にはスケートの刃みたいなものが埋め込まれている。これによりあれほどの滑らかな動きが可能にされていたのだ。
「そして、こうですわ」
フリアがある行動をとる。すると、底の刃が靴の中に引っ込んだ。
「なるほど……。これでスピードは速いが大雑把な動きと、スピードは出ないが小回りの利く動きとを使い分けているのか」
「その通りですわ! 彼の技術は相当ですけど、私たちが集まれば止めることは容易いですわ!
さあ、大人しく負けてくださいまし!」
***
「ちょっと! やばいわよ! このままじゃ負けちゃう! べ、別に負けても私は全然構わないけど……って嘘! 全然よくなーい! 負けるのはダメ!
どうするの監督さん!」
「ほっほ、どうもせんわい」
「へ? 何かないの? 作戦とか。凄い人なんでしょ??」
「なーんにも。勝つも負けるもそれが運命じゃ」
「ちょっ、監督としてそんな無責任でいいわけ!?」
「そこの女! これ以上監督に逆らうようなら容赦はしないぞ」
「ひっ、だ、だって……その……」
「ほっほ、全員、黙って見ておれい。
この試合、オグレスにとって大切な試合になるからのう」
焦る俺たちグロリアンズ。しかし、今優先すべきことは他にある。
「ヘンディ!」
「ああ、龍也。悪ぃ、点を許しちまった」
「大丈夫だ! まだ試合は始まったばかり、他のみんなもこの状況に対応できていないんだ。気にすんな!」
「そっスよ!
ていうか、今のはすっ転んだ俺が100パーセント悪いっス。謝るなら俺の方っスよ」
「龍也……ザシャ……。
そうだな……大丈夫だ。みんな! 次は止める! だから安心してくれ!」
ヘンディは今のところ大丈夫そうだ。
しかし、問題はこれだけじゃない。
フロージアのスピードと滑る地面。どうしたものか……
「龍也」
「どうした? クレ」
「俺に考えがある」
***
「ナイスシュートでしたわ、ヒュウさん」
「いやあ、どうですかねえ。
シュートコースはあのキーパーに完璧に読まれてましたし、普通のフィールドだったら確実に取られてましたよ。優秀なキーパーだと思いました」
「そんな仮定は無意味です。
今回の試合は氷のフィールドだというのが絶対の事実。滑りやすい氷により踏み込みが難しい以上、彼の反応速度では確実にシュートを止められません」
「ですねぇ。
ま、とはいえ甘いコースに打てば止められる可能性はあるんで、毎回しっかり気合い入れなきゃっすね」
「大丈夫ですよ。君のシュートのコントロール力はチーム一です。自信を持って蹴ってください」
「はい!」
「……アマトさんに褒められて羨ましいですわ……」
「フリア、君のパスも凄く良かったですよ」
「! と、当然ですわ!」
「みなさん。この調子なら問題はありません。予定通り、大量得点での勝利を目指しましょう!」
***
オグレスボールで試合再開。指示通り、すぐにクレにボールを渡す。
そして……
「あれ? どうされました? パスは出さないのですか?」
「ああ。少し遊んでみたくなった。
かかってこい」
クレはボールをキープしたままフロージアを挑発する。
「ふむ……。いいでしょう、フリア・ヒュウ・スー、3人で囲んでください。他の選手のことは忘れて構いません」
「「「了解」」」
3人の選手に囲まれるクレ、激しいディフェンスを受ける。しかし……
「なんですの!? この方の足さばきは」
3方向からのディフェンス全てに対応するクレ。足とボールが糸で繋がっているかのような正確なドリブルで、ボールを奪われる気配すらない。
「やはりな。
お前らはスピードが速い代わりに動きが少し大雑把になっている。そんな動きでは俺からボールは奪えない!」
フロージアの動きは確かに速く厄介だが、それを活かせない状況もある。それがこの状況、ディフェンスだ。
先程のようにパスカットをするならば話は別だが、そうでなくボールを保持しドリブルをしている選手からボールを奪うためには、自らが選手に寄り実力で奪い取る必要がある。
地面を滑って移動している分、足元での細かい動きは難しくなっている。
故に相手から実力でボールを奪うのは簡単ではない。
しかし、この戦法を使うためには高レベルのドリブル技術が必須。氷の上で満足に動けない俺たちに可能な技ではない。
つまり、この戦法が可能なのはクレただ1人だ。
「クレ! 1人でこれを続けるのは大変だぞ! いけるか!?」
「ずっと続けられるかはわからないが、今のところは問題ない。
とりあえず1点だ。その後のことは点を取ってから考えればいい」
こういうとき、やはりクレは頼りになる。
己一人のドリブルで、相手を何人も抜いていく。
「この滑る氷の上であのような圧倒的な個人技!
素晴らしい選手ですね、本当に素晴らしい。
……しかし、それだけでは僕たちには勝てません」
クレは一人でゴール前までボールを運ぶ。目の前にいるのは2人のディフェンダーとゴールキーパーだけだ。
「負け惜しみか?
勝負はまだわからないが、とりあえず1点は返してもらう」
「まあまあ、そう慌てないでください」
そう言うと、急ターンをし、アマトがクレに対して猛スピードで駆けていく。
「クレ! 後ろだ! もう一人来てるぞ!」
「問題ない。気づいている!」
背後からの奇襲もギリギリでかわすクレ。ただただ凄い個人技に見惚れるばかりだ。
しかし……
「油断しましたね」
「なにっ!?」
かわしたかのように見えたが、そう上手くはいかず、アマトの足がボールに触れクレの体勢が崩れかける。
「――――ッ!
なんだお前ら、その動きはどうした。今までとは少し違うようだが」
「別に、滑ることだけが僕たちのやり方とは言っていませんよ」
急に動きのキレを増したフロージアに手こずるクレ。
モタモタしているうちに、他のフロージアの選手もクレの近くに集まってくる。
これもフロージアの面倒な点。移動速度が速いせいで攻守の切り替えも速い。
少し時間をかけると、一度抜いた相手でもすぐにディフェンスまで戻ってくる。
この動きができるならフロージアのフォーメーションに中盤の選手が多い理由もよくわかる。攻守共に大人数で戦えるからな。
大勢に囲まれたクレ。苦し紛れにパスを出したが……
「もらった!」
またもボールを奪われてしまう。
こいつら、移動速度が速いこともそうだが、何よりサッカーが普通に上手い。
当然だが、ただ速度が速いだけではパスカットはできない。
どこにパスを出すか予測できて初めてパスカットが成功するのだ。
つまり、彼らはサッカーというスポーツの戦い方を理解している。だからこそここまでのパスカットを可能にしているのだ。
技術が少し足りていないことだけが救いだな……。
それに、あいつらの動き、まさか……
「おほほほほ、そちらのエース、ボールを奪われてしまいましたわね。
驚いていらっしゃいますか? 仕方がないのでこの私が説明して差し上げますわ」
聞いてもいないのにべらべらと……煽りたいのだろうか。だがここは好都合だ、話を聞かせてもらおう。
「別に驚いてねえよ。今のも偶然だろ」
「偶然ではありませんわ。
私たちのシューズ、こういった作りになってますの」
シューズの裏を見せてくる。
その構造は予想通り、裏にはスケートの刃みたいなものが埋め込まれている。これによりあれほどの滑らかな動きが可能にされていたのだ。
「そして、こうですわ」
フリアがある行動をとる。すると、底の刃が靴の中に引っ込んだ。
「なるほど……。これでスピードは速いが大雑把な動きと、スピードは出ないが小回りの利く動きとを使い分けているのか」
「その通りですわ! 彼の技術は相当ですけど、私たちが集まれば止めることは容易いですわ!
さあ、大人しく負けてくださいまし!」
***
「ちょっと! やばいわよ! このままじゃ負けちゃう! べ、別に負けても私は全然構わないけど……って嘘! 全然よくなーい! 負けるのはダメ!
どうするの監督さん!」
「ほっほ、どうもせんわい」
「へ? 何かないの? 作戦とか。凄い人なんでしょ??」
「なーんにも。勝つも負けるもそれが運命じゃ」
「ちょっ、監督としてそんな無責任でいいわけ!?」
「そこの女! これ以上監督に逆らうようなら容赦はしないぞ」
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