グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第三章 謎と試練

72 事故?

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 後半開始早々、追加点を決められてしまう。ここに来てフリアの動きが段違いに良くなるとは……。
 この1点はかなり痛い。ここから2点のビハインドを返すのは本当に難しいからな……。

 それに、点を決められたことによるヘンディのメンタルの悪化も大変だ。
 当然ヘンディに話しかけはしたが、完全に上の空。俺の言葉など届かずただただ呆然としていた。
 正直試合ができる状態だとは思えないが、監督は交代する気が無いらしい。何か考えがあるのだろうか……。

 絶望的な状況。だが諦めてもいられない。
 とりあえず作戦は変えずにいこう。2点ではフロージアも満足はしないはず。
 あとはキーパーにボールがいかないようディフェンスの頑張りを期待するのみ、か……。

 「ピィィィィィィィィィィィィ」

 後半10分、オグレスボールで試合が再開。
 作戦通り、クレにボールを預けて下がらせる。
 負けている状況で悠長な行動だが、仕方がない。あからさまな誘い込みだがフロージアも乗らないわけにはいかないだろう。

 フリアたちフォワードが動いた。予想通り。
 続いてミッドフィールダーたちも動く、よし、これで守りが薄くなる。上手くカウンターを決められれば……え。

 「甘いですね」

 俺の横を通り抜けたのはアマト。そしてディフェンス集団。
 まさかの、全員での攻めだと!?

 「やられた! 将人、ブラド、俺たちも下がるぞ。これ以上点はやれない!」

 焦って攻めてきたら。状況的にはこの通りなのだが流石にこれは想定外。
 確実に点を取る自信があるのか、それとも俺たちにカウンターされても追いつきディフェンスをできる自信があるのか。
 いや、違う。全員で攻めれば、俺たちもディフェンスをしに戻るという確信があったのだろう。そうなればカウンターを警戒する必要も無くなる。
 そして、彼らの思惑通り、俺たちはディフェンスをしに戻る羽目になる。
 クソっ、やられた。

 自陣では相手に囲まれるクレ。ドリブルで抜けようにも流石に数が多すぎるか、ここは一旦パスを出す。

 自陣でパスを回して何とか状況を打開しようとするも、スピードにはかなりの差。いずれ追いつかれパスカットされる。
 それなら……

 「こっちだ!」

 ボールを受け取る。前の方にいた俺にはマークが薄かったためスムーズにパスが通った。
 近くに敵はいない。しかし、ドリブルをしたところで追いつかれるのは必然。ならば……

 「おらっ!」

 「は!? どこ蹴ってんだよ龍也!?」

 チームメイトが驚くのも無理はない。
 俺は、相手コートの右奥へとボールを蹴りこんだ。
 当然、そんなところには味方はいない。
 俺の行動が予想できなかったのか、相手のキーパーもボールには追いつけず、ボールはラインを割りフィールドの外へ出た。

 「なんだ? ミスったのか?」

 ブラドにそう聞かれるも

 「いや違う、これでいいんだ。
 これで相手のスローインになる。これまでの経験からスローインの場合はスピードが活かせない分俺たちが有利だ。
 あの位置でボールを奪えたらかなりのチャンスになるしな」

 「なるほど。ボールを奪った後チンタラしてる暇は無えから、奪ったら即シュートだな」

 「そうだ。ここで確実に点を取るぞ!」

 そうして相手のスローイン。ボールを投げるのは……

 「は? あれってキーパーじゃねえか。いいんだっけか?」

 「……ああ。ルール上スローインは誰が投げても問題はない。
 しかし、キーパーが投げて相手に取られたときのリスクを考えたらほとんど選ばれない選択肢だが……」

 少し不安が残る。しかし、せっかくのチャンス。ここは退けない。

 どう投げるのか……相手キーパーを観察していると、突然後ろに下がり出す。
 これは……

 「マズい! みんな下がれ!」

 「うぉぉぉりゃああああぁぁぁぁぁ」

 俺の判断は少し遅かった。相手キーパーは助走をつけて滑り出し、そのままスピードの乗った超絶ロングスローを成功させる。

 投げられたボールは誰もいないエリア……フロージアだけが走って追いつけるエリアへと飛んでいき……

 「流石です、ペトさん。
 素晴らしいスローインでした。
 さあ、フリア! 絶対に決めてください!」

 アマトからフリアへとパスが渡る。
 ディフェンスも少ないこの状況でこれはかなりのピンチだ。

 「させません!」

 ラーラがディフェンスに入る。

 「おほほほ。アマトさんから愛のムチをいただいた、今の私は無敵ですわ!」

 「愛のムチって……ビンタじゃないですか。
 そんなもの貰って喜ぶなんて……わたしは全く理解できません! はっきり言って異常です!」

 「ふふっ、何を必死になって。わかりませんこと?
 "痛み"とは私の身体に直接刻まれる最大の愛の形。身体の芯まで響くその痛みが、私とアマトさんとの繋がりをこれでもかというほど感じさせてくれますの。
 ああ、なんて愛しい……」

 「だから全然……わかりませんっ!」

 「それがわからないようなあなたが、何度来ても結果は変わりませんのよ!」

 ラーラとフリアの激しい競り合いが行われる、そして……

 「あっ」

 善戦もむなしく抜かれてしまうラーラ。しかし

 「いや、よく粘った、ラーラ!」

 「!?」

 間一髪。急いで戻ったクレが間に合い、フリアからボールを奪うことに成功する。

 「みんな! このまま前に残れ! カウンターだ!」

 これは願ってもいない大チャンス。
 相手選手の大半がオフェンスに転じているため、ディフェンスの数も少ない。
 今のクレのスピードなら相手がディフェンスに戻ってくる前にゴールまで辿り着ける!

 焦ったのか、1人のディフェンスがクレに向かっていく。
 しかし、その程度のディフェンスでクレが止められないことは先程までのプレーから一目瞭然。
 よし! これなら……!

 ……いや、本当にそうだろうか。

 少し引っかかる。アマトは優秀な指揮官だ。こんな失敗するとわかっているプレーをさせるだろうか。今までのように先回りさせゴール前で待ち構える方が幾分か有効だ。
 当然、先走ったディフェンスが自発的に動いた可能性もある。
 しかし、もし、これがアマトの作戦だったら……。
 俺の頭に嫌な想像が走る。

 「ダメだクレ! パスを出せ!」

 「え?」

 「気づきましたか。しかし……遅いです」

 その瞬間、ドーンと大きな音を立てて、相手ディフェンスがクレに突っ込む姿が見えた。
 衝突した2人は、勢いのままスピードを落とすことなく、コート外へと吹き飛ばされた……

 「クレええええええええええええええ」
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