グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第四章 新たな一歩

92 力に翻弄される者たち

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 「はあ……はあ……」

 大破したロボットを眺めながら、今起こった出来事をブラドは整理する。

 「ったく、相変わらず動けねえや」

 力を発揮した後、以前と同じようにブラドは動くことができなかった。
 しかし、これを欠点とはもう捉えない。

 「未知の力……か。
 そりゃ、俺とあの野郎ヘンドリックの力が同じ仕組みである保証はねえよな」

 ゲームで例えるなら、ヘンドリックの力が少ないゲージを消費して低威力の技を出す力だとして、ブラドの力は全ゲージを消費して高威力の技を出す力。
 ブラドはそう結論付けた。
 それは、自分の力の威力――大破したロボットを見れば一目瞭然だ。

 だから、彼はもう焦らない。
 自分の役割はきちんと見定められている。
 そしてもう1つ、ブラドには気づいたことがある。

 「火事場の馬鹿力」

 以前、ブラドが力を発揮できなかったとき、周りに言われていたのがこれ、火事場の馬鹿力だ。
 あの時の発言をブラドは聞き流していたが、今回のことでこの発言を思い出していた。

 事実、ブラドが力を発揮した状況は、過去3回とも大ピンチ、まさに火事場の馬鹿力が発揮されてもおかしくない状況だ。

 これがそのまま答えだったのかもしれない。
 ブラドは自らの力の発動条件をそう確定させた。

 「ま、難しいことはなんでもいいか。
 要は俺様が、大ピンチにこそ力を発揮する最強の選手だってことだ!
 ガハハ、俺様がこのチームを最強へと導いてやるぜ! ガハハハハ!
 ……だから、早く帰ってこいや、ネイト」

 そうして、ブラドはしばらく眠りについた。

 ***

 「づがれだぁ」

 3日目の特訓を終え、宿舎へと戻ってきた。
 しかし、今日の特訓は昨日までと違い大きな成果は無かった。
 それもそのはず、だって……

 「何していいかわかんねえよ……」

 アランの言っていた通り、力を発揮するための特訓をしようとはしてみたものの、正直何から手をつけていいのかわからないのが現実だ。

 この力は未知の力だ。いくらオグレス星といえどもこの力については把握できていないらしく、特訓中に何かしらの指針が示されることすらなかった。

 昨日フィロさんから聞いた話によると、メラキュラとの試合までは1週間しかないらしい。
 既に3日経過しているため残りは4日。
 時間もない中で何をしていいのかすらわからないのは焦りに繋がる。

 とはいえ悩み続けていても仕方がない。ここは頭を切り替えよう。
 この間の特訓で気づいたクレの欠点。まずはこのことをクレに伝える。
 しかし現在は個人特訓期間故に顔を合わせるタイミングが無い。できる限り顔を合わせて話したい内容のため、メールは使いたくないのだ。

 時間を決めて会うのも考えたが、この特訓場は特訓相手が許可を出すまで出られないシステム。自由に会えるわけじゃない。

 まあ今日は早めに特訓が終わったんだ、食堂で待っていれば会えるだろう。
 そう思って食堂へと向かう。それに、他のみんなの特訓の様子も把握しておきたいしな。

 「あ、龍也先輩! お疲れ様っス~」

 声をかけてきたのはザシャ。隣には将人とファクタが座っていて、少し離れた場所に凛が座っていた。
 食堂にいたのはその4人だけだ。

 「ザシャ、それにファクタ……と将人、特訓の調子はどうだ?」

 「うるせえうるせえ、全然だよ悪かったな」
 「力くらいすぐに発揮してみせるし。だから調子に乗ーんーなー」

 「えぇ……。将人と……凛までなんだよその口調は。
 俺なんかしたか?」

 「べっつにー」

 いや、あからさまに当たり強いじゃん、俺に対して。
 なんて、いつものことか。大方上手く力を発揮できなくてイライラしてるんだろう。

 「あー、龍也先輩。それはでスね」

 「ちょ」
 「おいザシャ!」

 俺に対しザシャが何か言おうとした瞬間、凛と将人が焦った顔をしてザシャに襲いかかる。
 そしてそのままザシャを連れて食堂から出ていってしまった。一体何なのか全く分からない。

 「あはは、3人ともどうしたのかな」

 「相変わらずよくわからないやつらだな。
 で、ファクタ。特訓の調子はどんな感じだ?」

 「うーん、全然ダメだね。何から手をつけていいのかわからないよ。
 というか、僕も力を発揮できるのか不安なんだ」

 「まあ確かにな。これはそもそもアランの推測が元だ。何か力を使えるのが確定ってわけじゃないしな」

 「いや、そこじゃなくて……」

 「ん?」

 「ほら、その予言の子が生まれたのって地球の話だよね。
 僕ってオグレス星人だから、そもそも前提から違うんじゃないか、って」

 「あ……」

 完全に頭から抜けていた。そうだ。ファクタは地球人じゃない。
 アランの推測が正しかったとしても、力を発揮できる条件をファクタは満たしていないことになる。

 「そうだな、悪い。ちょっと思い至ってなかった」

 「いやいや、キャプテンが謝ることじゃないよ。
 そもそも僕が無理言ってチームに入れてもらったのが始まりだし」

 「うーん、でも力が使えないと決まったわけじ……いや、無責任なことは言えないな。
 とりあえずこのことについてはまたアランと話しておくよ。
 でもファクタ、お前のプレーはチームの力になっている。ギガデス戦はお前の力無しじゃ確実に勝てていなかった。
 だからもし力が使えなかったとしても気にしなくていいぞ」

 「うん……ありがとう。
 僕も――」
 「キャプテン、いる?」

 会話途中、急遽割り込んできたのは、ミア、そしてアリス。

 「あ、いたよ~。
 キャプテ~ン、今大丈夫~?」

 2人に呼ばれる、なんの用事だろう。
 ファクタも大丈夫だと言っているので、俺は彼女らの話を聞くことにする。

 「大丈夫だけど……何か用か?」

 「べ、別に、私がキャプテンに用があるわけじゃないんだからね!」

 「ミアちゃん、今はそういうのいいから。
 フィロさんがキャプテンに用事があるらしくて、それで呼んできてって。今来れる?」

 フィロさんからの用事か。おそらく大切なことだろう。
 いけると返事をし、2人に連れられフィロさんの元へと向かう。

 「よく来てくれたわね、龍也くん。
 いきなりだけど本題よ。
 未来ちゃんが、いなくなったの」

 「……え?」
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