グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第四章 新たな一歩

91 一人目の意地

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 「ガハハ、どうした下手くそ! 昨日までも下手くそだったが今日は更に下手くそじゃねえか。
 もう心が折れちまったか?」

 「あ? 黙ってろクソ」

 「吠えてろ吠えてろ。結局力を使えない時点でお前が惨めな負け犬だって事実は変わらねえんだからよう」

 「……チッ」

 アラン主催のミーティングの翌日。選手たちは各々特訓に取り組んでいた。
 ほとんどの選手が、前日までとは特訓内容を変更し、己の中に眠る力を目覚めさせようと必死になっている。

 しかし、この男――ブラドは違う。昨日までと同じ特訓に必死に取り組み続けていた。

 「……うおらああああああああああああ」

 「来いよ、吹き飛ばしてやるぜえええええええええ」

 その特訓方法は実にシンプル。力を再び発揮するため、ただひたすらに相手へとタックルを繰り返す。
 しかし……

 「ぐわあああっ」

 「ガハハ! またの勝ちだ!
 これで3日目だが、やはりお前程度じゃこれが限界みたいだなあ!」

 初日から2日目にかけては龍也と同じく特訓場から帰らず特訓を続けていたブラド。
 2日目の途中で力尽き、一度休息をとった後復帰した本日3日目。未だにあの力は発揮できないでいた。

 「ちくしょう……うっせえんだよてめぇボケコラ! 所詮ロボットだから力を発揮できてるだけだろタコ! イキってんじゃねえ」

 「あー? 3日間俺様に負け続けてるやつの言葉は何にも響かねえなあ。
 てかんなくだらねえ暴言吐いてる暇があったら俺様に当たってこいよ。もう体力切れか?」

 「……クソ。偽物如きが……」

 対象の人物を一番効率よく特訓させる、そのために必要な人物へとロボットが変身して行われるこの特訓。
 ブラドの特訓相手に相応しいと診断されたのは、ブラド自身だった。

 「ガハハ、その偽物にボコられ続けてるお前が何を喚いてやがる。
 来ないなら俺様からいかせてもらう……ぜっ!」

 「……イッ!?」

 ゴツン。と鈍い音が響きながら、2人が接触、ブラド(本物)が吹き飛ばされる。

 「軽い! 軽すぎるぜ!
 お前ほんとに俺様か? 情けねえなあ! 話にもならねえんだがあ!?」

 「……うっせ」

 罵声を浴びせられながら吹き飛ばされるブラド。その表情は苦いものだった。

 情けない。そんなことはブラド本人が一番わかっている。
 一番最初に力に目覚めた。
 本来なら自分がチームを引っ張っていくべきだ。

 それなのに、未だ力一つまともに扱えられない。
 己の力不足を嘆く中、新たな情報がブラドの耳に入る。

 それは、ネイトがいなくなったこと。
 幸い居場所は判明したらしいが、それでも少なからず衝撃はある。

 もう戻ってこないんじゃないか。
 その不安はブラドの動きを鈍らせる。

 「今日からは一段と激しくいくぜえ!
 付いてこられなくてお前が壊れようが俺様の知ったことじゃないからなあ!
 それもこれも弱っちいお前が全部悪ぃんだよ!」

 「ぐっ……がっ……」

 そんなブラドに激しさを増すロボブラドの動きに対応することは難しい。
 どんどんボロボロになっていくブラド。まだ頭の中はモヤモヤが晴れない。

 昨日、アランの話を聞いた後、ブラドはヘンドリックへと話しかけた。力に目覚めたもの同士、何か参考になるかと思ったからだ。

 この行動は今までのブラドなら決してしなかったであろう行動だ。他者を見下していたブラドにとって、人を頼るということは自分のプライドを傷つける行為に他ならなかったからだ。

 しかし、今のブラドは違う。自分のため、そして何よりチームのためを考え、必要ならば人を頼ることも厭わなくなった。これは紛れもない成長だ。

 だが、そこで耳にした言葉は、ブラドにとって辛い言葉。

 ***

 ー前日 ミーティング後ー

 「あー、力のことか。
 正直俺もまだどういう仕組みで発動するのかよくわかってないんだよな。
 集中したら、見える……ぐらいだ」

 「なるほど。てか、見えてる……んだな」

 「え? ああ、まあ、かなり集中して、ボヤっとって感じだけどな。
 ブラドはどんな感じなんだ?」

 「お、俺か。
 まあ、ぼちぼちだ。条件もよくわからんが、発揮できたり……できなかったりだ」

 「そうか。
 まあほんと未知の力だもんな。俺もまだ少し困惑してるし、よくわからなくて当然だ。
 焦らずいこうぜ!」

 「……おう」

 ***

 ー現在ー

 一番最初に力に目覚めたはずのブラド。
 だが、力を使いこなせているのは二番目に目覚めたはずのヘンドリックだ。

 ブラドの力は発動条件も不明。しかも一度発動したら体力が無くなり少しの間動けなくなる。

 出来の悪さは圧倒的に自分だと否が応にもわからされてしまっている。

 加えて、ヘンドリックに対して見栄を張って嘘をついてしまったことも、ブラドの中では悪い影響を及ぼしている。

 そんなブラドの心を見透かすかのように、ロボブラドは攻撃を続ける。

 「オラオラァ! どうした!
 昨日までも雑魚だったが、今日は昨日と比べても論外なくらい酷いじゃねえか!
 そんな使えねえお前だからネイトにも逃げられるんだろうよ!」

 「ああ!?」

 「あー? 何いきがってんだよ雑魚。
 それだけじゃねえぞ? みんな思ってるだろうなァ! 最初に力に目覚めたくせに役に立たねえな。ヘンドリックの方が有能だな。最初に力に目覚めたのが他のやつだったらよかったのにな……ってよお!」

 「……るせえ」

 「あん?」

 「うるせえつってんだよクソ野郎!
 言われなくてもんなこと俺が一番わかってんだよ!
 人に言われるのが一番腹立つ。殺す、ぶっ殺す。覚悟しろやゴラァ!」

 「はっ、いい加減口だけじゃないってとこ見せてくれんだろうなあ!」

 そう叫びながら、ロボブラドは今までで一番の力を発揮しブラドへと突撃する。
 モロに喰らったら、怪我をする可能性は高いだろう。

 しかしブラドは逃げない。
 ここまで言われてて逃げたら、それこそ本当に情けない人間になってしまう。この最後のプライドだけは絶対に折れてはいけない。
 自分に後がないことを自覚し、ブラドもまた相手へと突撃を始める。

 「「うおおおおおおおおおおおおおおお」」

 両者声を張り上げ衝突する。
 最初に後退したのは……ロボブラドだ。

 「な……」

 余裕のある表情から一転、驚愕の表情へと変化する。
 それもそのはず、吹き飛ばすつもりでぶつかった相手が1ミリたりとも動かないのだ。

 「お前……まさか」

 「ずいぶん調子に乗ってくれたなあおい」

 先程までとは反対に力のある表情をしているブラド。
 ニヤリと笑い最後の言葉を放つ。

 「いいなあ。
 俺様相手なら、どれだけ力を出しても気を使う心配がねえからなあ」

 更に力を増すブラド。その力はロボブラドに悪寒を走らせる。
 そして決着は一瞬だ。大きな衝撃波が起きた後、ロボブラドが大きく吹き飛ばされる。

 「ぶっ壊! れろ!」

 吹き飛ばされたロボブラドは壁に叩きつけられ、激しく大破する。そして、そのまま機能を停止した。

 「……っしゃオラァ!
 みたかこの野郎!
 俺様が……俺様が一番なんだああああああああああああああああ!」
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