グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

文字の大きさ
105 / 109
第四章 新たな一歩

105 対メラキュラ対策会議

しおりを挟む
 「まずこの星には大まかに2種類の生物がいます」

 「足の無い白い幽霊のようなもの。
 そして、その他比較的普通の人々ですか?」

 「正解よアランくん。
 まずは幽霊(仮)ついて話すわね。
 簡潔に言うわ。このホテルに来るまでの道中での情報、キューからの情報、そして独自に動いてもらってた一部銃士隊からの情報、この3点から推測するに、この星の幽霊(仮)に人を襲う習性はない。そもそも目には見えるけど、触れないもののようだわ」

 フィロさんからの話を聞き、良かったなど安堵した声が漏れ始まる。
 選手ではないとはいえ、星の生物に襲われたら問題だ。もし俺たちが襲われたとしたらメラキュラは失格になるだろう。
 だから襲われないだろうとは考えていた。しかし、襲えるけど襲わないのと、そもそも襲う気がないのとには天と地ほどの差がある。
 襲う気がないから襲われないと断言してくれるのは気持ち的に凄く余裕が生まれるな。

 「ちなみに、その確証はどこからですか?」

 「今回同行してくれた、オグレスでもトップクラスの生物学者のチェグリさん。彼の調査と実験によると、あの生物から実体のある生物の反応は得られなかったらしいから大丈夫よ。
 もちろん、視覚的な恐怖、そして聴覚的な恐怖は残るだろうけど、これで軽減はできたでしょ?」

 「はい。
 危害が加えられないというのなら、徹底的な無視で解決できますね。もっとも、その実現は簡単ではありませんが」

 「まあ多少気を取られるのは仕方がないわ。
 アウェイだもん、割り切りが肝心」

 なるほどな。例えるなら、この星の幽霊(仮)は、見た目が怖く、触ることのできない虫みたいなものか。近くに虫がいても、触れられないのなら気は散れども何かされるわけでもないし、無視でいいもんな。虫だけに。
 それに意外と試合が始まって集中すると気にならないのかもしれない。

 「次に幽霊(仮)以外の生物……実体のある生物に関して話すわ」

 息を呑む音が聞こえてくる。
 この生物には先程あったメラキュラのキャプテンオルロックの種族である吸血鬼も含まれる。
 実際に戦う相手なのだからここが一番重要だ。

 「だけどここは結構厄介だったわ。あなたたちも感じたでしょう。ここに来るまでの間、幽霊(仮)以外はオルロックさん以外誰もいなかった。
 外出禁止令でも出しているのかしら。情報を隠すことに必死のようね」

 外出禁止令か、ホームの優位性を100パーセント活かすためには必要なことだろう。
 当然だがメラキュラも対策してきている。前回負けて後がない状態なのは俺たちと同じだしな。

 「だから銃士隊からの情報だけだと厳しかったわね。でも私たちにはもう1つ、キューからの情報がある。
 詳しい方法は言えないけど、情報は入手してきたわ」

 すると突然、ヒルが大声で笑い始める。
 どうやらフィロさんの言葉の中に気になる点があったようだ。

 「ははっ、詳しい方法は言えないかよ。お前それ、犯罪近い方法って言ってるようなもんだろ。
 いいじゃねえか。今までの生ぬるいやり方にはいい加減辟易してたんだ。それくらいやってもらわねぇとこっちが困る」

 「ふふっ。その辺りの方法はあくまで秘密よ。私の口からは何も言わないわ」

 「はっ、いいね。続けてくれ」

 ……まあ詳しくは追求しないようにしよう。完全アウトなことはしていない……と信じる。

 「それでこの星の住民についてだけど、まあよくある階級制ね。この星はその階級が種族によって分かれていて、ヒエラルキーの頂点に位置するのが、吸血鬼ってわけ。
 吸血鬼は生物としての機能に優れているそうだから、運動神経はそこそこ高いでしょうね」

 「確か、この間のエクセラルとの試合はアウェイ戦で1-2で負けてたのですよね。
 フロージアの策略で一部選手が足に爆弾を抱えていたエクセラルは多かれ少なかれ弱体化していた。アウェイ戦とはいえ、そんなエクセラルに勝てていないのですから、やはりサッカーの実力は高くないと見るべきでしょう。
 当然、油断は禁物ですが」

 今回の大会、最初に登録した選手から交代できるのは1人だけとなっている。
 つまり、フロージアの罠によって満足に動けないため、選手全員を入れ替える、なんて真似はできないわけだ。

 実際のところ、ゴールキーパーのようにフロージアの発動条件を満たしづらい選手もいるため、エクセラルの選手のうち何人が罠にかかったのかは不透明だが、フロージアの目的を考慮すると、主力選手は全員が罠にかけられたと考えていいだろう。

 それに、同じくフロージアの罠にかかったクレは次のエクセラル戦には出場できないだろうと言われていた。つまり、凍傷が発症すると試合に出られないほど痛むようだ。
 一部の選手がそんな状態だと、満足に試合をすることなんて不可能だろう。
 そんなエクセラル相手に負けてるあたり、やはりメラキュラが強いとは思えないが……。

 「あの……」

 「? どうした、ラーラ」

 「多分……クレくんとエクセラルを重ねて考えてますよね……? 今」

 「ああ、そうだけど……」

 「それは違うみたいです。
 クレくんは怪我した箇所と同じ箇所の凍傷だから通常より重症になったそうです。
 それから逆算して考えると……」

 「エクセラルの弱体化は動きが鈍くなる程度よ。本来の実力の50パーセントといったところかしら。
 元の実力の高さや、全員が全員弱体化しているわけではないことを考慮したら、それでも並以上の実力は保持している。
 正直、1点差に抑えたメラキュラを褒めてもいいと思うわ」

 「なるほど……決してなめてはかかれない相手だということですね」

 以前話を聞いた時より、フロージアの特性についての理解が深まっている。
 恐らく、クレが被害にあったことで、フロージアの特性について研究することができたのか。まさに怪我の功名ってやつだな。

 「そう。だけどメラキュラについてわかったことはこれくらい。どんなサッカーをするのか、とかは全然わからなかったわ。
 一応明日の試合開始までは調べ続ける予定だけど、あまり期待しないでほしいわ。そう簡単に調べられるほど相手も馬鹿じゃないと思うから」

 「いえ、貴重な情報ありがとうございました」

 「それにしても吸血鬼っスかー。
 定番なのは十字架やニンニク、太陽の光っスよねぇ」

 「十字架は意味ないと思うな、ザシャ。
 俺、一応お守りとして十字架持ってきてて、時折オルロックに向けてたんだけど、全然気にしてる様子無かったぜ」

 「ヘンディさん、こそこそ何かしてると思ったらそんなことしてたんスか……。
 となると、太陽の光はここだと厳しいし……ニンニクでも食べまス?」

 「ほっほ、そんな迷信に頼るまでもないわい。
 わしはお前さんらなら勝てると信じておる。お前さんらが今考えるべきことは、最終戦のために得点を稼ぐこと。そして力を覚醒させることじゃ。
 安心せい、特訓を思い出すんじゃ。お前さんらなら、確実にやり遂げられる」

 ***

 アウラス監督の言葉で締めくくられたミーティングを終え、俺たちは全員で外へ出る。理由は簡単、少しでもこの星の不思議な生物に慣れておくためだ。
 少し前のフィロさんの言葉を思い返す。

 「メラキュラもホームの有利を最大限に活かしてくるはず。今考えられるホームの有利とはこの幽霊みたいな謎生物ね。
 この幽霊(仮)が試合会場にいないなんてことは考えられない。いや、最大限活用するなら……そうね、試合会場全体が幽霊(仮)によって埋め尽くされていたとしても不思議ではないわ。
 だから、今から明日の試合までの僅かな時間で、あなたたちには少しでも幽霊(仮)に慣れておいてほしいの」

 まあ、試合までの期間でやれる対策としては最良の手かな。姿だけではなく、声や動きなど少しでも理解しておくことは有意義だろう。

 そして夜、俺たちはホテルへと戻ってくる。
 幽霊(仮)に対しては……まあ大丈夫とは一億歩譲っても言えないが、最低限の最低限くらいは慣れられたはずだ。

 こうして明日の試合に向け、皆が体を休ませようと部屋に戻り始めた頃、俺はホテルの入口へと向かう。そろそろ戻ってくるであろうあの男に会うためだ。

 そして、フィロさんの予想通りの時間に戻ってきた、その男に俺は話しかける。

 「よおクレ。お疲れ様」

 「……龍也か」

 「ついに明日だな、試合。頑張ろう」

 足の怪我には触れず会話を続ける。クレから話を持ち出されない限り、俺から触れる必要はないだろう。

 「おう。そうだな。
 ……それだけか? てっきりミーティングの内容でも伝えに来てくれたのかと思ったのだが」

 「いや、これだけじゃない。だけど、ミーティングの内容でもない」

 「?」

 不思議そうな顔を浮かべるクレ。そんなクレに、俺は濁すことなく言葉をぶつける。

 「欠点だ」

 「……欠点?」

 「ああ。俺が特訓中に見つけたお前の欠点を伝えに来た」

 「そ、そうか。それは突然だな」

 「前から言いたかったんだけどな。どうしてもタイミングが合わなくて」

 「なるほど。なら試合前に聞けてよかった。
 教えてくれ。俺が強くなるために必要なことなら何でも知りたいんだ」

 予想通りの反応。今のクレなら積極的に聞きたがると思っていた。

 「ああ。お前の欠点。
 それは、仲間を信じていないことだ」

 「……仲間を……?
 どういうことだ? 俺は仲間を信じているつもりだが」

 「いや、厳密には……って、お前、大丈夫か?」

 「え?」

 「いや、だって。凄い汗だし……足も震えてて」

 「え」

 すると、バタンと音を立て。クレが倒れた。突然のこと。しかし、不思議と驚きはなかった。
 いつかこうなってしまうんじゃないか。
 そんな予感はしていたからだ。
 俺が会うタイミングが無いほど、ずっと練習をしていたんだしな……。

 ヒリラさんによると、重度の疲労。
 しかし、薬を飲めば明日の朝には回復しているそうだ。

 一安心。伝えきれなかったアドバイスは明日伝えればいいだろう。
 不安も残るが、できる限り心を落ち着かせ試合に望まなくてはならない。
 そう思いながら床につき、迎えた試合当日の朝。
 耳にした第一報は……

 「ネイトくんが……いなくなった」

 「……へ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ
ファンタジー
過労死したプラントエンジニアの俺が転生したのは、剣と魔法の世界のド貧乏な貴族の三男、リオ。石鹸すらない不衛生な環境、飢える家族と領民……。こんな絶望的な状況、やってられるか! 前世の知識を総動員し、俺は快適な生活とスローライフを目指して領地改革を開始する! 農業革命で食料問題を解決し、衛生革命で疫病を撲滅。石鹸、ガラス、醤油もどきで次々と生活レベルを向上させると、寂れた領地はみるみる豊かになっていった。 逃げてきた伯爵令嬢や森のエルフ、ワケありの元騎士など、頼れる仲間も集まり、順風満帆かと思いきや……その成功が、強欲な隣領や王都の貴族たちの目に留まってしまう。 これは、ただ快適に暮らしたかっただけの男が、やがて“近代化の父”と呼ばれるようになるまでの物語。

立花家へようこそ!

由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・―――― これは、内気な私が成長していく物語。 親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...