グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-

山中カエル

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第四章 新たな一歩

109 上位種

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 ー現在ー

 「ピィィィィィィィィィ!」

 試合開始を告げる笛が鳴り、オグレスボールでキックオフ。

 「クレ! ……って、はあ!? どこだよ!?」

 試合開始直後、クレートへとボールを下げようとした将人は、いきなり怒りの声を上げる。
 理由は明白。フィールド中に蔓延るゴストルによって、視界が確保しづらいから。

 ゴストルと選手の見た目はかなり違っていて、見分けること自体は可能だ。
 しかし、単純に邪魔なのだ。蹴ったボールはゴストルを通り抜けるためプレーの障害になるわけではないが、視覚的には遮られているため、選手と選手の間に存在されるとその奥が見えなくなってしまう。

 背後から相手が寄ってくる気配を感じる。しかし、位置がわからなくて将人はパスが出せない。

 「こっちだ!」

 「そこ……かっ!」

 クレートが声を張り上げる。その声を頼りに位置を予想、パスを出し、なんとかボールを繋げる。

 「クソっ。集中して、声を聞き分けだいたいの位置を把握すれば、そこからは目視でなんとか位置はわかる。……が、長い距離だと厳しさは増すし、何よりやりづれえ」

 「それだけじゃねえぞ。この化け物どもがウヨウヨいるせいで、相手の位置もわかりづれえ。
 だからドリブルも難しいしな……。
 それに……少し慣れたとはいえまだ怖ぇ」

 「うっせ! いい加減我慢しろ! 図体でけえくせにこんなんにビビってんじゃねえよ!」

 ブラドに対し叫ぶ将人。しかし、そういう彼もゴストルたちに何も感じないわけではない。
 事実、急に目の前に現れたときなどは驚き足を止めることもしばしばだ。

 「チッ、戸惑ってても始まらねえ!
 こっちだ!」

 周囲に相手がいないことを確認し、将人はボールを受け取るために声を張り上げる。
 クレートもそれを確認しパスを出すが……

 「頂戴します」

 「なっ!?」

 途中でボールを奪われてしまう。

 「私たちがいないか確認していたようですが、難しいですよね。
 何せこのゴストルの数。彼らの後ろに隠れられたら見つけるのも困難でしょう。
 残念ながら、あなたはフリーではありませんでした。ということです」

 「ごちゃごちゃうるせえよ……返せ!」

 奪われたボールを奪い返すため、オルロックへと突っ込む将人。
 特訓の成果もあり、相手へと寄るスピードも格段に上がっている。

 「速いっ!
 だが……」

 「は!? どこ行きやがった!?」

 突如姿を消すオルロック。将人は驚き周囲を見回すが、その姿を見つけることができない。

 「ここですここここ。こっちです」

 「あ!? どこだよ!」

 「だから、こっちだって」

 「あ!?!?」

 キョロキョロと首を振り相手の姿を懸命に探す将人。しかし、一向にその姿は見つからない。

 「将人……」

 そんな将人に声をかけるクレート。その顔は驚きに満ちていた。

 「どこだよ! わっかんねえよ!」

 「上だ……」

 「は? 上……? あ……」

 言われるまま上を見上げる将人。
 そんな彼の目に入ってきたのは、足でボールを抱え、優雅に空を飛ぶオルロックの姿だった。

 「あーもう我慢できねえわ。
 なあおい、キョロキョロキョロキョロと。左右探して、どうだ? 今どんな気分だ? 上は想像できなかったか???」

 「「「…………」」」

 想定外の光景に絶句するグロリアンズ。
 そんな彼らを嘲笑うかのように、残りのメラキュラ選手も飛び立つのだった。

 「ぶはは、見ろよこいつらの驚いた顔。驚きすぎて声すら出てねえぜ!」

 「ゴストル? そんな下等種族より、1番の敵はやっぱ最上位種である俺たちだよなあ!?」

 「整った顔、色気もある牙。そして何よりこの美しい漆黒の羽。
 やっぱり俺たちドラキュラこそがこの星を統べるに相応しい最高の種族だなぁ~~~~~~~~」

 「てかキャプテンー。あの敬語キャラはやめたのー? 敬語は賢そうで強そうって言ってたじゃんー」

 「いやいや、それは今も変わってないけどよお! こいつらのこんなまぬけな驚き顔見ててよお! 素出さないでいられねえだろうがよお!」

 「あはは! ま、それもそっか!
 てことで、まずは1点。おなしゃすっ!」

 「よしよーし! それじゃかるーく1点取ってくる……ぜっ!」

 そう答えると、オルロックはオグレスゴールに向かって進撃を始める。
 勿論、空を飛んだまま。

 「ちょ、ちょっと待ってくださいっス!
 空飛ばれたら俺たちボール奪えるわけないじゃないっスか!? 俺たちは飛べないんスよ!?」

 「審判!
 これはルール的に問題ないのでしょうか。試合が成立していないと思うのですが」

 この状況をどうにかしようと審判へと質問を投げかけるアラン。しかし、そんな彼にオルロックからの煽りの言葉が突き刺さる。

 「前回の試合が許されてるんだからいいに決まってんだろば~~~~~~~~~~~~か。
 飛ぶことすらできない劣等種族なてめえを呪いな!」

 「はい、その通りです。
 生物としての特性を活かしたに過ぎません。空を飛ぶ行為はルール的に何ら問題ないです。
 また、今更とはなりますが、ゴストルがフィールドを闊歩している件。こちらについても問題はないと判断しました。ボールに直接関与できないこと。そして、メラキュラ側もオグレス側と同じく視界を妨害されていること等、メラキュラ側の武器扱いになっていないこと。この2点から、フィールドにオブジェクトが設置されている、くらいの感覚です」

 「ナイス説明あざ~~~~~。
 でも視界の話言っちゃう? 一応隠してたのに~~~」

 「説明上必須な要素でしたので。
 以前も説明しましたが、このゴストルたちがあなた方に明確に与していると判断されれば、即反則とみなしますので、ご注意を」

 「わかってるって~~~。
 ま、俺たちとこいつらとの意思疎通は不可能だし、平等なオブジェクトとして試合終了まで動くだろうさ。
 あ、俺たちはお前らオグレス星人と違ってこいつらを怖いとは思わないがな。
 ていうかこんな下等生物が怖いとか……ぷっ」

 オルロックとの問答の通り、審判の答えは問題なし。
 そして打つ手も見当たらないまま、オルロックのゴール前までの侵入を許してしまう。

 「いやまだ終わったわけじゃない!
 どれだけ空を飛ぼうがゴールの位置は変わらない!
 俺がシュートを止める限り、お前たちに勝ちはない!」

 そんなヘンドリックの言葉が届いたのか、オルロックがゴール前で突如動きを止める。

 「なんだ……? まあいい、ボールを持っているのはお前だ!
 お前に! お前のボールにさえ注意を払いゴールを阻止すれば、試合はまだどうとでもなる! というわけだ!」

 こうしてオルロックとヘンドリックの睨み合いの時間が続く。
 先に動いたのは……オルロック。

 「俺さえ注意してればいい、か。
 残念ながら、違うんだなぁ~~~」

 その時、急にヘンドリックの視界が暗くなる。

 「うわっ!? なんだ!? ……ゴストルだあ!?」

 「ヘンディさん、シュート! 来てるっス!」

 「えっ、ちくしょっ……」

 ヘンドリックの目の前をゴストルが通ったその一瞬、その一瞬の隙を見逃さず、オルロックはシュートを放った。

 ゴストルに驚き一瞬出遅れたヘンドリック。その遅れは取り戻すことができず……

 「ゴーーーーール! っと、うぇいっ!」

 放たれたボールは、ゴールネットを揺らしたのだった。

 「ま~~~確かにシュートするときゃゴールを狙わなきゃいけねえが、俺たちはボールを奪われる危険なく待ち続けることができるからなぁ~~~~~。
 決まりやすいタイミングで打てるから、ま、余裕で決めれるぜ」

 前半8分。0-1。史上最高の絶望感とともに、試合は始まったのだった。
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