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第7話
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しっかりと躰を休めた翌日、二人は六時前に起きて準備をしマンションを出てバスに乗った。腰に締めた帯革に色々ぶら下げているのと銃を携行しているので、それらをコンシールドするために格好は出勤時と変わらずスーツにコート姿である。
意外に空いていた休日運行のバスで真城市駅に着くと特急電車に乗り換えた。
高谷市駅に到着すると、今度は駅前からシャトルバスに乗る。
「現在時、十時五分。いいペースだな、十時半には着けるぞ。禁煙ご苦労」
「もしかして園内は全面禁煙じゃないですよね?」
「喫煙コーナーはあるんだが、ただ『動物を救え』という名目で寄付を要求される」
「なるほど、厳しいですね」
笑いながら京哉はシャトルバスの車内を見回した。
「やっぱり家族連れが多いみたい。あとはカップルに学生の集団旅行でしょうか」
「外国人も結構いるようだな」
「それなのに貴方は目立ちますよね。顔も売れてるから仕方ないですけど」
京哉を暗殺から助けた一件で、当時の県警本部長が暗殺肯定派だったことから、霧島は独断で機捜を動かした責任を問われて減給に停職という厳しい懲戒処分を食らっていた。普通は懲戒を食らうと以降の昇任が不可能となるために誰もが依願退職するが、霧島は辞めなかった。懲戒より辞めなかった事実に皆が驚いたくらいだ。
辞めたら京哉と同じく『知りすぎた男』として何が身に降り掛かるか分からなかっただけでなく、自分はやましいことなどしていないという信念があったからだ。
というのは表向きの理由で、本当は自分の企んだ暗殺肯定派一斉検挙までの行程を内側から監視し、イレギュラーな要素が発生したら対処するためでもあった。
自らが企み動かした計画の中で、自分が懲戒を食らうことまでが計算済みだったのである。
そんな霧島も更に特別任務で『知る必要のないこと』を知り、『上』と渡り合えるまでに秘密を共有していて、懲戒を食らった事実は殆どなかったことにされている状態だ。キャリア同期の中でも警視正昇任トップとして霧島の名が囁かれている。
それはともかく懲戒の停職中に京哉と密会しているのを週刊誌にスクープされたのだ。辛うじて京哉は写真が不鮮明だったのと名前が伏せ字で助かったが『霧島カンパニー御曹司のお相手は男性だった!』なるキャプションで霧島の顔は一気に売れた。
そのあとも警察の記者会見や霧島カンパニー御曹司として何度もメディアを沸かせてきた霧島である。お蔭で国内の暴力団への潜入などの場合は非常に面倒なのだ。
「こちらは相手を知らんのに、相手はこちらを知っているのはフェアではないな」
などと愚痴を垂れながらも、本人は生まれた時から霧島カンパニーの社長の椅子とセットで見られ慣れてきたので、口ほどには気にしていない涼しい顔だ。却って京哉の方が衆目を集める霧島を自分だけが知る場所に閉じ込め鍵を掛けておきたくなる。
「貴方はたぶんメディア報道がなかったとしても目立ちますよ」
「そういうお前は自分が目立たないとでも思っているのか?」
言うなり霧島は京哉の伊達眼鏡を外させ、自分のスーツの胸ポケットに入れた。
「あっ、ちょ、返して下さい」
「だめだ。今日一日は夫たる私にその綺麗な顔を見せてくれ」
「綺麗な顔が見たいなら鏡でも見てればいいのに。ったく、仕方ないなあ、もう」
そんなやり取りをしているうちにシャトルバスはうねる山道をゆっくり上り始めていた。そうして『あと五分で到着』のアナウンスが入り、前方を見ると山間の土地が切り拓かれた高谷レジャーランドが一望できる場所に差し掛かっていた。
「うわあ、すごく良く見えるかも。ここから下って行くんですね」
「なかなかの劇場効果ではあるな」
坂を下ったシャトルバスはまもなく停止し他の乗客と共に霧島と京哉も降車した。右側に人が列を成したチケット売り場がある。二人も行列に並んだ。チケット売り場は十列ほどで客を受け入れていたため、思ったほど待たず五分ほどで入場券を手に入れる。
入り口で制服のお姉さんに半券をちぎって貰うと、いよいよ入場だ。
差し出された霧島の手を握って思い切り嬉しくなった京哉は、足取りも軽く歩き始める。楽しみで昨日はパソコン検索しレジャーランド内の主要施設はチェック済みだ。それに駅で手に入れたパンフレットにも電車内でじっくりと目を通していた。
だがここは何度も来たことのある霧島に任せる手である。
「何処に行きたいんだ?」
「遊園地はパスします。元気のあるうちに動物を見て、それから水族館ですね」
「メインの鳥は最後か?」
「アーヴィン君が見られる最終日で混み合っちゃうでしょうか?」
「何とでもなるだろうが、好きなものを最後に取っておくのはお前らしいな」
「忍さんは真っ先に食べるタイプですよね」
広い道は石畳で両側が芝生の丘になっていた。冬だというのに丘のふちには色鮮やかな花々が植えてある。その花壇沿いにカーブした道を歩いてゆくと、突然視界が開けた。シャトルバスから遠目に見えた光景が間近で望めて京哉は思わず立ち止まる。
楽しみにしていたパンフレットの案内図が巨大な3D配置図となって目前に展開されていた。
「わあ、広ーい。ずっと向こうが遊園地、左の大きいあれが淡水魚水族館ですね」
「動物園は左右に分かれているが、鳥類は左の奥になるな」
「右側、あそこの丘に羊が放してある、草食べてますよ。あっ、ウサギもいる」
スナイパーらしく京哉は抜群の視力を披露していたが、このままでは何処にも行かずに終わってしまう。そこで霧島は京哉の手を引っ張って右側の動物園エリアに向かった。
レジャーランド内にはあちこちに低額で利用可能な小さなオープンカーが停まっていたが、今のところ元気フルチャージの二人には不要である。
意外に空いていた休日運行のバスで真城市駅に着くと特急電車に乗り換えた。
高谷市駅に到着すると、今度は駅前からシャトルバスに乗る。
「現在時、十時五分。いいペースだな、十時半には着けるぞ。禁煙ご苦労」
「もしかして園内は全面禁煙じゃないですよね?」
「喫煙コーナーはあるんだが、ただ『動物を救え』という名目で寄付を要求される」
「なるほど、厳しいですね」
笑いながら京哉はシャトルバスの車内を見回した。
「やっぱり家族連れが多いみたい。あとはカップルに学生の集団旅行でしょうか」
「外国人も結構いるようだな」
「それなのに貴方は目立ちますよね。顔も売れてるから仕方ないですけど」
京哉を暗殺から助けた一件で、当時の県警本部長が暗殺肯定派だったことから、霧島は独断で機捜を動かした責任を問われて減給に停職という厳しい懲戒処分を食らっていた。普通は懲戒を食らうと以降の昇任が不可能となるために誰もが依願退職するが、霧島は辞めなかった。懲戒より辞めなかった事実に皆が驚いたくらいだ。
辞めたら京哉と同じく『知りすぎた男』として何が身に降り掛かるか分からなかっただけでなく、自分はやましいことなどしていないという信念があったからだ。
というのは表向きの理由で、本当は自分の企んだ暗殺肯定派一斉検挙までの行程を内側から監視し、イレギュラーな要素が発生したら対処するためでもあった。
自らが企み動かした計画の中で、自分が懲戒を食らうことまでが計算済みだったのである。
そんな霧島も更に特別任務で『知る必要のないこと』を知り、『上』と渡り合えるまでに秘密を共有していて、懲戒を食らった事実は殆どなかったことにされている状態だ。キャリア同期の中でも警視正昇任トップとして霧島の名が囁かれている。
それはともかく懲戒の停職中に京哉と密会しているのを週刊誌にスクープされたのだ。辛うじて京哉は写真が不鮮明だったのと名前が伏せ字で助かったが『霧島カンパニー御曹司のお相手は男性だった!』なるキャプションで霧島の顔は一気に売れた。
そのあとも警察の記者会見や霧島カンパニー御曹司として何度もメディアを沸かせてきた霧島である。お蔭で国内の暴力団への潜入などの場合は非常に面倒なのだ。
「こちらは相手を知らんのに、相手はこちらを知っているのはフェアではないな」
などと愚痴を垂れながらも、本人は生まれた時から霧島カンパニーの社長の椅子とセットで見られ慣れてきたので、口ほどには気にしていない涼しい顔だ。却って京哉の方が衆目を集める霧島を自分だけが知る場所に閉じ込め鍵を掛けておきたくなる。
「貴方はたぶんメディア報道がなかったとしても目立ちますよ」
「そういうお前は自分が目立たないとでも思っているのか?」
言うなり霧島は京哉の伊達眼鏡を外させ、自分のスーツの胸ポケットに入れた。
「あっ、ちょ、返して下さい」
「だめだ。今日一日は夫たる私にその綺麗な顔を見せてくれ」
「綺麗な顔が見たいなら鏡でも見てればいいのに。ったく、仕方ないなあ、もう」
そんなやり取りをしているうちにシャトルバスはうねる山道をゆっくり上り始めていた。そうして『あと五分で到着』のアナウンスが入り、前方を見ると山間の土地が切り拓かれた高谷レジャーランドが一望できる場所に差し掛かっていた。
「うわあ、すごく良く見えるかも。ここから下って行くんですね」
「なかなかの劇場効果ではあるな」
坂を下ったシャトルバスはまもなく停止し他の乗客と共に霧島と京哉も降車した。右側に人が列を成したチケット売り場がある。二人も行列に並んだ。チケット売り場は十列ほどで客を受け入れていたため、思ったほど待たず五分ほどで入場券を手に入れる。
入り口で制服のお姉さんに半券をちぎって貰うと、いよいよ入場だ。
差し出された霧島の手を握って思い切り嬉しくなった京哉は、足取りも軽く歩き始める。楽しみで昨日はパソコン検索しレジャーランド内の主要施設はチェック済みだ。それに駅で手に入れたパンフレットにも電車内でじっくりと目を通していた。
だがここは何度も来たことのある霧島に任せる手である。
「何処に行きたいんだ?」
「遊園地はパスします。元気のあるうちに動物を見て、それから水族館ですね」
「メインの鳥は最後か?」
「アーヴィン君が見られる最終日で混み合っちゃうでしょうか?」
「何とでもなるだろうが、好きなものを最後に取っておくのはお前らしいな」
「忍さんは真っ先に食べるタイプですよね」
広い道は石畳で両側が芝生の丘になっていた。冬だというのに丘のふちには色鮮やかな花々が植えてある。その花壇沿いにカーブした道を歩いてゆくと、突然視界が開けた。シャトルバスから遠目に見えた光景が間近で望めて京哉は思わず立ち止まる。
楽しみにしていたパンフレットの案内図が巨大な3D配置図となって目前に展開されていた。
「わあ、広ーい。ずっと向こうが遊園地、左の大きいあれが淡水魚水族館ですね」
「動物園は左右に分かれているが、鳥類は左の奥になるな」
「右側、あそこの丘に羊が放してある、草食べてますよ。あっ、ウサギもいる」
スナイパーらしく京哉は抜群の視力を披露していたが、このままでは何処にも行かずに終わってしまう。そこで霧島は京哉の手を引っ張って右側の動物園エリアに向かった。
レジャーランド内にはあちこちに低額で利用可能な小さなオープンカーが停まっていたが、今のところ元気フルチャージの二人には不要である。
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