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第14話
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頭を抱えて喚いた京哉ほど諦めの良くない霧島は、とっくに県警事案でもなくなった特別任務をあっさり降らせてくる『上』に腹を立て、【説明を求める】なるメールを送り返した。すると詳しい任務内容が送られてきて二人して覗き込む。
【霧島警視と鳴海巡査部長に特別任務を下す。ユラルト王国の離島アールにてハシビロコウ・個体名アーヴィンを捕獲し、その足環の中から某国の秘密実験施設の詳細地図及び新兵器の設計図の入ったUSBフラッシュメモリを回収せよ。 一ノ瀬】
訳の分からない任務に霧島は更にムカッ腹を立てた。これだけでアフリカ大陸まで飛ばされては敵わない。速攻で文句のメールを打った。
【ふざけるのも大概にして下さい、鳥は飛ぶんですよ?】と。
一ノ瀬本部長は警視監だ。その雲上人に対するメールとしては、いささか礼を失した上に間抜けな文面となったが本音だった。
すると数分で返事のメールが送られてくる。二人はじっと文面を眺めた。
【詳細及び必要物資に関しては明日、本部長室にて渡す。更に今回は『飛ぶ鳥』に関する任務アドバイザーとして陸上自衛隊幕僚監部調査部第二別室より逢坂瑞樹なる二等陸尉が就くので了承されたし】
思わず京哉は霧島を見上げた。霧島も呼吸すら忘れたかのように呆然としている。
「どうして高谷レジャーランドの飼育員が自衛隊員なんですか?」
「私にも分からん。それに警察を辞めてから自衛隊に入ったとしても、たった数ヶ月で二等陸尉という階級はおかしい。同姓同名の別人かも知れん」
「ハシビロコウが絡んでいるのに、ですか?」
「そうだな、偶然は有り得んな。ならば残る可能性は瑞樹が警察官でありながら自衛官でもあった、いわゆる二重職籍だったということか」
「二重職籍?」
「ああ。陸自幕僚監部調査部第二別室、これは情報関係を扱う部署、悪く言えばスパイの所属組織だからな」
「スパイとして警察に潜入してた?」
「おそらく。まあいい。明日にでも本人に訊けばいいことだ。風呂、先に入るぞ」
逞しい背がバスルームに消えるまで目で追い、京哉はキッチンの換気扇の下で煙草を咥えオイルライターで火を点けた。吸い込んで紫煙を吐いたが味もよく分からない。明日からは霧島の元カレで大した理由もなく別れた相手と行動を共にしなければならないのだ。
妙に胸がざわめいて落ち着かないのも仕方ないことだった。
一方で表面的な見せかけより混乱していた霧島は頭を少しでも冷やそうとぬるい湯を浴びた。湯を溜めながら全身泡だらけにして丁寧にヒゲも剃り、泡を流すと湯に浸かる。
瑞樹と別れた理由は自然消滅というのが一番しっくりくるが、同じ白藤市内の県警本部と白藤署の近さで会う回数が減ったのは急に瑞樹が忙しくなったからだった。
約束して会っても瑞樹は色の薄い瞳で眩しそうに霧島をじっと見つめているだけのことが多くなり、会話と共に会う回数も減って、結局霧島も去る者追わずで放置したのである。
そんな付き合いと別れの何処にも、瑞樹が自衛隊員で情報幹部だった事実は垣間見えてこなかった。情報部員として隠さねばならなかったのだろうが、この自分が何も感づけず見えていなかったのだという悔しさと、見せて貰えなかったやるせなさでメールを見た時には思わず血の気が引いた気がしたほどだった。
ボーッと考えながら湯船に浸かって、防水の腕時計を見るともう三十分以上が経過してしまっている。慌てて上がると京哉と交代した。バスタオルで拭い京哉が置いていてくれた下着と黒いシルクサテンのパジャマを身に着ける。
そのままキッチンでウィスキーを出し、カットグラスに注いでストレートで飲んだ。
座りもせずに三杯目を喉に流し込む。どれだけ飲んでも霧島は殆ど酔わない。
【霧島警視と鳴海巡査部長に特別任務を下す。ユラルト王国の離島アールにてハシビロコウ・個体名アーヴィンを捕獲し、その足環の中から某国の秘密実験施設の詳細地図及び新兵器の設計図の入ったUSBフラッシュメモリを回収せよ。 一ノ瀬】
訳の分からない任務に霧島は更にムカッ腹を立てた。これだけでアフリカ大陸まで飛ばされては敵わない。速攻で文句のメールを打った。
【ふざけるのも大概にして下さい、鳥は飛ぶんですよ?】と。
一ノ瀬本部長は警視監だ。その雲上人に対するメールとしては、いささか礼を失した上に間抜けな文面となったが本音だった。
すると数分で返事のメールが送られてくる。二人はじっと文面を眺めた。
【詳細及び必要物資に関しては明日、本部長室にて渡す。更に今回は『飛ぶ鳥』に関する任務アドバイザーとして陸上自衛隊幕僚監部調査部第二別室より逢坂瑞樹なる二等陸尉が就くので了承されたし】
思わず京哉は霧島を見上げた。霧島も呼吸すら忘れたかのように呆然としている。
「どうして高谷レジャーランドの飼育員が自衛隊員なんですか?」
「私にも分からん。それに警察を辞めてから自衛隊に入ったとしても、たった数ヶ月で二等陸尉という階級はおかしい。同姓同名の別人かも知れん」
「ハシビロコウが絡んでいるのに、ですか?」
「そうだな、偶然は有り得んな。ならば残る可能性は瑞樹が警察官でありながら自衛官でもあった、いわゆる二重職籍だったということか」
「二重職籍?」
「ああ。陸自幕僚監部調査部第二別室、これは情報関係を扱う部署、悪く言えばスパイの所属組織だからな」
「スパイとして警察に潜入してた?」
「おそらく。まあいい。明日にでも本人に訊けばいいことだ。風呂、先に入るぞ」
逞しい背がバスルームに消えるまで目で追い、京哉はキッチンの換気扇の下で煙草を咥えオイルライターで火を点けた。吸い込んで紫煙を吐いたが味もよく分からない。明日からは霧島の元カレで大した理由もなく別れた相手と行動を共にしなければならないのだ。
妙に胸がざわめいて落ち着かないのも仕方ないことだった。
一方で表面的な見せかけより混乱していた霧島は頭を少しでも冷やそうとぬるい湯を浴びた。湯を溜めながら全身泡だらけにして丁寧にヒゲも剃り、泡を流すと湯に浸かる。
瑞樹と別れた理由は自然消滅というのが一番しっくりくるが、同じ白藤市内の県警本部と白藤署の近さで会う回数が減ったのは急に瑞樹が忙しくなったからだった。
約束して会っても瑞樹は色の薄い瞳で眩しそうに霧島をじっと見つめているだけのことが多くなり、会話と共に会う回数も減って、結局霧島も去る者追わずで放置したのである。
そんな付き合いと別れの何処にも、瑞樹が自衛隊員で情報幹部だった事実は垣間見えてこなかった。情報部員として隠さねばならなかったのだろうが、この自分が何も感づけず見えていなかったのだという悔しさと、見せて貰えなかったやるせなさでメールを見た時には思わず血の気が引いた気がしたほどだった。
ボーッと考えながら湯船に浸かって、防水の腕時計を見るともう三十分以上が経過してしまっている。慌てて上がると京哉と交代した。バスタオルで拭い京哉が置いていてくれた下着と黒いシルクサテンのパジャマを身に着ける。
そのままキッチンでウィスキーを出し、カットグラスに注いでストレートで飲んだ。
座りもせずに三杯目を喉に流し込む。どれだけ飲んでも霧島は殆ど酔わない。
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