forget me not~Barter.19~

志賀雅基

文字の大きさ
19 / 51

第19話

しおりを挟む
 バスで白藤市駅まで出て特急に乗り、都内に出て食事をしてから乗り換えて成田国際空港に着いたのは十五時過ぎだった。

「何時の飛行機でしたっけ?」
「十八時三十分発だ」
「じゃあまだ結構時間がありますね」

「だが十七時にはチェックインカウンター前で瑞樹と待ち合わせだからな。その前にお前はたっぷり煙とニコチンを充填しておきたいだろう?」
「お気遣い、感謝します」

 出先がアフリカ大陸というのを考慮し、コートをコインロッカーに預けると、早速京哉は売店で煙草を買い足して喫煙ルームに足を向ける。

「しかし離島ひとつに鳥一羽か。盲亀もうき浮木ふぼく優曇華うどんげの花というところだな」
「まあ、見つけられたら大金星ですからね」

 暢気に喋っているうちに時間は経ち、十七時十分前になって京哉は煙草を消した。チェックインカウンターに移動して辺りを見回していると、霧島と殆ど同時に京哉は瑞樹の姿を見つける。

 京哉と同様にショルダーバッグを肩に掛け、長い赤毛の襟足を縛ってしっぽにしていた。自衛隊でも部署が部署なので髪型の規定も緩いのだろう。
 服装は随分とラフでノータイのサファリジャケットにカーゴパンツである。

「ごめん、待たせちゃったかな」
「いいえ、こちらもチェックインはまだですから」

 そう返しつつ二人に微笑みかけた瑞樹に屈託の欠片も見つけられなかった京哉は、ある言葉を思い浮かべた。『開き直り』……直後に自分が嫌になる。

「待っていたのはこちらの都合だ。まだ約束の時間まで二分ある。気にするな」

 僅かに息を切らせて目の前にやってきた瑞樹は霧島を眩しそうに見たのち、京哉の方に向き直った。色の薄い瞳で真っ直ぐ見つめられ京哉も黒い目を向ける。

「改めて、県警機動捜査隊の鳴海京哉巡査部長です」
「陸自幕僚監部調査部第二別室所属の逢坂瑞樹二等陸尉です。ご承知でしょうが以前は潜入任務で警察の警備畑にいました。ラフにして瑞樹と呼んで貰えたら嬉しいな」
「じゃあ僕も京哉と呼んで下さい」

 握手はしない。五年間のスナイパー生活で周囲を欺いてきた微笑みも完璧だった。
 チェックインのために並びながら瑞樹が霧島に対してトーンを落とした声を出す。

「……驚いたよね」
「ん、ああ、そうだな」
「信じていなかった訳じゃないんだ……なんて、陳腐な言い訳だよね」

「もういい、気にするな。私も気にしてはいない」
「許してくれるの?」
「お前も仕事だったのだ。法で罰せられる訳でもなし、私が許すも許さないもない」

「ごめんなさい」
「もういいと言っている。ほら、しっかり前を向いていないと危ないぞ」

 と、言うなり霧島は手を伸ばし、赤毛の前髪がかき上げられて露わとなった瑞樹の額に指を当てた。すっと息を呑んで瑞樹は動きを止める。そのまま額を軽く突いた霧島は手を下ろし、瑞樹は長い吐息を震わせてカウンターの方に顔を向けた。

 銃を持つ霧島と京哉はチェックインカウンターで政府発行の武器所持許可証を見せ、瑞樹と三人して専属の係員に先導される。お蔭で出国手続きやセキュリティチェックもごく簡単にクリアし飛行機に搭乗することができた。そこで京哉が勇気を出す。

「あのう、訊きたくないんですが、何時間掛かるんでしょうか?」
「まずは約四時間で上海空港。ここでトランジットまで一時間四十五分待ちだ」
「それで?」

「パリのシャルル・ド・ゴール空港まで十二時間四十五分。一時間十五分待ってから乗り換えてモロッコのカサブランカにあるムハンマド五世国際空港まで三時間。あとは一時間半でユラルト王国の首都タブリズ国際空港。更に小型機で離島のアールまでは確か三時間だったか」

「総行程二十七時間十五分って、嘘でしょう?」
「向こうでの乗り換えに時間が掛からなければ、それで済むのだがな。禁煙ご苦労」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...