20 / 51
第20話
しおりを挟む
急激に機嫌を悪化させた京哉は、出航してまもなく出された機内食を無言で食し終えると毛布を被って不貞寝の態勢に入る。だがまだ宵の口で眠れない。
「ところで瑞樹、何故お前は自衛官のクセして飼育員なんぞやっているんだ?」
ふいの霧島の問いに京哉も瑞樹を注視した。
「ああ、希望半分左遷半分。何処で間違ったのか調別に放り込まれたけれど、別に潜入が上手い訳じゃないから。『あの情報を盗ってこい』なんて言われても困るよ」
聞いて霧島と京哉は苦笑いする。まるで特別任務並みの無茶振りだ。
「随分と荒っぽい職場みたいですね」
「そうなんだ。お蔭で今回も含めて失敗も多くて参っちゃって」
「もう半分は何なんだ?」
「僕、動物が好きなんだよ」
まるで子供のような答えに霧島は笑いつつも首を捻った。
「それは知っている。だが日がな鳥の世話にどっぷり浸かるほどだったか?」
「可笑しいかなあ? だってハシビロコウの世話ができるなんて聞いたらこれは立候補するしかないじゃないか。はっきり言って足環での情報交換なんてどうでも良かったんだよね」
「だがしかし、あの情報の受け渡し手段はふざけているだろう」
「調査部第二別室・略して調別の中でも決して表に出ることのない、いわゆる黒組と言われる水面下で動く人員の伝統でね。他にも毎朝買うフランスパンにメモリを仕込むとか、とある薬屋さんのポストにガムで貼り付けるとか……」
まさかの話に霧島と京哉は顔をしかめる。
「汚いな。それに間違って食ってしまったらどうするんだ?」
「確かにあのときのヤマダ君はとっても悲惨だったな」
本気か冗談か分からない口調で瑞樹が言い三人は揃って笑った。笑いながら京哉は瑞樹を観察する。国家機密を扱う職場の威を借り、かさに着た様子は一切見受けられない。
瑞樹の額に霧島が触れた時こそどうしてくれようかと思ったが、あれを瑞樹のせいにするのは筋違いだろう。それに話している分には気さくで充分愉しく、これなら任務中は何とかやっていけそうだと安堵していた。腹が立つのは博愛主義者のバディである。
怒りに燃えながらも表面上は和やかに話を続け、時折うとうとしながらトランジットの上海浦東国際空港に辿り着いた。だが機内待機で煙草を吸えず京哉は更に凹む。
出航すると早々に霧島は毛布を被って寝てしまい、暫く喋っていた京哉と瑞樹も時差ぼけ防止で眠ることにした。京哉は霧島の被った毛布に自分も潜り込むと、瑞樹の視線を感じつつも霧島の手に触れる。その手を霧島が握り返してくれて思い切り安堵した。
寝たり起きたりを繰り返し、やっとムハンマド五世国際空港に到着する。日本と時差が九時間で現地時間は九時十五分だった。そこからまたトランジットで二時間近く待ち、飛行機で一時間半をかけ、ユラルト王国の首都タブリズの国際空港にランディングする。
だがボーディングブリッジの窓から外を眺めて京哉は驚いた。アフリカは暑いという先入観からは思いも寄らない光景が展開されていたのだ。そう、雪景色である。
「何これ。あそこの表示、外気温がマイナス四度になってますよ?」
「確かにすごいな、これは。だがモロッコ辺りは砂漠に雪が降ることもあるらしい」
「忍さん、それを知ってて成田でコートをコインロッカーに放り込んだんですね?」
「すまん、失念していた」
八つ当たり気味に物申した京哉に瑞樹は笑って説明した。
「雪が降ってるとは思わなかったよね。でも離島のアールは海流の関係で温暖だよ」
「ふうん。瑞樹はアールに行ったことがあるんですか?」
「ううん、初めて。アールに行くのは長年の夢だったんだけれど、まさかこんな風に叶うとは思ってなかったよ。夢の大地がもうすぐなんて、ああ、本当に楽しみ!」
「アールは夢の大地とまで評するような場所なのか?」
「あれっ、言ったことなかったっけ?」
「アーヴィンのニュースで聞いたのが初耳だな」
「そう? 様々な自然保護・動物愛護団体が資金を出し合って『種の保存委員会』を設立し、その『種の保存委員会』がユラルト王国から買い上げる形で離島のアールは存在してるんだ。温暖なそこはサバンナに似せた土地が多く動物たちの楽園で、絶滅危惧種もあそこで沢山保存管理されて暮らしているんだよ」
瑞樹の動物好きは筋金入りらしい。本当に夢見るような目をして語っている。
それを聞きながら入国審査その他の手続きを終わらせた。ターミナルビルの中は暖房が効いていてホッとする。ここからは小型機で離島のアール入りをする予定だ。
小型機の出航まで約二時間というタイトなスケジュールで、チケットだけ押さえると哀れな依存症患者は喫煙可のレストランを目敏く発見し駆け込む。食事も摂っておかなければならない。
「ところで瑞樹、何故お前は自衛官のクセして飼育員なんぞやっているんだ?」
ふいの霧島の問いに京哉も瑞樹を注視した。
「ああ、希望半分左遷半分。何処で間違ったのか調別に放り込まれたけれど、別に潜入が上手い訳じゃないから。『あの情報を盗ってこい』なんて言われても困るよ」
聞いて霧島と京哉は苦笑いする。まるで特別任務並みの無茶振りだ。
「随分と荒っぽい職場みたいですね」
「そうなんだ。お蔭で今回も含めて失敗も多くて参っちゃって」
「もう半分は何なんだ?」
「僕、動物が好きなんだよ」
まるで子供のような答えに霧島は笑いつつも首を捻った。
「それは知っている。だが日がな鳥の世話にどっぷり浸かるほどだったか?」
「可笑しいかなあ? だってハシビロコウの世話ができるなんて聞いたらこれは立候補するしかないじゃないか。はっきり言って足環での情報交換なんてどうでも良かったんだよね」
「だがしかし、あの情報の受け渡し手段はふざけているだろう」
「調査部第二別室・略して調別の中でも決して表に出ることのない、いわゆる黒組と言われる水面下で動く人員の伝統でね。他にも毎朝買うフランスパンにメモリを仕込むとか、とある薬屋さんのポストにガムで貼り付けるとか……」
まさかの話に霧島と京哉は顔をしかめる。
「汚いな。それに間違って食ってしまったらどうするんだ?」
「確かにあのときのヤマダ君はとっても悲惨だったな」
本気か冗談か分からない口調で瑞樹が言い三人は揃って笑った。笑いながら京哉は瑞樹を観察する。国家機密を扱う職場の威を借り、かさに着た様子は一切見受けられない。
瑞樹の額に霧島が触れた時こそどうしてくれようかと思ったが、あれを瑞樹のせいにするのは筋違いだろう。それに話している分には気さくで充分愉しく、これなら任務中は何とかやっていけそうだと安堵していた。腹が立つのは博愛主義者のバディである。
怒りに燃えながらも表面上は和やかに話を続け、時折うとうとしながらトランジットの上海浦東国際空港に辿り着いた。だが機内待機で煙草を吸えず京哉は更に凹む。
出航すると早々に霧島は毛布を被って寝てしまい、暫く喋っていた京哉と瑞樹も時差ぼけ防止で眠ることにした。京哉は霧島の被った毛布に自分も潜り込むと、瑞樹の視線を感じつつも霧島の手に触れる。その手を霧島が握り返してくれて思い切り安堵した。
寝たり起きたりを繰り返し、やっとムハンマド五世国際空港に到着する。日本と時差が九時間で現地時間は九時十五分だった。そこからまたトランジットで二時間近く待ち、飛行機で一時間半をかけ、ユラルト王国の首都タブリズの国際空港にランディングする。
だがボーディングブリッジの窓から外を眺めて京哉は驚いた。アフリカは暑いという先入観からは思いも寄らない光景が展開されていたのだ。そう、雪景色である。
「何これ。あそこの表示、外気温がマイナス四度になってますよ?」
「確かにすごいな、これは。だがモロッコ辺りは砂漠に雪が降ることもあるらしい」
「忍さん、それを知ってて成田でコートをコインロッカーに放り込んだんですね?」
「すまん、失念していた」
八つ当たり気味に物申した京哉に瑞樹は笑って説明した。
「雪が降ってるとは思わなかったよね。でも離島のアールは海流の関係で温暖だよ」
「ふうん。瑞樹はアールに行ったことがあるんですか?」
「ううん、初めて。アールに行くのは長年の夢だったんだけれど、まさかこんな風に叶うとは思ってなかったよ。夢の大地がもうすぐなんて、ああ、本当に楽しみ!」
「アールは夢の大地とまで評するような場所なのか?」
「あれっ、言ったことなかったっけ?」
「アーヴィンのニュースで聞いたのが初耳だな」
「そう? 様々な自然保護・動物愛護団体が資金を出し合って『種の保存委員会』を設立し、その『種の保存委員会』がユラルト王国から買い上げる形で離島のアールは存在してるんだ。温暖なそこはサバンナに似せた土地が多く動物たちの楽園で、絶滅危惧種もあそこで沢山保存管理されて暮らしているんだよ」
瑞樹の動物好きは筋金入りらしい。本当に夢見るような目をして語っている。
それを聞きながら入国審査その他の手続きを終わらせた。ターミナルビルの中は暖房が効いていてホッとする。ここからは小型機で離島のアール入りをする予定だ。
小型機の出航まで約二時間というタイトなスケジュールで、チケットだけ押さえると哀れな依存症患者は喫煙可のレストランを目敏く発見し駆け込む。食事も摂っておかなければならない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる