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第28話
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「で、どうするつもりだ、私たちを」
もう向き直って後頭部しか見えない金髪は、またも笑いに揺れる。
「直接君たちの生殺与奪に関わる気はないな、この男だけで充分だ」
ライフルに小突かれて瑞樹が立ち上がった。心許なく立った膝が震えている。薄い色の目はアンバーの目を映し恐怖に見開かれていた。
膝が震えたままの足がふらりと動く。明らかに自分の意思でなく足だけが勝手に動いていた。アンバーの瞳の呪縛に取り込まれてしまったかのように一歩、二歩と金髪に近づく。
先程まで憎しみに燃えていた薄い色の瞳は瞳孔を縮め、躰の自由を奪われて、これから起こることへの恐怖に叫ぶことすらできないようだ。
「瑞樹! くそう、止めろ!」
ふらふらと瑞樹は金髪男の前に進み出る。金髪男が腰を上げてその腕を取った。
口も利けないほど怯えてしまったのか瑞樹は喘ぐように息を吸い込んで目を瞑る。瞼を震わせながらも足は勝手に金髪男に従った。
「そう、いい子だ。逆らうと足が折れるからね」
金髪男は室内の左奥、他の部屋に続くのであろうドアを開ける。霧島の目前で瑞樹を連れ出そうとしていた。手足の縛めを引きちぎろうと霧島は暴れる。自由になる膝に力を込め、立ち上がるなり勢い金髪男に体当たりをしようとして銃の撃発音を耳にした。
同時に左のこめかみを擦過した四十五ACP弾に、殴られたかのような眩暈を与えられる。
再び立ち上がろうとするも縛られた上に酷い眩暈で叶わない。それでも叫んだ。
「瑞樹……瑞樹!」
無情にもドアは閉められた。霧島はみたび立ち上がってドアに縋る。後ろ手にノブを回して開けようとするがロックされて開かない。
それでもなお霧島は全身で暴れては右腕を目茶苦茶に動かし続けた。手首の皮膚が裂け指を伝って生温かいものが滴り床に点々と染みを作る。
あまりの怒りからリミッタが外れ、自己防衛本能を吹き飛ばしていた。
「瑞樹、瑞樹!」
「忍さん、落ち着いて、忍さん!」
鋭い京哉の囁きを耳にして霧島は歯軋りしつつも動きを止めた。ぼうっとするくらい頭に血が上っていたが何とか息をつく。バディたる京哉は冷静な声で指摘した。
「僕たちを殺さないのに瑞樹を殺すなんてことは、まずしませんよ」
「殺される、そこから数えて何番目かに最低のことだってあるだろう」
「それは。でもお願いですから一番目を体験させられる前に少し落ち着いて下さい」
「……すまん」
澄んだ黒い瞳に宥められてやっと正常な呼吸を取り戻す。一斉にこちらを向いた銃口を目にしてようやくドアから離れ、暖炉の真ん前に腰を下ろした。銃を構えた男たち六人は揃いも揃って下卑た嗤いを浮かべている。他人事ではなく非常に拙い状況だった。
ありそうにもない打開策を巡らせながら、霧島は男たちを睨みつけて視線は外さない。何ひとつ抑止力になるものがなかったので、ただ睨むしかなかったのだ。
その男たち六名は嗤いながらも、金髪男が何も言い置いていかなかったたに、戸惑っているようでもあった。
「なあ、京哉。あれはいったい何だったんだ?」
「そう簡単に超能力を信じるほどピュアじゃないですからね、僕も。おそらくメスメリズム、催眠術じゃないかと思うんですけど」
「催眠術だと? そんなものがあそこまで強力なのか?」
「TVや書籍の受け売りで確証はありませんが、人によっては魔法じみた使い方もできるらしいですよ。僕もあそこまで強烈なのは初めて見ましたけどね。クスリを食わせるか、嗅がせるかして下地を作っておけば余計に威力を発揮するそうです」
「ふん、なるほどな――」
日本語でぼそぼそ喋っている間に男たちは、何処からか匂いのきつい酒を持ち出してきて回し飲みし始めた。瓶ごと回し飲み始めて三十分近く経過すると、男たちはただ監視役に甘んじていることに不平を持ち始めたらしい。
六人の男たち全員が霧島と京哉を取り囲んだ。誰もが下卑た嗤いを浮かべて霧島と京哉を値踏みするかのように見比べる。
そしてとうとう銃を片手に一人が霧島の顎を掴んで仰向かせた。
もう向き直って後頭部しか見えない金髪は、またも笑いに揺れる。
「直接君たちの生殺与奪に関わる気はないな、この男だけで充分だ」
ライフルに小突かれて瑞樹が立ち上がった。心許なく立った膝が震えている。薄い色の目はアンバーの目を映し恐怖に見開かれていた。
膝が震えたままの足がふらりと動く。明らかに自分の意思でなく足だけが勝手に動いていた。アンバーの瞳の呪縛に取り込まれてしまったかのように一歩、二歩と金髪に近づく。
先程まで憎しみに燃えていた薄い色の瞳は瞳孔を縮め、躰の自由を奪われて、これから起こることへの恐怖に叫ぶことすらできないようだ。
「瑞樹! くそう、止めろ!」
ふらふらと瑞樹は金髪男の前に進み出る。金髪男が腰を上げてその腕を取った。
口も利けないほど怯えてしまったのか瑞樹は喘ぐように息を吸い込んで目を瞑る。瞼を震わせながらも足は勝手に金髪男に従った。
「そう、いい子だ。逆らうと足が折れるからね」
金髪男は室内の左奥、他の部屋に続くのであろうドアを開ける。霧島の目前で瑞樹を連れ出そうとしていた。手足の縛めを引きちぎろうと霧島は暴れる。自由になる膝に力を込め、立ち上がるなり勢い金髪男に体当たりをしようとして銃の撃発音を耳にした。
同時に左のこめかみを擦過した四十五ACP弾に、殴られたかのような眩暈を与えられる。
再び立ち上がろうとするも縛られた上に酷い眩暈で叶わない。それでも叫んだ。
「瑞樹……瑞樹!」
無情にもドアは閉められた。霧島はみたび立ち上がってドアに縋る。後ろ手にノブを回して開けようとするがロックされて開かない。
それでもなお霧島は全身で暴れては右腕を目茶苦茶に動かし続けた。手首の皮膚が裂け指を伝って生温かいものが滴り床に点々と染みを作る。
あまりの怒りからリミッタが外れ、自己防衛本能を吹き飛ばしていた。
「瑞樹、瑞樹!」
「忍さん、落ち着いて、忍さん!」
鋭い京哉の囁きを耳にして霧島は歯軋りしつつも動きを止めた。ぼうっとするくらい頭に血が上っていたが何とか息をつく。バディたる京哉は冷静な声で指摘した。
「僕たちを殺さないのに瑞樹を殺すなんてことは、まずしませんよ」
「殺される、そこから数えて何番目かに最低のことだってあるだろう」
「それは。でもお願いですから一番目を体験させられる前に少し落ち着いて下さい」
「……すまん」
澄んだ黒い瞳に宥められてやっと正常な呼吸を取り戻す。一斉にこちらを向いた銃口を目にしてようやくドアから離れ、暖炉の真ん前に腰を下ろした。銃を構えた男たち六人は揃いも揃って下卑た嗤いを浮かべている。他人事ではなく非常に拙い状況だった。
ありそうにもない打開策を巡らせながら、霧島は男たちを睨みつけて視線は外さない。何ひとつ抑止力になるものがなかったので、ただ睨むしかなかったのだ。
その男たち六名は嗤いながらも、金髪男が何も言い置いていかなかったたに、戸惑っているようでもあった。
「なあ、京哉。あれはいったい何だったんだ?」
「そう簡単に超能力を信じるほどピュアじゃないですからね、僕も。おそらくメスメリズム、催眠術じゃないかと思うんですけど」
「催眠術だと? そんなものがあそこまで強力なのか?」
「TVや書籍の受け売りで確証はありませんが、人によっては魔法じみた使い方もできるらしいですよ。僕もあそこまで強烈なのは初めて見ましたけどね。クスリを食わせるか、嗅がせるかして下地を作っておけば余計に威力を発揮するそうです」
「ふん、なるほどな――」
日本語でぼそぼそ喋っている間に男たちは、何処からか匂いのきつい酒を持ち出してきて回し飲みし始めた。瓶ごと回し飲み始めて三十分近く経過すると、男たちはただ監視役に甘んじていることに不平を持ち始めたらしい。
六人の男たち全員が霧島と京哉を取り囲んだ。誰もが下卑た嗤いを浮かべて霧島と京哉を値踏みするかのように見比べる。
そしてとうとう銃を片手に一人が霧島の顎を掴んで仰向かせた。
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