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第29話
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「どっちも男にしておくのは勿体ねぇツラしてやがるぜ」
「そっちは止めとけ、食いつきそうで危ねぇぞ」
嗤い声が響く。
暖炉の薪が甲高い音で爆ぜた。
「じゃあ、こいつだな。しかし上玉が転がり込んできたもんだぜ」
「こっちは上でも下でもいけるんじゃねぇのか?」
そう言って男が二人掛かりで京哉のスーツの前を開け、ドレスシャツのボタンを外しだす。いつにも増して白い顔をした京哉は唇を引き結んでいた。
その胸元に男たちが手を差し入れるに及んで霧島が大声で叫ぶ。
「止めろ、京哉に手を出すな!」
日本語で叫ぶなり縛られた両足で一人の膝に前から蹴りを食らわした。容赦ない一撃は男を転倒させ悲鳴を上げさせる。膝関節を折られた男は立つこともできずに床を這った。仲間を倒され男たちは一気に逆上する。口汚い英語で叫ぶと同時に霧島を蹴り飛ばした。
「この野郎、何しやがる!」
「舐めたマネし腐りやがって!」
更に頬を張り倒されて霧島は床に倒れる。黒髪を掴んで引き起こされ、また殴られた。胸を蹴り上げられて息を詰まらせ、腹に一発を食らって吐き戻しそうになる。
膝を折った男以外の五人に取り囲まれ、さんざん殴られ蹴られて霧島は額を切って顔を血塗れにしながら、意識が朦朧としたところで放り出された。
五人もの男に容赦なく一方的に痛めつけられ、京哉の声を遠いもののように聞く。
「死んだか?」
「構やしねぇよ」
「口直しはこっちのお嬢さんにして貰おうぜ」
嗤いながら男たちは京哉を嬲り始めた。だがドレスシャツの裾を引き出され腹から胸に男たちの手が這い回っても京哉は無抵抗だった。
それどころか微笑みすら浮かべ赤い舌で唇を舐めて見せる。蠱惑的な微笑みに敵うものはない。男たちは我先に京哉にのしかかろうとした。
その微笑みの底に冷たく見下げ果てた感情が流れていると気付かずに。
京哉は腰の下になった両手の痛みに耐えて己に男たちを惹きつけようとする。
「すっかりその気になってるな、このお嬢さんは」
「次は俺だからな、無茶して壊すんじゃねぇぞ」
「壊れるもんか、相当の好き者だぜ」
げらげら嗤う男たちの一人がナイフを出し京哉の手足の縛めを切った。男たちの目がそんな京哉に向いている間に霧島はためらいなく暖炉の燃えさかる炎の中に両脚を突っ込んでいた。
熱さを感じる間もなく樹脂バンドが溶けて断ち切れる。
背後の両手も炎に翳した。こちらは熱さが鋭い痛みとなって霧島を襲う。体勢の悪さを呪いながら歯を食い縛って樹脂バンドが切れるまでの数秒を耐えた。
虜囚が自由を取り戻したことを男たちが知ったのは、霧島がソファを飛び越えてシグ・ザウエルP226を手にしてからだった。
霧島は男たちに対し二秒とかからず六連射を叩き込んだ。それでも狙いはジャスティスショット、全員が右肩を撃たれて呻いている。
「京哉、大丈夫かっ!?」
男たちの銃を蹴り飛ばし、霧島は返り血を浴びた細い躰を右手一本でまさぐった。
「ん、大丈夫です。それより貴方、そっちの腕はどうしたんですか?」
「あの金髪に肩を外されただけだ」
「貴方の方が大怪我じゃないですか!」
心配のあまり逆上しかかった京哉を今度は切れ長の目が宥めようとする。
「怪我ではない、嵌めればすぐに動く」
「そんな、二度目ですし動かしちゃだめですよ。脱臼はクセになるんですからね!」
「分かった、分かったから嵌める。手伝ってくれ」
「できるんですか?」
「ああ。おそらく前方脱臼だな、ここを押さえておいてくれ。つうっ……くっ!」
武道に長けた霧島は京哉の手を借りてコッヘル法なるやり方で左肩を嵌め込んだ。だが涼しい顔をしていても嵌め込んですぐには力が入らず動かせない。心配顔で京哉は自分の身繕いをする。返り血を袖で拭うとシグ・ザウエルとスペアマガジンを身に帯びた。
「お前は大丈夫なのか?」
「ええ、平気です。行けますよ、忍さん」
「では、頼む」
二人は金髪男と瑞樹が消えたドアの前に立つ。ノブを引くのは両手が使える京哉、先に飛び込んだのは霧島だ。キィロックの解けたそこに何の気配もないのを一瞬で悟る。
「そっちは止めとけ、食いつきそうで危ねぇぞ」
嗤い声が響く。
暖炉の薪が甲高い音で爆ぜた。
「じゃあ、こいつだな。しかし上玉が転がり込んできたもんだぜ」
「こっちは上でも下でもいけるんじゃねぇのか?」
そう言って男が二人掛かりで京哉のスーツの前を開け、ドレスシャツのボタンを外しだす。いつにも増して白い顔をした京哉は唇を引き結んでいた。
その胸元に男たちが手を差し入れるに及んで霧島が大声で叫ぶ。
「止めろ、京哉に手を出すな!」
日本語で叫ぶなり縛られた両足で一人の膝に前から蹴りを食らわした。容赦ない一撃は男を転倒させ悲鳴を上げさせる。膝関節を折られた男は立つこともできずに床を這った。仲間を倒され男たちは一気に逆上する。口汚い英語で叫ぶと同時に霧島を蹴り飛ばした。
「この野郎、何しやがる!」
「舐めたマネし腐りやがって!」
更に頬を張り倒されて霧島は床に倒れる。黒髪を掴んで引き起こされ、また殴られた。胸を蹴り上げられて息を詰まらせ、腹に一発を食らって吐き戻しそうになる。
膝を折った男以外の五人に取り囲まれ、さんざん殴られ蹴られて霧島は額を切って顔を血塗れにしながら、意識が朦朧としたところで放り出された。
五人もの男に容赦なく一方的に痛めつけられ、京哉の声を遠いもののように聞く。
「死んだか?」
「構やしねぇよ」
「口直しはこっちのお嬢さんにして貰おうぜ」
嗤いながら男たちは京哉を嬲り始めた。だがドレスシャツの裾を引き出され腹から胸に男たちの手が這い回っても京哉は無抵抗だった。
それどころか微笑みすら浮かべ赤い舌で唇を舐めて見せる。蠱惑的な微笑みに敵うものはない。男たちは我先に京哉にのしかかろうとした。
その微笑みの底に冷たく見下げ果てた感情が流れていると気付かずに。
京哉は腰の下になった両手の痛みに耐えて己に男たちを惹きつけようとする。
「すっかりその気になってるな、このお嬢さんは」
「次は俺だからな、無茶して壊すんじゃねぇぞ」
「壊れるもんか、相当の好き者だぜ」
げらげら嗤う男たちの一人がナイフを出し京哉の手足の縛めを切った。男たちの目がそんな京哉に向いている間に霧島はためらいなく暖炉の燃えさかる炎の中に両脚を突っ込んでいた。
熱さを感じる間もなく樹脂バンドが溶けて断ち切れる。
背後の両手も炎に翳した。こちらは熱さが鋭い痛みとなって霧島を襲う。体勢の悪さを呪いながら歯を食い縛って樹脂バンドが切れるまでの数秒を耐えた。
虜囚が自由を取り戻したことを男たちが知ったのは、霧島がソファを飛び越えてシグ・ザウエルP226を手にしてからだった。
霧島は男たちに対し二秒とかからず六連射を叩き込んだ。それでも狙いはジャスティスショット、全員が右肩を撃たれて呻いている。
「京哉、大丈夫かっ!?」
男たちの銃を蹴り飛ばし、霧島は返り血を浴びた細い躰を右手一本でまさぐった。
「ん、大丈夫です。それより貴方、そっちの腕はどうしたんですか?」
「あの金髪に肩を外されただけだ」
「貴方の方が大怪我じゃないですか!」
心配のあまり逆上しかかった京哉を今度は切れ長の目が宥めようとする。
「怪我ではない、嵌めればすぐに動く」
「そんな、二度目ですし動かしちゃだめですよ。脱臼はクセになるんですからね!」
「分かった、分かったから嵌める。手伝ってくれ」
「できるんですか?」
「ああ。おそらく前方脱臼だな、ここを押さえておいてくれ。つうっ……くっ!」
武道に長けた霧島は京哉の手を借りてコッヘル法なるやり方で左肩を嵌め込んだ。だが涼しい顔をしていても嵌め込んですぐには力が入らず動かせない。心配顔で京哉は自分の身繕いをする。返り血を袖で拭うとシグ・ザウエルとスペアマガジンを身に帯びた。
「お前は大丈夫なのか?」
「ええ、平気です。行けますよ、忍さん」
「では、頼む」
二人は金髪男と瑞樹が消えたドアの前に立つ。ノブを引くのは両手が使える京哉、先に飛び込んだのは霧島だ。キィロックの解けたそこに何の気配もないのを一瞬で悟る。
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