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第49話・そんな「焼きそばパン買ってこい」みたいに
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掴んだハイファの腕を振り切ってシドは階段を駆け上る。屋上に出てBELの間からローダ島の方角を注視した。遠く曇った空にBELが何機も舞っている。その下でローダ島からは黒煙が何条もたなびいていた。時折オレンジ色の炎も見える。まさに絨毯爆撃されているそこはベースキャンプがある辺りだった。
「公爵は全てが与党幹事長ジョアンナ=ルーサーの企みだってことを悟ってた。その事実を軍事教練学校の幹部にも洩らしたことを、政府は知ったのかも知れない」
「だから最初からキャンプもベジャール公も、全て殺る計画だったっていうのかよ?」
「単に可能性だけどね」
「あそこにはコーディーやエリックだけじゃねぇ、まだパットやブルースがいるんだぞ!」
答える言葉を持たず、ハイファは公爵家の小型BELのドアパネルにリモータから引き出したリードを繋ぐ。十秒と掛からずロック解除すると窺うようにシドを見た。
「出て行く足はこれくらいだし、軍のBELに便乗すると貴方が暴れちゃいそうだしね」
黙ってパイロット席にシドが収まるとコ・パイ席のハイファが反重力装置を起動する。
「何処に座標設定しようか?」
「そうだな。幸いかどうかはともかくとして任務終了だ、無人島でリゾートにするか」
約二十分後、ハイファは手動操縦でヘズ島の砂浜に小型BELを接地させていた。
桟橋には見覚えのあるオレンジ色のラインが入った貨物船が接岸していた。
「ヘイ、帰り客はあんたら二人だけなのかい?」
日焼けした漁師に手だけ挙げて見せ、シドはハイファとともに貨物船に乗り込む。まもなく貨物船は係留ロープを外しアンカーを巻き上げて航行を始めた。
航行中にハイファはリモータ操作して別室への報告をし、シドは舷側に腰掛けて黙々と煙草の灰を生産し続けた。そのうちに雨が船体を叩き始め、船がややローリングし始める。
「シド、中に入らない? 風邪引いちゃうよ」
「ん、ああ。でももう着くだろ」
愛し人をハイファが気遣うもシドはその場を動かなかった。何かを自分から洗い流してしまいたい……そんな風にハイファには見えて、もう言い募らなかった。
結局潮風と雨とでびしょ濡れになって船を降りることになった。
また漁師らには片手を挙げるだけの挨拶をして歩み板を渡ると陸にはフォードが佇んでいた。銃を扱う者として、こちらも手を塞ぎ視界も遮る傘は持っていない。
水色の目が二人を不思議そうに見たが、もの問いたげな視線に応えることなく、シドとハイファは歩き始める。追い付いてきたフォードも肩を並べた。
「敵対ファミリー同士で殺り合ったのか?」
「いや、そうじゃねぇよ。あいつらはそこまでバカじゃなかった」
「ふむ。まあいい、先にホテルだ」
シドとハイファは任務完了ということで、このまま帰ってもよかったが、びしょ濡れのままでいる訳にもいかず、まずはホテルに入るべく宙港ビルの屋上から定期BELに乗った。
シンガプーラホテルに行くというフォードに二人も同行する。そこにはシドに怪我を負わされ、やっと退院したチンピラ二人も泊まっているということだった。
定期BELから降りて最上階にもあるフロントでチェックインし、クレジットを先払いして十六階の一六〇二号室のキィロックコードを手に入れた。
さっさと部屋に入るとハイファと交代でシドはリフレッシャを浴びる。全身を乾かして清潔な衣服を身に着けると肌が生き返ったようにも感じた。
コーヒーと煙草を味わっているとシドに発振が入る。
「フォードだ。『一階カフェテリアで待つ』ってさ」
執銃して対衝撃ジャケットを羽織り、ショルダーバッグを担いだハイファとともに部屋を出る。エレベーターで降りてカフェテリアを覗くと、入り口近くの壁を背にしたテーブル席でフォードは独りコーヒーカップを前に待っていた。こちらもリフレッシャを浴びたらしいが、ホワイトのドレスシャツにダークスーツという隙のない格好は相変わらずだ。
手を挙げて合図をし、二人はフォードの向かいに腰掛ける。電子メニュー表で早めの昼食がてらパスタのセットをクレジットと引き替えに注文した。
注文品が揃い、食し始めてからフォードが短く訊く。
「何がどうなった?」
訊かれてシドは誤魔化すことなく全てを語った。ハイファは別室のことまで話すシドに柳眉をひそめたが、フォードは意外にも別室の存在を知っているようだった。
「俺もあちこち渡り歩いているからな、情報は入ってくるんだ」
「そうか。あんたも色々見てきたみてぇだな」
「しかし与党幹事長ジョアンナ=ルーサーか。やってくれる」
「俺たちに凄まれてもな。弔い合戦なら勝手にやってくれ」
「余計な仕事をする気はないが、まずはドン・ベレッタと連絡を取ってからだ」
「ふん、せいぜい頑張ってくれ」
まるで他人事のように言い放ち、シドはパスタセットに没頭しだす。するとまもなく先にハイファ、数秒遅れてシドのリモータが振動し始めた。発振パターンは別室からである。いつもの如く【任務完遂を祝う、帰還せよ】という内容だと思ってシドは気軽に操作する。そこで仰け反った。見慣れた、だが見たくはない書式が浮き上がっていたのである。
小さな画面に現れた文字を呆然として読み取った。
【中央情報局発:ルフタス星系に於いて星系政府与党幹事長ジョアンナ=ルーサー暗殺に従事せよ。選出任務対応者、第二部別室より一名・ハイファス=ファサルート二等陸尉。太陽系広域惑星警察より一名・若宮志度巡査部長】
「公爵は全てが与党幹事長ジョアンナ=ルーサーの企みだってことを悟ってた。その事実を軍事教練学校の幹部にも洩らしたことを、政府は知ったのかも知れない」
「だから最初からキャンプもベジャール公も、全て殺る計画だったっていうのかよ?」
「単に可能性だけどね」
「あそこにはコーディーやエリックだけじゃねぇ、まだパットやブルースがいるんだぞ!」
答える言葉を持たず、ハイファは公爵家の小型BELのドアパネルにリモータから引き出したリードを繋ぐ。十秒と掛からずロック解除すると窺うようにシドを見た。
「出て行く足はこれくらいだし、軍のBELに便乗すると貴方が暴れちゃいそうだしね」
黙ってパイロット席にシドが収まるとコ・パイ席のハイファが反重力装置を起動する。
「何処に座標設定しようか?」
「そうだな。幸いかどうかはともかくとして任務終了だ、無人島でリゾートにするか」
約二十分後、ハイファは手動操縦でヘズ島の砂浜に小型BELを接地させていた。
桟橋には見覚えのあるオレンジ色のラインが入った貨物船が接岸していた。
「ヘイ、帰り客はあんたら二人だけなのかい?」
日焼けした漁師に手だけ挙げて見せ、シドはハイファとともに貨物船に乗り込む。まもなく貨物船は係留ロープを外しアンカーを巻き上げて航行を始めた。
航行中にハイファはリモータ操作して別室への報告をし、シドは舷側に腰掛けて黙々と煙草の灰を生産し続けた。そのうちに雨が船体を叩き始め、船がややローリングし始める。
「シド、中に入らない? 風邪引いちゃうよ」
「ん、ああ。でももう着くだろ」
愛し人をハイファが気遣うもシドはその場を動かなかった。何かを自分から洗い流してしまいたい……そんな風にハイファには見えて、もう言い募らなかった。
結局潮風と雨とでびしょ濡れになって船を降りることになった。
また漁師らには片手を挙げるだけの挨拶をして歩み板を渡ると陸にはフォードが佇んでいた。銃を扱う者として、こちらも手を塞ぎ視界も遮る傘は持っていない。
水色の目が二人を不思議そうに見たが、もの問いたげな視線に応えることなく、シドとハイファは歩き始める。追い付いてきたフォードも肩を並べた。
「敵対ファミリー同士で殺り合ったのか?」
「いや、そうじゃねぇよ。あいつらはそこまでバカじゃなかった」
「ふむ。まあいい、先にホテルだ」
シドとハイファは任務完了ということで、このまま帰ってもよかったが、びしょ濡れのままでいる訳にもいかず、まずはホテルに入るべく宙港ビルの屋上から定期BELに乗った。
シンガプーラホテルに行くというフォードに二人も同行する。そこにはシドに怪我を負わされ、やっと退院したチンピラ二人も泊まっているということだった。
定期BELから降りて最上階にもあるフロントでチェックインし、クレジットを先払いして十六階の一六〇二号室のキィロックコードを手に入れた。
さっさと部屋に入るとハイファと交代でシドはリフレッシャを浴びる。全身を乾かして清潔な衣服を身に着けると肌が生き返ったようにも感じた。
コーヒーと煙草を味わっているとシドに発振が入る。
「フォードだ。『一階カフェテリアで待つ』ってさ」
執銃して対衝撃ジャケットを羽織り、ショルダーバッグを担いだハイファとともに部屋を出る。エレベーターで降りてカフェテリアを覗くと、入り口近くの壁を背にしたテーブル席でフォードは独りコーヒーカップを前に待っていた。こちらもリフレッシャを浴びたらしいが、ホワイトのドレスシャツにダークスーツという隙のない格好は相変わらずだ。
手を挙げて合図をし、二人はフォードの向かいに腰掛ける。電子メニュー表で早めの昼食がてらパスタのセットをクレジットと引き替えに注文した。
注文品が揃い、食し始めてからフォードが短く訊く。
「何がどうなった?」
訊かれてシドは誤魔化すことなく全てを語った。ハイファは別室のことまで話すシドに柳眉をひそめたが、フォードは意外にも別室の存在を知っているようだった。
「俺もあちこち渡り歩いているからな、情報は入ってくるんだ」
「そうか。あんたも色々見てきたみてぇだな」
「しかし与党幹事長ジョアンナ=ルーサーか。やってくれる」
「俺たちに凄まれてもな。弔い合戦なら勝手にやってくれ」
「余計な仕事をする気はないが、まずはドン・ベレッタと連絡を取ってからだ」
「ふん、せいぜい頑張ってくれ」
まるで他人事のように言い放ち、シドはパスタセットに没頭しだす。するとまもなく先にハイファ、数秒遅れてシドのリモータが振動し始めた。発振パターンは別室からである。いつもの如く【任務完遂を祝う、帰還せよ】という内容だと思ってシドは気軽に操作する。そこで仰け反った。見慣れた、だが見たくはない書式が浮き上がっていたのである。
小さな画面に現れた文字を呆然として読み取った。
【中央情報局発:ルフタス星系に於いて星系政府与党幹事長ジョアンナ=ルーサー暗殺に従事せよ。選出任務対応者、第二部別室より一名・ハイファス=ファサルート二等陸尉。太陽系広域惑星警察より一名・若宮志度巡査部長】
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