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第51話・利害の一致。合理的選択
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「マフィアに借りなんか作って、知らないからね」
「マフィアの借りは三倍返しってか?」
「分かってるなら、何で?」
「借りじゃねぇよ、あっちにも『お礼参り』命令が出てるんだ、持ちつ持たれつってヤツだ」
「でもマフィアをそんなに簡単に信用しちゃっていいの?」
「最低限、仁義を切っていれば構うことはねぇさ。それに事実、得物を手に入れる方法は他にねぇだろうが」
「それはそうだけど……」
確かに他に手はなかった。ハイファ自身が言った通り、ジョアンナ=ルーサー側に自分たちの存在とIDは報告されているだろう。そしてテラ連邦軍の銃は全てライフルマークが登録されている。ターゲットを伏せて借りても殺った時点で即、自分たちがホシだとバレるのだ。
やはりすぐに高飛びができない以上、ここはマフィアにご協力頂くしかなさそうだった。
それでもハイファは気に食わないといった顔つきで唇を尖らせていた。
「ンなに心配するなって。それよりお前の方はどうなんだよ?」
「ん、アダに着いたら三ヶ所をもう一度選定に掛けるよ」
「そうか。それなら少しでも躰、休めておけよな」
「貴方も一緒に寝てくれるならね」
甘えて見せるとポーカーフェイスがハイファだけに分かる笑みを浮かべる。その微笑みにハイファは安堵して少し肩の力が抜けた。同時に何だか泣きたい気分になる。
二度とシドに人殺しなどさせたくないという思いと、ともにあって欲しいという想いに引き裂かれそうになって、ハイファはやはりシドの温かな胸に逃げ込むことしかできない。
立ち尽くしていると逞しい胸に抱き寄せられ、躰を通して低く甘い声を聴いた。
「何度も言うが二度とお前に独りでトリガは引かせねぇ、二人で引くんだ。解ってるな?」
目を瞠ったまま返事もできずにいるハイファに、シドはポーカーフェイスを崩す。
「どうしたんだよ、ンな情けない顔しやがって」
「……何でもないよ」
「そうか、ならいい」
小さく頷くとタマのようにシドの胸に顔を擦りつけてからハイファはベッドに横になった。第七惑星アダに渡れば時差もある。ハイファはいつもの左腕の腕枕を貰って目を瞑った。
そうしてまたも思う。この愛し人を貶めない唯一の方法は絶対に恥じないことだと。
シドはいつまでも優しい指で長い髪を梳いてくれていた。
◇◇◇◇
ヨナム宙港発のシャトル便は、ショートワープ一回を挟んだ三十分で第七惑星アダ随一の都市ガレの宙港に無事接地し、宙港メインビル二階に直接エアロックを接続した。
星系内便なので通関もなく、シドとハイファにフォードの三人はエアロックを抜けるなりエレベーターでビルの屋上に上がる。ここからまた定期BELで移動するためだ。
星系首都のヨナム宙港ビルより高い五十二階建ての屋上に出ると、定期BEL停機場になったそこは風よけドームが開いた状態で、風が酷く冷たかった。
「自転周期が二十三時間四十八分五十二秒か、激しいワープラグは免れそうだな」
「それでも夕方から急に朝八時だからね、今日は昼間が長くてつらいかも」
乾いた風に黒髪を吹き乱されながら、寒さにやや身を固くしつつシドは透明なドームの縁越しにガレの街を眺める。そこで思わず声を上げた。
「何だこれ、すっげぇ都市じゃねぇか?」
そこにはスカイチューブの張り巡らされた超高層ビル群が、まるで地盤が隆起したように立ち上がっていたのである。金のしっぽを風に巻き上げられつつハイファが笑った。
「ヨナムがアレだから吃驚したでしょ。輸出品目トップの海産物と並ぶ高級繊維はこの惑星アダでしか作られないんだよ。歴史も古いし、それでこっちの方が発展してる」
「へえ。それでヨナムにもねぇ歓楽街があってマフィアが仕切ってるのか」
応えずフォードは金髪を乱しながら薄笑いを浮かべている。
「得物はもう入ってるの?」
「その筈だ。ただ試射するには遠出して貰うことになる」
「ふうん、試射までさせて貰えるんだ?」
「ドン・ベレッタもお怒りだ。『必ず、思い知らせてやれ』とのことだからな」
水色の目に剣呑な光を溜めてフォードは言い、なるほどマフィア相手の剣客商売をしているだけあるかと、シドはハイファとやり取りする横顔を眺めた。
「んで、どうするユーリー。先にポイントを回るか、それとも試射するか?」
「ポイントには不用意に近づかない方がいいからね、得物も早く見たいし」
「このガンヲタが」
「否定はしないけど、あーたにヲタを云々されたくアリマセン」
言い合う二人にフォードが声を掛けた。
「おい、こっちだ。時間も丁度いい、行くぞ」
踵を返したフォードに二人も続く。フォードは慣れているらしく一機の定期BELの前でチェックパネルを掲げた係員から三人分のチケットを買い、さっさと乗り込んだ。機内は暖かく、シドは過剰に入っていた躰の力が抜けてホッとする。
八時二十分、定期BELはテイクオフ。低速でガレの都市上空に向けて飛翔を始めた。
都市内のビルの屋上停機場を巡りながら、やがて定期BELはガレの郊外に近い十階建て程度の低いビル屋上にランディングした。ここでフォードに促され、三人揃って立ち上がると他の客たちの作る列に並んで降機する。
「マフィアの借りは三倍返しってか?」
「分かってるなら、何で?」
「借りじゃねぇよ、あっちにも『お礼参り』命令が出てるんだ、持ちつ持たれつってヤツだ」
「でもマフィアをそんなに簡単に信用しちゃっていいの?」
「最低限、仁義を切っていれば構うことはねぇさ。それに事実、得物を手に入れる方法は他にねぇだろうが」
「それはそうだけど……」
確かに他に手はなかった。ハイファ自身が言った通り、ジョアンナ=ルーサー側に自分たちの存在とIDは報告されているだろう。そしてテラ連邦軍の銃は全てライフルマークが登録されている。ターゲットを伏せて借りても殺った時点で即、自分たちがホシだとバレるのだ。
やはりすぐに高飛びができない以上、ここはマフィアにご協力頂くしかなさそうだった。
それでもハイファは気に食わないといった顔つきで唇を尖らせていた。
「ンなに心配するなって。それよりお前の方はどうなんだよ?」
「ん、アダに着いたら三ヶ所をもう一度選定に掛けるよ」
「そうか。それなら少しでも躰、休めておけよな」
「貴方も一緒に寝てくれるならね」
甘えて見せるとポーカーフェイスがハイファだけに分かる笑みを浮かべる。その微笑みにハイファは安堵して少し肩の力が抜けた。同時に何だか泣きたい気分になる。
二度とシドに人殺しなどさせたくないという思いと、ともにあって欲しいという想いに引き裂かれそうになって、ハイファはやはりシドの温かな胸に逃げ込むことしかできない。
立ち尽くしていると逞しい胸に抱き寄せられ、躰を通して低く甘い声を聴いた。
「何度も言うが二度とお前に独りでトリガは引かせねぇ、二人で引くんだ。解ってるな?」
目を瞠ったまま返事もできずにいるハイファに、シドはポーカーフェイスを崩す。
「どうしたんだよ、ンな情けない顔しやがって」
「……何でもないよ」
「そうか、ならいい」
小さく頷くとタマのようにシドの胸に顔を擦りつけてからハイファはベッドに横になった。第七惑星アダに渡れば時差もある。ハイファはいつもの左腕の腕枕を貰って目を瞑った。
そうしてまたも思う。この愛し人を貶めない唯一の方法は絶対に恥じないことだと。
シドはいつまでも優しい指で長い髪を梳いてくれていた。
◇◇◇◇
ヨナム宙港発のシャトル便は、ショートワープ一回を挟んだ三十分で第七惑星アダ随一の都市ガレの宙港に無事接地し、宙港メインビル二階に直接エアロックを接続した。
星系内便なので通関もなく、シドとハイファにフォードの三人はエアロックを抜けるなりエレベーターでビルの屋上に上がる。ここからまた定期BELで移動するためだ。
星系首都のヨナム宙港ビルより高い五十二階建ての屋上に出ると、定期BEL停機場になったそこは風よけドームが開いた状態で、風が酷く冷たかった。
「自転周期が二十三時間四十八分五十二秒か、激しいワープラグは免れそうだな」
「それでも夕方から急に朝八時だからね、今日は昼間が長くてつらいかも」
乾いた風に黒髪を吹き乱されながら、寒さにやや身を固くしつつシドは透明なドームの縁越しにガレの街を眺める。そこで思わず声を上げた。
「何だこれ、すっげぇ都市じゃねぇか?」
そこにはスカイチューブの張り巡らされた超高層ビル群が、まるで地盤が隆起したように立ち上がっていたのである。金のしっぽを風に巻き上げられつつハイファが笑った。
「ヨナムがアレだから吃驚したでしょ。輸出品目トップの海産物と並ぶ高級繊維はこの惑星アダでしか作られないんだよ。歴史も古いし、それでこっちの方が発展してる」
「へえ。それでヨナムにもねぇ歓楽街があってマフィアが仕切ってるのか」
応えずフォードは金髪を乱しながら薄笑いを浮かべている。
「得物はもう入ってるの?」
「その筈だ。ただ試射するには遠出して貰うことになる」
「ふうん、試射までさせて貰えるんだ?」
「ドン・ベレッタもお怒りだ。『必ず、思い知らせてやれ』とのことだからな」
水色の目に剣呑な光を溜めてフォードは言い、なるほどマフィア相手の剣客商売をしているだけあるかと、シドはハイファとやり取りする横顔を眺めた。
「んで、どうするユーリー。先にポイントを回るか、それとも試射するか?」
「ポイントには不用意に近づかない方がいいからね、得物も早く見たいし」
「このガンヲタが」
「否定はしないけど、あーたにヲタを云々されたくアリマセン」
言い合う二人にフォードが声を掛けた。
「おい、こっちだ。時間も丁度いい、行くぞ」
踵を返したフォードに二人も続く。フォードは慣れているらしく一機の定期BELの前でチェックパネルを掲げた係員から三人分のチケットを買い、さっさと乗り込んだ。機内は暖かく、シドは過剰に入っていた躰の力が抜けてホッとする。
八時二十分、定期BELはテイクオフ。低速でガレの都市上空に向けて飛翔を始めた。
都市内のビルの屋上停機場を巡りながら、やがて定期BELはガレの郊外に近い十階建て程度の低いビル屋上にランディングした。ここでフォードに促され、三人揃って立ち上がると他の客たちの作る列に並んで降機する。
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