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第4話
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「気持ちの問題だって言ってんだ。カネじゃなくてもいい、一度でいいから別室長ユアン=ガードナーの野郎が土下座して頭を下げたら、溜飲も下がるんだがな」
「いつもそんなこと言ってるけど、貴方はそのリモータを外さないんだよね」
「それは……誓ったからな」
別室にも別室長にもシド自身は何の借りも義理もなく、何が鳴り出そうがこんなモノなど捨ててしまえばそこまでなのだ。それでも外さないのは惚れた弱み、ハイファを独りで危険な別室任務に送り出すことができなくなってしまったのである。
一生、どんなものでも一緒に見ていくと誓ったのだ。
「でも実際、俺たちにばっかり『出張』だ『研修』だって特別勤務が降って湧くんだぞ、みんなもう悟ってて、黙ってくれてるんだから感謝しろよな」
軍機である以上、任務が降ってきても大っぴらにはできない。そのために毎回惑星警察サイドを誤魔化して出掛けるハメになるのである。
秘密を知るのはハイファ本人とシドにヴィンティス課長のみ、故にそういった相談を可能とするために課長の多機能デスクの真ん前がハイファ、その左隣がシドという配置になっていた。
「それでもまだ悟ってない人もいるんだし、大声で喚かないでよね」
「悟ってねぇのは七分署一空気の読めねぇ男のヤマサキくらいだぞ。こいつは別格、一緒にされたらみんな気を悪くするぜ」
と、シドは左隣の席を指す。そこでは午前中の下請けにあぶれたらしい後輩のヤマサキが、愛娘二人の映った3Dポラを眺めてデレデレしていた。
「おっと、早く書かねぇとリンデンバウムのランチを逃しちまう」
「現在時、十時十五分。余裕じゃない?」
「メシ食う前に一巡りしたいからな」
そう言ってシドは再び書類を埋め始める。ハイファも端正な横顔を見たのち倣った。
ストライクされたくないので他課もシドには下請け仕事を回してこない。真夜中の大ストライクを課長以下課員全員が恐れて深夜番も免れていた。おまけにシドは単独時代が長かったので遊撃的な身分とされ、どの班にも属していない。今ではハイファも同じ扱いだ。
するとヒマそうでいいが、事実としてヒマではなかった。シドは外回りに出動するからである。日々管内をくまなく歩くことがシドの日課となっていた。
だからといってシドはヒマな待機から逃げているのでも、ヴィンティス課長に嫌がらせしているのでもない。歩いていなければ見えてこない犯罪から人々を護ろうと、少しでも『間に合おう』としているのだ。
それをハイファも充分に理解して、日々一緒に靴底を磨り減らしているのである。
黙々といそしんで十時四十分頃、二人は全ての書類をFAX形式の捜査戦術コンに流すことができた。自席に戻るとシドは密かに対衝撃ジャケットを羽織る。
何をしているのかと云えばヴィンティス課長の隙を窺っているのだ。
『我が機捜課に外回りなどという仕事はない、大人しく座っていたまえ』
という定型句に続く説教は聞き飽きている。そうしてトイレにでも行くフリをして立ち上がり、おもむろにオートドアに向かうと、いつの間にか消えていたヤマサキとナカムラ、それにケヴィン警部とヨシノ警部が大荷物を運んでくるのに行き合った。
「何ですか、そいつは?」
訊いたが見れば何かは分かる、こもかぶりの一斗樽である。
「この前の新春恒例・各署対抗射撃大会の優勝賞品、あんたら二人の戦利品だ」
ニヤリと笑ってケヴィン警部が言い、デカ部屋隅のホロTVの前、へたれたソファセットのロウテーブルに一斗樽を据えた。皆がわらわらと寄ってくる。
「射撃大会はすごかったっスもんね、シド先輩とハイファスさんの独壇場で」
と、ヤマサキが言うと、バディでシドのポリアカでの先輩マイヤー警部補も頷いた。
「お二人の対決も面白かったですね。結局、雌雄は決しませんでしたが」
「さすがはイヴェントストライカだ、射場にテロリストが乱入するとはなあ」
などとゴーダ主任が言い、またもシドの背をサザエのようなこぶしで小突く。
「痛てて……主任は深夜番明けで、まだ帰らないんですかね?」
「この酒にありつかねぇうちに帰れる訳がねぇだろうが」
どうやら定時の十七時半過ぎまで粘るつもりらしい。いい加減に痛くなってシドはこぶしを避け、ポケットから煙草を出して咥えた。ゴーダ主任とケヴィン警部にヨシノ警部が倣い、シドがオイルライターで四本分に火を点ける。
話が長くなりそうだと見取ってハイファとナカムラが人数分の泥水を調達してきた。
そこにふらりと捜査一課のヘイワード警部補が姿を見せる。捜一は殺しやタタキなどの凶悪犯罪専門セクションだ。機捜は扱った案件を一週間で他課に申し送るが、事件の性質上から捜一とは縁が深く、ヘイワード警部補がうろついていてもおかしくはない。
「おっ、例の優勝賞品か。夕方が楽しみだな、おい」
と、皆に混じってヘイワード警部補も煙草を咥える。ナカムラがすかさず泥水の紙コップを手渡した。礼を言って受け取ったヘイワード警部補のワイシャツはしわしわ、目も赤く無精ヒゲが伸びている。顔に浮いた脂を手で拭い、ワイシャツに擦りつけたのを見て、強烈なオッサン臭を放つ男からハイファが静かに一歩退いた。
「ハイファス先生、そう避けんでくれ。あんたと旦那が年末に持ち込んだタタキ三件の裏取りがまだ終わらん。深夜番明けでも帰れないんだ、もう連勤十四日、ムゴいよなあ」
「また同情誘おうとしてもムダですよ。毎回カードゲームに負けて深夜番背負ってるの、知ってるんですから。いい加減に博打に手を出すの、やめればいいのに」
「まあ、そう堅いこと言うな。博打も人生の潤滑油だぞ」
乱暴なことを言いながら一斗樽を叩いて、ヘイワード警部補はシドにニヤリと笑う。
「人生が博打そのもののシドの旦那と、それに付き合う嫁さんには必要ないだろうがな」
さらりと『嫁さん』口撃され、シドは怯んだ。
居心地の悪さにシドは何となく点けっ放しのホロTVへと目をやる。丁度テラ連邦で大手メディアのRTVがニュースを流していた。トップニュースはネオニューヨークでの略取誘拐事件である。身代金が二十五億クレジットと聞いて、しがない耐乏官品たちは注視した。
「すげぇな、おい。要求する方もする方だぜ」
「でもアパレル最大手のファンリントン株式会社だもん、あっさり支払ったみたいだね」
「あっさり二十五億って、どんなだよ?」
「損をしたのは保険屋さんだよ。会社の腹は痛まないって」
シドとハイファの会話にマイヤー警部補が参加する。
「HRTが間に入ったために、誘拐された会長も無事に戻ってきたようですね」
聞き慣れない言葉に、シドはマイヤー警部補を見て首を傾げた。
「HRTって何ですか?」
これにはハイファが答える。
「ホステージ・レスキュー・チーム、つまり人質救出チームのことだよ。元々は警察所属の特殊部隊だったけど、現在はテラ連邦軍が組織してる」
「ふうん、そんな部隊があるのか。けどハイファ、お前んとこも誘拐には気を付けろよ」
「分かってるよ、ウチだってそのくらいのリスクは織り込み済み」
ハイファス=ファサルートはテラ連邦内でも有数のエネルギー関連会社であるファサルートコーポレーション、通称FCの会長御曹司なのである。ハイファ自身、現社長であってもおかしくない身だが、重責を背負うことは何とか免れた。だが血族の結束も固い社に於いて、名ばかりながら代表取締役専務の肩書きを背負わされているのである。
おまけに云えば四歳の時に夭折した生みの母は、レアメタル産出で有名なセフェロ星系の直系王族だった。母の代で相続放棄したが、一歩間違えば次代のセフェロ王だったという大した出自なのである。
別室員というのは軍機だが、FC専務だということは秘密でも何でもない。
「僕にだって誘拐保険くらい掛けられてるしね」
「だからって独りでふらふら出歩くんじゃねぇぞ」
「はいはい、超優秀な護衛と一緒にいるから大丈夫です」
「そうか」
と言うなりシドは煙草を捨て、
「ハイファ、行くぞ!」
周囲が唖然とするような素早さでシドはオートドアにダッシュをかましていた。聞き耳を立てていたヴィンティス課長も、このタイミングにはついてゆけずに声を掛けるのが遅れる。
皆が笑い『本日中にイヴェントストライカが流血事件を起こすか否か』で博打を始めた中、おもむろにハイファは課長に敬礼し、デカ部屋を出た。
「いつもそんなこと言ってるけど、貴方はそのリモータを外さないんだよね」
「それは……誓ったからな」
別室にも別室長にもシド自身は何の借りも義理もなく、何が鳴り出そうがこんなモノなど捨ててしまえばそこまでなのだ。それでも外さないのは惚れた弱み、ハイファを独りで危険な別室任務に送り出すことができなくなってしまったのである。
一生、どんなものでも一緒に見ていくと誓ったのだ。
「でも実際、俺たちにばっかり『出張』だ『研修』だって特別勤務が降って湧くんだぞ、みんなもう悟ってて、黙ってくれてるんだから感謝しろよな」
軍機である以上、任務が降ってきても大っぴらにはできない。そのために毎回惑星警察サイドを誤魔化して出掛けるハメになるのである。
秘密を知るのはハイファ本人とシドにヴィンティス課長のみ、故にそういった相談を可能とするために課長の多機能デスクの真ん前がハイファ、その左隣がシドという配置になっていた。
「それでもまだ悟ってない人もいるんだし、大声で喚かないでよね」
「悟ってねぇのは七分署一空気の読めねぇ男のヤマサキくらいだぞ。こいつは別格、一緒にされたらみんな気を悪くするぜ」
と、シドは左隣の席を指す。そこでは午前中の下請けにあぶれたらしい後輩のヤマサキが、愛娘二人の映った3Dポラを眺めてデレデレしていた。
「おっと、早く書かねぇとリンデンバウムのランチを逃しちまう」
「現在時、十時十五分。余裕じゃない?」
「メシ食う前に一巡りしたいからな」
そう言ってシドは再び書類を埋め始める。ハイファも端正な横顔を見たのち倣った。
ストライクされたくないので他課もシドには下請け仕事を回してこない。真夜中の大ストライクを課長以下課員全員が恐れて深夜番も免れていた。おまけにシドは単独時代が長かったので遊撃的な身分とされ、どの班にも属していない。今ではハイファも同じ扱いだ。
するとヒマそうでいいが、事実としてヒマではなかった。シドは外回りに出動するからである。日々管内をくまなく歩くことがシドの日課となっていた。
だからといってシドはヒマな待機から逃げているのでも、ヴィンティス課長に嫌がらせしているのでもない。歩いていなければ見えてこない犯罪から人々を護ろうと、少しでも『間に合おう』としているのだ。
それをハイファも充分に理解して、日々一緒に靴底を磨り減らしているのである。
黙々といそしんで十時四十分頃、二人は全ての書類をFAX形式の捜査戦術コンに流すことができた。自席に戻るとシドは密かに対衝撃ジャケットを羽織る。
何をしているのかと云えばヴィンティス課長の隙を窺っているのだ。
『我が機捜課に外回りなどという仕事はない、大人しく座っていたまえ』
という定型句に続く説教は聞き飽きている。そうしてトイレにでも行くフリをして立ち上がり、おもむろにオートドアに向かうと、いつの間にか消えていたヤマサキとナカムラ、それにケヴィン警部とヨシノ警部が大荷物を運んでくるのに行き合った。
「何ですか、そいつは?」
訊いたが見れば何かは分かる、こもかぶりの一斗樽である。
「この前の新春恒例・各署対抗射撃大会の優勝賞品、あんたら二人の戦利品だ」
ニヤリと笑ってケヴィン警部が言い、デカ部屋隅のホロTVの前、へたれたソファセットのロウテーブルに一斗樽を据えた。皆がわらわらと寄ってくる。
「射撃大会はすごかったっスもんね、シド先輩とハイファスさんの独壇場で」
と、ヤマサキが言うと、バディでシドのポリアカでの先輩マイヤー警部補も頷いた。
「お二人の対決も面白かったですね。結局、雌雄は決しませんでしたが」
「さすがはイヴェントストライカだ、射場にテロリストが乱入するとはなあ」
などとゴーダ主任が言い、またもシドの背をサザエのようなこぶしで小突く。
「痛てて……主任は深夜番明けで、まだ帰らないんですかね?」
「この酒にありつかねぇうちに帰れる訳がねぇだろうが」
どうやら定時の十七時半過ぎまで粘るつもりらしい。いい加減に痛くなってシドはこぶしを避け、ポケットから煙草を出して咥えた。ゴーダ主任とケヴィン警部にヨシノ警部が倣い、シドがオイルライターで四本分に火を点ける。
話が長くなりそうだと見取ってハイファとナカムラが人数分の泥水を調達してきた。
そこにふらりと捜査一課のヘイワード警部補が姿を見せる。捜一は殺しやタタキなどの凶悪犯罪専門セクションだ。機捜は扱った案件を一週間で他課に申し送るが、事件の性質上から捜一とは縁が深く、ヘイワード警部補がうろついていてもおかしくはない。
「おっ、例の優勝賞品か。夕方が楽しみだな、おい」
と、皆に混じってヘイワード警部補も煙草を咥える。ナカムラがすかさず泥水の紙コップを手渡した。礼を言って受け取ったヘイワード警部補のワイシャツはしわしわ、目も赤く無精ヒゲが伸びている。顔に浮いた脂を手で拭い、ワイシャツに擦りつけたのを見て、強烈なオッサン臭を放つ男からハイファが静かに一歩退いた。
「ハイファス先生、そう避けんでくれ。あんたと旦那が年末に持ち込んだタタキ三件の裏取りがまだ終わらん。深夜番明けでも帰れないんだ、もう連勤十四日、ムゴいよなあ」
「また同情誘おうとしてもムダですよ。毎回カードゲームに負けて深夜番背負ってるの、知ってるんですから。いい加減に博打に手を出すの、やめればいいのに」
「まあ、そう堅いこと言うな。博打も人生の潤滑油だぞ」
乱暴なことを言いながら一斗樽を叩いて、ヘイワード警部補はシドにニヤリと笑う。
「人生が博打そのもののシドの旦那と、それに付き合う嫁さんには必要ないだろうがな」
さらりと『嫁さん』口撃され、シドは怯んだ。
居心地の悪さにシドは何となく点けっ放しのホロTVへと目をやる。丁度テラ連邦で大手メディアのRTVがニュースを流していた。トップニュースはネオニューヨークでの略取誘拐事件である。身代金が二十五億クレジットと聞いて、しがない耐乏官品たちは注視した。
「すげぇな、おい。要求する方もする方だぜ」
「でもアパレル最大手のファンリントン株式会社だもん、あっさり支払ったみたいだね」
「あっさり二十五億って、どんなだよ?」
「損をしたのは保険屋さんだよ。会社の腹は痛まないって」
シドとハイファの会話にマイヤー警部補が参加する。
「HRTが間に入ったために、誘拐された会長も無事に戻ってきたようですね」
聞き慣れない言葉に、シドはマイヤー警部補を見て首を傾げた。
「HRTって何ですか?」
これにはハイファが答える。
「ホステージ・レスキュー・チーム、つまり人質救出チームのことだよ。元々は警察所属の特殊部隊だったけど、現在はテラ連邦軍が組織してる」
「ふうん、そんな部隊があるのか。けどハイファ、お前んとこも誘拐には気を付けろよ」
「分かってるよ、ウチだってそのくらいのリスクは織り込み済み」
ハイファス=ファサルートはテラ連邦内でも有数のエネルギー関連会社であるファサルートコーポレーション、通称FCの会長御曹司なのである。ハイファ自身、現社長であってもおかしくない身だが、重責を背負うことは何とか免れた。だが血族の結束も固い社に於いて、名ばかりながら代表取締役専務の肩書きを背負わされているのである。
おまけに云えば四歳の時に夭折した生みの母は、レアメタル産出で有名なセフェロ星系の直系王族だった。母の代で相続放棄したが、一歩間違えば次代のセフェロ王だったという大した出自なのである。
別室員というのは軍機だが、FC専務だということは秘密でも何でもない。
「僕にだって誘拐保険くらい掛けられてるしね」
「だからって独りでふらふら出歩くんじゃねぇぞ」
「はいはい、超優秀な護衛と一緒にいるから大丈夫です」
「そうか」
と言うなりシドは煙草を捨て、
「ハイファ、行くぞ!」
周囲が唖然とするような素早さでシドはオートドアにダッシュをかましていた。聞き耳を立てていたヴィンティス課長も、このタイミングにはついてゆけずに声を掛けるのが遅れる。
皆が笑い『本日中にイヴェントストライカが流血事件を起こすか否か』で博打を始めた中、おもむろにハイファは課長に敬礼し、デカ部屋を出た。
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