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第5話
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あとに残るはテラ本星の三十世紀前の大陸大改造計画以前に存在した旧東洋系の容貌と名を持つ新兵とエグい色のカサを持つキノコ、それにスクラップ平原のみ。
「あーらら、怒ってる怒ってる、アズルってば。実は俺なんかよりずっと短気っつーか熱い奴だってこと、上は解かってんのかねー」
新兵にそぐわぬ余裕の態度と呟いた内容は、自分という危険なPK使いがイレギュラーなサイキの爆発的発現予兆を見せたとき、その炎を最小限の被害で吹き消す任務をもアズラエルは負っている事実に依る。
いや、『負っていた』というべきか。
入隊前に志賀が関わった殺人事件の被害者十四名。傷害で病院送り十九名。どれもが志賀のサイキを狙った者たちの末路であり、汎銀河法に於いて正当防衛と認められたものの、あまりに派手な経歴に軍上層部は疑いを捨てきれなかったのだ。
万崎志賀は自ら進んで殺人を犯したがっているのではないか、と。
だが見過ごし敵側に奪われるには惜しくもやはり危険すぎるサイキである。故に一旦は入隊という形で囲い込んだ。しかし誰も見たことのない強大なサイキを遊ばせておくのも惜しい。だから別室という特殊な部署が預かった。
それでも軍上層部は志賀を信用できなかったのだ。
そこで軍という命令あらば遅滞なく殺人をも遂行しなければならない職務の中で、いつ見境を失くすか知れない異能の存在に保険を掛けた訳である。
保険、それはアズラエルの存在自体だった。
幾ら途轍もなく強力なPKを持つ志賀であろうと、見えない場所にリープ可能なアズラエルは簡単に志賀の背後を取れる。すなわち銃弾一発かレーザーの一射で志賀を仕留め得る。他の誰にも遂行できない任務を背負わせた上でのバディ――。
互いにそれを承知した上での四ヶ月だった。そして二週間前の件。
アズラエルのみに下命された緊急任務に志賀は首を突っ込んだ。敵サイキ持ち二名の電子的操作をも可能にするデジタルサイキ、テレパシーの一種であるEシンパスにより通信網が撹乱され、情報が交錯した異様な状況だったとはいえ。
『確定した未来なんかない。今の一瞬先を作るのは自分だ』
そう言って志賀自身すらも否定し、未だ誰にも発現が確認されていないサイキである予知能力に身を焦がしつつユン司令と共に凄惨な戦場に乗り込み、間一髪でアズラエルの命を救ったのも志賀だった。……しかし。
感情に任せたPK使用による数々の破壊・確保対象の筈であった敵の殺害が結果として残った。誰の目から見てもそれは明らかな抗命行為であった。
だがアズラエルは突発的行動に出た志賀を処分しなかった。自分の命を助けられたから恩義を感じて任務放棄した訳では決してない。そんな甘さで別室員は務まらない。けれど事実としてお互いサイキ・武器不使用、素手で殴り合っただけで今に至る。
対外的には現在、自分たちは情報隔離されている。これほどうってつけの星もあるまい。本人不在にして軍法会議にかけられている、待ちの状態だ。棺桶探しなどはおまけもオマケ、馬鹿げた話の出所は予想がついている。多分あの様子ではアズラエルも。
(……あのクソジジィ、覚えてやがれ)
今後は何があっても互いに干渉しないことを言い置いて入隊したのだ。それなのに一方的に協定を反故にした相手に志賀は内心毒づく。尤も協定とは幾ら肉親とはいえ相手の首を絞めながら結ぶものではない。
けれど本当にアズラエルが怒っている理由は、過去に拘ったことでなく現在進行形なのだ。アズラエルの怒りの原因は相も変わらず志賀本人にあった。
彼らのはっきりとした処遇が決まるまでという事実上無期限のこの惑星生活に欠かせない、居住ポッドの前部分にあたる飛行艇を志賀が半壊したのだ。なのに志賀自身は何処吹く風で、それを修復するのはやはり何故かアズラエルなのである。
アズラエルも、そしてユンも付けていた胸のウィングマーク、つまり惑星内空軍飛行徽章が羨ましかったのだ。そこで大気圏内に入った途端にやらかした。
『万崎志賀候補生、飛行訓練いきま~す!』などと。
だが操縦訓練など候補生のカリキュラムになく、当然ながら操縦方法など解らない。そこで操縦機器に触れもせずいきなりPKで急加速・アクロバット飛行をやらかした、その挙げ句がコレである。それなのにここ四日間、ポッドに戻ろうとする度に相棒がねちこくプリプリし始める、その因果関係に志賀は全く気付かないでいた。
そろそろ着いたかと手首のリモータを見る。
リープは殆どタイムラグがなく、亜空間に入るのは一瞬のみだ。しかし距離は約二千五百キロで、超強力なサーチとリープのサイキ発現に大きな差のあるアズラエルには志賀のようなダイレクトリープは不可能。必ず何度かは中継している筈だった。
軍事通信衛星・MCSでさえ上がっていないゴミ溜め惑星だが、半官半民扱いのCSだけはある。そのサテライトと軍用にしてもゴツい別室リモータは同期していた。
危険でない任務の方が少ないという別室だ。このリモータはPK使いの志賀に不要な麻痺レーザーこそ搭載していなかったが、部品ひとつひとつにまで埋められたチップにより文明圏惑星ならばミッシング・イン・アクション、いわゆるMIAと言われる任務中行方不明に陥ってもMCSがチップの発する電波を感知し探して貰いやすいらしい。
携帯コンピュータでもあるリモータだが、中央情報局第二部別室員に与えられるモノはさすがに高機能でハッキングツールとしても使えたりする。しかし志賀のこれに限っては中身は空に近い。能動的に入れたのはゲームアプリ数種だけだ。
そのリモータ表示でアズラエルの現在地を示す緑の輝点がベースに落ち着いたのを見て取り志賀は目を閉じる。元々自分には自覚出来るだけの感応力、テレパスやそれより弱いシンパスもない。意識して心を澄ます。アズラエルからの信号を感じ取るために。
「あーらら、怒ってる怒ってる、アズルってば。実は俺なんかよりずっと短気っつーか熱い奴だってこと、上は解かってんのかねー」
新兵にそぐわぬ余裕の態度と呟いた内容は、自分という危険なPK使いがイレギュラーなサイキの爆発的発現予兆を見せたとき、その炎を最小限の被害で吹き消す任務をもアズラエルは負っている事実に依る。
いや、『負っていた』というべきか。
入隊前に志賀が関わった殺人事件の被害者十四名。傷害で病院送り十九名。どれもが志賀のサイキを狙った者たちの末路であり、汎銀河法に於いて正当防衛と認められたものの、あまりに派手な経歴に軍上層部は疑いを捨てきれなかったのだ。
万崎志賀は自ら進んで殺人を犯したがっているのではないか、と。
だが見過ごし敵側に奪われるには惜しくもやはり危険すぎるサイキである。故に一旦は入隊という形で囲い込んだ。しかし誰も見たことのない強大なサイキを遊ばせておくのも惜しい。だから別室という特殊な部署が預かった。
それでも軍上層部は志賀を信用できなかったのだ。
そこで軍という命令あらば遅滞なく殺人をも遂行しなければならない職務の中で、いつ見境を失くすか知れない異能の存在に保険を掛けた訳である。
保険、それはアズラエルの存在自体だった。
幾ら途轍もなく強力なPKを持つ志賀であろうと、見えない場所にリープ可能なアズラエルは簡単に志賀の背後を取れる。すなわち銃弾一発かレーザーの一射で志賀を仕留め得る。他の誰にも遂行できない任務を背負わせた上でのバディ――。
互いにそれを承知した上での四ヶ月だった。そして二週間前の件。
アズラエルのみに下命された緊急任務に志賀は首を突っ込んだ。敵サイキ持ち二名の電子的操作をも可能にするデジタルサイキ、テレパシーの一種であるEシンパスにより通信網が撹乱され、情報が交錯した異様な状況だったとはいえ。
『確定した未来なんかない。今の一瞬先を作るのは自分だ』
そう言って志賀自身すらも否定し、未だ誰にも発現が確認されていないサイキである予知能力に身を焦がしつつユン司令と共に凄惨な戦場に乗り込み、間一髪でアズラエルの命を救ったのも志賀だった。……しかし。
感情に任せたPK使用による数々の破壊・確保対象の筈であった敵の殺害が結果として残った。誰の目から見てもそれは明らかな抗命行為であった。
だがアズラエルは突発的行動に出た志賀を処分しなかった。自分の命を助けられたから恩義を感じて任務放棄した訳では決してない。そんな甘さで別室員は務まらない。けれど事実としてお互いサイキ・武器不使用、素手で殴り合っただけで今に至る。
対外的には現在、自分たちは情報隔離されている。これほどうってつけの星もあるまい。本人不在にして軍法会議にかけられている、待ちの状態だ。棺桶探しなどはおまけもオマケ、馬鹿げた話の出所は予想がついている。多分あの様子ではアズラエルも。
(……あのクソジジィ、覚えてやがれ)
今後は何があっても互いに干渉しないことを言い置いて入隊したのだ。それなのに一方的に協定を反故にした相手に志賀は内心毒づく。尤も協定とは幾ら肉親とはいえ相手の首を絞めながら結ぶものではない。
けれど本当にアズラエルが怒っている理由は、過去に拘ったことでなく現在進行形なのだ。アズラエルの怒りの原因は相も変わらず志賀本人にあった。
彼らのはっきりとした処遇が決まるまでという事実上無期限のこの惑星生活に欠かせない、居住ポッドの前部分にあたる飛行艇を志賀が半壊したのだ。なのに志賀自身は何処吹く風で、それを修復するのはやはり何故かアズラエルなのである。
アズラエルも、そしてユンも付けていた胸のウィングマーク、つまり惑星内空軍飛行徽章が羨ましかったのだ。そこで大気圏内に入った途端にやらかした。
『万崎志賀候補生、飛行訓練いきま~す!』などと。
だが操縦訓練など候補生のカリキュラムになく、当然ながら操縦方法など解らない。そこで操縦機器に触れもせずいきなりPKで急加速・アクロバット飛行をやらかした、その挙げ句がコレである。それなのにここ四日間、ポッドに戻ろうとする度に相棒がねちこくプリプリし始める、その因果関係に志賀は全く気付かないでいた。
そろそろ着いたかと手首のリモータを見る。
リープは殆どタイムラグがなく、亜空間に入るのは一瞬のみだ。しかし距離は約二千五百キロで、超強力なサーチとリープのサイキ発現に大きな差のあるアズラエルには志賀のようなダイレクトリープは不可能。必ず何度かは中継している筈だった。
軍事通信衛星・MCSでさえ上がっていないゴミ溜め惑星だが、半官半民扱いのCSだけはある。そのサテライトと軍用にしてもゴツい別室リモータは同期していた。
危険でない任務の方が少ないという別室だ。このリモータはPK使いの志賀に不要な麻痺レーザーこそ搭載していなかったが、部品ひとつひとつにまで埋められたチップにより文明圏惑星ならばミッシング・イン・アクション、いわゆるMIAと言われる任務中行方不明に陥ってもMCSがチップの発する電波を感知し探して貰いやすいらしい。
携帯コンピュータでもあるリモータだが、中央情報局第二部別室員に与えられるモノはさすがに高機能でハッキングツールとしても使えたりする。しかし志賀のこれに限っては中身は空に近い。能動的に入れたのはゲームアプリ数種だけだ。
そのリモータ表示でアズラエルの現在地を示す緑の輝点がベースに落ち着いたのを見て取り志賀は目を閉じる。元々自分には自覚出来るだけの感応力、テレパスやそれより弱いシンパスもない。意識して心を澄ます。アズラエルからの信号を感じ取るために。
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