砂中で咲く石Ⅱ~Barter.13~

志賀雅基

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第25話

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 四駆に乗った六人が真っ先に案内されたのは採掘場だ。鉱物の製品化までの流れを順に見せて貰えるらしい。四駆から降りると京哉と霧島はタダの男の子になった。

「すごいすごい、あの重機、大きい!」

 案内役の社員にとっては素直且つ有難い反応だったらしく、日本のアパートほどもある黄色い重機の掘削能力や定格出力、運搬能力等を子細に語り始めた。
 それを京哉に訳してやりながら、霧島は砂漠の白っぽいベージュの砂の下に茶色い土と岩盤が眠っていて、それもかなり湿り気があることに驚いていた。

 説明によるとオアシスを作っている地下水脈の影響で土の層が湿っているとのことで、土や岩盤だけでなくレアメタルは砂にも含有されているという話だった。
 この広大な採掘場がプラーグの未来を担う宝の大地だと思うと、霧島は流れる汗を拭うことも忘れて見入り、京哉はただただ感嘆の言葉を連発した。

 次に四駆で移動したのは土砂が運び込まれる精錬所だった。大きな格納庫のようなカマボコ型をした工場である。
 ここでは三階位置に相当するキャットウォークのような通路から下を眺めた。土砂が赤く熱せられているが、ガラス窓でシールドされた通路は涼しい。
 熱してガラス状になった土砂を細かく砕き、更に鉱物の融点まで熱してレアメタル合金を取り出すという、随分と簡略化された説明を受けた。

 ガラス化して残った物は、熱加工して建材や敷石などに再利用されるという。

 あとはやや小さめの工場で、ここではレアメタル合金からプラチナとパラジウムを取り出す工程を見た。小さめとはいえ、野球の試合ができそうな広さがある。

 採掘場からレアメタルができるまでを見学し、ハミッシュとクーンツの二人は、全てが機械化され意外に雇用創出には繋がらないのではないか、いや、まずは農業人口を増やして食糧自給率問題に対応せねば、などと小声で話し合っていた。

 工場の外に出る前に、案内役の社員が皆の顔を見回した。

「他に御覧になりたいものはございませんか?」

 訊かれても霧島と京哉は初めてきたのだ、見ていないモノの存在など知らない。
 だが京哉はヘリから見た光景を思い出す。

「オアシスの傍の筒みたいな建物は発電所なんですよね?」
「ええ、そうです。原発、小型軽水炉ですね。御覧になりますか?」

 今日は皆がヒマらしく無言の賛成を得て四駆で巨大な円筒形の建物へと移動した。

 軽水炉の建物内に入ると、そこは患者のいない小児病棟のような雰囲気だった。一階の壁はパステルピンクに塗られ、デフォルメした木々や動物が描かれている。特に見るものもなく次に案内された二階は、ペールブルーの壁に花々が描かれていた。

「こちらが制御管理室です」

 開けられた自動ドアの中は、コンピュータ管理のデジタルメータなどが並ぶ研究室のようだった。僅か二人しかいない人間も白衣を着ている。それが女性であれば京哉には眺めるモノもあったのだが、残念ながら両方ムサい男だった。

「ここでは減速材に水を用いていまして水は高速中性子の減速能力が大きく冷却材としても優秀です。燃料にはウラン235を濃縮したものを用いていまして結果プルトニウムが生成されますが、核兵器になり得るプルトニウム239は六十パーセントしか生成されませんので総量としてはごく少なくIAEAからも――」

 白衣の男が慣れない説明をするのを、殆どの者は聞いていなかった。
 小型とはいえ仮にも原発で直接目にするような造りではない。何ら面白くもなく、これでは見学コースから外されていて仕方ないと京哉は納得し皆と一緒に外に出た。

 四駆を停めた向こう側には直径が百五十メートルもありそうな大きなオアシスがあり、周囲には珍しく立派な樹が生えている。オアシスによくある灌木ではないこれは企業側が植樹したのだと社員が自慢げに語った。

 水に対する想いは誰もが抱えているようで何となくオアシスに足を向ける。水面は見事に青空を映し出し、綿飴のような雲をふたつ浮かべていた。散策を始めてしまった客に苦笑しながらも案内役の社員は離れてついてくる。
 少し歩いてオアシスのふちにしゃがんだ京哉は水面に手を入れた。

「やっぱり地下水は冷たいですね。飛び込みたくなるくらい気持ちいい」

 それを聞いて霧島だけでなく、キャラハンも水に片手を突っ込んだ。

「本当に冷たいな。飲めるのか、これ? キャラハン、飲んでみてくれ」
「何で俺が毒見なんだ?」
「アルコールばかりではなく、たまには水でも飲んで肝臓を洗え」

 騒いでいるうちに風が出てきていた。オアシスの畔の軽い砂が巻き上げられて水の表面に浮かび膜を張った。その水面もさざめいて波が岸まで打ち寄せ出す。
 こんな昼間にまさかと地元組も思ったらしいが、気付いた時には風は唸りを上げ始めていた。そう離れていない筈の原発の円筒形さえ見えなくなっている。

 辺りは砂一色、露出した顔に砂粒が痛い。

「砂嵐だ、退避するぞ!」

 布で目だけを出して頭を覆ったハミッシュが叫んだが、離れて歩いていた社員の姿は見つけられなかった。発電所施設に逃げ込んだのかも知れない。

「そちらに約五十メートル、幾つか工場があった筈だ!」

 霧島の大声にハミッシュが応じた。

「なら、そこだ! 迷ってオアシスに嵌らないよう、気を付けろ!」
「痛い痛い痛い、砂が棘みたいですよ!」
「くそう、目の中に入って……」

「砂嵐、砂の女神のお怒りに触れるのも久しぶりだぜ!」
「キャラハン、砂の神サマは男かも知れませんよ!」
「えっ? くそっ、砂漠なんか大嫌いだ~っ!」

「キャラハンを人柱にして埋めてやれば、神の怒りも解けるんじゃないか?」
「霧島の旦那はマジで喧嘩売ってんのか、ああん?」

 はぐれないよう馬鹿なことを叫び合いつつ、やっとのことで小さな工場に辿り着いた。代表してハミッシュがパスカードを機器のスリットに通し、開いた自動ドアからドドドッと皆がなだれ込む。背後で自動ドアが閉まると全員がゲホゲホ咳き込んだ。
 六人揃っているのを確認し洗面所を片隅に見つけた霧島はうがいをして顔を洗う。

「目と口で随分と砂を食ってしまった。いよいよ砂肝が生えてくるかも知れん」

 大真面目に愚痴りつつ霧島は京哉に洗面所を譲る。

 ハンカチでごしごしと顔を拭った霧島は全身の砂を叩き落とそうとして、止めた。
 何の工場かは知らないが、せいぜい機捜の詰め所の三倍くらいしかない工場内はやけに綺麗だったからだ。つるりとした緑色の床は掃除が行き届いている。

 大統領を差し置いて水に縋ってしまったことを悔いた京哉は静かに自戒しながら、霧島と並んで工場内を見渡した。やや涼しく、オイル臭が漂っている。

「ここの規模にしては狭いですよね。何を作ってるんでしょうか?」
「何って――」

 と、霧島は床面の中央で架台に載っているモノを眺め、

「ロケット……か?」

 そんな感じが京哉にもしていた。太いところで直径一メートルくらい、長さは七メートルくらいの、敢えて喩えるなら巨大な鉛筆のようなロケットである。

「こんな所でどうしてロケットなんですかね?」
「知らん。だが企業が独自に小型衛星を打ち上げるのも流行っているらしいからな」

 話す間も砂嵐の唸りが途切れなく続いている。壁も薄そうな小さな工場は至る所がガタガタ音を立てて揺れていた。不安に思う細い神経の持ち主がいないのは幸いだ。
 携帯で誰かと喋っていたクーンツが報告する。

「さっきの社員は発電所に避難しているそうだ。それにしても砂嵐とはな」
「誰か行いの悪い人がいるんじゃ……」

 言いかけた京哉は霧島が『女性の胸』問題を思い出したのを敏感に察知して黙る。
 仲良くなりすぎた二人の間には見えない共有ドライヴができていて、最近は頻繁に考えが流れ込んでしまい、嬉しいやら困るやら複雑なのである。
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