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第26話
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ガタピシ揺れる工場とは裏腹にレズリーが暢気な声を出した。
「大した砂嵐じゃねぇ、昨日の夜と同じだ。三十分もありゃあ収まるだろうよ」
まるでレズリーが予言者のように避難してから三十分で砂嵐はピタリと止む。
皆がぞろぞろと小屋を出てからハミッシュが元通りに自動ドアをロックした。案内人のアダン総合金属の社員も知っていてバレバレだが、そこは気分の問題である。
ビルや工場の建つ敷地内の地面は殆どアスファルトで固められていたが、砂嵐で足元にはかなりの砂が吹き寄せられ浮いていた。
これでは劣化も速いだろうなと思いつつ、霧島はポケットの中に溜まった砂を払い落しながら歩いた。京哉も同様にしている。払う片端から汗で砂がへばりつき、暑い中ではなかなか頭にくる作業だった。
発電所で待ち受けていた社員と四駆に乗りエアコンの風に二人はホッとする。そのままプラーグ第二空港を名乗るレアメタル輸出専門空港へと運ばれた。
元々オンボロのセコハン中型ヘリは砂嵐にも耐えて無事だった。にこやかに社員に見送られてハミッシュは機をテイクオフさせる。帰りは空港管制も干渉せず、ヘリは空港を出るなりまたも対地高度十メートルの超低空飛行を開始した。
「十七時か。パオに着いてもまだ十八時、ここは昼が長いな」
呟いた霧島にアクロバティックな飛行を続けながらハミッシュが振り返る。
「一時間では着かない。寄り道するからな」
「いいからお願いです、前向いて下さい、前!」
「スポークスマン、働け!」
後ろから頭を小突かれたキャラハンは、真面目腐った顔つきで説明した。
「本日、遠方から戻った二名の仲間の歓迎会を催します。その際に元の仲間であり、現在は急進派武装勢力と呼ばれている者たちも参加の意思表明をしておりますので、只今より合流ポイントまで迎えに行くものであります」
「へえ、それが中型ヘリに乗ってきた理由なんですね」
「その通り。男ばかりでムサ苦しいのに定員オーバーのぎゅう詰めは勘弁だからな」
「だがどうしてその急進派は足がないんだ?」
「四駆は持っちゃいるが客人は突然やってきたからな。移動が間に合わない」
「誰だ、予告も無しに大統領閣下を訪ねる不届き者は?」
「何処かの夫婦者らしいですぜ」
「なるほど、夫婦者か、そうか」
「今更そこまで喜ぶか? とにかく今から捜して七、八人をピックアップする」
「十人足らず……それって、もしかして中核メンバーなんでしょうか?」
そこでレズリーが口を出す。
「そんなところだ。徹底抗戦のときに別のグループから参入した仲間で、大攻勢にも参加したが別働隊だったからあんたらは知らない顔じゃねぇかな」
「そっか。徹底抗戦の中でも色んな仲間ができたんですね」
コ・パイのシートで手足を伸ばして緩んだキャラハンが暢気な声を発した。
「あいつらとはやり方の違いで袂を分かったが目指すものは同じなんだ。誰もがこの国のためを思って信じた道を進んでる。酒でも飲んでじっくり話せば何とかなるさ」
「いつも飲んでるキャラハンが親善大使でも務めればいいんじゃないですか?」
「おっ、それはいいな」
「こら、そこの日本人。相棒をおだてないでくれ。ロクな事にならん」
「ロクなことって、まさかその歳でお酒で失敗してるとか?」
「そのまさかだ。民衆が拘置所を押し開けて俺たちを引きずり出してくれた時、前の晩からロキ酒を四本も飲んでいたこの相棒は俺に向けられた他国のメディアのマイクを奪って、危うく放送コードに引っ掛かるレヴェルの歌を披露しそうになった」
「未遂だったんだから、いいだろう?」
「こっちは冷や汗もの、あれが放送されていたら暫定政権は存在しなかったぞ」
ぷいと窓外に目を向けたキャラハンが奏でだした鼻歌は見事に調子っ外れだ。
相変わらず地上十メートルの超低空飛行は続いている。レーダー計器の支援があってもうねる砂丘の上を時速二百キロで飛ばしているのだ。見事な腕という他ない。
これを夜間どころか砂嵐のさなかでも可能とするのは、このプラーグでも殆どいないという。
波打つ砂を飛び越すこと約一時間半で、ハミッシュは高度を取った。
「おかしい。いる筈のルートを辿ってきたが、見当たらない」
「見落としたか、向こうが迷子にでもなったんじゃないのか?」
「迷子はどうかと思うが、皆、地上を注意して見ていてくれ」
言われて霧島と京哉も右側の窓にへばりつく。パイロットも抜群に目はいいが二人も相当なものだ。特に京哉はスナイパーの目で窓外の砂漠を走査し続ける。こちらは何もかも生まれつき頑丈かつ能力も高くできている霧島がハミッシュに訊いた。
「落ち合う場所は決めていなかったのか?」
「たった今、その上空にいる」
機速を落とし高度を上げ全員でベージュの砂漠を舐めるように見つめ続けた。ふと何かが勘に触れて京哉が砂の地面から上空に目を上げる。皆に警告の意味で叫んだ。
「二時の方向、三十度! 小型ヘリがいる!」
パイロット二人が顔を上げた。針先で突いたような飛行物体に目をやる。
「PKFの塗装だな。小型だが偵察を兼ねた武装ヘリだ」
「ありゃあ機動性のいい最新型だな。もしかして殺られたか?」
「殺られても四駆は残る筈だ。探そう」
まもなく地上で一台の四駆が大破しているのをキャラハンが見つけた。降りて中を確かめるのは後回しにして、あと二台あるという四駆を探す。
うねる砂を眺めているうちに、霧島は眠たいような気分になってくる。まだ時差ぼけを引きずっているのかも知れないと思いながら欠伸を噛み殺した。すると京哉がそっと手を叩いてくれる。
今はそれどころではないと承知しているが、噛み殺せない大欠伸をしながら手を叩いてくれる京哉の優しさが愛しくて、その手を引き寄せ抱き締めたくなった。
そのとき背後で破裂音がしてヘリが震えた。
「大した砂嵐じゃねぇ、昨日の夜と同じだ。三十分もありゃあ収まるだろうよ」
まるでレズリーが予言者のように避難してから三十分で砂嵐はピタリと止む。
皆がぞろぞろと小屋を出てからハミッシュが元通りに自動ドアをロックした。案内人のアダン総合金属の社員も知っていてバレバレだが、そこは気分の問題である。
ビルや工場の建つ敷地内の地面は殆どアスファルトで固められていたが、砂嵐で足元にはかなりの砂が吹き寄せられ浮いていた。
これでは劣化も速いだろうなと思いつつ、霧島はポケットの中に溜まった砂を払い落しながら歩いた。京哉も同様にしている。払う片端から汗で砂がへばりつき、暑い中ではなかなか頭にくる作業だった。
発電所で待ち受けていた社員と四駆に乗りエアコンの風に二人はホッとする。そのままプラーグ第二空港を名乗るレアメタル輸出専門空港へと運ばれた。
元々オンボロのセコハン中型ヘリは砂嵐にも耐えて無事だった。にこやかに社員に見送られてハミッシュは機をテイクオフさせる。帰りは空港管制も干渉せず、ヘリは空港を出るなりまたも対地高度十メートルの超低空飛行を開始した。
「十七時か。パオに着いてもまだ十八時、ここは昼が長いな」
呟いた霧島にアクロバティックな飛行を続けながらハミッシュが振り返る。
「一時間では着かない。寄り道するからな」
「いいからお願いです、前向いて下さい、前!」
「スポークスマン、働け!」
後ろから頭を小突かれたキャラハンは、真面目腐った顔つきで説明した。
「本日、遠方から戻った二名の仲間の歓迎会を催します。その際に元の仲間であり、現在は急進派武装勢力と呼ばれている者たちも参加の意思表明をしておりますので、只今より合流ポイントまで迎えに行くものであります」
「へえ、それが中型ヘリに乗ってきた理由なんですね」
「その通り。男ばかりでムサ苦しいのに定員オーバーのぎゅう詰めは勘弁だからな」
「だがどうしてその急進派は足がないんだ?」
「四駆は持っちゃいるが客人は突然やってきたからな。移動が間に合わない」
「誰だ、予告も無しに大統領閣下を訪ねる不届き者は?」
「何処かの夫婦者らしいですぜ」
「なるほど、夫婦者か、そうか」
「今更そこまで喜ぶか? とにかく今から捜して七、八人をピックアップする」
「十人足らず……それって、もしかして中核メンバーなんでしょうか?」
そこでレズリーが口を出す。
「そんなところだ。徹底抗戦のときに別のグループから参入した仲間で、大攻勢にも参加したが別働隊だったからあんたらは知らない顔じゃねぇかな」
「そっか。徹底抗戦の中でも色んな仲間ができたんですね」
コ・パイのシートで手足を伸ばして緩んだキャラハンが暢気な声を発した。
「あいつらとはやり方の違いで袂を分かったが目指すものは同じなんだ。誰もがこの国のためを思って信じた道を進んでる。酒でも飲んでじっくり話せば何とかなるさ」
「いつも飲んでるキャラハンが親善大使でも務めればいいんじゃないですか?」
「おっ、それはいいな」
「こら、そこの日本人。相棒をおだてないでくれ。ロクな事にならん」
「ロクなことって、まさかその歳でお酒で失敗してるとか?」
「そのまさかだ。民衆が拘置所を押し開けて俺たちを引きずり出してくれた時、前の晩からロキ酒を四本も飲んでいたこの相棒は俺に向けられた他国のメディアのマイクを奪って、危うく放送コードに引っ掛かるレヴェルの歌を披露しそうになった」
「未遂だったんだから、いいだろう?」
「こっちは冷や汗もの、あれが放送されていたら暫定政権は存在しなかったぞ」
ぷいと窓外に目を向けたキャラハンが奏でだした鼻歌は見事に調子っ外れだ。
相変わらず地上十メートルの超低空飛行は続いている。レーダー計器の支援があってもうねる砂丘の上を時速二百キロで飛ばしているのだ。見事な腕という他ない。
これを夜間どころか砂嵐のさなかでも可能とするのは、このプラーグでも殆どいないという。
波打つ砂を飛び越すこと約一時間半で、ハミッシュは高度を取った。
「おかしい。いる筈のルートを辿ってきたが、見当たらない」
「見落としたか、向こうが迷子にでもなったんじゃないのか?」
「迷子はどうかと思うが、皆、地上を注意して見ていてくれ」
言われて霧島と京哉も右側の窓にへばりつく。パイロットも抜群に目はいいが二人も相当なものだ。特に京哉はスナイパーの目で窓外の砂漠を走査し続ける。こちらは何もかも生まれつき頑丈かつ能力も高くできている霧島がハミッシュに訊いた。
「落ち合う場所は決めていなかったのか?」
「たった今、その上空にいる」
機速を落とし高度を上げ全員でベージュの砂漠を舐めるように見つめ続けた。ふと何かが勘に触れて京哉が砂の地面から上空に目を上げる。皆に警告の意味で叫んだ。
「二時の方向、三十度! 小型ヘリがいる!」
パイロット二人が顔を上げた。針先で突いたような飛行物体に目をやる。
「PKFの塗装だな。小型だが偵察を兼ねた武装ヘリだ」
「ありゃあ機動性のいい最新型だな。もしかして殺られたか?」
「殺られても四駆は残る筈だ。探そう」
まもなく地上で一台の四駆が大破しているのをキャラハンが見つけた。降りて中を確かめるのは後回しにして、あと二台あるという四駆を探す。
うねる砂を眺めているうちに、霧島は眠たいような気分になってくる。まだ時差ぼけを引きずっているのかも知れないと思いながら欠伸を噛み殺した。すると京哉がそっと手を叩いてくれる。
今はそれどころではないと承知しているが、噛み殺せない大欠伸をしながら手を叩いてくれる京哉の優しさが愛しくて、その手を引き寄せ抱き締めたくなった。
そのとき背後で破裂音がしてヘリが震えた。
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