砂中で咲く石Ⅱ~Barter.13~

志賀雅基

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第37話

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 皆がざわめきクーンツを見た。クーンツは苦渋を体現した表情で宙を睨んでいる。

「クーンツ。あんたはハミッシュを撃つようラッセルに命じたか?」
「いや。だがPKFに急進派の所在を知らせたのは俺だ」

 ざわめきが一層高くなる中、クーンツははっきりと通る声で続けた。

「ラッセルたちがクリフを撃ったのは霧島さん、あんたたちの推察通りだ。俺とラッセルの話を立ち聞きされた。だがハミッシュたちを撃ったのは皆を武力闘争に駆り立てるための奴らの暴走だ。実際あのときは血の気が引いたよ」

「まかり間違ってハミッシュをってしまっても、あんたが大統領代理を名乗れる。どう転んでもラッセルたちにとっては都合が良かった訳だな?」
「そんな称号なんて俺は本当に欲しくない。俺はハミッシュと一緒に……」
「だが渉外担当のあんたは最も企業に近かった。ダーマーに持ち掛けたのか?」

「逆だよ、持ち掛けられたんだ。俺も最初はやりたくなかった。だが『呑まなければ傷が浅いうちにプラーグから撤退する』とまで言われてね。それもダーマーはライネ資源工業とアダン総合金属株式会社にも誘いをかけると。三社とも退くと暫定政権は崩壊する」

 コーヒーを半分ほども一気に飲み、クーンツは深く溜息をつく。

「急進派とのカネの橋渡しから始まって、いつの間にか武器弾薬の密輸にテロ的作戦立案にまで関わるようになっていた。そのうちダーマーもラッセルも調子に乗って、とんでもなくアクティヴなプランを俺に突き付け始めたよ。他国への出張テロ『ロゼ=エヴァンジェリスタ作戦』然り、核ミサイルの『デザート・ローズ計画』然り」

「『ロゼ作戦』は、渉外で国外にもパイプを持った、あんたがお膳立てしたのか?」
「ラッセルにプランを持ち込まれてな。同様に『デザート・ローズ計画』も皆には黙って進めて俺が先進各国との交渉をする手筈だった。核ミサイルはダーマー工業が某国から爆撃機を調達する気らしい。国外は進んでいるものだな」

 引き攣った笑いを浮かべながらクーンツはしみじみと呟いた。
 ロゼのことを知らない皆には、霧島がユーリンたちの名を伏せて説明する。

「元は、その議員連続殺害を阻止するために僕らはプラーグにきたんですよ」
「なるほど、そうだったのか」

 痛みに耐えるような顔つきでハミッシュは僅かに目を伏せた。一方でクーンツは昂然と顔を上げていたが、その目は赤かった。暫定政権とはいえ大統領という孤独な立場で唯一全てを相談できた、自らが指名した副大統領の失脚の瞬間だった。

 追い込まれて仕方なく手を染めたことでも悪事には違いなく、それこそ相談されなかったハミッシュは悔しさと共に更なる孤独を噛み締めていることだろう。

 立ち上がった京哉はカップを片手に窓際に行き煙草を咥えて火を点ける。深々と吸い込んで紫煙を吐き出した。風に砂の匂いを感じ取る。窓辺にも細かい砂が載っていた。霧島も傍に来て寄り添うと煙草を一本要求して咥え、京哉から貰い火する。

 沈黙と懊悩を断ち切って大統領たるハミッシュが口を開いた。

「今は罪を問うより『デザート・ローズ計画』の阻止だ。ダーマー工業プラーグ支社長のクロード=ブラントと電話会談する。全てはそれからだ」

 まずは政治的解決を目指したハミッシュだったがダーマー工業が『デザート・ローズ計画』の存在を認める訳などない。支社が勝手に成せることでもなく、認めた途端に企業としての信用は失墜し、それはこのプラーグという小国に留まらないのだ。

 ものの数分で一蹴され通話は一方的に切られることになった。まるで馬鹿にされた『ごっこ』のような、しかし精一杯の議会は紛糾し結果ハミッシュが口にする。

「……叩くしかないな」
「だめだ」

 バッサリと斬った霧島に皆の視線が集まった。

「あんたらはもう武器を持たない、戦い方をシフトしたと聞いたが違ったか?」
「それでも必要な時には必要な戦い方をする。緊急避難という言葉もあるだろう」
「ハミッシュ。大統領のあんたがそこで折れてどうする? 舐められた挙げ句に脅され、追い詰められて向こうの掌で踊らされたクーンツの二の舞になるぞ」

「二の舞にはならない、我々は折れる訳ではないからな」
「大した覚悟だが外から見れば単なる内輪揉めとしか取られんぞ」
「かつて一緒に戦った仲間であっても手心など加えたりは――」

 遮って京哉が噛んで含めるように言う。

「違いますよ、ハミッシュ。先進諸国が交渉相手に選ぶのは内紛だの内ゲバだのを起こさない、円卓に就くにふさわしい相手だって忍さんは言ってるんです」

 霧島はそれを通訳しながら特別任務のことを考えていた。

 今回の自分たちは前回のように某大国の戦略軍事行動シミュレーションに特化したスパコン『エージェントPAX』などに試され、このプラーグに放り込まれた訳ではないらしい。
 だが結局のところ自分たちを放り込んだ日本政府は、牽いては先進諸国は試しているのかも知れないと思う。

 勿論、霧島と京哉の行動も踏まえた上でプラーグ暫定政権に注目しているのだ。

 この局面に際して暫定政権がどう対応するか試し、その結果によってプラーグを一国と認めるか、先進諸国で奪い合い地を切り取り合う、ただのレアメタルの産地とするか。

 今回はあくまで霧島と京哉は自分たちの意志で再びプラーグの地を踏んだ。

 だが任務を下した『上』は『ロゼ作戦』と『デザート・ローズ計画』を混同していたのではない。おそらく最初から『デザート・ローズ計画』を阻止するのが目的だった。核に対するアレルギーはどの国も持っているが日本は特にそれが強い。

 そして『デザート・ローズ計画』阻止が先か暫定政権の観察任務が先か、両立したものかは分からないが、全て知った暫定政権がどう動くのか、または動かないのかを自分たち二人を通して観察するために送り込まれたのだと霧島の勘は囁いていた。

 レアメタルに涎を垂らす先進諸国と、それに名を連ねる日本政府の思惑が今回の二人の行動予測シミュレーションとも言える。
 暫定政権の仲間でありながら日本政府の意向から外れることのできない二人が、実際その目に映したものは誤魔化しようもないからだ。

 自ら選んだ副大統領であるアーサー=クーンツを、大統領のハミッシュ=マクギャリーはどう処断するのか。泣いて馬謖ばしょくを斬ることができるのか。
 更にはこの窮地に至ってどのように最適解を得るのだろうかと、国連に加盟する先進諸国は子細に分析を重ねている、そんな風に感じていた。

 だからこそハミッシュたちにここで間違えさせてはならない。
 この試験に受からねば国際社会を前に、吹けば飛ぶような暫定政権に明日はない。

 コーヒーと煙草を交互に口に運びながらもののついでのように霧島は言った。

「私たちが叩く。行って核ミサイルを壊してくる。それでいいだろう」

 京哉を除くその場にいた全員が絶句し次に噛みつくように文句を言い、そして自分も行くと懇願した。クーンツまでもが既に自分は暫定政権の人間ではないと主張し、ダーマー工業へのアタックを申し出る。皆の目の色を変えての言い分はいつまでも止まない。

 それらを柳に風と受け流し霧島はクーンツに訊いた。

「先人が武器弾薬を溜め込んだ基地跡のデポだったか、そこはもう空っぽなのか?」
「国連への徹底抗戦を終える時に皆であそこに武器弾薬を封印した。急進派が多少は持ち出してはいるだろうが、結局奴らはダーマーからの資金で密輸した最新火器や、ダーマーの供与した武器ばかり使っていた。だからある程度は残っている筈だ」

「だそうだぞ、京哉」
「ふうん。明るいうちに出掛けたいですね」
「暑そうだが仕方ない。昼飯を食ったら出掛けよう。前回のGPS座標で場所は分かるしな」
「そうですね。あ、みんなの小型ヘリ、一機貸して下さい」

 肩の力が抜けた京哉の物言いに対し、ジョセは涙を浮かべ、半ば縋っていた。

「どうして? 何で貴方たちがそこまで……」

 霧島と京哉は顔を見合わせる。そして二人は皆を見渡し頷いた。

「それは、仲間だからに決まってるじゃありませんか」
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