砂中で咲く石Ⅱ~Barter.13~

志賀雅基

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第38話

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「くそう、暑すぎるぞ。誰だ、明るいうちなどと言い出した奴は!」
「はあい、僕でーす。僕のせいにして涼しくなるなら、幾らでもどうぞ。……暑い」

 いにしえのプラーグ国軍の基地跡・通称デポで霧島と京哉はへばりかけていた。

 初っ端からつまずいたと認めるのは癪だったが、スコップで幾ら掘り返せども武器弾薬は出てこなかった。反政府武装勢力に利用されるのを恐れ当時の軍部が完膚無きまでに破壊してから去った跡地である。殆どが砂に埋もれ、なおかつ広大だ。

 以前二人もここには二回来ていた。だが武器弾薬を掘ったのは二回とも夜中で、ヘリの前照灯や焚き火の明かりで掘ったのだ、慣れた仲間の指示の許に。

「死ぬぞ。これは死ぬぞ。本気で拙い。あと一時間で干物になる方に百ドルだ」
「僕は千ドルでもいいです。水筒、一人二つでも足らなかったかも」
「水を飲んだら、これも囓っておけ」

 投げ渡されたピンク色の岩塩を恨めしそうに眺めてから京哉は舐める。余計に喉が渇きそうで、ここまで干上がると塩分を摂っていいのか悪いのか判断がつかない。
 ポケットに岩塩を収めてから、だるい腕でそこら中にスコップを突き立ててみる。

「せめてチェーンガンの三十ミリ榴弾だけでも欲しいよう」
「この辺りだと思ったのだがな、くそう」
「大見得切っといて、ここでリタイアは、かなり格好悪いですよね」
「言うな、探せ。……と、何かあったぞ!」

 喜び勇んで掘り起こしてみるとそれはスチールロッカーだった。開けてみる。中に入っていたのは迫撃砲の砲身と支持架に底盤だった。こんな大モノは二人には使えない。尤も砲弾もなかった。落胆しすぎて二人は眩暈に襲われる。

 次に京哉のスコップに何かが当たったと思えば砂の花だった。ここにもレアメタルが眠っていると思えば感慨深くもあったが、今は思いに耽っている場合ではない。

 デポに到着し三時間が経過すると二人は真剣に命の危機を感じ始めた。霧島はサラサラの砂を掘って本気で掩蔽壕を作ろうとし、京哉はボーッと空を仰ぎ呆けていた。

 二人とも小型ヘリに一旦退避するという思考すら働かない。そこで京哉が叫ぶ。

「太陽から二時の方向六十度にヘリ!」
「ラッセルたちか!?」
「分かりません、こっちに来ます!」

 乗ってきた小型ヘリからは随分離れてしまっていた。咄嗟に二人は掘り返した砂山の陰に身を伏せる。霧島は京哉の上に覆い被さった。
 二人して顔だけ上げて様子を窺うと飛来したヘリは何の迷いもなく霧島たちの乗ってきた小型ヘリの隣にランディングする。

「あのう、あの小型ヘリって……」
「見たことがあるな。それもごく最近だ」

 降りてきたのはスコップを担いだ八人もの男たちだった。これだけの人数を小型ヘリに詰め込むのはさぞかし難儀だったろうと思われた。吐き出された男たちは一様に布を頭に巻きつけ僅かに目だけを出している。

 その一団は迷いなく砂を踏み締め進むとデポの片隅を掘り返し始めた。二人は顔を見合わせて立ち上がり砂をはたいて男たちに近づく。

「ハミッシュ。何故出てきた?」
「俺はハミッシュじゃない。反急進派武装戦線のAだ」
「何を言っているんだ? 武器弾薬はそこか、レズリー」
「俺はレズリーなんかじゃねぇ。反急進派武装戦線のBだ」

「もしかして残りの人もキャラハンにアメディオ、バイヨルにジョナサン、クレリーにバルビエじゃなく反急進派武装戦線の以下CDEFGHだっていうんですかね?」

 首を傾げた京哉に皆が黙って頷いた。反急進派武装戦線のCが腰の水筒を手にしてキャップを開け、布をずらしてアルコール臭のする液体をグビリと飲んだ。

 即席武装戦線のメンバーはさっさと大きな箱を三つ掘り起こすと、中のひとつから某大国も使用していた旧いM14バトルライフルを取り出した。
 次の箱には7.62ミリ弾とスペアマガジンが詰まっていた。三つ目には霧島と京哉が探していた、ヘリ搭載チェーンガン用三十ミリ榴弾が薬莢を煌めかせて現れる。水分不足で萎みながらも京哉は喜んだ。

「わーい、残ってた! それに7.62ミリはラッキィですよ。前回来た時は皆が殆ど5.56ミリNATO弾使用銃でしたからね。殺したい訳じゃないけれど、本気で制圧する以上マン・ストッピングパワーの違いは大きいですよ、射程距離も」

 二機の小型ヘリを移動させ三十ミリ榴弾を満タンにするまで男たちは無言だった。フルロードすると、ようやくAことハミッシュが自発的に発言する。

「ヘリパイは俺とキャラハン……いや、Cがそれぞれ分かれた方がいいだろう。敵は今朝の軍用ヘリ以外に空戦能力を持っているかも知れん」

 いい加減に馬鹿馬鹿しくなった霧島は大欠伸をした。滲んだ涙を手の甲で拭く。

「ドッグファイトは任せた。それより、もっと景気の良さそうな得物はないのか?」
「残念だがこれが最後の武器弾薬だ」
「ふん。ならばさっさと私たちを近場に降ろしてくれ」
「分かっている。可能な限り機を近づけよう」

「何はともあれ、核ミサイルの破壊が最優先ですからね。余裕があれば三棟の工場にチェーンガンを撃ち込んで欲しいところですけど。まだあの工場にミサイル本体が置かれているなら常識的に考えて核関連物質は詰め込まれていない訳ですし」

「それと言っておくが急進派はいつもの手、街か村から人間を集めている可能性もある。微々たるカネで雇われた何も知らない人間だ。そういった人間に対処する覚悟も要るぞ。武器には事欠かん、何せダーマーは武器メーカーだからな」

「それら一般人に関してはできる限り善処して欲しい」
「欲張りすぎると失敗するぞ」
「無理にとは言わない。第一に核ミサイル破壊。同じくこの全員が在るべき処に還るのが至上目的だ。皆くれぐれも気を付けてくれ。もう誰も失いたくない。他には?」
「クーンツはどうした?」

 その霧島の問いに一瞬、皆が緊張した。ハミッシュが硬い声を出す。

「……奴は、自ら砂漠流の制裁を受けると申し出た」
「砂漠流って……水筒ひとつで砂漠のド真ん中に放り出す、あれのことか?」
「放り出した訳ではないが、奴の意志は固くて誰も……独りで出て行ったんだ」

 霧島も京哉もこれには二の句が継げなかった。引きずり縛り上げてでも止めようとすれば止められる。なのに裏切り者に対する掟がクーンツを行かせてしまった。
 野蛮で未開だと言ってしまえばそこまでだが、まだそんな風習を守ってこそ、この厳しい土地で人々は生き抜いていけるのかも知れなかった。

 だからといって、とても放ってはおけない。

「終わったら捜しに行くのだろうな?」
「無論だ。早く終わらせよう。行くぞ」

 言われずとも二人はヘリに飛び乗った。暑いというより痛くて堪らない。機内を満たす文明の風で灼けた肌を冷まし、水筒の水をがぶ飲みした。

 ハミッシュ機はコ・パイロットとしてジョナサンが乗り、あとはバイヨルにクレリー、バルビエが乗り込んだ。キャラハン機のコ・パイは京哉で後部に霧島とレズリーにアメディオだ。

「さあて。ハミッシュ、いや、Aに勝るとも劣らぬ俺様の操縦をとくと御覧あれ」
「いいからキャラハン、出して下さい。置いてきぼりですよ」
「分かったよ、鳴海くん。おい、霧島さん、あんたの嫁さん五月蠅いぞ」
「一身に浴びてくれる奴がいて、助かっている」

「それよりキャラハン、ここからも一時間くらいですか?」
「ピンポーン、十八時半着の予定。コ・パイもしっかり索敵、願いますぜ」
「そんなことはセオリーでしょう。ほらほら、早く高度取って下さい」

 水筒の水をグビグビ飲んで口元を袖で拭った霧島は京哉に携帯を振って見せる。

「ところで京哉、一ノ瀬本部長にメールで現状報告したからな」
「返事は何ですって?」
「何もない」
「何ですそれは。本っ当にいい加減ですね」
「人が砂まみれで熱死しかけたというのにな。土産に砂でも持って帰ってやるか」
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