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第39話
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渇き死には免れ、文句を垂れながら霧島はふたつ目の水筒にも口をつける。京哉は機内の皆の了解を取り煙草も咥えた。エアコンで新鮮な空気が循環供給される以上、誰も文句は言わない。
それどころか煙草がないと京哉は稼働せず、京哉が稼働しなければ霧島も稼働しないということを既に皆が承知していた。
「そういえばキャラハン、ラッセルたちの急進派にパイロットはいるのか?」
「デリクがパイロット、ハーマンがコ・パイのコンビだ」
「腕はどうだ?」
「正直、舐めてはかかれない。けど俺様には劣るだろうな」
「俺様の根拠は何なんだ?」
操縦中にも関わらず、キャラハンは後部座席を振り向いてニヤリと笑った。
「俺は撃墜されたことがない。だがあいつらは墜とされて一度ヘリをやられてる」
「ふうん。ハミッシュの腕は相当だからな」
「あんたらは俺をサンドバッグにするために、この国にきたのか?」
「この国で砂袋ほど不要なものはないだろう」
「うえーん、イジメだ、学級会で議題にしてやる!」
「でも自殺してからですよね、センセイが謝るのは」
「おい、霧島さん。このブラックな嫁さんをどうにかしろよ」
「もう少し矢面に立っていてくれ。私は今、忙しい」
のんびり耳をかっぽじっている霧島の傍で、レズリーとアメディオはげらげら笑っている。これから死の商人にカチコミを掛けるとは思えない緩み方だった。
それでも十八時を十五分ほど過ぎると皆が静かになる。誰もが神経を尖らせて窓外に目をやっていた。敵に発見されるより早く敵を発見し、デッドシックスなる敵機背後、時計の文字盤に喩えて六時に位置した者が空中戦では勝ちなのだ。
「対空砲火が無いだけマシと言えるか」
呟いたキャラハンも布から出した目は真剣、ヘリが三機に見えてはいないらしい。
「けどラッセルたちはRPG持ってましたよ。高度下げたら気を付けて」
「そいつがあったか。モノによっては最大射程が一キロ、ふざけんなよ……」
「レーダーやIRホーミングじゃなければそんな距離、滅多に当たりませんから」
「レーダー追尾か赤外線感知か。鳴海くんは詳しい……って、あんた軍人だっけか」
「ううん、僕と忍さんは警察屋さんです」
「国連の役人じゃないのか。複雑みたいで……っと、ビーパターンに入る」
先行するハミッシュ機が蜜蜂のように8の字を描きながら降下してゆく、偵察飛行に移っていた。狙われやすい単調な降下を避けて、それにキャラハンも倣うようだ。
もう遠くに採掘場と近辺の建物は見えている。こんな時でも青空を映した大鏡のようなオアシスが美しい。意識して目を奪われないようヘリパイ組は神経を研ぎ澄ませていた。
「十時の方向、俯角三十度、軍用ヘリ!」
鋭い京哉の声が聞こえたかのようにハミッシュ機が反応している。敵より高度を取って位置エネルギーを持っている今がチャンス、キャラハンもハミッシュ機に同調して向かい合うように機動する。
とっくにパイロットたちは敵を視認、挟撃する形で両機はパワーダイヴを敢行、自由落下速度を越えた推力による降下で軍用ヘリに突っ込んだ。
「鳴海くん、ハミッシュと無線通信をオープン!」
「ラジャー。キャラハン、トリガを僕に!」
「外すなよ!」
「誰に言ってるんですか!」
高みから軍用ヘリに仕掛けたのはハミッシュが先、アタックして軍用ヘリに幾つかの穴を開ける。逃れる隙を与えずキャラハン、クロスアタック。タイミングをコンマ一秒と外さず京哉はチェーンガンのレリーズを押していた。こちらも一連射が命中。
だが半ば機体を引き裂かれながらも、奇跡的に軍用ヘリは浮いている。
《……キャラハン、リアタック》
「オーライ、相棒」
キャラハンは操縦桿を引き、空中をスイングするように機体を上昇させる。単調な機動はRPGの餌食、弧を描くように高度を稼いだ。さすがにバディというべきか機体の位置は逆ながら、数秒後にはピタリと先程までと同じ体勢に持ち込んでいる。
今度はキャラハンが先にリアタックし、京哉の二連射を軍用ヘリはまともに食らった。ハミッシュ機はリアタックすると見せかけ弾の温存、チェーンガンを撃たない。
既に軍用ヘリは反重力装置に致命的な損傷を負ったか、採掘場の敷地外の砂漠に墜ちていった。
「このまま核ミサイルとやらにチェーンガン撃ち込んで帰るか?」
「暢気に言ってないで前見て下さい、前!」
ふいに何かがキャノピすれすれに飛び去った。RPGのロケット砲弾だ。
「危ないなあ、まともに食らうとこだったじゃないですか。ちゃんと見てて下さい」
「へいへい。おっ、また撃ちやがった!」
「地上に下りたら最大の脅威ですよ、まとめて殺られちゃうかも」
「できれば潰せって? おい、霧島さん。あんたの嫁さん――」
「いいから避ける、撃てる体勢に持ち込む、ランディングして僕らを降ろす!」
「キャラハン、一瞬でいい、ハミッシュに援護させて私たちを降ろせ」
霧島の要請にキャラハンはごくりと唾を飲み込んだ。対空砲火なら弾筋が読めるが人の手によるRPGの方が脅威である。それでもやらねばならない。
《多少の周囲への被害は覚悟の上だ、アダン総合金属とライネ資源工業、ついでにダーマー工業にも退避勧告を出してある。地上掃射する。隙を見て乗員を降ろせ》
「分かったよ、相棒」
低空から掃射するためハミッシュは機体を降下させながら錐もみに入った。軍用小型ヘリならではの軽快な機動で地上からの狙いをつけさせない。
「うわ、あれじゃ中の奴らの胃袋はひっくり返ってるだろうぜ」
喋りながらもキャラハンは小刻みに機体を水平移動させ徐々に降下もさせてゆく。
「僚機、地上掃射……いくぞ」
殆ど自由落下のような機動に皆が無重力を味わった。数十メートル真下がオアシスの大鏡というところまで思い切りよくキャラハンは機を落としている。
そこからジグザグに鋭角を描いて照準を付けさせず更に降下、オアシスの畔に機体を滑らせた。
「出ろ、今だ、行け!」
霧島はスライドドアを、京哉はコクピットのドアを開けて二メートルほどの高さを飛び降りた。這って転がると、あとからM14を抱えたレズリーとアメディオが落ちてくるすぐさまヘリは上昇しロールさせた勢いでドアを閉めるという器用な芸を見せてあっという間に小さくなっていった。
それどころか煙草がないと京哉は稼働せず、京哉が稼働しなければ霧島も稼働しないということを既に皆が承知していた。
「そういえばキャラハン、ラッセルたちの急進派にパイロットはいるのか?」
「デリクがパイロット、ハーマンがコ・パイのコンビだ」
「腕はどうだ?」
「正直、舐めてはかかれない。けど俺様には劣るだろうな」
「俺様の根拠は何なんだ?」
操縦中にも関わらず、キャラハンは後部座席を振り向いてニヤリと笑った。
「俺は撃墜されたことがない。だがあいつらは墜とされて一度ヘリをやられてる」
「ふうん。ハミッシュの腕は相当だからな」
「あんたらは俺をサンドバッグにするために、この国にきたのか?」
「この国で砂袋ほど不要なものはないだろう」
「うえーん、イジメだ、学級会で議題にしてやる!」
「でも自殺してからですよね、センセイが謝るのは」
「おい、霧島さん。このブラックな嫁さんをどうにかしろよ」
「もう少し矢面に立っていてくれ。私は今、忙しい」
のんびり耳をかっぽじっている霧島の傍で、レズリーとアメディオはげらげら笑っている。これから死の商人にカチコミを掛けるとは思えない緩み方だった。
それでも十八時を十五分ほど過ぎると皆が静かになる。誰もが神経を尖らせて窓外に目をやっていた。敵に発見されるより早く敵を発見し、デッドシックスなる敵機背後、時計の文字盤に喩えて六時に位置した者が空中戦では勝ちなのだ。
「対空砲火が無いだけマシと言えるか」
呟いたキャラハンも布から出した目は真剣、ヘリが三機に見えてはいないらしい。
「けどラッセルたちはRPG持ってましたよ。高度下げたら気を付けて」
「そいつがあったか。モノによっては最大射程が一キロ、ふざけんなよ……」
「レーダーやIRホーミングじゃなければそんな距離、滅多に当たりませんから」
「レーダー追尾か赤外線感知か。鳴海くんは詳しい……って、あんた軍人だっけか」
「ううん、僕と忍さんは警察屋さんです」
「国連の役人じゃないのか。複雑みたいで……っと、ビーパターンに入る」
先行するハミッシュ機が蜜蜂のように8の字を描きながら降下してゆく、偵察飛行に移っていた。狙われやすい単調な降下を避けて、それにキャラハンも倣うようだ。
もう遠くに採掘場と近辺の建物は見えている。こんな時でも青空を映した大鏡のようなオアシスが美しい。意識して目を奪われないようヘリパイ組は神経を研ぎ澄ませていた。
「十時の方向、俯角三十度、軍用ヘリ!」
鋭い京哉の声が聞こえたかのようにハミッシュ機が反応している。敵より高度を取って位置エネルギーを持っている今がチャンス、キャラハンもハミッシュ機に同調して向かい合うように機動する。
とっくにパイロットたちは敵を視認、挟撃する形で両機はパワーダイヴを敢行、自由落下速度を越えた推力による降下で軍用ヘリに突っ込んだ。
「鳴海くん、ハミッシュと無線通信をオープン!」
「ラジャー。キャラハン、トリガを僕に!」
「外すなよ!」
「誰に言ってるんですか!」
高みから軍用ヘリに仕掛けたのはハミッシュが先、アタックして軍用ヘリに幾つかの穴を開ける。逃れる隙を与えずキャラハン、クロスアタック。タイミングをコンマ一秒と外さず京哉はチェーンガンのレリーズを押していた。こちらも一連射が命中。
だが半ば機体を引き裂かれながらも、奇跡的に軍用ヘリは浮いている。
《……キャラハン、リアタック》
「オーライ、相棒」
キャラハンは操縦桿を引き、空中をスイングするように機体を上昇させる。単調な機動はRPGの餌食、弧を描くように高度を稼いだ。さすがにバディというべきか機体の位置は逆ながら、数秒後にはピタリと先程までと同じ体勢に持ち込んでいる。
今度はキャラハンが先にリアタックし、京哉の二連射を軍用ヘリはまともに食らった。ハミッシュ機はリアタックすると見せかけ弾の温存、チェーンガンを撃たない。
既に軍用ヘリは反重力装置に致命的な損傷を負ったか、採掘場の敷地外の砂漠に墜ちていった。
「このまま核ミサイルとやらにチェーンガン撃ち込んで帰るか?」
「暢気に言ってないで前見て下さい、前!」
ふいに何かがキャノピすれすれに飛び去った。RPGのロケット砲弾だ。
「危ないなあ、まともに食らうとこだったじゃないですか。ちゃんと見てて下さい」
「へいへい。おっ、また撃ちやがった!」
「地上に下りたら最大の脅威ですよ、まとめて殺られちゃうかも」
「できれば潰せって? おい、霧島さん。あんたの嫁さん――」
「いいから避ける、撃てる体勢に持ち込む、ランディングして僕らを降ろす!」
「キャラハン、一瞬でいい、ハミッシュに援護させて私たちを降ろせ」
霧島の要請にキャラハンはごくりと唾を飲み込んだ。対空砲火なら弾筋が読めるが人の手によるRPGの方が脅威である。それでもやらねばならない。
《多少の周囲への被害は覚悟の上だ、アダン総合金属とライネ資源工業、ついでにダーマー工業にも退避勧告を出してある。地上掃射する。隙を見て乗員を降ろせ》
「分かったよ、相棒」
低空から掃射するためハミッシュは機体を降下させながら錐もみに入った。軍用小型ヘリならではの軽快な機動で地上からの狙いをつけさせない。
「うわ、あれじゃ中の奴らの胃袋はひっくり返ってるだろうぜ」
喋りながらもキャラハンは小刻みに機体を水平移動させ徐々に降下もさせてゆく。
「僚機、地上掃射……いくぞ」
殆ど自由落下のような機動に皆が無重力を味わった。数十メートル真下がオアシスの大鏡というところまで思い切りよくキャラハンは機を落としている。
そこからジグザグに鋭角を描いて照準を付けさせず更に降下、オアシスの畔に機体を滑らせた。
「出ろ、今だ、行け!」
霧島はスライドドアを、京哉はコクピットのドアを開けて二メートルほどの高さを飛び降りた。這って転がると、あとからM14を抱えたレズリーとアメディオが落ちてくるすぐさまヘリは上昇しロールさせた勢いでドアを閉めるという器用な芸を見せてあっという間に小さくなっていった。
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