砂中で咲く石Ⅱ~Barter.13~

志賀雅基

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第40話

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 次はハミッシュ機の乗員の番だ。
 軽くなった機体で囮を演じつつキャラハンは降下しながら地上を掃射し切り裂いてゆく。吊っていた糸が切れたようにハミッシュ機は垂直降下、見事に同じ位置にバイヨルとクレリーが降ってきた。あとはバルビエとジョナサンだったが降ろさず機は急上昇する。

 何故かと皆が空を仰ぐと新手、それも攻撃ヘリが現れハミッシュ機に突っ込んできていた。伏せたまま僅か上空を見つめてから京哉は同じく伏せた仲間を笑って見る。

「さてと、ヘリはヘリに任せて。ここに集った精鋭は六名ですね」

 借り物のM14を手にして二十発マガジンをそれぞれが幾つかを点検した。自前のシグ・ザウエルP226を持つ分、マガジンが少ない霧島が状況説明し始める。

「あの大きな筒状の建物が発電所だ。まずはこのオアシスの外周を約百七十メートル迂回する。敵の張っている筒の前を通り過ぎてから右に約五十メートル。あそこに三棟並んで見える緑の屋根の工場が全てアタック地点となる。いいな、内部のミサイルを必ず壊す」

 霧島の言葉に京哉は前方の発電所を眺める。

「筒の前にかなり敵がいますね、二十は固いかな。まあ銃の弾丸程度で原発は壊れないでしょうけど。オアシスを逆回りで約三百メートルの別ルートもありますよ?」
「六人しかいないんだ、挟撃は無理だな」
「忍さんは、どっちがいいですか?」
「近い方にしておこう、私は暑くて疲れた」

 異論はないらしく全員が小走りを始めた。七、八十メートル走った辺りでオアシスの畔に植えられた樹が鋭い音を立てだす。銃弾だ。オアシスの直径は約百五十メートルでM14の皆はとっくに有効射程内だ。

 ライフルが足らず、スナイパーのクセして遠慮した京哉のシグ・ザウエルP226は未だ撃てない。皆が走って近づいては樹の陰から撃ち返し出す。
 霧島はM14で狙い一人、また一人と撃ち倒しながらも京哉を自分の陰に入れていた。喩えミサイル発射で先進諸国の国土が少々欠けようが京哉の方が大事なのだ。

 当の京哉は先を急ぐ。通常のハンドガンの有効射程である五十メートルを待たず七十メートルに近づいたかどうかという辺りで初弾を撃ち出した。当然ながら仰角発射で曲射になるが確実に当てていて霧島は京哉の才能に空恐ろしいものを感じる。

 それはともかく無闇に殺したいのではない、急進派にカネで雇われたり乗せられただけの街や村の人々がいるかも知れないのだ。彼らは殺されるほどの悪事を働いた訳ではない。
 などと霧島が考えていると目前の大木が幹を弾けさせ、枝葉を大揺れに揺らしながらこちらに倒れてきた。慌てて京哉を抱いて砂の地面に身を投げ出す。

「RPGだ、伏せろ!」

 叫んだ直後に信管が作動、鋭利な金属片と木っ端を辺りに撒き散らした。一瞥して皆の無事を確認しロケット弾の発射筒が一基であることを祈りつつ次弾装填までの僅かな間に霧島と京哉はオアシスの畔を駆け抜ける。ふと気付いて霧島は足を止めた。

「わあ、急に止まらないで下さい!」

 ジャケットの背にぶつかって京哉が顔を押さえる。構わず細い躰を抱き寄せて霧島は傍の大木の陰に飛び込んだ。勢い走りすぎ足元は既にアスファルトで固められていて、この大木が最後の掩蔽物だった。その先、発電所の前には盾の如く男たちが並んでいる。

 見たものを一瞬で映像記憶に焼き付けた京哉が霧島を見上げた。

「十二人もいましたよ」
「厳しいな。フルオートでぶちかます。それからだ」

 霧島はM14のセレクタレバーを連射モードにセット、京哉と呼吸を合わせた。

「三、二、一、ファイア!」

 飛び出すなり的の大きい腹辺りを狙ってM14で薙ぐ。酷い反動を力で抑え込み、トリガを引くこと約三秒。それで男たちの殆どが呻いて倒れた。
 京哉も残った者の腹に速射でダブルタップを撃ち込んでいる。弾薬の尽きたM14を捨て、霧島も自前のシグ・ザウエルに持ち替えた。

「ふう、取り敢えずは第一段階クリアですね」
「本番の破壊工作サボタージュも、簡単にはさせて貰えそうにはないが……っと」

 発電所の陰から銃口を突き出した男に速射で二発の九ミリパラを浴びせる。吹っ飛んで男は壁の向こうに消えた。それで見える範囲の敵はいなくなる。
 ここまで倒れた人間のことごとくが薄いグレイの制服姿だった。急進派でも一般人でもなくダーマーだ。物騒な社員らを眺めているとレズリーたちも追い付いてくる。

「何だ、お前さんたちのあとは楽でいいな」

 笑いつつ大男のレズリーは装填されて発射寸前のRPG発射筒を鹵獲した。担ぎ上げると異様に似合う。その姿に旧政権への大攻勢を思い出しながら霧島は思案した。

「ここから先は殆ど掩蔽物がない。どうするかだ」

 霧島と京哉は抜群の視力でミサイル工場前にも複数の人影があったのを、オアシス越しに確認していた。そこで配置図を見たが裏に回っても掩蔽物がないのは同様だ。

「じゃあM14の残弾の多い二人、悪いけど戻って援護してくれますか?」

 バイヨルとクレリーがスペアマガジン二本を残していて、オアシス越しに援護をすることになった。カタログスペックながらM14の有効射程は四百六十メートルだ。

「位置に着いたら連絡して下さいね」
「私たちを撃たないと約束してくれ」

 軍隊式の挙手敬礼を真似した二人は走って行った。

「二人任せにはできませんよね。様子を見て少しでも減らしておかなきゃ」

 レズリーとアメディオに後方警戒をさせ、銃を構えた霧島と京哉はオアシスの畔のアスファルトの小径をゆるゆると先に進んだ。砂の浮いたアスファルトの地面をしゃがみこむようにして歩く。次の挙動が取りづらい匍匐はしない。

 京哉をハンドサインで押し留めた霧島は気配を殺してアタック地点の工場をそっと覗き見た。工場手前の空き地を目に映した瞬間グレイの制服男が発砲。危うく銃弾に耳元を掠められながらも応射。勘のいい相手に手加減できずヘッドショット。

 気付いた二人の男にも速射で同じ末路を辿らせ転がるように死角まで逃れた。命が懸かっていたとはいえまともに向かい合ってヘッドショット三連射である。とっくに覚悟を決めていながら霧島は安全圏に逃れてから一瞬、渦巻く思考に気を取られた。

「忍さんっ!」

 駆け寄りながら叫んだ京哉の声で我に返る。京哉の手に結構な血が付着しているのを見て本当に耳朶を銃弾が掠っていたのを知った。顔色を変えた京哉に笑ってやる。

「大丈夫だ、問題ない。工場内は分からんが外の敵は少数。十一引く三」
「単純計算、一人で二人担当すればいいですね」
「だがこちらは問題だ。ラッセルたちがいる」
「問題ないですよ、精神的にもりやすくていいじゃないですか」

 あっけらかんとした京哉の物言いに皆が声を出さず不敵に笑った。
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