最優先事項~Barter.4~

志賀雅基

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第40話(BL特有シーン・回避可)

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 ゆっくり立ち上がると歯を食い縛って激情を堪えようとする京哉に口づける。意地でも応えようとしない歯列を強引に割り、舌を絡めて唾液を吸うと舌先をきつく噛まれた。
 当たり前だが痛い。だが次にはそれより痛い言葉が投げられた。

「んっ……んんぅ、だめ、だめです。もう抱かせてなんかあげません」
「えっ、おい、嘘だろう?」

 焦る霧島をじっと見上げて京哉は歌うように言う。

「バディでもパートナーでもない人の心配なんか、もう二度としないんですから」

 言葉とは裏腹に今度は京哉が霧島を抱き締めた。傷だらけの躰を優しい手がまさぐる。温かさを、存在を、命を確かめるようにスーツ姿の長身を京哉は何度も撫でた。
 その掌から確かに何かが流れ込んできて、霧島はふいに我に返った気がした。

「悪かった。心配させたな。戻っても心配させたんだな」
「だから、もうしませんよ、心配なんて」

 腕の中で囁く京哉の吐息が熱い。霧島は細い躰を抱き締め返しておいて自分の寝ていたベッドに京哉を押し倒す。
 抵抗する両手を片手で頭上に縫い止め、片手で器用にドレスシャツのボタンを外した。現れた白くきめ細かな肌に口づけ舌を這わせる。

 腹の底が焦げつきそうな欲望が霧島を支配していた。

「あっん、だめですっ……忍さん、怪我に障る、いやあっ!」
「京哉……京哉!」

 華奢な首筋から鎖骨を舐めねぶる。片方の胸の尖りを指で嬲りながら片方を口に含み舌で転がした。口を離すと薄暗がりに白く浮かび上がる躰と赤く凝った胸がエロティックに霧島を煽る。
 衣服を引き裂いてしまいたい衝動を抑え、抗うのを止めた京哉の目を覗き込んだ。

「本当に嫌ならやめる……嫌か?」

 切羽詰まったような灰色の目には逆らえず、だが京哉は最後の意地で顔を逸らす。

「うっ……知りませんっ!」

 目を伏せ力を抜いた上半身に霧島は覆い被さり何度もキスを落とす。
 京哉はベッドのふちから足を投げ出した姿勢、細い両脚を開かせて下半身を擦りつけると咬みつきたくなるくらい白い喉を仰け反らせて悶えた。

 堪らなく色っぽい様子に霧島は白熱する疼きを溜めてゆく。早くそれに翻弄されたい気分に抗って京哉に囁いた。

「なあ京哉、もっと声を聴かせてくれ。お前とお前の声に私は救われたんだぞ」
「僕の方こそ、あっ、んっ……忍さんの声に、はぁん」

 甘く高い声を聞きながら至る処を撫で回す。滑らかな肌を唇で挟んで吸い上げ幾つも赤く鬱血させた。潤みを溜めた京哉の目を見た霧島は情動のまま、京哉のベルトを緩めて外し下衣を取り去る。京哉は既に熱く硬く成長させていた。

 白い頬を紅潮させ、浅く速くなった呼吸を知られまいと口を引き結んだ京哉が霧島には酷く愛しい。霧島は己の右手指を口に含み唾液で濡らす。その指で京哉の後ろを探った。
 色づきを探り当てると京哉の細い腰が悶えてみせる。見上げてくる目も優しい色を湛えていて思わずふっと息をついた。

 至らない自分をここまで受け入れてくれる。信じて耐え待ち続けてくれる。絶対にバディでいると、この自分の背を護ってくれると言う。
 共にいてこんなに心強い男と出会い、パートナーとして得られたのに自分から関係を壊してしまうところだった。

 窄まりに中指を挿入し、左手で京哉のものを握って扱き始める。

「んんっ……んっ、あっ……ああんっ!」

 前後を同時に攻められて京哉が堪らなくなったように高く喘いだ。しなる細い躰に挿し込んだ長い指を激しく蠢かせる。性急に増やした指先で掻いては擦り上げた。

 早く包まれたくて堪らず、入り口を指の根元で緩める。その間もずっと京哉の甘い声は響いて霧島を煽り立てた。粘膜がぬるむと早々に全ての指を抜く。

 融け合うこと以外考えられず本気で余裕がなかった。スラックスの前をくつろげ、広げさせた細い脚を抱えるようにして霧島は濡れそぼった己を京哉にあてがう。

「私を入れてくれ、京哉」
「ええ、きて下さい。あっ、あっ、忍さんが太い……あぅんっ!」
「くっ、う……あっく!」

 きつく締めつけてくる京哉に身を埋め、霧島は思わず呻きを洩らした。蠕動する柔らかな内襞に包まれて目が眩むような心地良さだった。

 数呼吸おいて動き始める。 
 腰をスライドさせ熱く太く硬いものを引きずり出し、離れてしまう寸前で勢い良く突き上げた。脳髄が白く灼けるような快感に夢中で白い躰をベッドごと揺らしだす。

「京哉お前、すごくいい……蕩けそうだ、っく」
「僕も、いい……忍さん、すご、い……熱いよ、ああんっ!」

 腰をぶつけて華奢な躰を幾度となく挿し貫いた。京哉を掻き回し続ける。
 揺らされる京哉はシーツを掴み締め、長めの髪を乱し襲い来る快感に耐えているようだ。霧島は細い脚をもっと押し開いて深く届かせ擦り上げる。

「そんな……はぅんっ、忍さん、だめ……忍さん!」
「私も、一緒に……いくからな!」

 更に腰の律動を激しくした。思い切り突き上げ貫く。何処までも受け入れてくれる京哉の体内は霧島が凝らせていたものを浄化してくれるような気さえした。

 身を反らせた京哉が目に見えて張り詰めさせる。喘ぎが殆ど叫びに変わった。

「忍さん、早く……やだっ、いく、いっちゃう……あうっ!」
「京哉……あっ、く――」

 白い躰の奥深くに叩きつけるかの如く霧島は迸らせた。京哉も自らの腹から胸に飛び散らせている。二人ともに身を震わせて幾度も放った。
 荒い息をつきながら霧島は京哉を抱き上げベッドにきちんと寝かせた。自分は衣服を脱ぎ捨てて全てを晒すとのしかかって再び細い躰を開かせる。

「京哉……っく、私の京哉!」
「えっ、ちょ、忍さん……知りませんからね、はぁんっ!」

 組み敷かれて貫かれ京哉は抑えられず高い声で喘いだ。飽くことなく充血した粘膜を擦られ、絶え間ない快感を霧島から与えられて喉から勝手に声が洩れる。
 重ねられた霧島の躰の重みが狂おしいまでに愛しかった。

 逞しい背に腕を回す。

「んんぅ、あっふ……んっ、忍さん?」
「うっ、く……何だ?」
「やっぱり何でも、んっ、何でもないです……あぅんっ!」

 京哉は霧島の温かな肌を撫でた。固まった血と溢れ出す血でずたずただった肌は、今はしっとりと滑らかだ。それでも抜糸前の傷が身体中に残っていてガーゼだらけである。

 痛みや躰と心の傷痕などの様々な心配を敢えて口にせず、京哉は我が身に没頭する霧島にしっかりと抱きついた。
 駆け引きなしの激しい霧島の律動だけでなく、細い躰は小刻みに震えている。

「お前京哉、また泣いて……くっ……いるのか?」
「泣いて……っ、ないですよ……んっ」
「泣くな京哉、きつい、締めすぎだ……くうっ!」
「そんな、こと……はぅん、言われても……あんっ!」

 超至近距離から見下ろしてくる、怜悧さを感じさせる端正な顔が歪んだ。

「あっ、く……そんなに、するな! だめだ、保たない!」
「いいですから、忍さん……僕の中で思い切りいって!」
「って……いく、だめだ……くっ、あうっ!」

 幾度か痙攣して力の抜けた霧島の躰を京哉は抱き締めた。汗ばんだ肌を撫でながら静けさの中で荒い息づかいを聞く。体内で霧島が再び弾けさせたのは分かっていた。

「いやその、すまん」

 珍しく一人いかされてしまった霧島は気恥ずかしさを押し隠して身を起こした。いつもの調子で互いの躰を拭いて、衣服を拾って身に着けて、と思った途端にベッドから転がり落ちる。

「わあっ、忍さんっ!?」
「え、あ、何だか部屋が回っているんだが――」
「――回ってるのは貴方の頭! 貧血ですよ、それ。大丈夫ですか?」

 ベッド上から覗き込んだ京哉が手を差し出してくれた。それに縋って霧島は何とかベッドに這い上がる。気持ちの悪い眩暈に閉口し、促されて素直に横になった。
 仕方なく京哉は自身の躰に鞭打って動き、霧島の脚の下に畳んだ毛布を突っ込む。

「全く、もう! だから知らないって言ったじゃないですか!」
「説明が足らなくないか?」
「自己防衛本能あるんですか? 能力のバランス悪すぎません? てゆうか生物?」

「そこまでポンポン言うか?」
「言いたくもなりますよ。そんな躰なのに単独行動取ろうとするし」
「結果してないだろう? それに悪かったと……意外とお前も土鍋性格だな」

「何か仰いましたか?」
「仰ってない」

 並んで横になった京哉が拗ねた年上男の右頬を指でなぞった。新開倉庫で撃たれて弾が掠めた傷痕は殆ど消えている。

「独りで無理しないで下さい。貴方はもう充分無理をしたんですから」
「分かった。本当にすまん」

 素直に謝った霧島は覗き込んでくる京哉の目を見た。クマが濃くまぶたが赤く腫れて、どれほど自分を心配したのか分かる。何より残酷なことをするところだった。

「それに現職警察官暴行傷害事件は捜一と組対が捜査に入りましたから」
「……そうか」

「ご自分で富樫を逮捕したいのも分かります。この手で決着をつけたい、その気持ちは僕にだってありますし。でも無茶しなくても富樫の再逮捕は時間の問題です。今は機捜隊長として最優先事項に集中するのが務めだと思いますよ、忍さん」
「ああ。しっかり治すことに集中せんと、私の秘書は優秀で……手放せん――」

 優しい指先に撫でられて静かな声を聞いていると眠気が這い寄ってくる。
 
 霧島は毛布を掛けられ目を瞑った。寄り添ってくれる温かな躰と安堵を抱き締めて意識を沈ませる。
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