Hope Maker[ホープメーカー]~Barter.12~

志賀雅基

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第20話

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 霧島と京哉の着任してから第一小隊が二度目のソーティを言い渡されたのは三日後だった。

 二人が初ソーティだった日は一九一八号も含め、第一小隊は四十パーセントの損耗率となってオフ、午後は第二小隊が出撃したために繰り上がったのだ。

 目標に向かう機内で操縦桿を握った京哉が呟く。

「今度は攻撃ヘリ、ナシにして欲しいなあ」
「五機撃墜してエースになりたいのではないのか?」
「別にそんなのは欲しくないですよ、このままじゃ戦闘薬のことも探れないし」
「そう言えば、そんなものもあったな」
「忍さん、暢気すぎます。いつまで経っても帰れないですよ」

 確かにこのままでは何の進展も望めない。後席でぼそぼそとオスカーとリッキーが世間話をしているのを聞きながら、さて、どうしたものかと霧島も思案する。

 そうしているうちに指揮機から通信が入った。

《指揮機より各機へ。本日の目標は『アラキバ抵抗運動旅団』、大隊規模の本拠地を叩く。航空敵機の脅威は少ないが高射砲に注意せよ。このままダイアモンド陣形で目標近くまで飛行して散開、五角形包囲で爆撃に移る》

「お望み通り攻撃ヘリはないらしいぞ、機長殿」
「アラキバ抵抗運動旅団ですか。テロリストが大隊規模なのもすごいですよね」
「お仲間相手でないなら罪悪感も少なくて済みそうだな」

 だが霧島の言葉に京哉はシニカルな笑みを頬に貼り付けて言う。

「何処だって一緒です。軍隊ではスナイパーの次にボマー、爆撃機乗りが嫌われるんですから。それこそ卑怯者扱いで蛇蝎の如く嫌われることも珍しくありません」
「潜んで撃つ、もしくは頭上から爆弾を落とすからか?」
「分かってるじゃないですか」

「自分の所業を棚に上げて言わせて貰えば人殺しは人殺し、同じではないのか?」
「それはまあ、そうなんですけど、事実として嫌われるんだから仕方ないでしょう。最近はスナイパーもボマーも地位が向上してきて、部隊の仕事が楽になるって歓迎してくれる人もいるらしいですけれど、未だに根強い感情も残ってるらしいですね」
「ふん、下らんな」

 雑談しつつ約一時間半飛行するとディスプレイに目標である赤い輝点が現れた。
 目視ではまだ見えないそれを二人で眺めていると再び通信が入る。

《指揮機より各機、敵機ボギー三機が確認された。同型の爆撃ヘリと推測される。一六と一七、一八と一九、二〇と当機でこれに当たる。以後、一時無線封鎖する。散開せよ》

「何だ、やはり空中戦のようだな」
「爆撃ヘリ同士ならドッグファイトにはならないんじゃないでしょうか」
「京哉お前、余裕だな」

「そんな訳じゃないですけど、スピードが速くないのは嬉しいですよ」
「それもそうだな。おっ、ディスプレイに映ったぞ。四十五秒で交差する」
「忍さん、任せましたからね」
「お前こそな」

 僚機の一九一九号機に合わせ、京哉は霧島にハイドラロケットの発射を命じた。勿論、敵からも同じくロケット弾が見舞われる。だが距離があるので避けることは容易だった。
 ただ二機から攻撃されても敵は撃ち落とされず複数のロケット弾を躱して向かってきて、これは意外に強敵かと霧島は思う。

 やがて京哉は一九一九号機に倣って機を上昇させた。僚機は高々度からアタックするつもりらしい。霧島はスティックのバルカン砲トリガスイッチに指を掛ける。

 彼我ともに高度の取り合い、高度限界付近で一九号が先に仕掛ける。クロスアタック、京哉は一八号を続かせた。霧島がトリガスイッチを押す。二連射の数発が敵爆撃ヘリに当たるも決め手とならず。互いに徐々に高度を下げての叩き合いとなる。

「二機相手に結構やるな」

 互いに背後の奪い合いをしている間に目標地点の上空に差し掛かった。地上から眩い光が数条走って自機を掠める。じっと状況を見ていたオスカーが声を上げた。

「拙い、鳴海、高射砲だ!」
「機長、先に爆撃しますか? 機が軽くなりますが」
「無理! 今、抜けたら一九号がやられる。忍さん、残弾五十切りました!」
「分かっている、次で決めさせてくれ」
「ラジャー。荒っぽくなりますよ、掴まってて下さいね」

 地面の灌木がはっきり見えるほどの低高度で僚機の一九号がアタック失敗。メインローターにバルカン砲の一連射を食らう。
 僅かに高度を取った京哉は一九号の影となった位置からパワーダイヴでリアタック。霧島の一連射が命中。反転し機首同士を突っ込ませるように正対、霧島は再びトリガスイッチを押そうとしたが――。

「嘘、まさか!」
「子供か!?」

 抜群に視力のいい二人の目にまともに飛び込んできた敵機のパイロットとガナーの人影は小さく、その面影はまだ幼さを残していた。
 機体に激しい衝撃が走った。全員がハーネスを躰に食い込ませる。ためらったのが拙かった、けたたましいブザーは機体が甚大な損傷を受けたことを告げていた。

 ガタつきながら機体は回転し始める。どうやらテールローターをやられたらしい。回転しながらぐいぐい降下し、黄色く乾いた砂礫の大地で腹をバウンドさせた。
 衝撃で左右の脚部、スキッドが折れたのが分かる。機は地面に直接腹を擦り、鼓膜に突き刺さるような鋭い擦過音を立てて機体が滑った。

 霧島は思わず手を伸ばして京哉の腕を掴んでいる。

 百メートル近くも機体は滑ってスピンし、ようやく止まった。突然やってきた沈黙が先程の擦過音よりも耳に痛かった。京哉は後部の二人を確認する。

「オスカー、リッキー?」
「俺は大丈夫だが、リッキーは……気絶してるな、これは」
「抱いた爆弾が爆発しなかったのは僥倖だな。京哉、再始動は?」
「アビオニクスの再起動が百二十秒後の予定。損傷は対地高度計と周辺システムがやられて多分テールローターも外れかけてる。テールローターを直さないと飛行は無理ですね」

 それを聞いて霧島がショルダーハーネスを外した。オスカーが留める。

「俺が行くから、あんたら二人は上空を警戒していてくれ」
「いい。私が行ってくる」

 あっさり霧島は機外に降り立った。
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