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第25話
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翌朝遅くまで二人は眠り、目覚めて着替え、貰ったパンをかじり終えたところに村人が呼びに来た。ヘリが出発するというので外に出る。
相変わらず外はかなりの暑さだった。
小径を歩いて昨日中型ヘリが駐めてあった場所に行くと、数名の男たちが乗り込んでシートに収まっていた。パイロットも勿論村人で既にスタンバイしている。開け放してあったスライドドアから慌てて二人も乗機し、待たせてしまったことを詫びた。
「すみません、乗せて貰うのに遅くなって」
「いいってことよ、気にするようなことじゃねぇ」
倒れた霧島を運んでくれた男たちを機内に見つけて京哉が頭を下げたが、気のいい村人はみんな笑顔で二人に笑いかけてくれる。そこでパイロットが出発を告げた。
「さて、そろそろ出掛けるとするか」
ターボシャフトエンジンが回り始め、ヒューンという吸気音からキーンという独特の回転音に変わる。ゆっくりとメインローター及びテールローターが回転を始め、やがてバタバタというかなりの騒音になった。
京哉は自分も操縦しているような気持ちでパイロットを背後から見守る。そうして旧い中型ヘリは難なくふわりとテイクオフした。
旧くてもシステムには何ら問題はないようだ。必要以上に揺れもなく安定したフライトを続ける。かなり高度を取ったのは何処かの高射砲を警戒してのことだろう。
ヘリには霧島と京哉の他に男ばかりが四人乗っていた。二人の座ったシートから後ろの座席は全て取り外され、様々な大きさの箱やかごが積んであった。
箱の中身は分からないが、かごには野菜の他に卵などが入っている。そこで見覚えた男の一人に霧島が訊く。
「援助物資を取りに行くんじゃなかったのか?」
頷きながら男はにこやかに答えた。
「途中で寄り道する。医療品なんかの余剰とこれを交換するんだ」
カール医師は『物資の交換』と言っていた。それに霧島はポケットの抗生物質も思い出して納得した。貧しい村には配給されない物資をこうして集めるのだろう。
中型ヘリは二時間近くも順調にフライトしたのち高度を下げ始めた。まもなくランディング態勢に入りパイロットは見事な操縦でスムーズにスキッドを接地させる。
男たちと一緒に二人も機外に出た。スライドドアを開けて男たちが荷物を運び出す。まずは全てを外に出し、そこから五十メートルほど離れた倉庫に運び込み始めた。左腕を吊った霧島は見ているだけだが京哉は微力ながら荷物運びを手伝う。
そんな京哉の傍に寄り添って歩きながら霧島は周囲を見渡した。
地面は相変わらず黄色い砂礫の大地だ。駐屯地かベースキャンプのような造りで、広い土地が有刺鉄線の柵に囲われている。本部庁舎かと思われる三階建ての建物もあれば兵舎のようなものもあった。高射砲も何基か見える。故に最初はここも国軍かと思った。
だが、わらわらとやってきて荷物運びに参加した人間たちは制服でも戦闘服でもない。精確には戦闘服の者もいたが階級章や兵科章などがついていないのだ。正規の軍ではないここはいわゆる反政府集団のアジトなのだろうと霧島は当たりをつけた。
アジトというにはかなり大がかり且つ大っぴらだが、昨日爆撃中隊が狙った『アラキバ抵抗運動旅団』も高射砲や爆撃ヘリまで持っていた。
国外ではテロリストとして名を馳せるような集団が下手をすれば軍より大規模な施設を構え、組織としてもきちんと機能している。先進諸国の常識では測れない、ここはそういう国なのだ。
最後の一往復を二人で手伝い卵のかごを霧島は右手、京哉は左手で提げて倉庫に運び込んだ。食糧倉庫は結構涼しく居心地が良かったがのんびりして待たせては拙い。
「忍さん、傷に障ってないでしょうね?」
「そう心配せずとも大丈夫だ、問題ない」
微笑み合って二人はヘリに戻る。すると村の男たち四人とここの人間でオリーブドラブ色のTシャツに戦闘ズボンを着た体格のいい男が立ち話をしていた。周りにもアサルトライフルやサブマシンガンを提げたここの者が数名、何をするでもなくうろついている。
「テロリストが軍隊を作ってるなんて、すごい国ですよね」
「こうして戦闘のノウハウを得て経験を積んだ人間が他国に流れてしまうらしい」
「傭兵とかボディガードもいるでしょう、PMCとか? 今はPSCでしたか」
「民間警部会社か。何れにせよ代理戦争人には変わりない」
「それでもテロリストとして国際社会から目の敵にはされませんよ」
「皆がそうして真っ当に稼いでくれたら問題はないのだがな」
「何だか勿体ないっていうか、哀しいですよね」
「先祖代々受け継いだ、先進国に対する反骨精神か……」
そう思うと自分たちの着用した正規軍人の証である制服が、ここの者たちの神経を逆なでするような気がして心配になり、早々に二人はヘリに乗り込もうとした。しかし村から一緒にきた男に呼び止められる。
手招きされてそちらに向かうと、体格のいい戦闘ズボンの男が霧島と京哉のつま先から頭の天辺までを検分するように見つめた。
「ふむ。それで?」
村の男が戦闘ズボンの男に媚びた笑いを浮かべて、揉み手をせんばかりに言った。
「正規軍人、二人で一千ドル。悪い話じゃない筈だ」
「一人は怪我人だ。七百ドルってところだな」
「仕方ない、それで手を打とう」
男たちはその場でドル紙幣をやり取りする。
訳が分からずポカンとした霧島と京哉に戦闘ズボンの男が告げた。
「あんたたちを買った。今からあんたたちは『ヴィクトル人民解放戦線』の一員だ」
相変わらず外はかなりの暑さだった。
小径を歩いて昨日中型ヘリが駐めてあった場所に行くと、数名の男たちが乗り込んでシートに収まっていた。パイロットも勿論村人で既にスタンバイしている。開け放してあったスライドドアから慌てて二人も乗機し、待たせてしまったことを詫びた。
「すみません、乗せて貰うのに遅くなって」
「いいってことよ、気にするようなことじゃねぇ」
倒れた霧島を運んでくれた男たちを機内に見つけて京哉が頭を下げたが、気のいい村人はみんな笑顔で二人に笑いかけてくれる。そこでパイロットが出発を告げた。
「さて、そろそろ出掛けるとするか」
ターボシャフトエンジンが回り始め、ヒューンという吸気音からキーンという独特の回転音に変わる。ゆっくりとメインローター及びテールローターが回転を始め、やがてバタバタというかなりの騒音になった。
京哉は自分も操縦しているような気持ちでパイロットを背後から見守る。そうして旧い中型ヘリは難なくふわりとテイクオフした。
旧くてもシステムには何ら問題はないようだ。必要以上に揺れもなく安定したフライトを続ける。かなり高度を取ったのは何処かの高射砲を警戒してのことだろう。
ヘリには霧島と京哉の他に男ばかりが四人乗っていた。二人の座ったシートから後ろの座席は全て取り外され、様々な大きさの箱やかごが積んであった。
箱の中身は分からないが、かごには野菜の他に卵などが入っている。そこで見覚えた男の一人に霧島が訊く。
「援助物資を取りに行くんじゃなかったのか?」
頷きながら男はにこやかに答えた。
「途中で寄り道する。医療品なんかの余剰とこれを交換するんだ」
カール医師は『物資の交換』と言っていた。それに霧島はポケットの抗生物質も思い出して納得した。貧しい村には配給されない物資をこうして集めるのだろう。
中型ヘリは二時間近くも順調にフライトしたのち高度を下げ始めた。まもなくランディング態勢に入りパイロットは見事な操縦でスムーズにスキッドを接地させる。
男たちと一緒に二人も機外に出た。スライドドアを開けて男たちが荷物を運び出す。まずは全てを外に出し、そこから五十メートルほど離れた倉庫に運び込み始めた。左腕を吊った霧島は見ているだけだが京哉は微力ながら荷物運びを手伝う。
そんな京哉の傍に寄り添って歩きながら霧島は周囲を見渡した。
地面は相変わらず黄色い砂礫の大地だ。駐屯地かベースキャンプのような造りで、広い土地が有刺鉄線の柵に囲われている。本部庁舎かと思われる三階建ての建物もあれば兵舎のようなものもあった。高射砲も何基か見える。故に最初はここも国軍かと思った。
だが、わらわらとやってきて荷物運びに参加した人間たちは制服でも戦闘服でもない。精確には戦闘服の者もいたが階級章や兵科章などがついていないのだ。正規の軍ではないここはいわゆる反政府集団のアジトなのだろうと霧島は当たりをつけた。
アジトというにはかなり大がかり且つ大っぴらだが、昨日爆撃中隊が狙った『アラキバ抵抗運動旅団』も高射砲や爆撃ヘリまで持っていた。
国外ではテロリストとして名を馳せるような集団が下手をすれば軍より大規模な施設を構え、組織としてもきちんと機能している。先進諸国の常識では測れない、ここはそういう国なのだ。
最後の一往復を二人で手伝い卵のかごを霧島は右手、京哉は左手で提げて倉庫に運び込んだ。食糧倉庫は結構涼しく居心地が良かったがのんびりして待たせては拙い。
「忍さん、傷に障ってないでしょうね?」
「そう心配せずとも大丈夫だ、問題ない」
微笑み合って二人はヘリに戻る。すると村の男たち四人とここの人間でオリーブドラブ色のTシャツに戦闘ズボンを着た体格のいい男が立ち話をしていた。周りにもアサルトライフルやサブマシンガンを提げたここの者が数名、何をするでもなくうろついている。
「テロリストが軍隊を作ってるなんて、すごい国ですよね」
「こうして戦闘のノウハウを得て経験を積んだ人間が他国に流れてしまうらしい」
「傭兵とかボディガードもいるでしょう、PMCとか? 今はPSCでしたか」
「民間警部会社か。何れにせよ代理戦争人には変わりない」
「それでもテロリストとして国際社会から目の敵にはされませんよ」
「皆がそうして真っ当に稼いでくれたら問題はないのだがな」
「何だか勿体ないっていうか、哀しいですよね」
「先祖代々受け継いだ、先進国に対する反骨精神か……」
そう思うと自分たちの着用した正規軍人の証である制服が、ここの者たちの神経を逆なでするような気がして心配になり、早々に二人はヘリに乗り込もうとした。しかし村から一緒にきた男に呼び止められる。
手招きされてそちらに向かうと、体格のいい戦闘ズボンの男が霧島と京哉のつま先から頭の天辺までを検分するように見つめた。
「ふむ。それで?」
村の男が戦闘ズボンの男に媚びた笑いを浮かべて、揉み手をせんばかりに言った。
「正規軍人、二人で一千ドル。悪い話じゃない筈だ」
「一人は怪我人だ。七百ドルってところだな」
「仕方ない、それで手を打とう」
男たちはその場でドル紙幣をやり取りする。
訳が分からずポカンとした霧島と京哉に戦闘ズボンの男が告げた。
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