Hope Maker[ホープメーカー]~Barter.12~

志賀雅基

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第41話

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「くそっ、街が!」

 叫ぶなりスティードが貨物トラックを強引にUターンさせる。街の側に転進してみると街のあちこちが赤々と火炎に染められていた。燃え盛る建物から飛び出してきた人々が逃げ惑っている。

 だが彼らに気を取られているヒマもない、爆撃ヘリの一機がカーブを描いてこちらに向かってきたのだ。この時間にここで軍用車は見逃して貰えない。

「危ない、機銃掃射、くる!」

 京哉の叫びを合図に全員がトラックのドアを開けて外に転がり出る。爆撃ヘリは超低空からアタックを掛けてきた。黄色っぽいデジタル迷彩のペイントを施されたヘリの腹を見上げた。京哉と霧島には所属など分からないが反射的にニコルが叫ぶ。

「ハスデヤ防衛同盟だ!」
「何です、それは!?」

 何はどうあれ敵と相場は決まっていて、馬鹿なことを訊いたと思いながら京哉は皆と共に走り出す。ひとめで軍用と分かるトラックの傍は危険だった。
 しかし幾らも走らないうちにバルカン砲の二十ミリ榴弾が降り注ぐ。一連射がトラックにダダダッと穴を穿った。

 反転した爆撃ヘリは現れたもう一機と共にクロスアタックを掛けてくる。

 皆は生き残りを懸けて左右に散り、つんのめって転びかけたナイジェルの腕を京哉が取った。その京哉を背後から護るように霧島がついて三人は建物へと走る。影になった石壁に張り付いて互いの無事を確認した。

 その場の三人が無事を確認し合うと、上空で勝利のダンスを踊るように飛び交う爆撃ヘリを睨みつつ、霧島は大声を出す。

「大丈夫か!?」
「わたしは平気です!」
「俺も大丈夫だ……だがスティードが!」

 悲痛なニコルの声を聞き、霧島と京哉は爆撃ヘリのしつこいアタックの間隙を縫って通りを渡った。心細いのかナイジェルもついてくる。辺りを見回すと崩れかけた建物の軒下に制服姿の三人がいた。走り寄るとスティードが片腕を押さえている。

「スティード!」

 大男は左腕に二十ミリ榴弾を食らい、肘から先を失っていた。既にニコルとルーカスが自分のタイを解いて二の腕を縛り上げてやっているが、出血は止まっていない。

「俺はいい、だが家族が……エレナ、デニス――」
「いいから喋るな!」
「バーレイ、フラニー、ロディ……エレナ、エレナ!」

 焦げ臭い空気を吸いながら、霧島は「病院は?」と訊きかけて口を閉じた。周囲は逃げ惑う街の人々で溢れている。彼らの中にも怪我人が多数いた。そしてハスデヤ防衛同盟とやらのヘリ群は第四十二駐屯地方向からやってきたのだ。

 駐屯地を爆撃してからこちらに回ったと考えるのが妥当で、すぐさま駐屯地からの援軍が期待できる可能性は低い。黙って霧島と京哉にナイジェルは自分たちもタイを解いてスティードの腕にきつく巻きつけて縛り、一本で残った腕を首から吊らせる。

 だがそのスティードは皆の手を振り切って街の中心部に向かい歩き始めた。

「エレナ……エレナ!」

 上空の様子を見ていた京哉がふいに気付いて呟く。

「爆撃ヘリ、アルペンハイム製薬の方にまで……」
「並んでる人たちが危ない!」

 皆が目の色を変えた。しかし叫んだルーカスに京哉が首を振る。

「間に合いませんよ」

 既に仕事を終えた爆撃ヘリは上空で編隊を組み、飛び去ろうとしていた。
 それでも皆、走り出す足を止めなかった。

◇◇◇◇

 戦闘薬の密輸で一部の者が肥え太るカラクリを知ったと主張したハスデヤ防衛同盟による『制裁爆撃』なる攻撃の被害は、第四十二駐屯地の高射砲と格納庫、街の半数の建物の倒壊、アルペンハイム製薬の全工場壊滅という甚大なものだった。

 幸いミルクを求めて並んでいた人々への機銃掃射はなかったが、官民合わせて死傷者六百名以上を数える大惨事となった。

 それらを聞いた霧島と京哉は苦い思いを噛み締めずにはいられなかった。あれだけ大規模な空爆を敢行するだけの力を持ったハスデヤ防衛同盟なる反政府集団が、自分たちだけ戦闘薬での肥え太りのよるカラクリの蚊帳の外だったとは考えづらいからである。

 おそらく自分たちも同じく戦闘薬の密輸に絡んでいた。だが単に軍の一部が立場を利用し突出して肥え太ったのが我慢ならなかった、その報復であり見せしめ爆撃だ。

 何はともあれアルペンハイム製薬の全工場も壊滅した今、霧島と京哉の特別任務も遂行された。凄惨すぎるこの国の現状を見せつけられた二人は、ハスデヤ空港からの出発便の都合により爆撃の翌日にはバルドールを発つことになった。

 空港まではニコルとルーカスが送ってくれた。
 乗り込んだ軍用車両のドライバーはナイジェルだ。
 小型機の前で霧島と京哉は三人とラフな敬礼をして別れた。

 アブダビ国際空港でのトランジットが長くて帰りも三十時間以上掛かり、成田国際空港に到着したのは翌日の夕方十八時過ぎだった。
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