Shot~Barter.9~

志賀雅基

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第10話

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「梓議員の密会相手はリンド島北部基地副司令のニックス=イヴァン少将、この男に張り付いていた戦場カメラマンの間宮孝司がマヌケにも顔を見せた議員本人を激写したのだ」

 歯に衣着せぬ物言いに霧島も容赦なく言い返す。

「私はそんなマヌケ議員の尻拭いに行くなど真っ平だからな。そもそも我々はサツカンだぞ? 本部長、あんただって議員先生の顔色を窺って靴を舐めるにしても度が過ぎるだろう!」

 警視監相手に『あんた』呼ばわりした上の暴言に、黙って無関係を装っていた小田切が青くなった。京哉も肘で霧島を突く。だが頭にきた霧島は発言を撤回しようとしない。
 しかし一ノ瀬本部長自身は構うことなく体形と同じくコロコロと笑い、壮年のスーツと霧島とを見比べる。

「まあ、そう言わずに話だけでも聞いてくれたまえよ、霧島くん」

 そこから壮年のスーツは長々と語り始めた。

「中南米の小国ビオーラは現在内戦中と云えるが、内戦自体は国内全土に渡る規模ではなくリンド島なる島だけでやっている。内戦の原因は『選挙での不正』だ」

 ビオーラの政治形態は議会民主制で、南北に長いリンド島からは過去ずっと国会議員が二名ずつ選出されてきた。そしてその二名は北部のアーキン家と南部のブレナン家から代々輩出されるのが習わしだった。

 しかし此度の選挙法改正で様相が一変したのである。
 今回の選挙からリンド島は一名しか議員を輩出できなってしまったのだ。

 そこで予備選を行い北部出身のゴードン=アーキンと南部出身のスチュアート=ブレナンが一騎打ちとなった。開票結果は南部のブレナンが勝ちを収めた。
 けれどそれから先が問題で開票時に不正があったという噂が立ったのである。

 その噂はあっという間にリンド島全域に広まり、一部村民が小競り合いを起こしたのをきっかけに、これもあっという間に南部と北部で内戦に突入してしまったのだ。

「双方派手にやり合っているらしい」
「だがビオーラにも軍くらいあるだろう、何故小競り合い段階で治めなかった?」
「軍が介入したからこそ内戦なのだ」

 小国ビオーラは建国以来まだ二世紀と経っていない。

 しかし都市部とそうでない地域の貧富の差が激しく、田舎に行くほど職のない若者が溢れている。そんな状態を解消するための手段としてビオーラ政府はやたらと軍の基地を建設し、武器弾薬の輸入やライセンス生産も盛んに行っては、現地の若者たちの雇用促進に励んでいた。

 そうしてより積極的に基地をこさえた挙げ句、リンド島の北部と南部にそれぞれひとつずつの基地を作ってしまったのは失敗だった。

 それこそ現地採用者が殆どを占める軍隊は北軍・南軍として予備選開票結果への不満を元にする争いに積極関与し始め、結果として内戦の立役者となってしまったのである。

「軍隊は多数あれど練度が足らない自覚のあるビオーラ政府は早々と『内戦を止める手立てを自国は持たない』と決議して国連に訴え出た。だが国連も『はい、分かりました』と即答はしなかった。状況も良く読めん内戦真っ只中に国連平和維持軍PKFを放り込めん。下調べが必要だ」

 そこで霧島が注釈を入れる。

「それに建前上、PKFは紛争当事者の片側だけへの肩入れは罷りならんからな」
「その通りだ。そして内戦は徐々に放置できん状態に移行しつつあると判明した」

 過去には国連加盟主要国が指を咥えて紛争を眺めている間に死者数十万人に及ぶ大虐殺にまで発展してしまった国の例もあった。止められる惨禍を止めなかった当時の国家代表たちは未だに叩かれているほどだ。

 そのような不名誉な称号を何処の国の代表も背負いたくはない筈である。

 しかし実際問題としてPKFを送るにも様々な障害があった。

「放置はできずとも条件が出揃わんなら、ビオーラ内戦にどうやって介入する?」
「取り敢えずビオーラ政府は形ばかりの停戦合意書を作ったのだ」
「なるほど。派手にやり合っている軍ではなく、政治屋の間で文書を取り交わしたのか。ならば一応はPKFも停戦監視団としての介入が可能になったという訳だな」

 頷いて壮年のスーツ男は冷え切った紅茶を飲み、面白くもなさそうな顔で言う。

「だが問題はそこではない」
「だろうな。実際には停戦に至っていない状態だ。リンド島の内戦がどのようなレヴェルに至っているのかは知らんが、他国の内戦の最前線で自国の兵士が殺されるのを良しとする奇特な国家元首などいない。それこそ自国民からの非難と昂じて政権が揺らぐことまでも覚悟せねばならん」
「その通り、PKF参加国として挙手した国はいなかった。かつて世界の警察を自負した某大国ですらここ暫くは各国から兵を退かせている状況だ。更には最大のネックがあった」
「分かっている。何れにせよ莫大なカネが要るということだろう?」

 再び頷いた壮年のスーツ男は鋭い目を霧島に向けて先を促した。霧島も頷く。

「やたらと基地を敷設しては武器弾薬を輸入する。またはライセンス購入しての自国生産……貧富の差はあれど妙にカネ回りが良さそうだな、ビオーラという国は」
「ああ。ビオーラは資源が豊富なのだ。その豊かな地の恵みに先進諸国が群がっている。故に間違ってもリンド島の内戦が本土にまで飛び火して貰っては困るのだ。何処の国だってカネは惜しい、しかしビオーラには安定して欲しい。秤にかけた挙げ句、やはり国連は介入することにした」

 だが停戦合意を護らせ監視するという建前の下ではあっても、各国が尻込みしていては仕方がない。おまけにドンパチ真っ最中の南軍と北軍の両方にPKFを投入しても収拾がつかなくなるだけだ。カネもかかる。そこで国連加盟国は一計を案じた。

 秘密裏に調査隊を派遣した上で予備選に勝利したスチュアート=ブレナンに不正なしと結論付け、停戦監視団と名のついた各国混成部隊を南軍のみに配置する、つまり実質的に南軍サイドをビオーラ政府軍と見做して肩入れすると決めたのである。

「ちょっと待て、まさかそれで通るのか?」
「ギリギリのライン上ではあるが、大事に至らせないための国連としての見解だ」

 結局はカネの出し惜しみプラス資源欲しさから捻り出した詭弁としか思えない霧島だった。しかしここで国連が乗り出してリンド島の戦闘が短期間で収束すれば、僅かなりとも救われる人命だってあるだろう。

 ロケット弾一発で十人死んだニュースを見ても他人事だが、本人たちにしてみたら一人の人命が奪われた事件が十人分という重みなのだ。

 そんなものは早々に終わらせた方がいいに決まっている。喩えやり方は歪んでいても。そう思い霧島は無駄に食いつかなかった。元々政治謀議にはあまり興味がない。

「だがそこで国連に『待った』をかけた者たちがいた」
「北軍に肩入れして儲けていた奴だな?」
「話が早い。そうだ、各国の大物たちがなかなか北部から退かなかったのだ」
「私設第三秘書の給料はポケットマネー、そこまで食わせるのは難儀なのだろう」

 霧島が垂れた嫌味を聞き流し、壮年のスーツ男は続ける。
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