Shot~Barter.9~

志賀雅基

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第11話

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「そこにきて当のビオーラを含む他国では既に『戦争を食い物にする男たち』が翻訳され放映済みで、『リンド島を救え』と声高に叫ぶ者が活動を活発にしているのだ」
「この平和な日本ですら、昨日放映した影響があれだからな」
「複数国で政府関連施設に対する度を越した悪戯やテロも起こっている」

 そこで国連はとうとう重い腰を上げて動き出した。

 具体的にはリンド島における南軍を政府軍として認めた上で肩入れし、リンド島南部にPKFを布陣させる内容の公的文書を発付してビオーラ政府へと正式に申し渡したのだ。

「だからこそ日本はもう北部に梃入れすることはできないのだ」
「それでのこのこ出掛けたマヌケ議員が北部基地の副司令ニックス=イヴァンと顔を合わせた事実が河合フィルムにでもすっぱ抜かれると拙いという訳か?」
「陰でどんな悪さをしマヌケな罪をを晒されようと、はっきり言って自己責任だ。だがこれをやらかしてくれたマヌケ議員の梓忠則は与党政調会長の二世議員でもある。これはどうしても拙いのだ」
「下手すると日本が国際社会から叩かれるということだな」

 与党の重鎮から全てを託されてきたらしい壮年のスーツ男は重々しく頷いた。

「だからって戦場カメラマンの間宮孝司はまだ中南米のビオーラにいるのだろう?」

 果てしなく遠い地球の裏側まで出張らなければならないのかと思うと、聞いていた京哉は心が萎えてゆく気がして霧島を見上げる。渋い顔をして霧島は肩を竦めた。

 朗らかなテノールで一ノ瀬本部長がまとめにかかった。

「今回も小田切くんには隊長不在の機捜を預かって貰う。霧島くんと鳴海くんには可及的速やかに現地に飛んで貰いたい。初の海外任務となるが心配は要らんだろう。現地ビオーラはそれなりの先進国である上に公用語は英語だ。霧島くん、英語は?」
「日常会話程度なら意思疎通が可能です」
「ならコミュニケーションには困るまい。更にPKFの最大の資金源である我が国に対してビオーラ政府は非常に協力的だ。かなりの融通を利かせてくれるそうだよ」

 その言葉でとっくに自分たちがビオーラに行くことは決定していたのだと悟り、眉間に非常な不機嫌を溜めながらも霧島は鋭い号令を掛ける。三人で立ち上がった。

「気を付け、敬礼! 霧島警視以下三名は特別任務を拝命します。敬礼!」
「うむ。ビオーラ便のチケットは本日付けで既に取れている。二人は自宅に戻って準備してきてくれたまえ。以上、一旦解散」
「……本日付け?」

 不機嫌プラス、今度こそ信じがたい事実を聞いたぞという口調の霧島が暴れ出すと誰も止められないので、京哉と小田切とで率先して霧島を押し出すようにして三人で本部長室を出る。

 廊下で三人共に溜息をついた。小田切の安堵の溜息が京哉は恨めしくも羨ましい。

「勘弁して欲しいですよね、もう」
「『泥棒してこい』は酷いな。おまけに現地は戦場だそうだぞ」
「他国の戦場で死にたくありませんよ」
「そんなことは私の人生設計にも含まれていない」
「ですよね。あああ、小田切さんと交代したい~っ!」

 騒ぐだけ騒ぐと肩を落として機捜の詰め所に戻る。霧島が指令台に就いた竹内一班長に京哉ともども出張すると告げた。
 今までも謎めいた出張は何度もあったので『知る必要のないこと』には触れず、竹内一班長は気合いの入った敬礼をしてくれる。

「くれぐれも怪我には気を付けて下さいよ」

 などと心配しつつ、ミケの世話も皆で分担する旨も請け負い送り出してくれた。

 機捜を出た霧島と京哉は白いセダンで約五十分かけて自宅マンションに戻る。霧島が冷蔵庫の中身を冷凍処理する傍ら、京哉はショルダーバッグに二人分の着替えを詰め込んで、更に忘れず自分の煙草も押し込む。オイルライターにオイルも足した。

 現地は南半球だが移動間を考えてコートも出す。思いつく限りを終えて京哉は霧島に声を掛けた。

「準備できました」
「こちらも終わった。だがお前にはつらい思いをさせる。悪いな」
「いきなり何のことですか?」
「航空機で禁煙だ。おそらく丸一日ほど掛かるだろう」

 聞いて京哉は一気に鬱に陥った。
 そんな京哉を急き立てて霧島は白いセダンに乗せると県警本部に戻る。

 再び本部長室を訪れると誰にも知られてはならない泥棒、もとい任務ということで秘書殿が準備してくれた様々な必要物品を一ノ瀬本部長が手ずから渡してくれた。
 とはいえこの辺りの内容はこれまでの特別任務と殆ど変わらない。

 まずはショルダーホルスタごと銃を外して新たな銃と取り換える。所持していたP230JPは小型だったが、同じシグ・ザウエルのP226なるフルサイズのもので、装弾数も多く薬室チャンバ一発マガジン十五発の合計十六発を発射可能な代物だ。

 フルロードした使用弾は九ミリパラベラムで、これもP230JPで使用する三十二ACP弾より口径が大きい。あと十五発満タンのスペアマガジンが各々二本だった。

「また一人当たり四十六発の重装備ですか」
「二人合わせて九十二発、これで足らなければ両手を挙げるか逃げるかだな」
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