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第12話
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スペアマガジンをパウチに入れ、今回は手錠などを必要としないので帯革は巻かずに、直接ベルトの右腰に装着した。
銃はフィールドストリッピングという簡易分解をして内部点検し、納得すると組み上げてショルダーホルスタに収める。
続けてあらゆるものをチェックした。
航空機のチケットとパスポート、一応警察手帳に関係者の写真やプリントアウトした資料。それに銃を飛行機に持ち込む際の許可証になる日本とビオーラ及びトランジットで通過する各国政府発行の正式書類。あとはビオーラで軍の基地への出入りを容易にするための身分証だ。
この身分証によると二人は国連査察団の先遣隊員になるらしい。陸上自衛隊員で二人共に二等陸尉となっている。だが戦時で国連側の人間と証明する証拠品だ。見せていい相手とそうでない相手がいるので要注意である。
更に経費として現地でも通用するクレジットカードを渡された。
それらをショルダーバッグとポケットに振り分けてしまい込むと、一ノ瀬本部長が頷いて二人の肩を叩いた。朗らかなテノールを響かせて明るく見送ってくれる。
「では気を付けて、ちゃんと二人で元気に帰ってきてくれたまえよ」
「了解しました。行ってきます」
「行ってきまーす」
この世の終わりの如く陰々滅々として見送られるよりは余程マシだが、身を折る敬礼をしながら二人はムカッ腹を立てつつ本部長室を出た。スーツの上にコートを羽織ると京哉がショルダーバッグを担ぎ、エレベーターで一階に降りる。
途中で婦警たちの黄色い声に二人して手を振ってから、本部庁舎前でバスに乗って白藤市駅で特急電車に乗り換えた。都内に向かって成田国際空港に到着したのは十七時過ぎだった。ターミナルに着くと京哉は無言で案内を見て喫煙所に向かう。
霧島に見守られながら京哉は速攻で煙草を二本吸った。すると既にチェックインにギリギリの時間だった。カウンターに走るとここでもう銃の持ち込みに関する書類を提示することになり専属の係員がつく。
お蔭でセキュリティチェックと出国審査も懐に銃を吊ったまま簡単にクリアできた。そうして出発三十分前に搭乗ゲートに並ぶ。
飛行機に乗り込むと窓側に京哉を座らせて霧島が訊いた。
「京哉お前、海外は初めてか?」
「ええ。ってゆうか旅客機に乗ること自体が初めてです。空を飛ぶモノはヘリだけ、前回の特別任務で乗った以外は暗殺任務でヘリに一度乗ったくらいで……だからどうして僕のパスポートを本部長が持っていたのか謎なんですけど。そんなもの作ったことないのに」
「私のパスポートも機捜のデスクに入れっ放しだ」
聴いて京哉はアーと口を開ける。
「あのスーツ男は相当の大物だな」
「政府の大物なら、まさかパスポートは偽造じゃないですよね?」
「それはないだろう。私に二重パスポートの罪を着せてまでの大事な泥棒任務だからな。こんなものが偽造でバレて捕まっていては泥棒どころではない」
「まだ怒ってるんですね。でも僕は忍さんと初海外旅行でちょっと楽しみかも」
そう言うと霧島のどす黒いオーラが少し薄まる。そこで恐る恐る訊いてみた。
「で、実際どのくらい掛かるんでしたっけ?」
「丸一日は掛からん。ロサンゼルスでのトランジットも含めて約十八時間半だ。着くのは日本時間で明日の十二時半だが、目的地のビオーラは時差が十四時間ある。故に首都ラチェンに着くのは現地時間で前日の二十二時半ということになるな。あと米国内の空港は殆ど禁煙だぞ。まあ、頑張れ」
途端に京哉の機嫌は急降下し、今更なことを口にして霧島に噛みつく。
「どうしてこんな任務を受けたんですか!」
「私が受けたがっていたように見えたなら甚だ心外だ、あの流れで命令だぞ?」
「それにしたって、あああ、着くまでに脳ミソが全部耳から流れ出しちゃうかも!」
哀しい依存症患者に生温かい流し目をくれ、霧島は将来を見据えた発言をした。
「だが受けた以上は、戦場カメラマンの間宮孝司が画像データをメディアの人間に渡す前に捕まえんとな。馬鹿馬鹿しい任務ではあるがとにかく時間との戦いだ」
「へえ。それでどうやって戦場カメラマンを捕まえるんですかね?」
「ん、ああ? どうやってとは、どういう意味だ?」
素で訊いた霧島に京哉は不機嫌全開でわざとらしい疑問をぶつけた。
「その戦場カメラマンはネット上に行動予定表でもアップしてるんでしょうか?」
「そうじゃないが、件の戦場カメラマンはリンド島北軍基地副司令のニックス=イヴァン少将に張り付いているという話だ。お前も聞いていただろう?」
「勿論、聞いていましたよ。じゃあそのリンド島北軍基地副司令のニックス=イヴァン少将とかいう人なら行動予定表をネット上にアップしてるんでしょうかね?」
「……」
だからこそ捜査のプロである警察官の自分たちに特別任務が下されたのだ。そんなことにも思い至らず流されてしまい、ここにきて改めて気付かされた霧島だった。
だが執拗に訊かれても答えようがなく、こちらもまた不機嫌になり口をへの字にする。
一方で八つ当たりした京哉は不貞腐れて既に寝る態勢に入っていた。
霧島は目を瞑った京哉の伊達眼鏡をそっと外すと、白く整った眠り人形のような顔を眺めながら備え付けの毛布を被せてやり、その下でペアリングを嵌めた京哉の手を握った。
銃はフィールドストリッピングという簡易分解をして内部点検し、納得すると組み上げてショルダーホルスタに収める。
続けてあらゆるものをチェックした。
航空機のチケットとパスポート、一応警察手帳に関係者の写真やプリントアウトした資料。それに銃を飛行機に持ち込む際の許可証になる日本とビオーラ及びトランジットで通過する各国政府発行の正式書類。あとはビオーラで軍の基地への出入りを容易にするための身分証だ。
この身分証によると二人は国連査察団の先遣隊員になるらしい。陸上自衛隊員で二人共に二等陸尉となっている。だが戦時で国連側の人間と証明する証拠品だ。見せていい相手とそうでない相手がいるので要注意である。
更に経費として現地でも通用するクレジットカードを渡された。
それらをショルダーバッグとポケットに振り分けてしまい込むと、一ノ瀬本部長が頷いて二人の肩を叩いた。朗らかなテノールを響かせて明るく見送ってくれる。
「では気を付けて、ちゃんと二人で元気に帰ってきてくれたまえよ」
「了解しました。行ってきます」
「行ってきまーす」
この世の終わりの如く陰々滅々として見送られるよりは余程マシだが、身を折る敬礼をしながら二人はムカッ腹を立てつつ本部長室を出た。スーツの上にコートを羽織ると京哉がショルダーバッグを担ぎ、エレベーターで一階に降りる。
途中で婦警たちの黄色い声に二人して手を振ってから、本部庁舎前でバスに乗って白藤市駅で特急電車に乗り換えた。都内に向かって成田国際空港に到着したのは十七時過ぎだった。ターミナルに着くと京哉は無言で案内を見て喫煙所に向かう。
霧島に見守られながら京哉は速攻で煙草を二本吸った。すると既にチェックインにギリギリの時間だった。カウンターに走るとここでもう銃の持ち込みに関する書類を提示することになり専属の係員がつく。
お蔭でセキュリティチェックと出国審査も懐に銃を吊ったまま簡単にクリアできた。そうして出発三十分前に搭乗ゲートに並ぶ。
飛行機に乗り込むと窓側に京哉を座らせて霧島が訊いた。
「京哉お前、海外は初めてか?」
「ええ。ってゆうか旅客機に乗ること自体が初めてです。空を飛ぶモノはヘリだけ、前回の特別任務で乗った以外は暗殺任務でヘリに一度乗ったくらいで……だからどうして僕のパスポートを本部長が持っていたのか謎なんですけど。そんなもの作ったことないのに」
「私のパスポートも機捜のデスクに入れっ放しだ」
聴いて京哉はアーと口を開ける。
「あのスーツ男は相当の大物だな」
「政府の大物なら、まさかパスポートは偽造じゃないですよね?」
「それはないだろう。私に二重パスポートの罪を着せてまでの大事な泥棒任務だからな。こんなものが偽造でバレて捕まっていては泥棒どころではない」
「まだ怒ってるんですね。でも僕は忍さんと初海外旅行でちょっと楽しみかも」
そう言うと霧島のどす黒いオーラが少し薄まる。そこで恐る恐る訊いてみた。
「で、実際どのくらい掛かるんでしたっけ?」
「丸一日は掛からん。ロサンゼルスでのトランジットも含めて約十八時間半だ。着くのは日本時間で明日の十二時半だが、目的地のビオーラは時差が十四時間ある。故に首都ラチェンに着くのは現地時間で前日の二十二時半ということになるな。あと米国内の空港は殆ど禁煙だぞ。まあ、頑張れ」
途端に京哉の機嫌は急降下し、今更なことを口にして霧島に噛みつく。
「どうしてこんな任務を受けたんですか!」
「私が受けたがっていたように見えたなら甚だ心外だ、あの流れで命令だぞ?」
「それにしたって、あああ、着くまでに脳ミソが全部耳から流れ出しちゃうかも!」
哀しい依存症患者に生温かい流し目をくれ、霧島は将来を見据えた発言をした。
「だが受けた以上は、戦場カメラマンの間宮孝司が画像データをメディアの人間に渡す前に捕まえんとな。馬鹿馬鹿しい任務ではあるがとにかく時間との戦いだ」
「へえ。それでどうやって戦場カメラマンを捕まえるんですかね?」
「ん、ああ? どうやってとは、どういう意味だ?」
素で訊いた霧島に京哉は不機嫌全開でわざとらしい疑問をぶつけた。
「その戦場カメラマンはネット上に行動予定表でもアップしてるんでしょうか?」
「そうじゃないが、件の戦場カメラマンはリンド島北軍基地副司令のニックス=イヴァン少将に張り付いているという話だ。お前も聞いていただろう?」
「勿論、聞いていましたよ。じゃあそのリンド島北軍基地副司令のニックス=イヴァン少将とかいう人なら行動予定表をネット上にアップしてるんでしょうかね?」
「……」
だからこそ捜査のプロである警察官の自分たちに特別任務が下されたのだ。そんなことにも思い至らず流されてしまい、ここにきて改めて気付かされた霧島だった。
だが執拗に訊かれても答えようがなく、こちらもまた不機嫌になり口をへの字にする。
一方で八つ当たりした京哉は不貞腐れて既に寝る態勢に入っていた。
霧島は目を瞑った京哉の伊達眼鏡をそっと外すと、白く整った眠り人形のような顔を眺めながら備え付けの毛布を被せてやり、その下でペアリングを嵌めた京哉の手を握った。
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