Shot~Barter.9~

志賀雅基

文字の大きさ
13 / 63

第13話

しおりを挟む
 サツカンの特技でもある早食いを発揮し、所要時間二分ほどで機内食を食す以外はやたらと眠り、トランジットのロサンゼルス国際空港では一ヶ所しか喫煙所がない上に果てしなく遠いと知り涙目になりつつ不貞寝をした京哉は、到着前のアナウンスで目を覚ました。

 欠伸して滲んだ涙を袖で拭き、まずは電波式の腕時計のタイムゾーンを合わせる。

「ビオーラの首都ラチェンは二十二時十七分ですか。ふあーあ」

 欠伸を連発していると隣で目覚めた霧島が京哉のさらりとした髪に手を伸ばした。

「お前、寝グセがついてるぞ」
「貴方、ヨダレが垂れてます」

 お互いに撫でつけてから入国カードを記入したのち、無事飛行機はランディングした。

 焦ることなく毛布を畳んで片付け、京哉がショルダーバッグを担ぐと二人は客列の最後尾に並んで降機する。ボーディングブリッジを渡ってターミナルビルに入ると入国審査だ。

 ここでもパスポートの他に政府発行書類を提示する。英語にまるで自信のない京哉は能力的にも霧島に丸投げする他ない。
 だが交渉は上手くいったらしく二人揃ってすぐに釈放パイとなった。受け取るべき荷物もないのでもう何処に行こうが勝手である。

「どうする、近くのホテルにでも入るか?」
「その前にこのビルの上がれる階まで上がってみてもいいですか?」

 夜ではあるが京哉はこの目で首都ラチェンの様子を俯瞰してみたかったのだ。何せ初めての海外で興味津々である。提案に霧島も同意した。街の雰囲気や匂いといったものを感じ取るには手っ取り早い方法だからだ。

 乗り込んだエレベーターには親切にも英語や他の言語に混じって日本語の表記もされていた。お蔭で京哉にも屋上が見送りや観光客用に開放されていると分かる。

「ここは十二階建てですか。建国二百年足らずにしては施設も立派ですよね」
「中も綺麗だな。途中の階には空港付属ホテルもショッピングモールもあるようだ」

 屋上に着いてエレベーターを降りた。途端に暖かな強風が二人を押し包む。

「この時間でも結構暑いですね」
「赤道が近いというのに我々は冬支度だからな」

 京哉と霧島は落下防止に張り巡らされたフェンスに近づいた。コートと黒髪をはためかせながら空港面とは反対側を眺める。そこで京哉は思わず声を上げていた。

「うわあ、何これ、すっごい大都市じゃないですか!」

 数キロ先が光り輝いていた。光源は全てビルの窓明かりである。まるで地盤が隆起したように超高層ビル群が立ち上がっていた。光を孕んで熱でも帯びているかの如く見える。人工光独特のけたたましさがここまで伝わってくるようだった。

 それなりの先進国という本部長の言葉を疑っていた訳ではなく聞き流していた京哉は建国二百年という部分に重きを置き、未だ発展途上の街を想像していたのだ。

 輝く都市を一緒に眺めていた霧島が京哉に微笑む。

「ここまでの大都市が出来上がったのにはそれなりの理由がある」
「何ですか、それって?」
「独立国家としては歩み始めて二百年足らずだが、それ以前は大国の従属国だった。従属国だった頃の末期に宗主国たる大国がここに他国からの企業誘致を進めるため、極端な税制優遇政策を行った。いわゆるタックスヘイヴンというヤツだ。それと海に囲まれた観光地なる謳いに誘われ国外から資産家が集まった。結果がこれだ」
「最初からお金持ちばかりが集まった国ってことですか?」
「まあ、そうだな」

 海外で既に成功を収めた人々が住み着き、彼らを中心とする政府ができあがった。そういった人々の持ち寄った外資によってこの首都ラチェンは繁栄したという。

「おまけに採れる鉱物は金にプラチナ。産業は高級木材に高級繊維という話だ」
「そういや本部長室で『豊かな地の恵み』とか言ってましたっけ。でもそんなにお金を持ってるのに何で島ひとつの内戦くらい自分たちで治めようとしなかったんでしょうか? 今どきPSCとかいう民間軍事会社の代理戦争屋さんなんかもいるんだし」
「プライヴェート・セキュリティ・カンパニーか。しかしそれこそ国連と同じ理由だろうな。極端な貧富の差があるのも同じ理由で頷ける。おそらくリンド島の議席が減ったのもな」
「お金の出し惜しみだけじゃなく貧富で票の格差までつけて先進国とは淋しいかも」

 中天に浮かんだ黄色い月を仰ぎ見て、京哉は額に浮かんだ汗を袖で拭った。

「けど忍さんはそういう話を何処で仕込んだんですか?」
「お前が寝ている間に飛行機の中で隣の女性に聞いた」
「ふうん。女性ですか。女性とは珍しい……」
「御年八十くらいのご婦人だ。だが暑いな。何処かで着替えんと芽が出るぞ」

 一階ロビーフロアに降りると真っ先にレストルームに向かって、二人はコートを脱いでタイを解いた。ドレスシャツのボタンもふたつ開ける。銃を吊っているのでジャケットは脱げない。一応は考えてスーツも冬物でなく合い物にしたが、まだ暑いのは仕方ない。

 コートは結構な荷物なのでレストルームを出ると観光客用のコインロッカーを探し出し押し込んだ。ショルダーバッグひとつで身軽になった二人はATMで現金を手に入れてから携帯でこの国のマップ表示してみる。
 だが今ひとつ全体像が掴みにくい。

 そこで目に付いた売店で地図を購入して広げてみた。

「リンド島は……わあ、ここから八百キロ近くも離れてますよ、どうしよう?」
「どうするも何も飛行機くらいあるだろう」

 疑問を解消すべく霧島は売店のお姉さんに訊く。するとリンド島行きの航空便は昨日から全て欠航になったらしい。困った二人を見てお姉さんも一緒に考えてくれた。

「軍なら物資を運ぶ航空機を出しているのではないかという話だ」
「そうですか。仕事の邪魔してすみません、ありがとう」

 日本語で京哉は言ったがお姉さんは営業用ではないスマイルを返して仕事に戻る。
 飛行機の中で寝過ぎて眠気の片鱗もない二人は顔を見合わせた。

「何で軍が物資を運ぶんでしょうか?」
「民間機が運ばなくなったからだろう。内戦やらかすほど人間が住んでいるんだぞ。どの程度まで自給しているか知らんが医薬品まで止められたら死活問題だろう」
「それもそうか。じゃあ軍に行くしかありませんね。一番近いのは何処でしょう?」
「郊外にラチェン第一基地があるな。これだ」

 霧島がマップ上を指差したが、京哉は首を傾げた。

「でもこんな時間にやってるのかなあ?」
「分からんが行ってみるしかあるまい」
「じゃあタクシーですね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...