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第19話
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放っておくとウィスキー二本を飲んでしまい、やっとほろ酔いという霧島だ。
しかし京哉はそうもいかないので白ワインの炭酸割りである。
運転もしないのだからアルコールも愉しみたかったのだ。これも現金と引き換えにグラスを手に入れて喉を潤した。だが十分も経たないうちに霧島は二杯目でペースの速さに京哉は軽く睨む。
しかし霧島は涼しい顔で現金を支払う際に間宮孝司の写真も一緒にバーテンに渡した。ドル紙幣と共にバーテンは黙って写真を受け取ってカクテルを作り始める。
不思議な思いで京哉は煙草を吸いつつ様子を窺った。
バーテンは黙って淡々とグラスを磨き続けている。
そうして頃合いを見計らって何も言わなくても三杯目のグラスが置かれた。カクテルも内容が変わっていて霧島には濃い目のカミカゼ、京哉にはノンアルコールのサマー・デライトという洒落た趣向である。
霧島が出した数百ドルの紙幣と交換に写真が返された。
なるほどと思いながら京哉は写真の裏を眺める。書かれた英文は霧島が翻訳だ。
「【間宮孝司は昨日マルカ島入りしミルドホテルにチェックインした模様】とある」
「わあ、忍さんってばすごいすごい!」
「自分で言うのもなんだが、いい勘をしているだろう?」
「で、どんなからくりなんですか?」
「表の看板に『情報屋』と書いてあった」
外に出ると湾曲した細い道は風も通らずかなりの暑さだった。二人はなるべく汗をかかないよう、ゆっくり通りを二本戻ってタクシーを捕まえ乗り込んだ。霧島が「ミルドホテルまで」とドライバーに告げる。ミルドホテルは街の大通り沿いにあった。
低速で走ったタクシーは十五分くらいでホテルの前に到着する。
見上げたミルドホテルはこれもグレイで五階建ての建物だった。
「僕らもチェックインした方がいいですよね?」
「どう攻めるかにもよるが、まあ、どうせ泊まる場所は探さなければならんしな」
ここはかなりラフな土地らしく、自動ではないエントランスのドアが開放されている。中に入ると左側のフロントには半袖の制服を着た男女が腰掛けていた。
「喫煙でダブル一室、空いているだろうか?」
英語で霧島は話していたがダブルという単語に京哉は照れて僅かに目を泳がせる。
「少々お待ち下さい……三階の三〇五号室になります」
料金は先払いシステムで霧島が預かってきたカードで支払った。キィを霧島が受け取るのを眺め、ここで京哉は照れるのを止めるとフロントマンにつたない片言英語と併せて東洋人たる自分の外見をさりげなくアピールしながら訊いてみる。
「間宮孝司という男の人がここに泊まっている筈なんですが……」
エセ国連関係者の身分証など見せなくてもフロントの男が迷わず笑顔で答えた。
「カメラマンの間宮様ですね。いつもご贔屓にして頂いております」
「どの部屋か教えて貰えますか?」
「三階の三一七号室ですね。三一七は間宮様の専用ルームとなっております。でも殆ど一階のカフェテリアにおいでになってますよ」
個人情報ダダ洩れのホテルマンの答えは霧島に訳して貰い、納得すると礼を述べてフロントをあとにした。二人はエレベーターで三階に上がり三〇五号室に向かう。
三〇五号室はフリースペースの殆どないビジネスホテルそのものだった。
入ってすぐにロウテーブルを挟んだ独り掛けソファが二脚、ベッドにデスクと椅子がひしめいている。奥に洗面所とトイレとシャワールームがあった。
それだけの素っ気ない部屋ではあるが何より涼しいのが有難い。
窓の外にはバルコニーがあって見下ろすと中庭が見えた。この建物はロの字型になっているらしい。中庭はフロントマンが言っていたカフェテリアと繋がり、オープンカフェになっている。あちこちに緑が配され、涼しげに噴水がしつらえてあった。
「ねえ、忍さん。あそこ見て下さい」
京哉が指差した先を霧島も注視するとオープンカフェのテーブルにカメラを二台置き、ロンググラスを傾ける黒髪の男が目に入る。
ジーンズにTシャツ、ポケットが大量にくっついたベージュのベストを着込んだ男は間違いない、写真で見た間宮孝司その人だった。
「ふむ。それでどうやって画像データを盗むつもりだ?」
「うーん、どうしましょうか。まずはお友達になって……タラしてみようかな」
「却下だ。私に間宮孝司を撃たせる気か?」
「出会い頭は止めて下さい。でも取り敢えずお友達作戦でいいですか?」
「あくまで友達ならな。友達だぞ、友達」
だが京哉はやる気満々で伊達眼鏡まで外すと、颯爽と部屋を出てカフェテリアに向かった。既に機嫌が斜めになりかけた霧島は京哉がタラシモードに入ったら即ストップをかける構え、懐の銃もチャンバにまで装填しトリガを引けば初弾が出る状態だ。
一階のカフェテリアは天井に下がった大きなプロペラが生温い空気を掻き混ぜる、何となく怠惰な雰囲気が充満する空間だった。ペンダント型の照明も間遠で薄暗い。
現金と交換に霧島はアイスコーヒーを、京哉は薄荷の匂いのするアイスティーを手に入れて中庭のテラス席に踏み出した。さりげなく間宮孝司のいる隣のテーブルに着地する。
アイスティーのストローに口をつけた京哉は東洋人と気付いてこちらを向いた間宮孝司に微笑んだ。間宮孝司は黒い目を少々見開いてから銀色のカメラを持ち上げる。
「一枚ずつ、宜しいですか?」
英語で訊かれ京哉は頷く。シャッターを切る音はしなかったが撮れたらしい。
「見せて頂いても構いませんか?」
日本語で言った京哉に間宮孝司は一瞬動きを止めてから嬉しそうに破顔した。そうしてカメラを操作すると本体付属の小さな画面を霧島と京哉に見せる。そこには微笑んだ京哉のバストショットが映っていた。
もう一度操作すると今度は霧島の横顔が現れる。
しかし京哉はそうもいかないので白ワインの炭酸割りである。
運転もしないのだからアルコールも愉しみたかったのだ。これも現金と引き換えにグラスを手に入れて喉を潤した。だが十分も経たないうちに霧島は二杯目でペースの速さに京哉は軽く睨む。
しかし霧島は涼しい顔で現金を支払う際に間宮孝司の写真も一緒にバーテンに渡した。ドル紙幣と共にバーテンは黙って写真を受け取ってカクテルを作り始める。
不思議な思いで京哉は煙草を吸いつつ様子を窺った。
バーテンは黙って淡々とグラスを磨き続けている。
そうして頃合いを見計らって何も言わなくても三杯目のグラスが置かれた。カクテルも内容が変わっていて霧島には濃い目のカミカゼ、京哉にはノンアルコールのサマー・デライトという洒落た趣向である。
霧島が出した数百ドルの紙幣と交換に写真が返された。
なるほどと思いながら京哉は写真の裏を眺める。書かれた英文は霧島が翻訳だ。
「【間宮孝司は昨日マルカ島入りしミルドホテルにチェックインした模様】とある」
「わあ、忍さんってばすごいすごい!」
「自分で言うのもなんだが、いい勘をしているだろう?」
「で、どんなからくりなんですか?」
「表の看板に『情報屋』と書いてあった」
外に出ると湾曲した細い道は風も通らずかなりの暑さだった。二人はなるべく汗をかかないよう、ゆっくり通りを二本戻ってタクシーを捕まえ乗り込んだ。霧島が「ミルドホテルまで」とドライバーに告げる。ミルドホテルは街の大通り沿いにあった。
低速で走ったタクシーは十五分くらいでホテルの前に到着する。
見上げたミルドホテルはこれもグレイで五階建ての建物だった。
「僕らもチェックインした方がいいですよね?」
「どう攻めるかにもよるが、まあ、どうせ泊まる場所は探さなければならんしな」
ここはかなりラフな土地らしく、自動ではないエントランスのドアが開放されている。中に入ると左側のフロントには半袖の制服を着た男女が腰掛けていた。
「喫煙でダブル一室、空いているだろうか?」
英語で霧島は話していたがダブルという単語に京哉は照れて僅かに目を泳がせる。
「少々お待ち下さい……三階の三〇五号室になります」
料金は先払いシステムで霧島が預かってきたカードで支払った。キィを霧島が受け取るのを眺め、ここで京哉は照れるのを止めるとフロントマンにつたない片言英語と併せて東洋人たる自分の外見をさりげなくアピールしながら訊いてみる。
「間宮孝司という男の人がここに泊まっている筈なんですが……」
エセ国連関係者の身分証など見せなくてもフロントの男が迷わず笑顔で答えた。
「カメラマンの間宮様ですね。いつもご贔屓にして頂いております」
「どの部屋か教えて貰えますか?」
「三階の三一七号室ですね。三一七は間宮様の専用ルームとなっております。でも殆ど一階のカフェテリアにおいでになってますよ」
個人情報ダダ洩れのホテルマンの答えは霧島に訳して貰い、納得すると礼を述べてフロントをあとにした。二人はエレベーターで三階に上がり三〇五号室に向かう。
三〇五号室はフリースペースの殆どないビジネスホテルそのものだった。
入ってすぐにロウテーブルを挟んだ独り掛けソファが二脚、ベッドにデスクと椅子がひしめいている。奥に洗面所とトイレとシャワールームがあった。
それだけの素っ気ない部屋ではあるが何より涼しいのが有難い。
窓の外にはバルコニーがあって見下ろすと中庭が見えた。この建物はロの字型になっているらしい。中庭はフロントマンが言っていたカフェテリアと繋がり、オープンカフェになっている。あちこちに緑が配され、涼しげに噴水がしつらえてあった。
「ねえ、忍さん。あそこ見て下さい」
京哉が指差した先を霧島も注視するとオープンカフェのテーブルにカメラを二台置き、ロンググラスを傾ける黒髪の男が目に入る。
ジーンズにTシャツ、ポケットが大量にくっついたベージュのベストを着込んだ男は間違いない、写真で見た間宮孝司その人だった。
「ふむ。それでどうやって画像データを盗むつもりだ?」
「うーん、どうしましょうか。まずはお友達になって……タラしてみようかな」
「却下だ。私に間宮孝司を撃たせる気か?」
「出会い頭は止めて下さい。でも取り敢えずお友達作戦でいいですか?」
「あくまで友達ならな。友達だぞ、友達」
だが京哉はやる気満々で伊達眼鏡まで外すと、颯爽と部屋を出てカフェテリアに向かった。既に機嫌が斜めになりかけた霧島は京哉がタラシモードに入ったら即ストップをかける構え、懐の銃もチャンバにまで装填しトリガを引けば初弾が出る状態だ。
一階のカフェテリアは天井に下がった大きなプロペラが生温い空気を掻き混ぜる、何となく怠惰な雰囲気が充満する空間だった。ペンダント型の照明も間遠で薄暗い。
現金と交換に霧島はアイスコーヒーを、京哉は薄荷の匂いのするアイスティーを手に入れて中庭のテラス席に踏み出した。さりげなく間宮孝司のいる隣のテーブルに着地する。
アイスティーのストローに口をつけた京哉は東洋人と気付いてこちらを向いた間宮孝司に微笑んだ。間宮孝司は黒い目を少々見開いてから銀色のカメラを持ち上げる。
「一枚ずつ、宜しいですか?」
英語で訊かれ京哉は頷く。シャッターを切る音はしなかったが撮れたらしい。
「見せて頂いても構いませんか?」
日本語で言った京哉に間宮孝司は一瞬動きを止めてから嬉しそうに破顔した。そうしてカメラを操作すると本体付属の小さな画面を霧島と京哉に見せる。そこには微笑んだ京哉のバストショットが映っていた。
もう一度操作すると今度は霧島の横顔が現れる。
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