Shot~Barter.9~

志賀雅基

文字の大きさ
20 / 63

第20話

しおりを挟む
「やっぱり今はフィルムじゃなくてデジタルなんですね」
「ええ、これはデジタルです。ドルガE5、デジタルにしては作りが堅牢で信頼性のある機種ですね。それでも昔ながらの銀塩カメラも捨てがたくて、この黒いレジナG2はフィルムです。ただデジタル全盛期でフィルムを手に入れるのも難しくなってきましたよ」

 相手の得意分野で、まずは口の滑りを良くする作戦だ。

「そうなんですか。プロのレンズはもっと大きいかと思ってましたけど」
「あまり大きなレンズだとアクティヴに動けませんからね。カメラ二台を持ち歩くならこれが限界ってとこです、フィルムもかさばりますし。でも何故僕がプロと?」
「だって、カメラマンの間宮孝司さんじゃありませんか?」

 名前を出しても間宮孝司は驚かなかった。『戦争を食い物にする男たち』の撮影協力としてメディアに露出してから、ある意味有名人になったからだろう。

「その通り、僕は間宮孝司です。貴方がたはここの歓楽街に旅行か何かですか?」
「まあ、そんなところです。鳴海京哉、鳴海と呼んで下さい」
「霧島忍、霧島で」
「僕はコージで構いませんよ。それにしてもフォトジェニックなお二人だなあ」

 そう言ってコージは黒い方のカメラでも二人をファインダーに捉えた。こちらは機械式らしくシャッターが切れて、確かに昔ながらのフィルムを巻く独特の音がする。

「この音は懐かしい気がするな」

 感想を述べた霧島にコージは頷いて、今や貴重となってしまった銀塩カメラについての蘊蓄を語り出した。興味あるふりなどしなくても霧島は面白く拝聴する。時折カメラを持たせて貰い、合いの手を入れるのは主に京哉で上手く話題を誘導した。

 お蔭で約一時間で河合フィルムの社長である河合泰造が明後日、自らこのホテルにやってきてコージが撮り溜めた画像データを回収していくことまで探り出していた。

「デジタルの画像データはメールで送らないんですか?」
「送ってもいいんだけど、それだと味気なくてね。おまけに今のクライアントの河合社長はこだわるタイプなんだ。だから僕は全ての画像データを焼き付けてから河合社長に見せて納得して貰えたら売ることにしてるんだ。それでこのホテルの三一七号室にパソコンだのプリンタだのを置かせて貰って暗室も作らせて貰ってる」
「暗室までとは、さすがはプロですね」
「ここは何をするにも便利でね。北軍に半月張り付いて一週間ここで過ごす――」

 それならまだマヌケ議員の画像データはメディアに流れていない可能性があった。

 チャンスを探る京哉は更に昨日までに撮り溜めたデジタルデータはカメラに入ったままのメモリ一本、フィルムは部屋に置いてある撮り終えた十七本で、まだ焼き付けていないのも訊き出す。今入っている途中のフィルムはマルカ島で撮ったらしい。

「河合フィルム社長の泰造氏は元々僕と同じカメラマンでね、あっちはモデル専門だったけど。それでこだわるんだろうな。焼き付けるのも手伝って貰ってるんだ」

 ここまでは五年間も周囲を欺いてきた京哉にとってお手軽な仕事だった。小細工的な嘘は霧島には吐けないので役割分担である。二度目の茶のおかわりを買いに屋内に戻りながら二人は目配せして頷き合った。

 だが最も重要な問題はここからである。

「明後日までにフィルム十七本は何とかするとして、デジタルデータはどうする?」
「それなんですよね、どうしよう? 忍さんは何も考えてくれないし」
「悪かったな。だが持ち歩いているのを盗るのは泥棒ではなく強盗タタキというんだぞ」
「だから他人事みたいに言ってないで貴方も考えて下さい」

 冷たい飲み物を再び手にして外のテラス席に戻るとコージのテーブルに着く。そこからの話題は河合フィルム制作の『戦争を食い物にする男たち』がメインとなった。

「北軍に張り付いて、おまけに大物の写真を撮り続けて危なくないんですか?」
「多少の危険は承知の上だよ。でもまあ僕が被写体にしているニックス=イヴァン将軍は、今のところ辺りを飛び回るハエの存在を鷹揚にも許してくれているからね」
「北軍基地の副司令でしたっけ。何でその人ばかり追ってるんですか?」

「それこそ戦争に群がる大物が撮れるからさ。だけどこれから先はフリーランスの戦場カメラマンの本分に戻ろうと思ってる。国連は南軍に梃入れするらしいしね」
「それって新たな戦力の投入で、また大規模な戦闘があるって意味ですよね?」
「まあね。僕にとったら稼ぎ時ではある」

 不敵な笑みを頬に浮かべ、コージは黒い目を煌めかせた。

 そのとき鈍い爆音がして京哉と霧島は同時に上階を仰ぎ見る。反射的な動きでコージは手にしていた黒い方のカメラ・レジナG2のレンズを上に向けた。

 三階のバルコニーからもくもくと黒い煙が吐き出されていて、カメラ一台を手にしたままコージが立ち上がる。

「くそっ、僕の部屋だ!」
「何だって?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...