Shot~Barter.9~

志賀雅基

文字の大きさ
26 / 63

第26話

しおりを挟む
 道路は石畳から土を押し固めたものに変わっていた。
 何処かに乗り捨てられるのが前提のようなボロいレンタカーはガタガタ振動し、時折バウンドしては車底を地面が擦って不穏な音と激しい衝撃が起こる。

 周囲は背の低い灌木の茂みでいわゆるブッシュといったもの、僅かに見通せる先には本格的な緑のジャングルがあった。

「あの中までこの車で乗り入れるんですか?」
「あそこからが本番さ。傍から見れば奇妙な光景ではあるけどな」

 まもなく密林に差し掛かる。ここも一応は道らしきものはあったが、先程までとは比較にならない悪路だ。
 何度も車体はバウンドし着地してはサスペンションが折れるかと思うような底付きをする。更に道には水溜まりも多くあり不幸にも選ばれた白い車はあっという間に泥水の洗礼を受けてウィンドウごと茶色に染まった。

 殆どワイパーが利かない場面にも遭遇する。前もロクに見えない状態で今まで何台の車がコージの犠牲になったんだろうと、どうでもいいことを考えながら京哉は不安になってきた。こんな状況でも眠り続ける霧島はいっそ天晴れで羨ましい。

「第十二CPに辿り着くまで、この車が車の形をしてたらいいですね」
「CPは元々村だった。そう心配しなくても村人たちはこうして行き来してたんだ。あと一時間で上手くすれば人に出会える。緩める時には緩んでおいた方がいい」
「はあ、そうですか。じゃあコーヒーと薄荷ティー、どっちがいいですか?」

 それから約一時間が経った頃、茶を飲みつつ運転するコージと世間話していた京哉は道の前方がひらけているのを目にした。
 スナイパーの抜群の視力で兵士が行き来し、彼らが一様にAKMなるアサルトライフルを担いでいるのも見取る。

 AKMは旧ソ連発祥だ。
 南軍のブレナン基地ではドイツのH&K製MP5を兵士は持っていた。

 元は同じビオーラ国軍なのに内戦開始からたった三年で南軍と北軍では武器弾薬の仕入れ先がまるで違っているのが銃一丁を見ても分かる。それだけで単純に決めつけられはしないが旧西側と旧東側のどちら側からも武器弾薬は流入しているということだ。

 もしこれがニックス=イヴァン少将の仕業だとすれば、なかなかの手腕である。

 そう考えて京哉は感心した。何せ末端の兵士までが一発の弾薬からして種類の違う得物を持ち歩いているのだ。
 手広くあらゆる死の商人とのチャンネルを保っておけばタックスヘイヴンと外資で潤い移住してきた一握りの人々が牛耳るこの国では、のちの地位は約束されたも同然だろう。

 瞬時にそこまで考えながら、京哉は暢気な口調でコージに訊く。

「あれって検問?」
「ああ、CPに繋がる一本道だからな。けど僕は何度も通る常連だ、心配無用だよ」

 頷いた京哉は霧島を起こしながら勝手にポケットに手を入れて国連査察団としての陸自二尉の身分証を抜き取り、自分のものと一緒にショルダーバッグの底に押し込んだ。
 南軍への肩入れ宣言した国連関係者が今現在コージ曰く『いきり立っている』北軍で自己主張しても、いいことはひとつもなさそうだったからだ。

 まもなく検問の兵士らに囲まれ、コージが車を駐めてエンジンを切る。

「よう、コージ。今度の出勤は早いじゃないか」
「おおっ、その東洋美人二人は何なんだ?」

 あっさりとコージが車から降りたので京哉も目を擦る霧島を促して外に出た。するとさすがにジャングルの暑さは質が違った。
 じっとりと湿度の高い重みのある熱気が身を押し包んで何もしなくても汗が滲む。

 それでも表面上は笑顔を作り、要求されるままに日本とビオーラの両政府が発行した武器所持許可証や警察手帳まで見せた。
 何故ここで日本の警察官なのかはコージの「僕の下僕だ」という言葉を信じて貰えた訳でもないだろうが、幸い酔狂な旅行者として問題にはされなかった。

「だがコージ、この先は少々拙いかも知れないぞ」

 カネを払って兵士にガソリンを分けて貰いながらコージは首を傾げて先を促す。

「ブービートラップで昨日、別の小隊が二人やられた。我らが第十二CPのかなり近い所まで南軍の奴らが入り込んでるってことだ。こいつは一戦あるかも知れん」
「誰も僕の露払いを務めちゃくれないのか?」

 給油しながらおどけて言ったコージに兵士はニヤリと笑った。

「運のいい悪人だぜ。丁度今からCPに戻る分隊がいる。そいつらに露払いをさせようじゃないか、え、ニックス=イヴァン副司令のワンコちゃんよ」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。僕はイヴァン氏と握手したことすらないぞ」
「まったまた、違う処で握手して……悪い悪い!」

 ふざけ合うコージと兵士を前にしても霧島はまだ不機嫌続行中らしい。レンタカー内でコージと話を弾ませていたのを聞いていたようだ。けれど一応通訳してくれる。
 どうやら北軍兵士の乗った車両が先導を務めてくれるというので少し安堵した。

 幌を畳みオープン型にした車両が二台、道の先に現れている。軍用車両はAKMを担いだ兵士を五人ずつ乗せていて非常に乗り心地が悪そうだ。
 だがこちらはボロでもエアコン付きである。不機嫌な霧島を先頭に乗り込むと文明の風にたちまち汗が引いていった。

 何の合図もなく出発する。再びコージがステアリングを握った。

 相変わらずの悪路だったが視界に他人が映っているのと、相変わらずムッとしているが霧島が起きてくれているのも嬉しくて京哉は僅かながら精神的に落ち着いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...