Shot~Barter.9~

志賀雅基

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第30話

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 大きなログハウスの前で停めた車両から三者は降り、制服姿のニックス=イヴァンだけが大ログハウスの中へと入ってゆく。
 戦闘服の兵士二人はドア前で張り番だ。

「役者が揃ってパーティーが本格的に始まったらしいな」

 結構な盛り上がりらしく、ざわめきや女性の嬌声がここまで伝わってくる。

「いったいどうなってるんだ、本当に分からない、くそっ!」
「焦るな、コージ。証拠写真は撮ったんだろう?」
「勿論だ。全て画像に撮った。だが分からない、どうなってるんだ?」
「どうもこうも想像ならつくだろうが」

 カメラを抱いたコージと京哉に見られて霧島は説明した。

「あくまで想像だが……この内紛は最初から仕組まれていた。ニックス=イヴァンとスチュアート=ブレナン候補が言い出したのか、逆に新興財閥から持ち掛けたのかは分からんが、とにかくニックスとブレナンのバックにはこの国の上流階級者がついていたんだ」
「新興財閥たちが内戦に噛んでたってことですか?」
「おそらくな。理由は国外の大物たちと同じく金儲けだ。戦争は儲かるからな」
「彼らの狙いは戦時特需だったんですか」

 頷いた霧島は続ける。

「ああ。ニックス=イヴァンとスチュアート=ブレナン候補が予備選で本当に不正をしたかどうかは分からん。だが噂を火種にして民衆を煽り、まんまと内戦という大火に持ち込んだ。そこで登場したのがこの国の新興財閥であり国外の大物たちだ。南北両軍に肩入れして相当儲けたことだろうな」

 気付くと隠れた影の中でコージのカメラを持つ手が震えていた。

「そんな……リンド島は奴らのゲーム盤、兵士は賭けゲームの駒だったとでも言うのかよ! 今日撃たれて死んだ兵士も、爆撃で死んだ民間人もいる。あいつらは新興財閥たちの金儲けのために、パーティーのバーベキューの薪としてくべられたとでも言うのか!」

 一方で京哉が誰より冷静な目を霧島に向ける。

「でもマフィアまで噛んでるのはどういうことなんでしょうか?」
「これは推測というより憶測でしかないが武器弾薬の他にクスリではないかと思う」
「武器弾薬以外にクスリって、ドラッグをパーティーの余興で愉しんでるとか?」
「一点目の武器弾薬は新興財閥たちが国外の大物と交渉に至るまでの足掛かりにマフィアのノウハウや密輸ルートを使ったのだろう。二点目のクスリは私の憶測でしかないが、昔から良く使われる手でもある。余興的に愉しみながらも皆が違法なドラッグを使うことで互いの秘密を護り合うアイテムとして導入したのではないか。マフィアにも旨い思いをさせられる」
「そっか。得にならなきゃ協力なんてしないマフィアに対しても、今回の内戦を仕組んで儲けた『戦犯』の皆さんにも、それは有効な手段ですよね」

 黙って聞いていたコージは一時の激情から醒めたのか、それとも突き抜けてしまったのか、何も言わず無表情で動き出していた。
 カメラを構えて隠れていた小さなログハウスの裏から出て行こうとする。そのベージュのベストを掴んで霧島は留めた。

「待て、コージ。どうするつもりだ?」
「奴らの麻薬パーティーの現場を撮る。当然だろう。これを撮らなくてどうする?」
「見つかれば八つ裂きでは済まされんぞ」
「だからって放っておけるか!」
「静かに喋れ。外にも見張り、中には十人近いプロのガードだ、どうする?」
「この表に出ればあの大きな窓から中が撮れる。殺されても僕は奴らを撮るからな」

 黒い目にジャーナリストの決意を見て霧島は頷いた。

 夜闇に紛れて三人は隠れていたログハウスの裏から回り込み、密やかに大ログハウスに到着すると正面の兵士たちに気付かれぬようここでも裏から回る。高床のバルコニーになった大ログハウスの側面に沿ってしゃがみ込むように身を低くし移動した。

 辿り着いた窓のあるバルコニー越しにコージが伸び上がってカメラのファインダーを覗く。確認してからオートフォーカスのカメラのみ突き出してそっとシャッターを切った。プロの勘で何度か角度を変える。

「撮れそうか?」
「誰に訊いてるのさ?」
「これは失敬。だが急いでくれ」

 連写モードで撮ったがデジタルカメラは無音設定だ。けれどそこでふいに窓が開いた。同時に京哉はいがらっぽい煙の臭いを嗅ぐ。三人は身を凍らせた。

 バルコニーに出てきたのは軍人のニックス=イヴァンというアンラッキィ。

「誰だ!」

 アクティヴなコージの気配を読まれたか、ニックス=イヴァンが柵から身を乗り出して怒号を放った。その時には既に三人は身を翻し、コンクリート壁の方に駆け出している。
 背後でざわめきが異様に硬く変った。

「くそっ、逃げ切れるのか? ヘリの方にすれば良かったぜ!」
「コージ、ヘリなんか操縦できるんですか?」
「できる訳ないだろ! サツカンのあんたらこそヘリくらい操縦しろよ!」
「減らず口より足を動かせ! コージ、早く来い!」

 叫ぶ間に衝撃波が三人を襲い京哉の髪をなびかせた。後方から飛来した弾丸だ。AKMの撃発音をあとで聞きながら走る速度は緩めない。
 更に違う撃発音がしてガードたちまで撃ち始めたのを知る。

 僅かに速度を緩めた霧島が二人を庇うように後方についた。走りに走って壁まであと僅か、立ち塞がるそれに対し霧島が抜いていた銃を向けた。

「京哉、コージ、退いてろ!」

 走りながら霧島はコンクリートの壁に連射する。九ミリパラは点々とコンクリートを砕いて破片を飛び散らせたが、さすがに貫通までは程遠い。だが足掛かりとしては充分だ。


「早く登れ!」
 急かしつつ来た時と同様に霧島は驚きの身軽さで壁の上に駆け上がる。足掛かりを頼りに京哉も登り切り残るはコージだけ、だがコージは足掛かりを使うもなかなか登れない。

「どうした、コージ!」
「行きに飛び降りた時に足首をやったらしい、僕はいいから先に行け!」
「置いて行けるか! 手を貸せ、引き上げる!」
「だめだ、もう……こいつだけでも頼む!」

 暗かったが投げられたカメラのストラップを京哉がしっかりと掴んだ。

「それを公表してくれ、頼んだぞ!」
「ふざけるな! それはあんたのものだ、あんたが公表しろ!」

 再び霧島は内側に飛び降りる。コージのベルトを掴み押し上げ、壁をよじ登らせ上に手を掛けさせた。京哉も手を貸してコージは懸垂の要領で壁を登りきる。

 残るは霧島のみ、もう一度駆け上ろうと僅かに壁と間合いを取った。
 しかし右大腿部に焼け火箸でも突っ込まれたような熱さを感じて思わず膝を折る。京哉は霧島が血飛沫を散らすのを視認した。

「忍さん、そんなっ!」
「くっ……いいからお前たちは行け、行くんだ!」
「忍さん、置いてなんか行けない!」
「私はいい! コージ、京哉を頼む!」
「忍さんっ!」
「待っているぞ、京哉――」

 背後から多数の足音が迫った。また撃たれる。一発が右のこめかみを掠め、殴られたように激しく頭が振られた。

 一瞬で霧島の意識はブラックアウト、痛みも分からなくなる。
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