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第36話
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早く気味の悪い感触を肌から洗い流したくて霧島は熱いシャワーを頭から浴びたはいいが、湯が全身の打ち身に沁みて我に返ったようにしっかりと覚醒した。
躰の痛みはともかく縛めを解かれ、シャワーを許されて霧島は溜息をついていた。
もう一生こうしていたかったがそういう訳にもいかない。腹が減っている。ログハウスで蹴られ、さっき暴れた時にも殴られ蹴られて、見事にあざだらけの躰を痛みを堪えてこれでもかと擦り上げた。ボディソープの泡を綺麗に流すと少しはマシな気分になる。
バスルームを出るとバスタオルで拭い、置かれたガウンは無視し自前の衣服を身に着けた。服は血だらけでドレスシャツはボタンが幾つか引きちぎられていたが、スーツのジャケットまで着てボタンを閉じ、なるべく肌を隠す。ささやかな防御策だ。
室内に出て行くとまだ金髪と茶髪の二人が居座っている。何をどう勘違いしているのか知らないが二人は霧島を見ると頬に嗤いを浮かべながらも親しげな口を利いた。
「腹が減っただろう、でももうすぐ食事だからな」
「淋しいだろうから三人でブランチだ」
「それはどうも。ところでここはドン・ガーウィンの持ちビルなのか?」
掠れ声の英語を聞き取って茶髪の方がためらいもなく答える。
「ビルは新興財閥のロートン住宅産業のものだが、五十一階から上を買い取ってる」
「ふん。大した羽振りの良さだな、マフィアのドンは」
「今どきマフィアだけをやってるようじゃ三流さ。うちのドンは投機に明るくてね、俺たちもいい目を見させて貰ってる。あんたもうちに入社したらどうだ?」
「勘弁してくれ、何処かで合法的に調達しろ」
オモチャとしてキープされては敵わない。霧島は男たちが座ったソファから離れた窓辺のテーブルに着く。粘膜の痛みに耐えて華奢な猫足のチェアにそっと腰掛けた。
暫くすると壁にしつらえられた貨物リフトにグリーンのランプが灯り、食事が届いた。トレイを受け取るとまたテーブルに移動し、霧島はものも言わずに食い始める。
肉を頬張ると殴られて出来た口内の傷にソースが沁みた。その痛みにも構わず霧島は次々と目の前のものを口の中に放り込み、咀嚼して飲み込んでいく。今の自分にできることは体力をつける、それだけだったからだ。
最悪でも京哉が迎えに来てくれるまで保たせなければならない。この自分が『待っているぞ』と言った以上、京哉は必ず来る。それまでにできるだけ体力を温存し貧血も治して自力で動けるようになっておくのが自身に与えた至上命題だった。
食いっぷりを呆れて見ていたガード二人も自分たちの分を口に運び始めた。男三人が食事を終えるまであっという間、霧島は二人に続いて貨物リフトにトレイを自分で戻す。スライドさせてフタを閉めボタンを押して送り返した。
そうしながら霧島は掌にじっとりとかいた汗を服に擦りつけている。
食事の途中から感じ始めた苛つきが今は全身に取り憑いていた。それを他人事のように無視していたが茶髪のガードに見破られ、銃口付きでまたクスリを射たれる。
一本を射たれただけで今度は安堵感と共に眠気が押し寄せてきた。増血剤を飲み、これは取り上げられなかった煙草を吸いながらギリギリまで我慢して、チェアに座ったまま気付くと煙草がフィルタだけになっているというのを繰り返す。
そんな様子にガードたちは嗤いながら部屋を出て行った。監視役も交代らしい。
新たな男二人は霧島にとって難儀な趣味の持ち合わせがないらしくロウテーブルで賭けカードを始めた。そこで霧島はベッドに移り、毛布を被って本格的に眠る態勢に入った。
躰の痛みはともかく縛めを解かれ、シャワーを許されて霧島は溜息をついていた。
もう一生こうしていたかったがそういう訳にもいかない。腹が減っている。ログハウスで蹴られ、さっき暴れた時にも殴られ蹴られて、見事にあざだらけの躰を痛みを堪えてこれでもかと擦り上げた。ボディソープの泡を綺麗に流すと少しはマシな気分になる。
バスルームを出るとバスタオルで拭い、置かれたガウンは無視し自前の衣服を身に着けた。服は血だらけでドレスシャツはボタンが幾つか引きちぎられていたが、スーツのジャケットまで着てボタンを閉じ、なるべく肌を隠す。ささやかな防御策だ。
室内に出て行くとまだ金髪と茶髪の二人が居座っている。何をどう勘違いしているのか知らないが二人は霧島を見ると頬に嗤いを浮かべながらも親しげな口を利いた。
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「淋しいだろうから三人でブランチだ」
「それはどうも。ところでここはドン・ガーウィンの持ちビルなのか?」
掠れ声の英語を聞き取って茶髪の方がためらいもなく答える。
「ビルは新興財閥のロートン住宅産業のものだが、五十一階から上を買い取ってる」
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「今どきマフィアだけをやってるようじゃ三流さ。うちのドンは投機に明るくてね、俺たちもいい目を見させて貰ってる。あんたもうちに入社したらどうだ?」
「勘弁してくれ、何処かで合法的に調達しろ」
オモチャとしてキープされては敵わない。霧島は男たちが座ったソファから離れた窓辺のテーブルに着く。粘膜の痛みに耐えて華奢な猫足のチェアにそっと腰掛けた。
暫くすると壁にしつらえられた貨物リフトにグリーンのランプが灯り、食事が届いた。トレイを受け取るとまたテーブルに移動し、霧島はものも言わずに食い始める。
肉を頬張ると殴られて出来た口内の傷にソースが沁みた。その痛みにも構わず霧島は次々と目の前のものを口の中に放り込み、咀嚼して飲み込んでいく。今の自分にできることは体力をつける、それだけだったからだ。
最悪でも京哉が迎えに来てくれるまで保たせなければならない。この自分が『待っているぞ』と言った以上、京哉は必ず来る。それまでにできるだけ体力を温存し貧血も治して自力で動けるようになっておくのが自身に与えた至上命題だった。
食いっぷりを呆れて見ていたガード二人も自分たちの分を口に運び始めた。男三人が食事を終えるまであっという間、霧島は二人に続いて貨物リフトにトレイを自分で戻す。スライドさせてフタを閉めボタンを押して送り返した。
そうしながら霧島は掌にじっとりとかいた汗を服に擦りつけている。
食事の途中から感じ始めた苛つきが今は全身に取り憑いていた。それを他人事のように無視していたが茶髪のガードに見破られ、銃口付きでまたクスリを射たれる。
一本を射たれただけで今度は安堵感と共に眠気が押し寄せてきた。増血剤を飲み、これは取り上げられなかった煙草を吸いながらギリギリまで我慢して、チェアに座ったまま気付くと煙草がフィルタだけになっているというのを繰り返す。
そんな様子にガードたちは嗤いながら部屋を出て行った。監視役も交代らしい。
新たな男二人は霧島にとって難儀な趣味の持ち合わせがないらしくロウテーブルで賭けカードを始めた。そこで霧島はベッドに移り、毛布を被って本格的に眠る態勢に入った。
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