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第35話
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小型ヘリを操縦できる村長ごと雇った京哉は一旦機を海上まで飛ばすよう指示を出した。安全策を取ってから南軍支配地域かマルカ島の、どちらに着けるか決めようとしたのだ。
このビオーラでも決められた地域内ならヘリ一機にパイロット一名でもいいらしいので、空いたコ・パイ席に京哉は座ってずっと眼下の海を見つめながら考えている。
だがそこで思わぬ援護射撃を受けた。ガーウィンファミリーのドンがマルカ島でのカジノ新装開店パーティーを急遽キャンセルし、現在はヘリで首都ラチェンに向かっているという事実を一ノ瀬本部長がメールで知らせてくれたのだ。
情報をもたらしたのはマルカ島のミルドホテルでコージとフィルムを狙った男の一人だとメールにあった。霧島と京哉が撃った男たちのうち、おそらく指と肩で済ませてやった奴だろう。
与党政調会長の梓議員に使われた男は国際社会の面目を維持せんとする政府関係者に今度もカネで雇われたのだ。裏稼業を生業とするだけに情報も信憑性が高い。
それでも京哉は考え迷う。読みを外せば致命的な時間のロスになり得るのだ。だが結局は己の勘に従うことにする。霧島と自分は必ず引き合う筈だと強く想いながら。
「おそらく忍さんは現在移動中ですね。ドン・ガーウィンのヘリに同乗させられ首都のラチェンに向かってると思います。時間的にそろそろラチェンに着く頃かと」
「本当か、それは。じゃあどうする?」
「決まっています、勿論ラチェンに行きますよ。国際社会がどうなろうと僕は何も構いはしませんがとにかく急がないと。忍さんが霧島カンパニー会長御曹司という事実が敵にバレたら、もっと事態は拙く複雑になりますから」
「そうか……ちょっと待て、メール、それもニックス=イヴァン将軍からだ」
コージが携帯を操作、二人で小さな画面を覗き込んだ。
【間宮孝司君、取引をしよう。明日の零時、証拠物件たるフィルムその他画像ファイル等の記憶媒体を持ち、眼鏡の美人も一緒にブレナン基地内にて待つがいい。そのあとこちらから指示を出す。シノブ=キリシマの命が惜しければ、小細工は一切なしだ――N・I】
圧倒的な優位を感じさせる文面を一瞥し、京哉は柳眉をひそめた。
「幾ら僕らが忍さんの居場所を知らないと思い込んでても、馬鹿にしすぎですね」
「確かにそうだな。おまけにブレナン基地も自分の手中にあるような言い回しだ」
「言い回しっていうか、事実そうなんでしょう。パーティーにはエルヴィラ=ブレナン、ブレナン候補の奥さんも来てたんですし」
「僕らを四面楚歌の状況にして優位にことを運ぶって寸法か」
「とにかくラチェンに向かいます。指定は約十八時間後、迷うヒマはありますから」
雇った村長に首都ラチェンへと向かうよう頼む。海上でヘリは大きくターンした。
京哉の心の半分は冷静に状況を分析し見極めて行動していたが、残りの半分では焦り狂っていた。壁の上から見たとき霧島は脚に被弾して血を流し、その上に何処をやられたのか意識を失っているようだった。
まさか頭でも撃たれていたらと思うと血が凍える。
そんな想像をねじ伏せ、どんな形でもいい、霧島を取り戻すことだけに集中しようと心に決めていた。スナイプの時と同じく心音と呼吸を同調させて精神安定を図る。
言葉通り国際社会がどうなろうと構わなかった。それどころか三人分の命綱である画像メモリさえも京哉にとってはどうでもよかったのだ。この十八時間で勝負を決める。霧島の居場所を特定して潜入し行く手を阻む者は叩く。それだけのことだった。
既に事情は全て一ノ瀬本部長に送ってある。つまり日本政府を通して国連は全てを知ったも同然なのだ。コージの持つ画像データが流出しなくてもスチュアート=ブレナンとニックス=イヴァンは失脚するのは決まった未来なのである。
伴ってメディアが騒いで華々しいか、そうでないかの違いだけだ。
それも知らずに今日の夜中なんぞを指定してきたニックス=イヴァンは、こちらが日本政府の意向を背負っている事実を知らないにしろ、暢気極まりないとしか思えなかった。
それともいざとなれば国外の大物相手に築いた人脈を利用するつもりなのか。
「じゃあ、河合社長とはラチェンで会うよう手筈を整えるからな」
頷いた京哉は朝もやを切り裂いて最速で飛ぶヘリの窓から再び青い海を見つめる。霧島は生死不明、もし生きているとしても丁重な扱いを受けているとは思えない。
だがどんな霧島であっても取り返す。好きにはさせない。
夕食も摂ってはいなかったが、空腹など感じる隙間は心になかった。
このビオーラでも決められた地域内ならヘリ一機にパイロット一名でもいいらしいので、空いたコ・パイ席に京哉は座ってずっと眼下の海を見つめながら考えている。
だがそこで思わぬ援護射撃を受けた。ガーウィンファミリーのドンがマルカ島でのカジノ新装開店パーティーを急遽キャンセルし、現在はヘリで首都ラチェンに向かっているという事実を一ノ瀬本部長がメールで知らせてくれたのだ。
情報をもたらしたのはマルカ島のミルドホテルでコージとフィルムを狙った男の一人だとメールにあった。霧島と京哉が撃った男たちのうち、おそらく指と肩で済ませてやった奴だろう。
与党政調会長の梓議員に使われた男は国際社会の面目を維持せんとする政府関係者に今度もカネで雇われたのだ。裏稼業を生業とするだけに情報も信憑性が高い。
それでも京哉は考え迷う。読みを外せば致命的な時間のロスになり得るのだ。だが結局は己の勘に従うことにする。霧島と自分は必ず引き合う筈だと強く想いながら。
「おそらく忍さんは現在移動中ですね。ドン・ガーウィンのヘリに同乗させられ首都のラチェンに向かってると思います。時間的にそろそろラチェンに着く頃かと」
「本当か、それは。じゃあどうする?」
「決まっています、勿論ラチェンに行きますよ。国際社会がどうなろうと僕は何も構いはしませんがとにかく急がないと。忍さんが霧島カンパニー会長御曹司という事実が敵にバレたら、もっと事態は拙く複雑になりますから」
「そうか……ちょっと待て、メール、それもニックス=イヴァン将軍からだ」
コージが携帯を操作、二人で小さな画面を覗き込んだ。
【間宮孝司君、取引をしよう。明日の零時、証拠物件たるフィルムその他画像ファイル等の記憶媒体を持ち、眼鏡の美人も一緒にブレナン基地内にて待つがいい。そのあとこちらから指示を出す。シノブ=キリシマの命が惜しければ、小細工は一切なしだ――N・I】
圧倒的な優位を感じさせる文面を一瞥し、京哉は柳眉をひそめた。
「幾ら僕らが忍さんの居場所を知らないと思い込んでても、馬鹿にしすぎですね」
「確かにそうだな。おまけにブレナン基地も自分の手中にあるような言い回しだ」
「言い回しっていうか、事実そうなんでしょう。パーティーにはエルヴィラ=ブレナン、ブレナン候補の奥さんも来てたんですし」
「僕らを四面楚歌の状況にして優位にことを運ぶって寸法か」
「とにかくラチェンに向かいます。指定は約十八時間後、迷うヒマはありますから」
雇った村長に首都ラチェンへと向かうよう頼む。海上でヘリは大きくターンした。
京哉の心の半分は冷静に状況を分析し見極めて行動していたが、残りの半分では焦り狂っていた。壁の上から見たとき霧島は脚に被弾して血を流し、その上に何処をやられたのか意識を失っているようだった。
まさか頭でも撃たれていたらと思うと血が凍える。
そんな想像をねじ伏せ、どんな形でもいい、霧島を取り戻すことだけに集中しようと心に決めていた。スナイプの時と同じく心音と呼吸を同調させて精神安定を図る。
言葉通り国際社会がどうなろうと構わなかった。それどころか三人分の命綱である画像メモリさえも京哉にとってはどうでもよかったのだ。この十八時間で勝負を決める。霧島の居場所を特定して潜入し行く手を阻む者は叩く。それだけのことだった。
既に事情は全て一ノ瀬本部長に送ってある。つまり日本政府を通して国連は全てを知ったも同然なのだ。コージの持つ画像データが流出しなくてもスチュアート=ブレナンとニックス=イヴァンは失脚するのは決まった未来なのである。
伴ってメディアが騒いで華々しいか、そうでないかの違いだけだ。
それも知らずに今日の夜中なんぞを指定してきたニックス=イヴァンは、こちらが日本政府の意向を背負っている事実を知らないにしろ、暢気極まりないとしか思えなかった。
それともいざとなれば国外の大物相手に築いた人脈を利用するつもりなのか。
「じゃあ、河合社長とはラチェンで会うよう手筈を整えるからな」
頷いた京哉は朝もやを切り裂いて最速で飛ぶヘリの窓から再び青い海を見つめる。霧島は生死不明、もし生きているとしても丁重な扱いを受けているとは思えない。
だがどんな霧島であっても取り返す。好きにはさせない。
夕食も摂ってはいなかったが、空腹など感じる隙間は心になかった。
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