Shot~Barter.9~

志賀雅基

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第34話(注意・暴力描写を含む)

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 次に気付くと霧島はヘリに乗せられていた。
 貧血だろう見えづらい目を瞬かせて焦点を合わせる。中型ヘリの最後部で少しリクライニングした座席に座らされているのが分かった。

 目だけ動かして確認すると両側にはガードが腰掛け、ひとつ前の席にドン・ガーウィンのシルバーの髪が見えている。あとはパイロットとコ・パイだ。

 マフィアのドン専用機はさすがにグレードが高いらしく豪華本革張りのシートは非常に座り心地がいい。だが撃たれた脚と粘膜の裂傷はまだ鈍く鋭く脈打って霧島に痛みを伝えていた。
 しかし射たれたクスリのせいなのか我慢し難いレヴェルの痛みではない。

「マルカ島に行くのか?」

 声にならない囁きを発すると隣のガードが振り向く。けれどガードは「黙っていろ」とにべもない。両手首は前で縛められ腕時計を見れば六時五十八分だった。
 ログハウスで最後に確認してから四時間以上も経っている。あれからすぐにヘリに乗せられたにしては時間が掛かりすぎのような気がしていた。
 
 まさか自分はそんなに長く責め苛まれていたのだろうかと、その場にいる男の頭数を数え直すなどして嫌な想像をし、吐き気を堪えている間にヘリは減速して降下し始めた。

 何気なく目をやった窓外は既に明るかった。それだけではない、超高層ビル群が目に映り、その蜃気楼のような光景に貧血頭が混乱した。暫し高層ビルの林立をボーッと眺めたのちに、やっと霧島はここがマルカ島ではないのだと思い至った。

「首都のラチェンか……?」

 誰も答えてはくれなかったが否定されもしなかった。おそらく間違いない。

 そこで霧島が思ったのは、着いたら飯を食わせて貰えるのだろうかという疑問だった。暢気だが夕食も抜きだったのだ。腹が減っている。その上に貧血でもあった。
 食事の心配で思い及んだのが京哉だった。さぞかし心配していることだろう。ハサミで手首の縛めを切った時に何故生きていると連絡しなかったのか。

 今は取り上げられたようだが、あの時点ではまだ携帯がポケットに入っていたのだ。思いつきもしなかったあの時の自分を蹴り飛ばしに行きたい気分だった。
 そんな思いがまたしても異常な焦りを生んだ。

 酷い焦燥感に冷たい汗が噴き出し、狂ったように鼓動が高まり速まる。ここで騒ぎを起こすのは得策ではないと知りつつ自分を抑えられない。挙げ句ヘリ内の騒音に負けじと喚き出す勢いで声を上げた。

「おい、何処まで飛ぶんだ? いつ着くか教えろ!」

 誰一人として振り向いてもくれない状況に霧島は暴れ出したくなる。歯を食い縛って自身を抑え込もうと努力するも胃に穴が開きそうな感覚は耐え難く立ち上がった。

「大人しくしていろ」

 ガードの一人が英語で囁き、霧島は肩で息をして暴発寸前の自分を宥める。着席した直後に豪華中型ヘリは高層ビルの屋上駐機場にランディングした。

 降ろされてみると結構な数のヘリが並んでいた。この国ではヘリの利用者が多いらしいが並んだそれらは汎用機が多く、乗ってきたヘリのグレードが一番高いようだった。故にこのビルに入居しているのはマフィアばかりではないようだと推測する。

 そのまま歩かされると思っていたら白衣を着た看護師までが現れストレッチャに乗るように促された。やや苛つきはマシになっていたので大人しく乗っかる。

 一行はエレベーターに乗り込んだ。階数表示でこのビルが五十八階建てと霧島は知る。押されたボタンは五十八階と五十七階だった。下降し始める。

 最上階の五十八階でドンは降りた。自動ドアが閉まる直前にドンの指示で手首の縛めがナイフで切られ霧島はホッとする。自分を犯したガードがドンについて行ったのもホッとした理由だ。

 そのあと霧島は看護師とガード二人に固められ五十七階で降ろされて移動した。ストレッチャに仰向けになり高級ホテルの廊下のような小ぶりのシャンデリアの列を眺め続ける。三分ほどで運び込まれたのはマフィアの本拠地お抱えの医務室だった。

 そこにいた医師に霧島は局所麻酔され右大腿部の弾傷を縫い閉じられる。掠めただけと思っていたが貫通銃創だった。手首とこめかみの傷はステリテープで塞がれる。

 処置後は抗生物質入りとかいう点滴を腕に刺され銀色の点滴台付きで医務室を追い出された。勿論ガード二名も一緒だ。麻酔の効きが悪く予想外に痛む右足を僅かに引きずりながら歩く。だが廊下を歩かされている間にまた焦燥感が首をもたげて自然と足早になった。

 そんな霧島に金髪と茶髪のガードコンビは笑って歩調を合わせる。

 案内されたのはホテルの客室と大差ない空間で、まずソファに座らされ茶髪のガードにクスリを注射された。それで早鐘のように鳴っていた心臓が一気に落ち着きを取り戻す。焦燥感が消え、やや冷静に考えられるようになった。傷の痛みも消える。

「クスリはここに置いてある。欲しい時に射つがいい」

 ゆっくりとした英語で示されたものを見つめた。ロウテーブルには金属トレイがあり、銀色の針にキャップの付いた細いシリンジが大量に並んでいた。どういう作用機序なのかは分からないが、これだけ射てば立派なジャンキーになれるだろう。
 
 霧島は知らず唾を飲み込む。
 今、射ったのに次が欲しい自分が確かにいたのだ。

「それと、この増血剤は食後に二錠ずつだ。あんたは大事な人質だからな」

 金髪がダークスーツのポケットから赤い錠剤のシートを出し、ロウテーブルに投げた。それらを眺めているうちに小さな点滴パックの液体はなくなった。自分で外して袖を元に戻す。だが茶髪にまた腕を取られて捲られ、追加で二本クスリを射たれた。

 言いようのない安堵感が広がったところでガード二人に服を引っ張られ、腕を掴まれて引きずられた。キングサイズのベッドに引きずり上げられそうになって、両手の空いている今度こそ思い切り暴れる。一人が懐から銃を抜いたのも意に介さない。

 殺せない預かりものの人質だ、絨毯の上に押し倒されながらも暴れに暴れた。

「くそっ、こいつ本当に効いてるのか?」
「あれだけ射ったんだ、効いてる筈だぞ」
「それにしちゃ活きが良すぎるぜ」
「馴らすのも一興さ。お前はそういうのが好きなんだろ」

 男たちは嗤いながら霧島のドレスシャツの前を引き裂く。だが霧島も日本では全国大会で優勝を飾った武道の達人だ。振るったこぶしは何度かガードの顔を捉える。

 しかしコンディションは最悪な上に相手も荒事のプロだった。腹に肘を落とされて激しく咳き込む。酷い喉の痛みとこみ上げる血生臭さ、部屋が回転するような眩暈に一瞬気が遠くなった。

「綺麗な面して、やりやがったな!」
「死ぬほど可愛がってやるぜ!」

 朦朧とした霧島はその口汚い英語を遠く聞いた。ガードらは力を失くした霧島の両手首を前で縛めると、更にもう一本の樹脂バンドでベッドの脚に手首を繋ぐ。無抵抗なまま高く手を掲げさせた状態の霧島を押さえ付け、血の固まった下衣を下着ごと引き剥がした。

 意識を失くした霧島に茶髪のガードが己のものをあてがう。濡らすことすらせず、捩じ込むように突き入れた。激痛で霧島は意識を取り戻す。塞がりかけた裂傷からまた血が溢れ出した。気付くと同時に霧島は再び心を安全圏に逃がす。

 だが躰が現実で感じている苦痛が強すぎて徐々に心も引き摺られつつあった。

「ぐっ……くっそう、殺してやる、絶対に殺してやるからな!」

 掠れた声で霧島は絶叫する。
 だが嗤うガードは止まることを知らない。思い出したように吐き気が突き上がってきて霧島は喉を振り絞った。吐くものもなく苦い胃液に傷ついた喉が焼かれる。吐き散らしながら喚いた。

「ゲホ、ゲホゴホッ……やめ、さっさと抜け、うぐっ!」

 地獄のような時がようやく過ぎ去ったかと思うと金髪のガードがベルトを緩めながら、嗜虐の愉悦に顔を歪ませて嗤っている。

 既に滑りは良くなっていたが、それが却って耳を塞ぎたくなるような粘性の音を発し、霧島は聞きたくないばかりに掠れ声で喚き続けた――。
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