Shot~Barter.9~

志賀雅基

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第45話

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 時刻は二十二時前、ラチェン第一基地の正門前にタクシーは着いた。

 料金精算した京哉はそっと霧島を揺すって起こす。不幸中の幸いと言おうか、クスリが効いて痛みが和らいでいるらしく、霧島は眠たげにしているだけで降車する際も動きはごく自然だった。

 そのまま霧島と京哉は正門前の警衛隊を国連関係者の身分証でクリアし、その同行者としてかなり簡単にコージも基地内への立ち入りを許可される。

 今度は兵士の案内なしで軍用車両に乗り込んだ。ステアリングを握った京哉が目指したのはヘリの駐機場エプロンである。特別任務を全うするにはリンド島へ渡らなければならない。けれど今日は輸送ヘリも飛ばなかった。ラチェン第二基地の当番なのだ。

 そこで京哉はタクシー内で基地司令の副官にメールし、どんな手でもいいのでリンド島への臨時便を出してくれるよう基地司令に具申してくれと依頼してあった。
 命令伝達はスムーズになされたらしく、エプロンには偵察用小型ヘリが一機スタンバイしていた。車両から降りて京哉が偵察ヘリのパイロットたちに挙手敬礼をする。

 だがまさに三人がヘリに乗り込もうとした、その時になって大型ヘリがエプロン上空に現れた。垂直降下した機のギアが接地するのも待たずに人員が飛び降りてくる。

「おいっ、その偵察機はすぐに動くのか!?」
「何だ、どういうことだ?」
「病院に、病院に搬送してくれ、早く!」

 偵察機のパイロットに怒鳴り返した大声は最初に二人をブレナン基地に運んでくれた陽気なコ・パイ、ジャックのものだった。背後にはストレッチャを伴っている。その声に尋常でない焦りを聞き取って京哉たち三人はストレッチャに駆け寄った。

 ストレッチャに乗せられた兵士はまだ十代に思えた。そうしてよく見ると、それは霧島と京哉にマルカ島の存在を教えてくれた整備兵のロッドだった。土気色の顔はもう生きた人間のそれではなく、躰を包んだ毛布も血を吸って重たげである。

 おまけにその毛布の膨らみは、ロッドの身長の半分ほどしかなかった。

 息を引き取り数時間が経ったロッドをここまで運んでくるとは、いったいどういうことか霧島と京哉はジャックに目で訊いた。ジャックはキレたように叫んでいる。

「早く、早くロッドを病院に運んでくれ! 向こうのメディックも医務官も誰も彼もがロッドは死んだなんて言いやがって、診てもくれないんだ!」

 メディックとは衛生兵だが、死んだ者を診ないのは仕方のないことだと思われた。でも何故こうなったのか分からない。整備兵のロッドは南軍本拠地で支配地域ド真ん中に位置するブレナン基地から動かない筈である。その彼がどうしてこんな姿になったのか。

 大型ヘリから降りてきた寡黙な相棒のパイロットが叫ぶジャックの肩を叩いた。宥めるように何度も叩いておいて重い口を開く。

「北軍の奴らが一斉攻勢に出た。国連の梃入れを待つばかりの南軍は隙を突かれたんだ。前線が急激に南下し、ブレナン基地からたった四十キロの所がぽっかりとホットゾーンになって……墜とされた攻撃ヘリの回収に借り出されたロッドは地雷でられたんだ」
「前線が基地から四十キロなんて、砲弾なら飛んできちゃうんじゃないですかね」

 誰にともなく呟いて京哉は霧島の顔をそっと見た。幾ら特別任務でも今の状態の霧島には危なすぎると思ったのだ。目の色だけで考えを読んだコージも頷いている。

 だがそんな二人を前に霧島は掠れ声ながら冷静な口調で言った。

「私の国連先遣隊員の身分証がブレナン側にバレた。当然ニックス=イヴァンも知った筈だ。京哉とコージを逃がした以上は終わったも同然、だが国外逃亡したくても頼りの国外の大物は安保理が押さえている。フラれた奴には、もうあとがない」
「自軍兵士に事実が洩れるのも時間の問題、失脚前に花道を飾ろうと賭けに出た?」
「ああ。ならば奴は必ず前線に出張ってくる。これはチャンスだろう、違うか?」
「逃亡してジャングルに潜伏される前にニックス=イヴァン、そのあとゆっくりブレナン候補を。うーん、流れとしてはベストですけど、それこそガチの戦場ですよ?」
「けれど京哉、私には時間がないんだ。分かるな?」

 それが何を指しているのか京哉も承知していた。残りのクスリを使い切り本格的な禁断症状が出てからでは特別任務など務まらず、国際社会は間に合わない。公言した南軍への梃入れは不正を犯したスチュアート=ブレナン候補のためであってはならないのだから。

 それでも霧島は己の誓い通り、京哉に単独任務を負わせて送り出したりしない。何があろうと折れる霧島ではないと京哉は知っていた。頑固者はお互い様である。  

 霧島の意志がはっきりした以上は迷うだけ無駄だ。
 灰色の目に京哉は頷く。

「そっか。分かりました、行きましょう」
「現在時二十二時三十分か。四時間半の昼寝タイムだな」
「その前に一本だけ吸わせて下さい」

 倉庫前の大きな缶に走る京哉を霧島も追った。煙草を吸う霧島に京哉は目で訊く。

「今だけだ。帰国したらまた禁煙する」

 ともあれ瞬速で煙をチャージし戻ってきた霧島と京哉のバディは偵察用小型ヘリの後部座席にコージと並んで腰掛けた。勿論京哉の足元にはXM500のハードケースだ。
 パイロットたちがいつの間やら機外にいる。誰が操縦席を占めているのかと思ったら、ジャックと寡黙な相棒だった。

 パイロットとコ・パイで交代するにせよ、都合十時間近くも飛び続けで大丈夫なのかと京哉は心配になったが、赤い目で洟を啜るジャックはロッドの仇討ち気分なのか自ら操縦桿を握ってもう機を降りる気は欠片もないらしい。

 元のパイロットたちは却ってホッとした顔つきで、こちらに向け挙手敬礼をした。
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