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第2話
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それでも霧島と出会うまでは京哉自身元々異性愛者だったので、霧島はいつまでもネチネチ責め立ててくるのである。
別に京哉が元のように女性に転ぶと疑っている訳ではあるまい。霧島はそんなに自分に自信のない男ではない。ただ目前に自分がいるのに京哉が水着女性を鑑賞した事実にプライドが傷ついてご機嫌斜めなだけだろう。
だからといって単純な問題故にコトは面倒だ。けれどどうすれば年上の愛し人のプライドを癒し、機嫌を真っ直ぐ立て直せるのか、京哉も方法をひとつだけなら知っていた。
つついただけで食べる気を失くしたブルーベリータルトを霧島が奪い口に入れる。咀嚼しながらまた手を伸ばし、今度は京哉が掛けたメタルフレームの伊達眼鏡を奪い取った。
「あっ、ちょっ、何するんですか」
「何も生活に必要ではあるまい。それともこの眼鏡がないと水着ショーも見られんから困るというのか?」
「そうじゃないですけど、どうして?」
「寝顔以外にも綺麗な顔を見せてくれてもいいだろう」
「綺麗な顔が見たいなら鏡でも見てればいいのに。ったく、もう」
スナイパー時代に自分を目立たなくするためのアイテムとして導入した伊達眼鏡だが、五年間も掛けていたら慣れてしまい、却ってフレームのない視界は落ち着かなくなってしまった。だが霧島が少しだけ機嫌を直したのも分かって京哉は取り戻すのを諦める。
ケーキスタンドは霧島があらかた綺麗にしてしまい、メイドと今枝執事はティーカップだけ残してワゴンを押し部屋から去った。すると霧島は立ってドアをロックしに行き、舞い戻ってくると小柄な京哉の薄っぺらな躰を椅子の背ごと抱き締める。
そんな霧島に動じないふりで京哉はドレスシャツの胸ポケットから煙草とオイルライターを出すと一本咥えて火を点けた。紫煙を吐く京哉の耳元で霧島が囁く。
「京哉、もう一週間だぞ。私が欲しくはないのか?」
「大人しく休んでいないと治るものも治りませんよ。そもそも入院するのが嫌で代わりにここに来たのに、休めと言うと出勤しちゃう天の邪鬼なんですから」
「バディのお前が出勤するのに私には寝ていろと言うのか?」
「怪我してるのは貴方であって僕じゃないですから。それに僕が休むと小田切副隊長がまた書類を溜め込んで、関係各所からの督促メール地獄が……あっ、だめ!」
「だめではない……なあ、京哉。もう治った、問題ないぞ?」
胸元に回された霧島の長い指が京哉のボタンをひとつ、ふたつと開けた。その左薬指には京哉とお揃いのプラチナのリングが嵌り輝いている。京哉は霧島の手を押し退けようとした。
毎度怪我をしても体力がある上に驚異的な回復力を発揮する霧島が、もう何処も痛みを覚えていないのは動きから京哉も察知している。
しかしまだ胸には固定帯を巻いている状態なのだ。ここで無理はさせられない。
「忍さん。せっかくの土日なんですから躰をゆっくり休めて下さい」
「まだ私に我慢させるのか? もう寝てもいられん……あ」
何事かと振り返った京哉の目に鮮やかな赤が映った。それがポトポトと垂れてきてギョッとする。慌てて煙草を消すとナイトテーブルからティッシュを抱えてきた。
「鼻血ですよ、鼻血! 忍さんってば、ああ、もう!」
「だから我慢させられ過ぎてだな……私の妻なら察してくれ」
「いいから、そこに座って下さい。あああ、派手な案件に臨場したみたいですよ!」
フランス窓の傍の椅子に再び座らせて血を飲み込まないよう俯かせ、甲斐甲斐しくティッシュで拭っていると五分ほどで血は止まった。
だがドレスシャツには盛大に血痕が付いてしまっている。着替えさせようと京哉がボタンを外すと霧島はもう固定帯すらしていなかった。呆れて天井を仰いだ京哉の唇を立ち上がった霧島が奪う。
貪るように吸われ、歯列を割った舌で口内を舐め回された。舌を絡め取られ、唾液ごと痛みが走るくらい吸い上げられる。最上級のテクニックに京哉の膝から力が抜けかけた。
「んんぅ……っん、ん……はあっ! 忍さん」
「そんな目をして、本当は私が欲しいのだろう。素直になれ」
小柄な京哉は軽々と抱き上げられセミダブルベッドに放り出される。骨折だの肋骨のヒビについてコメントするヒマもなくのしかかられ組み敷かれた。抵抗しない京哉に霧島は非常に嬉しそうで、おまけに逞しい胸まで目前で晒されては京哉も諦めるしかない。
霧島の背に腕を回してかき抱くと再びキスを交わしてから耳元に言葉を吹き込む。
「一週間、良く我慢しましたね、お互いに」
「ああ。だがもうこれ以上は本気で無理だからな」
「でも痛かったら、ちゃんと言って下さいね」
「分かっている、大丈夫だ。問題ない」
信用できない口癖語録の『大丈夫だ、心配ない』に京哉は却って僅かに不安が湧いたが、ここにきて今更お断りもできない。互いに退けるラインは超えていた。
身を起こした霧島はベッドのヘッドボードの棚からトワレのガラス瓶を取って胸に一吹きする。愛用のトワレはペンハリガンのブレナムブーケだ。
京哉も大好きな香りなのだが大事件が起こると自ら飛び出してゆく機捜隊長殿は現場に匂いは残せないと言って普段はつけてくれない。けれど行為の時だけは香らせてくれるのだ。
「ん……ああ、いい匂い――」
海際のフランス窓から燦々と日が差し込んで、少し苦みのある柑橘系の清潔感溢れる香りが光に弾ける。
その香りに京哉が浸り酔っている間に霧島はためらいなくドレスシャツの袖を抜き、スラックスから下着まで脱いで全てを晒していた。
そしてせっせと京哉の服も脱がせ始める。長い指で器用にボタンもひとつずつ外していた。京哉も逆らわない。
別に京哉が元のように女性に転ぶと疑っている訳ではあるまい。霧島はそんなに自分に自信のない男ではない。ただ目前に自分がいるのに京哉が水着女性を鑑賞した事実にプライドが傷ついてご機嫌斜めなだけだろう。
だからといって単純な問題故にコトは面倒だ。けれどどうすれば年上の愛し人のプライドを癒し、機嫌を真っ直ぐ立て直せるのか、京哉も方法をひとつだけなら知っていた。
つついただけで食べる気を失くしたブルーベリータルトを霧島が奪い口に入れる。咀嚼しながらまた手を伸ばし、今度は京哉が掛けたメタルフレームの伊達眼鏡を奪い取った。
「あっ、ちょっ、何するんですか」
「何も生活に必要ではあるまい。それともこの眼鏡がないと水着ショーも見られんから困るというのか?」
「そうじゃないですけど、どうして?」
「寝顔以外にも綺麗な顔を見せてくれてもいいだろう」
「綺麗な顔が見たいなら鏡でも見てればいいのに。ったく、もう」
スナイパー時代に自分を目立たなくするためのアイテムとして導入した伊達眼鏡だが、五年間も掛けていたら慣れてしまい、却ってフレームのない視界は落ち着かなくなってしまった。だが霧島が少しだけ機嫌を直したのも分かって京哉は取り戻すのを諦める。
ケーキスタンドは霧島があらかた綺麗にしてしまい、メイドと今枝執事はティーカップだけ残してワゴンを押し部屋から去った。すると霧島は立ってドアをロックしに行き、舞い戻ってくると小柄な京哉の薄っぺらな躰を椅子の背ごと抱き締める。
そんな霧島に動じないふりで京哉はドレスシャツの胸ポケットから煙草とオイルライターを出すと一本咥えて火を点けた。紫煙を吐く京哉の耳元で霧島が囁く。
「京哉、もう一週間だぞ。私が欲しくはないのか?」
「大人しく休んでいないと治るものも治りませんよ。そもそも入院するのが嫌で代わりにここに来たのに、休めと言うと出勤しちゃう天の邪鬼なんですから」
「バディのお前が出勤するのに私には寝ていろと言うのか?」
「怪我してるのは貴方であって僕じゃないですから。それに僕が休むと小田切副隊長がまた書類を溜め込んで、関係各所からの督促メール地獄が……あっ、だめ!」
「だめではない……なあ、京哉。もう治った、問題ないぞ?」
胸元に回された霧島の長い指が京哉のボタンをひとつ、ふたつと開けた。その左薬指には京哉とお揃いのプラチナのリングが嵌り輝いている。京哉は霧島の手を押し退けようとした。
毎度怪我をしても体力がある上に驚異的な回復力を発揮する霧島が、もう何処も痛みを覚えていないのは動きから京哉も察知している。
しかしまだ胸には固定帯を巻いている状態なのだ。ここで無理はさせられない。
「忍さん。せっかくの土日なんですから躰をゆっくり休めて下さい」
「まだ私に我慢させるのか? もう寝てもいられん……あ」
何事かと振り返った京哉の目に鮮やかな赤が映った。それがポトポトと垂れてきてギョッとする。慌てて煙草を消すとナイトテーブルからティッシュを抱えてきた。
「鼻血ですよ、鼻血! 忍さんってば、ああ、もう!」
「だから我慢させられ過ぎてだな……私の妻なら察してくれ」
「いいから、そこに座って下さい。あああ、派手な案件に臨場したみたいですよ!」
フランス窓の傍の椅子に再び座らせて血を飲み込まないよう俯かせ、甲斐甲斐しくティッシュで拭っていると五分ほどで血は止まった。
だがドレスシャツには盛大に血痕が付いてしまっている。着替えさせようと京哉がボタンを外すと霧島はもう固定帯すらしていなかった。呆れて天井を仰いだ京哉の唇を立ち上がった霧島が奪う。
貪るように吸われ、歯列を割った舌で口内を舐め回された。舌を絡め取られ、唾液ごと痛みが走るくらい吸い上げられる。最上級のテクニックに京哉の膝から力が抜けかけた。
「んんぅ……っん、ん……はあっ! 忍さん」
「そんな目をして、本当は私が欲しいのだろう。素直になれ」
小柄な京哉は軽々と抱き上げられセミダブルベッドに放り出される。骨折だの肋骨のヒビについてコメントするヒマもなくのしかかられ組み敷かれた。抵抗しない京哉に霧島は非常に嬉しそうで、おまけに逞しい胸まで目前で晒されては京哉も諦めるしかない。
霧島の背に腕を回してかき抱くと再びキスを交わしてから耳元に言葉を吹き込む。
「一週間、良く我慢しましたね、お互いに」
「ああ。だがもうこれ以上は本気で無理だからな」
「でも痛かったら、ちゃんと言って下さいね」
「分かっている、大丈夫だ。問題ない」
信用できない口癖語録の『大丈夫だ、心配ない』に京哉は却って僅かに不安が湧いたが、ここにきて今更お断りもできない。互いに退けるラインは超えていた。
身を起こした霧島はベッドのヘッドボードの棚からトワレのガラス瓶を取って胸に一吹きする。愛用のトワレはペンハリガンのブレナムブーケだ。
京哉も大好きな香りなのだが大事件が起こると自ら飛び出してゆく機捜隊長殿は現場に匂いは残せないと言って普段はつけてくれない。けれど行為の時だけは香らせてくれるのだ。
「ん……ああ、いい匂い――」
海際のフランス窓から燦々と日が差し込んで、少し苦みのある柑橘系の清潔感溢れる香りが光に弾ける。
その香りに京哉が浸り酔っている間に霧島はためらいなくドレスシャツの袖を抜き、スラックスから下着まで脱いで全てを晒していた。
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