Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第8話

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 にわかに信じがたい任務を背負ってしまった二人は同時に巨大な溜息をついた。

「本当に特別任務を遂行させる気があるのかどうか、疑わしいと思わんか?」
「うーん、僕も何だかちょっぴり心配になってきちゃったかも知れません」

 既に疲れた気分でエレベーターに乗り機捜の詰め所に戻る。特別任務について知っている数少ない人員である小田切に任務が下った事実だけ話し、気の毒そうな目で見られながら霧島隊長は佐々木三班長には京哉ともども明日から出張だと告げた。

「不在の間は各班長を主軸に副隊長を支えつつ宜しくやってくれ」
「了解です。お気をつけて、帰り待ってますから」

 もう謎な出張について誰も何も訊かない。『知る必要のないこと』と心得ている。

 USBフラッシュメモリの内容をプリントアウトし、あとは今日の分の書類仕事をのんびりやりながら定時の十七時半を迎える。
 京哉は晩飯休憩で戻ってきた隊員たちに茶を淹れてからミケのエサとトイレ当番をこなした。

 そうして自分の席に戻ると、デスク上には回覧板が置いてあり、暫し眺めてから、さりげなく合コンの出欠にチェックを入れる。
 そっと栗田巡査部長の許に回覧板を返しに行くと、既に帰宅したらしい小田切と自分の灰皿の始末をし、ノートパソコンの電源を落として帰る準備が整った。

 とんでもない任務を背負ってしまった霧島は機嫌がいい筈もなく、あれからずっと腕組みしたまま不貞寝していて、声をかけて起こすと不機嫌そうながら切れ長の目を開ける。
 のっそりと立ち上がった男を促してこちらもノーパソを閉じさせると隊員たちの敬礼に答礼しながら詰め所を出た。

 一階に降りて裏口から出ると、もう日も暮れた中で乾いた寒風に晒され霧島の目も覚めたようである。そこでジャンケンしたが京哉が負け、運転担当となった。
 出発し裏道を通って帰宅ラッシュを避けた京哉はバイパスに乗って霧島に訊く。

「今週の食事当番としては今夜のメニューを鍋にしたいんですけど、どうですか?」
「構わんぞ。明日からまた不在で材料を余らせても勿体ないしな」
「鍋なら何もかも放り込んじゃえばいいですからね」

 何れにせよずっと不在だったので買い物しなければならない。バイパスを走らせ、やがて白藤市のベッドタウンである真城市に入ると周囲からビルは消えた。
 同時にポツポツと郊外一軒型の店舗が過剰な明かりを灯しているのが目立つようになる。バイパスから街道に降りると周囲はのっぺりとした住宅街が広がるばかりになった。

 そうして本部を出てから約五十分後、京哉はマンション近くのスーパーカガミヤの駐車場に白いセダンを滑り込ませる。
 二人でさっさと買い物をし、またセダンに乗って五分ほどで月極駐車場に駐めた。買い物袋を提げた京哉はコンビニ・サンチェーンに寄り道し、遠出を前にして煙草の買い溜めをする。

 そこから三分ほどで五階建てマンションに辿り着いた。ポストの郵便物を回収し、エントランスのオートロックを開錠してエレベーターで最上階へ。角部屋五〇一号室が二人の住処だ。
 我が家の匂いにホッとして京哉は声を出しつつ靴を脱ぐ。

「ただいまーっと」

 上がった所がダイニングキッチンで続き間のリビングが見えている。廊下を挟んで右に寝室があり、その手前に洗面所とバス・トイレというシンプルな造りだ。

 調度は黒で壁は白、床のオークとラグなどの差し色がブルーという四色で構成された、結構スタイリッシュな部屋である。だが調度の殆どは部屋の備品で、その他のものも元々独りで住んでいた霧島が選ぶのを面倒臭がって同じ色にしたというのが真相だった。

 本当はこの部屋も一度は銃撃を食らいロケット弾で爆破までされたが、関係各所が競うようにしてあっという間に直してくれた。配色だけでなく皿の一枚に至るまで元通りにしてくれたのは有難くも執念を感じて薄気味悪かったが。

 買い物袋をテーブルに置くとリビングのエアコンを入れ、まずは二人とも寝室でコートとジャケットを脱ぎ、ショルダーホルスタの銃や腰道具と呼ばれるサツカングッズを外して身軽になる。

 次に洗面所で風邪予防の手洗いとうがいをすると、京哉は早速黒いエプロンをしてキッチンに立った。土鍋で出汁を取りながら換気扇の下で煙草を二本吸う。

 一方の霧島はリビングの二人掛けソファでTVニュースを見ながらウィスキーをカットグラスに注いで一杯やり始めていた。京哉は急いで竹輪にキュウリとチーズを詰め込み、綺麗に切り揃えて小皿に盛ると箸を添えてロウテーブルに置いてやる。

「幾ら殆ど酔わなくても、空腹でその飲み方は肝臓に悪いですよ」
「分かった。じつは胃袋が逃げ出しそうなくらい腹が減ってな」
「はいはい、すぐに作るから待ってて下さい」

 何事もなければ竹輪は細かく切って明日、ミケのおやつ用に詰め所に持って行くつもりだったという余計な事実は霧島に告げず、京哉はキッチンに戻った。

 昆布と鰹でとった出汁に塩と酒にみりんと醤油で味をつけ、適当に切った鶏もも肉を投入し、再び沸騰したところで使い切りの鍋用野菜や下茹で要らずの白滝に豚ロースのスライスを入れた。
 野菜が煮えると片栗粉をまぶして混ぜてから水洗いした牡蠣を放り込む。最後にネギとエノキダケを入れると材料を余らせない簡単寄せ鍋の出来上がりだ。

「忍さん、できましたよ」

 などと呼ぶまでもなく腹を空かせると稼働しなくなる霧島は、何とか竹輪で動けるようになったらしく、とんすいと箸を用意して着席している。何もかも省略でカセットコンロも出さず、土鍋をテーブルの鍋敷きに移して二人は手を合わせた。

「旨そうな匂いだな。頂きます」
「頂きまーす。ん、我ながら鶏がほくほくで美味しい……熱っ!」
「その鶏はもう逃げんからゆっくり食え。躰に悪いぞ」
「僕も早く胃袋に重石をしないと、鍋に飛び込みそうなんです」

 二人であっという間に具をさらえてしまい、出汁に洗ってぬめりを取った冷凍ご飯を投入する。もう一度ヒータに掛けて溶き卵を回し入れ、ネギを散らして雑炊を作った。
 これも米の一粒まで食べてしまうと、ようやく二人とも満足し手を合わせてから霧島がポットの湯でティーバッグの玄米茶を淹れる。京哉は煙草タイムだ。

 二本吸うと京哉は土鍋を洗い、霧島は食器を洗浄機に入れる。分担したお蔭で早く片付き、交代でバスルームを使ってから、早々に寝室のダブルベッドに横になった。

 だがお揃いの黒いシルクサテンのパジャマは結局着ることなく、しかし微塵も寒い思いをせず、むしろ熱い思いをしながら二人が眠ったのは日付もとっくに変わってからだった。
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