Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第9話

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 翌朝は定時より一時間早く本部長室に出勤しなければならないので六時前に起き、軽くシャワーを浴びた京哉はタイマーで炊けていたご飯でおにぎりを握った。具は瓶詰の鮭フレークと塩昆布だ。あとはインスタント味噌汁で朝ご飯である。

 霧島を呼んでさっさと食べ終えると、ショルダーバッグに二人分の簡単な着替えとパスポートに自分の大事な煙草を詰め込んだ。これがないと京哉は稼働しなくなる。

 二人してスーツに着替えコートも羽織ると準備はできた。勿論ベルトにはスペアマガジンが二本ずつ入ったパウチを着け、スーツの下には九ミリパラをフルロードしたシグ・ザウエルP226入りショルダーホルスタを吊っている。

 部屋中の電源や火元を確認して玄関で靴を履いた。二人はペアリングを嵌めた左手同士を手繰り寄せ合い唇を重ねた。京哉はソフトキスのつもりだったが霧島は深く求めた。

「んっ、んんぅ……っん……はあっ!」
「なあ、京哉。行くのを止めてベッドに戻る気はないか?」
「魅力的な提案ですけど、だめですよ。貴方も僕も任務を拝命したんですから」

「そうか、だめか……」
「それよりほら、間に合わなくなっちゃいますよ」

 玄関を出てドアロックすると、二人はエレベーターで一階に降りて月極駐車場まで走った。五分と掛からず白いセダンに辿り着き、今日はジャンケンせず運転のより巧みな霧島がステアリングを握る。

 予定通りの七時二十分に本部に着くと庁舎裏口から入って本部長室に上がった。当然ながら本部長も律儀に早出して二人を待っていた。

 そこで渡されたのは経費の入ったクレジットカードにドル紙幣、日本及びキシラン政府が発行した武器所持許可証などである。最後に一ノ瀬本部長は九ミリパラベラムが五十発入った紙箱をドカリと二箱も重ねて置いた。

 京哉は思わずドン引きする。これまでどんな危険な任務でも、せいぜい一箱止まりだったのだ。

 果たして九パラ百九十二発を持って自分たちは何をしに行くのだろうと遠い目になったが、思い出してみれば海外マフィアとの戦争に行く訳で、何より貴重品になるやも知れぬ予備弾薬を京哉は大事にショルダーバッグに収める。

「では、任務の完遂を祈っている。ちゃんと生きて帰って来てくれたまえよ」

 などという本部長に見送られて二人は出発した。庁舎を出て前庭の広大な駐車場を縦断し、大通り沿いでバスに乗って白藤市駅に向かう。白藤市駅からは特急電車に乗って都内に向かった。

 都内で乗り換え成田国際空港に着いたのは十一時前で、十二時出航の航空機に間に合わせるため、慌てて二人はチケットカウンターに走ってチェックインする。

 ここで既に政府発行の武器所持許可証を提示したので、専属の係員がついてセキュリティチェックも出国審査も銃や弾薬を所持したままスムーズにクリアし、三十分前に搭乗ゲートに並んで航空機に乗り込むことができた。 

 まもなく出航したが、搭乗前に煙草を一本も吸えなかった京哉は凹んでいる。

「おい、京哉。お前は何時間の禁煙に挑むんだ?」
「キシランの首都ラヴンの国際空港まで約八時間です、ううう」
「何だ、八時間くらいなら寝ていたらすぐだろう」
「ってゆうか、忍さん、今回殆ど資料を読んでないでしょう?」

 目を逸らしたのを見ると『殆ど』ではなく全く読んでいないらしい。いつもは霧島の方がこういったことを把握しているのに、全く白紙状態なのが任務へのモチベーションの低さを表しているようだった。京哉は溜息をついて説明する。

「二十時十分にラヴン国際空港着。三時間半の時差で現地は十六時四十分ですね。それからまた航空機で目的地のサモッラ地方に一番近い都市のナフル入り。たぶんこのナフルで一泊になりますから、最低限ここまでは覚えておいて下さい」
「分かったから、そうまくし立てるな。ふあーあ」

 耳をかっぽじって大欠伸をかます霧島に京哉は再び溜息だ。

 直後に機内食が出されたが、食べてしまうと哀しい依存症患者は余計に苛つき始める。霧島の言う通りに眠ろうとするが真っ昼間から眠れない。霧島の方が食い終えると毛布を被ってさっさと寝てしまい、京哉は仕方なくTVで映画を延々と流し見た。

 やがてようやくウトウトし始めた頃になってキシランの首都にあるラヴン国際空港に飛行機は着陸する。ヨダレを拭いた二人は毛布を片付けた。

 ボーディングブリッジを渡って足を踏み入れたターミナルビルは、新しくこそなかったが清潔で機能的だった。何の文句もなく入国審査に挑んだが、ここでもさっさと政府発行の書類を見せたので、ややこしい客はすぐに釈放パイとなる。手荷物のショルダーバッグしか持っていないので、あとは何処に行こうが自由だった。

「銃の持ち込みに賄賂を分捕られなくて良かったな」
「まだそんなことを言ってるんですか、忍さんって本当に土鍋性格ですよね」

 霧島が言っているのは以前の特別任務で行ったことのある、とある国でのことだ。正式書類を持っていたにも関わらず政府の役人に賄賂を要求されたのが未だに許せないのである。

 おまけに三桁の人命が吹き飛んだ爆撃に霧島自身の意志で関わったため、忘れられない任務でもあるのだろうと京哉は察した。

 だが特別任務でチョロかったことなど一度もない。最善は尽くしたが、どれもこれもが忌々しくも忘れ難い思い出として二人の心に焼き付いている。

 ともあれ二人は電光掲示板を見上げてナフルへの出発便を探した。

「おっ、あったぞ。だがあと二十分で出航だ。もう間に合わんだろう」
「やってみなきゃ分かりませんよ。ほら、急いで下さい!」

 急かされて霧島は仕方なく京哉と共にチケットカウンターのお姉さんの許に走らされ、コトを簡単に運ぶために通訳をさせられた。すると意外にも簡単にチケットは買えてしまい、お姉さんに聞いたロータリーまでロビーを駆け抜けるハメになる。

 ロータリーにはマイクロバスが一台待機していて、送迎用最終便であるそのドアが閉まる寸前に危うく霧島がステップを踏んづけた。

 そうして運ばれたのは空港隅にポツリと佇んでいた双発プロペラ機の前だった。それをまじまじと二人は見上げる。迷彩塗装されたそれは明らかに軍用輸送機だ。
 機体背後に空港面と接して基地らしき土地も広がっている。そこの敷地内からやってきたと思しきフォークリフトが、双発機の後部に次々とコンテナを運び入れ、また運び出していた。
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