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第10話
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「これに乗るのか?」
「そうなりますね。乗り心地は悪そうですけど、たった三十分、我慢しましょうよ」
これも迷彩服を着た兵士らしき男にチケットをチェックされ、二人はタラップドアから双発機に乗り込む。予想通りに狭く硬いシートに並んで腰掛けた。
霧島は長身を伸び上がらせて周囲を見回してみる。客は制服か迷彩服の軍人ばかりで、民間人らしき者は数人しかいない。
そもそもが貨物便で人間を運ぶのは、もののついでなのだろう。しかし。
「大丈夫なのか、これ?」
「乗り心地は仕方ないですよ。どうせ軍なんて真っ先に戦う相手は予算ですから」
「そういうことを訊いた訳ではないんだが……軍用機が着くのは軍ではないのか?」
「あ、それもそうですよね。忍さん、訊いてみて下さいよ」
通路を挟んで腰掛けていた軍服男に霧島が英語で話しかけた。答えが得られる。
「ナフルにあるナフル第一基地に着くという話だ」
「ふうん、ナフル第一基地ですか」
そこで京哉はショルダーバッグからプリントアウトした資料を出して読み直した。
「でもナフルに基地は一ヶ所しかないみたい。ひとつで第一もないですよね」
「どれ、現地採用者が九十八パーセントか。見事に弛んでいる方に百ドルだな」
「酷い決めつけですね。マフィア殲滅で動くのは、たぶん一番近いそこなのに」
「頼りになるのか、そこの奴らは?」
「そんなの僕に訊かれても知りません」
喋っている間にコンテナの搬入は終わり、後部カーゴドアを閉めた双発機はアナウンスもなしにスルスルと動き始めていた。
そのまま何の断りもなくテイクオフしたが文句など言っても始まらない。おまけに京哉はラヴン国際空港でも煙草を吸うヒマがなかったことを思い出したが、それも今更だった。三十分間の我慢である。
「それにしても民間機の独立空港もないとは、紅茶はそんなに売れんのか?」
「だから僕に訊かれても知りませんってば。ここから先は貴方と情報量は同じなんですから」
質問を封殺したつもりの京哉に霧島は怯まず訊いた。
「ナフル第一基地に着いたらどうするんだ?」
「ナフルの都市で一泊って言った筈ですけど?」
そこで京哉からプリントアウトした資料を押し付けられ、霧島も仕方なく目を通し始めた。今までは行程に一日ほどもかかり、プラス京哉は海外経験も乏しく英語もあまり堪能ではないので霧島は率先して行動してきた。
だが今回は割と近場でありながら気の乗らない任務故に緩んでしまい、元々の怠惰な人間性が前面に出てしまっていたのだ。
その気になったらスパコンとタメを張るほどの頭脳も、その気にならなければ機捜の詰め所でサボってオンライン麻雀をやっている時より回転が鈍い。
だからといって常にフル回転させておくのも人間としての枠を超えているようで怖いため、京哉はバディとして見極め、パートナーとして気を配り、甘えも許しているのである。
「確かサモッラ地方は盆地、ナフルから入るにはサモッラ山脈越えですよ」
「季候は早春で日本より温暖か。ジャングルやツンドラでなかったのは幸いだな」
「紅茶が採れるんですから、ツンドラはないと思いますけどね」
囁き合っている三十分は早かった。双発機はランディング態勢に入る。そうして双発機は無事に着陸した。タキシングして止まった機から客が降りる。勿論二人も外に出た。すると軍所有の空港は夕焼けに赤く染まっていた。
「へえ、軍にしては意外に立派な空港ですよね」
「立派すぎて却って淋しい気がするんだがな」
格納庫前に駐機された乗ってきた双発機は結構大きいと思っていたが、何だか今は皿のふちのゴマ粒のような感じだった。
見渡すと遙か遠くに民家らしきものが幾つか見える。他には森と草地と畑しかない。二人は二次元的な光景の中で立ち尽くした。
「それで何処にナフルとかいう都市があるんだ?」
「さあ、どうなってるんでしょう?」
そこでボーッとしていた二人に声が投げられた。
「ヘイ! あんたらは乗らないのかい?」
英語で声を掛けてきたのは戦闘服の男で大型バスを親指で示している。ここにこうして立っていても仕方ない。何処でもいいからつれて行って貰おうと思い、二人は大型バスに乗り込んだ。シートには双発機で一緒に乗ってきた軍人たちも座っていた。
勢い良く走る大型バスは十五分ほどで基地の正門警衛所を通過する。
「部外者がこんなに簡単に軍に入ってもいいのか?」
「どうなんでしょうね。でも僕らはマフィアでもないしカチコミもしないし」
「確かにマフィアにカチコミする方だからな」
「まだ怒ってるし。ここまで来ちゃったんですから前向きに考えましょうよ」
「充分前向きに考えている。近所にタクシー会社もホテルもなさそうだ、とかな」
「もう……あっ、そういえば、確か本部長から渡された身分証があった筈ですよ」
ショルダーバッグをごそごそと探った京哉はパスケースをふたつ取り出した。ひとつを渡された霧島はパスケースの身分証を眺める。
それによると霧島も京哉もアジア人のミテクレながら米軍の中尉ということらしい。目で訊く京哉に説明した。
「キシラン政府から要請されて中央会計監査院に派遣された米軍の査察官だ」
「ややこしいですね。つまり抜き打ち査察に来た税務署員みたいなものですか?」
「まあ、そんなところだろう。米軍はキシラン軍を監督する立場にあるからな」
「ふうん。で、この肩書きで軍を動かしてマフィアを殲滅するんでしょうか?」
それまでノリの悪かった霧島は適当に頷いて見せた。だが頷き返した京哉こそ前向きな表情とは言い難い。当然ながら霧島だって、そう簡単にいかない予感がひしひしとしていた。
大体、ある筈の都市がなかったのだ、どうかしている。
「そうなりますね。乗り心地は悪そうですけど、たった三十分、我慢しましょうよ」
これも迷彩服を着た兵士らしき男にチケットをチェックされ、二人はタラップドアから双発機に乗り込む。予想通りに狭く硬いシートに並んで腰掛けた。
霧島は長身を伸び上がらせて周囲を見回してみる。客は制服か迷彩服の軍人ばかりで、民間人らしき者は数人しかいない。
そもそもが貨物便で人間を運ぶのは、もののついでなのだろう。しかし。
「大丈夫なのか、これ?」
「乗り心地は仕方ないですよ。どうせ軍なんて真っ先に戦う相手は予算ですから」
「そういうことを訊いた訳ではないんだが……軍用機が着くのは軍ではないのか?」
「あ、それもそうですよね。忍さん、訊いてみて下さいよ」
通路を挟んで腰掛けていた軍服男に霧島が英語で話しかけた。答えが得られる。
「ナフルにあるナフル第一基地に着くという話だ」
「ふうん、ナフル第一基地ですか」
そこで京哉はショルダーバッグからプリントアウトした資料を出して読み直した。
「でもナフルに基地は一ヶ所しかないみたい。ひとつで第一もないですよね」
「どれ、現地採用者が九十八パーセントか。見事に弛んでいる方に百ドルだな」
「酷い決めつけですね。マフィア殲滅で動くのは、たぶん一番近いそこなのに」
「頼りになるのか、そこの奴らは?」
「そんなの僕に訊かれても知りません」
喋っている間にコンテナの搬入は終わり、後部カーゴドアを閉めた双発機はアナウンスもなしにスルスルと動き始めていた。
そのまま何の断りもなくテイクオフしたが文句など言っても始まらない。おまけに京哉はラヴン国際空港でも煙草を吸うヒマがなかったことを思い出したが、それも今更だった。三十分間の我慢である。
「それにしても民間機の独立空港もないとは、紅茶はそんなに売れんのか?」
「だから僕に訊かれても知りませんってば。ここから先は貴方と情報量は同じなんですから」
質問を封殺したつもりの京哉に霧島は怯まず訊いた。
「ナフル第一基地に着いたらどうするんだ?」
「ナフルの都市で一泊って言った筈ですけど?」
そこで京哉からプリントアウトした資料を押し付けられ、霧島も仕方なく目を通し始めた。今までは行程に一日ほどもかかり、プラス京哉は海外経験も乏しく英語もあまり堪能ではないので霧島は率先して行動してきた。
だが今回は割と近場でありながら気の乗らない任務故に緩んでしまい、元々の怠惰な人間性が前面に出てしまっていたのだ。
その気になったらスパコンとタメを張るほどの頭脳も、その気にならなければ機捜の詰め所でサボってオンライン麻雀をやっている時より回転が鈍い。
だからといって常にフル回転させておくのも人間としての枠を超えているようで怖いため、京哉はバディとして見極め、パートナーとして気を配り、甘えも許しているのである。
「確かサモッラ地方は盆地、ナフルから入るにはサモッラ山脈越えですよ」
「季候は早春で日本より温暖か。ジャングルやツンドラでなかったのは幸いだな」
「紅茶が採れるんですから、ツンドラはないと思いますけどね」
囁き合っている三十分は早かった。双発機はランディング態勢に入る。そうして双発機は無事に着陸した。タキシングして止まった機から客が降りる。勿論二人も外に出た。すると軍所有の空港は夕焼けに赤く染まっていた。
「へえ、軍にしては意外に立派な空港ですよね」
「立派すぎて却って淋しい気がするんだがな」
格納庫前に駐機された乗ってきた双発機は結構大きいと思っていたが、何だか今は皿のふちのゴマ粒のような感じだった。
見渡すと遙か遠くに民家らしきものが幾つか見える。他には森と草地と畑しかない。二人は二次元的な光景の中で立ち尽くした。
「それで何処にナフルとかいう都市があるんだ?」
「さあ、どうなってるんでしょう?」
そこでボーッとしていた二人に声が投げられた。
「ヘイ! あんたらは乗らないのかい?」
英語で声を掛けてきたのは戦闘服の男で大型バスを親指で示している。ここにこうして立っていても仕方ない。何処でもいいからつれて行って貰おうと思い、二人は大型バスに乗り込んだ。シートには双発機で一緒に乗ってきた軍人たちも座っていた。
勢い良く走る大型バスは十五分ほどで基地の正門警衛所を通過する。
「部外者がこんなに簡単に軍に入ってもいいのか?」
「どうなんでしょうね。でも僕らはマフィアでもないしカチコミもしないし」
「確かにマフィアにカチコミする方だからな」
「まだ怒ってるし。ここまで来ちゃったんですから前向きに考えましょうよ」
「充分前向きに考えている。近所にタクシー会社もホテルもなさそうだ、とかな」
「もう……あっ、そういえば、確か本部長から渡された身分証があった筈ですよ」
ショルダーバッグをごそごそと探った京哉はパスケースをふたつ取り出した。ひとつを渡された霧島はパスケースの身分証を眺める。
それによると霧島も京哉もアジア人のミテクレながら米軍の中尉ということらしい。目で訊く京哉に説明した。
「キシラン政府から要請されて中央会計監査院に派遣された米軍の査察官だ」
「ややこしいですね。つまり抜き打ち査察に来た税務署員みたいなものですか?」
「まあ、そんなところだろう。米軍はキシラン軍を監督する立場にあるからな」
「ふうん。で、この肩書きで軍を動かしてマフィアを殲滅するんでしょうか?」
それまでノリの悪かった霧島は適当に頷いて見せた。だが頷き返した京哉こそ前向きな表情とは言い難い。当然ながら霧島だって、そう簡単にいかない予感がひしひしとしていた。
大体、ある筈の都市がなかったのだ、どうかしている。
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