Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

文字の大きさ
27 / 62

第27話

しおりを挟む
「ふうん、二つ名を持つ殺し屋さんですか。それでどうします?」
「後先の違いだけで似たようなものだと思うが、直接一撃を浴びせているブレガーの方が仕掛けやすいだろうな。だが私はお前をフィオナに近づける気はない!」
「はいはい、そんなに力まなくても景気のいい方、予定通りのレアードですね」

 聞いていたマスターは眉をひそめた憂い顔である。

「お客さんたち、本気ですか? 冗談事じゃない戦争ですよ?」
「社会勉強に飽きたら戻ってくる。取り敢えず清算してくれ」

 妥当と思われる額をドル紙幣で支払い、二人はショルダーバッグとコートを取りに三階の部屋に上がった。コートは着ずに腕に掛けて一階へと降りる。

 憂い顔のまま溜息を洩らすマスターに礼を言って表に出た。

 右に進路を取ると八百屋や雑貨店、香辛料の店やベーカリーなどがもう開店していて、兼業主夫たる霧島と京哉は結構愉しく眺めながら歩く。

 新たな張り番が立っているブレガーの事務所を通り過ぎて暫く行くと、大通りの右側に保安官事務所があり、覗くと中では椅子に腰掛けたパイク=ノーマンが舟を漕いでいた。

 そこから二百メートルほど先にレアードの事務所らしき建物があって、ここにも張り番である。だが何より注目に値したのは、チンピラがこれ見よがしにスリングで肩から提げたサブマシンガンだった。
 それも戦時の国ならば手に入りそうな品ではなく、PDWと略されるパーソナル・ディフェンス・ウェポンだったのには驚かされる。

 割とコンパクトで携行しやすいだけでなく、使用する弾薬が特徴的なのだ。人体に命中すると体内でタンブリングと呼ばれる横転現象を起こすため、殺傷能力が高い。おまけに初速が速く貫通力もあり百五十メートル先のボディアーマー、それもⅢ-Aクラスを簡単に抜く。

「いったい何処から武器弾薬を仕入れているのだろうな?」
「確かに謎ですよね。密輸するにもここには空港もないんだし海も遠すぎるし」

 首を捻りつつ店舗を冷やかしながら二人はゆっくりと一時間ほども歩く。ようやく分岐点に差し掛かった。勾配の緩い丘を突っ切る左の道がブレガー、右の道がレアードに通じていると分かっていたが、アスファルトの道を上る前に二人は足を止める。

 咲き乱れる花が丘を真っ赤に染め抜いているのに目を奪われたのだ。
 薬物の女王といわれるヘロインの元、芥子畑だった。

「すっごい、綺麗ですね」
「確かに爆撃でも食らわしてやりたいくらい綺麗だな」

 物騒な霧島の言葉とは裏腹に芥子畑の中ではのんびり作業をしている人々がいる。花が散ったあとの子房を傷つけ、流れ出た乳液の固まったものを採取しているのだ。
 これを乾燥させると生阿片、酢酸処理加工するとヘロインになる。

「これでいったい、どれだけ無辜の人間が死んだのだろうな」

 霧島の脳裏には記憶も新しいヘロイン中毒になった京哉の姿が浮かんでいた。死にこそしなかったが、その僅か半歩手前まで足を踏み出していたのである。あの時、気を失った京哉は銃を手にしトリガに指が掛かっていた。だが京哉本人は肩を竦めただけだ。

「まあ、街の人も好きで麻薬作ってるんじゃないでしょうし。行きましょう」

 あくまで軽い調子の京哉に促され霧島も芥子畑を突っ切る上り坂に足を踏み出す。
 それが意味するものを度外視すれば、光景は美しくものどかだ。

 空ではヒバリのような鳥が鳴き交わし、散歩にはもってこいの日和だった。歩いて火照った躰を茶の段々畑から下りてきた清々しい風が冷ましてくれる。

 二十分も坂を上るとフェンスに囲まれた大きな三階建ての屋敷が見えてきた。その馬鹿デカい屋敷の他にも敷地内には建物が幾つか建っている。屋敷の屋上に駐機されたヘリのテールローターが確認できた。ドンが遊びに行くには大仰な代物で非常時用だろう。

「立派な施設ですね。割と文化的な生活が望めそうかも」
「それにしても随分大きな屋敷だな。日本のヤクザでもここまでのは見かけんぞ」
「手下の兵隊も住んでるでしょうしね」

「なるほど。おっ、ここから上は全部が茶畑か。日本の茶畑と変わりがないな」
「加工の仕方が違うだけで、材料のお茶の木自体は同じですから」
「そうなのか?」

 知識欲旺盛なバディの顔を霧島は見る。京哉は簡単に説明した。

「ええ。発酵させない・させる・もっとさせる。その違いだけで緑茶とウーロン茶と紅茶に変わるんです。それよりあの格納庫みたいなのはヘロイン工場じゃないんですかね?」
「それはないな。酢酸処理する時にかなりの異臭がするという話で、大概のヘロイン工場は地下に造るか、よそに運んで加工するのが普通らしい」
「ふうん、そうなんですか」

 互いの知識を出し合いながら暫し辺りを眺める。屋敷の敷地以外は全て背の低い茶の木が縞模様の絨毯のように覆い尽くしていた。ポツポツと男女が茶摘みしている。
 左側には数百メートルの幅で森林があり、ブレガーの屋敷は見えなくなっていた。

「では、ドン・ハイラム=レアードに謁見といくか」

 まずは赤外線感知器のついたフェンスを通過するのに門番小屋でオットー=ベインの名を出した。話は通っていたらしく名乗っただけで招き入れられる。
 開けられたのは分厚い一枚板に青銅の鋲を打った大扉ではなく、脇の小さな御用口だったが文句はない。

 敷地内に踏み入ると手下や畑の労働者の住処だろうか、アパートのような大きな建物が五棟並んでいた。その前を通り抜け、車寄せになっている屋敷のエントランスに辿り着く。
 エントランスにも手下が二人立っていて、ここで二人は暫く待たされた。巨大な屋敷沿いには黒塗りセダンが二列になって十数台も駐まっている。人の行き来も多い。

 行き交う人々にじろじろ見られつつ、五分ほど待ってからオットー=ベインが現れた。ここでも使われたのは巨大な観音開きの大扉ではなく、脇の御用口だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...