Golden Drop~Barter.21~

志賀雅基

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第30話

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 だが微笑む京哉と頷き合って、入ってきたのとは逆の開け放した扉から出ようとしたときだった。不穏な気配を勘としか言えないアンテナで二人はキャッチする。
 次にはキィン、キィーンと金属音が響きミニキッチンの壁に幾つかの穴が開いた。

「銃撃だ、伏せろ!」

 叫ぶと同時に霧島は身を投げ出し京哉の上に覆い被さった。そのまま二人はもつれ合うように出口まで這い進む。外の様子を窺おうと顔を上げた途端に扉で跳弾し火花が散る。二人ともに銃を手にしたが、浴びせられる火線が激しく退かざるを得ない。

 素早く京哉がオットー=ベインにメールで知らせる。その間に霧島はリアタック。扉の陰から九ミリパラのダブルタップを二度ぶち込んだ。

「敵影、十五以上! RPG来るぞ、逃げろ!」

 作業員らに英語で叫び、乾燥室まで下がらせる。次の瞬間、眩しく炸裂する光が見えたと思ったらミニキッチンの壁が粉微塵に吹き飛び、更に目の眩むような爆発が起きて金属片が高い音を立てコンクリートの床自体が飛び散った。大穴が開く。

「わあっ、忍さん、RPGはタンデム弾頭ですっ!」
「何だ、それは!?」
「ええと……破壊力の強い新しいヤツ!」

 ここでも最新鋭の兵器の登場だった。叫び合いつつ敵わないと知った二人も乾燥室まで後退し、顔と腕だけを出して壁の大穴に向け二射ずつを放った。返ってきたのはライフルらしい大口径弾が数発、火力が違いすぎる。

 それでも諦めて殺されてやる義理はない。霧島は乾燥室から飛び出すと躰を回転させながら大穴に向けて三発を撃ち込んだ。勢い扉から転がり出る。
 一旦草地に伏せ、敵の様子を窺いつつ這ったまま再び速射で薙いだ。弾幕を張る勢いで数射を放ち、素早くマグチェンジしてライフルの男に二発を叩き込む。

 幸い大口径ライフルの銃口が空へと方向を変え、構えていた男が頽れた。

 傍に這い寄っていた京哉がRPG発射筒を狙い撃つ。だが間に合わずロケット砲は二弾目を発射。ヒュルヒュルと飛来したロケット弾は工場の何処かに信管を触れさせて炸裂した。何かの機械に当たったらしく、爆音と共に金属の破壊音が響く。

「くそう、やりたい放題にさせるか!」

 二人して大物の発射筒を狙った。次弾を装填されるまでの数秒が勝負、頭上をサブマシンガンの銃弾が飛来するも後回しだ。二発、三発と悪い体勢から二人は撃ち続ける。
 発射筒に霧島の五発目がヒット。更に京哉のダブルタップを腹に受けた男は数メートルよろめいて後退し、畑の茶の木に仰向けに斃れた。

 だが安堵しているヒマはなく激しい銃撃は続いている。二人は顔を上げて果敢に応射、やっとサブマシンガン二丁と持ち主を仕留めた。
 しかし息をつく間もなく、バシュッと霧島の右側の茂った草が勢いよく跳ねる。

「京哉、下がれ、ショットガンだ!」
「忍さんも危ない、退いて下さい!」

 けれど退けば敵が工場になだれ込むのは必至だ。霧島は匍匐で前進、京哉の前に出た。ショットガンの二撃目が霧島の二、三メートル前の草を薙ぎ倒すが、霧島は身じろぎもせず背の高い草の間からシグを突き出し発砲。男の苦鳴に重ねて撃った。

 気付くと茶畑の一部が炎を上げていた。オイルか何かを撒いて火を放ったらしい。

「チクショウ、ふざけやがって!」

 もう十メートルほどにまで迫った敵に向かって霧島が速射で弾をぶちまけた。火線を抑えているうちに左脇に這ってきた京哉がダブルタップを撃ち込んでゆく。狙いは敵の腹、この体勢から狙いの浅くなるヘッドショットはしない。

 交代でマグチェンジする頃、茶畑の下方から撃発音がし始めた。新手かと京哉が緊張したのも束の間、こちらへの銃撃が止む。オットー=ベインの指示で味方が到着したのだ。次々と敵が斃れてゆくのを目にして二人は工場の中に戻った。

 ミニキッチンの床には血が流れていた。サブマシンガンの銃撃で作業員の一人が運悪くヘッドショットを食らったのだ。ついさっき一緒に紅茶を飲んでいた男だった。

「忍さん、こっちも!」

 通路にまで落ちている血飛沫を踏んで乾燥室に走った。

「ケネス、大丈夫か!」

 まだケネスには意識があった。乾燥室の壁にRPGによる穴が開き、壊れた機械が殆どを食い止めたものの、散った金属の一片が腹を切り裂き刺さったままだ。
 霧島と京哉に見られた作業員が血の気の引いた顔で答える。

「もう救急に連絡はしたが、ここじゃ待つより出向いた方が早いんだ」

 腹に金属片の刺さったケネスよりも青い顔の作業員を急き立てて、京哉は怪我人を工場の入り口まで運んだ。そうして振り向き、霧島を見て息を呑む。

「貴方も顔、怪我してますっ!」

 左のこめかみから流れる血で頬まで朱に染め、霧島は端正な顔を僅かに歪めた。

「散弾を少し食らっただけだ」

 弾が入ったままの霧島も病院送りだ。全員でケネスを屋敷の敷地まで下ろすと車の後部座席に乗せる。霧島と京哉、作業員が同乗した。
 病院までは十分くらいだった。大通りから路地を左に曲がり、敵ブレガーの仕切る土地から一際距離を置いた場所に小さな病院は建っていた。

 こんな所で本当に大丈夫なのかと京哉は心配になったが、三階建ての内部はそれなりに現代医療が受けられるようになっていた。ケネスは薬剤で意識を落とされ、そのままストレッチャに乗せられて手術室へと運ばれていった。

 一方で霧島は医師に麻酔され、こめかみを切り開かれてバードショットと呼ばれる直径三ミリくらいの細かな弾を三個摘出された。消毒されてステリテープで閉じられ抗生物質入りの薬を塗られて防水ガーゼを貼られる。

 係累がいないというケネスを病院スタッフに任せ、レアードの屋敷に三人で戻った。

 既に敵の残党はオットーたちが片付けたらしく、茶畑に放たれた火も消し止められていた。だが名残の煙臭さが辺りには濃厚に漂っている。屋敷の玄関前から茶畑の方を見上げて工場まで見に行く気までは起こらない二人は溜息をついた。

「RPGのタンデム弾頭は反則ですよね」
「マスターの言葉を信じていなかった訳ではないが、ここまで本格的な戦場とはな」

「そう、ここはご遺体の生まれる戦場なんですね~。フヒヒヒ」
「うわっ、どうして葬儀屋がここにいるんだ!」

 レアードの屋敷の敷地内だというのに、二人の背後には黒スーツに黒ネクタイの葬儀屋が立っていた。葬儀屋は優雅なまでの礼をしながら挨拶する。

「ご遺体はベルジュラックで美しく。またお会いできて光栄です」
「気色悪いからやめろ!」

 アジア人にしては高身長なのに右肩に顎を乗せた形で喋られて霧島は飛び退いた。

「今回も貴方がたのお蔭で大繁盛、二十三の生きのいい射殺体が、わたしの胸を高鳴らせておりますです~。フヒヒヒ」
「二十三人もいたのか。だが何処からそんな情報を聞き込んだ?」
「二十三のご遺体からは二十三通りの匂いが――」
「本当か?」

「しても分かりませんよ。『ペイン・レス=オットー』氏から伺ったまでのこと」
「舐めているのか?」
「滅相もない。ただ、貴方がたのいる所にご遺体有り、『ペイン・レス=オットー』氏に勝るとも劣らない注目株として今後も期待しております。ああ、発注した棺桶の受け取りにご遺体運びと飾り付け。忙しいのでこれにて失礼致します~。フヒヒヒ」

 踊るような足取りで大好きなご遺体の方へと去ってゆく黒い背中を見送り、二人は再び溜息を洩らした。京哉は煙草を出すと一本咥えて火を点けながらアパートの方に向かう。
 並んだアパートの陰にはベンチと灰皿が置かれていた。霧島も一本貰って吸い始める。
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